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青ジソから老化や発癌予防に有望な生体内抗酸化力を高める成分を発見 [抗酸化剤]

 京都大大学院薬学研究科の久米利明准教授(薬理学)らは6日、がんや老化、メタボリック症候群の原因とされる活性酸素の働きを抑えるDDCという有機物質を、青ジソから発見したと発表した。健康食品への応用が期待できるという。米科学誌に15日掲載される。

 酸素の一部は活性酸素となって細胞を傷つけ、老化を促進する。通常は体内のビタミンやポリフェノールが活性酸素を中和するが、喫煙や大気汚染、ストレスなどでバランスが崩れると、生活習慣病などを引き起こすとされる。

 研究グループは桃やリンゴなど12種類の果物や野菜の成分を抽出し、培養したラットの細胞に加え、酸化を抑える酵素の働きを調べた。その結果、青ジソから抽出したDDCを加えると、酵素の活性化を示す指標が約70倍になった。他の野菜類は数倍程度だった。さらに、化学合成したDDCにも同様の働きがあることを確認した。

 久米准教授は「青ジソ1枚に含まれるDDCはわずか。青ジソそのものを食べるより、化学合成して食品に加えるなどの活用方法が有効だろう」と話している。【毎日新聞 - 08月06日 20:40;榊原雅晴】

 本記事で言及された論文は、Free Radical Biology and Medicine誌に掲載される、" Isolation, identification, and biological evaluation of Nrf2-ARE activator from the leaves of green perilla"(Free Radic Biol Med. 2012 August 15)です。

 記事では8月15日に掲載される旨書かれていますが、実は電子版では6月から先行公開されていました。現在ではElsevierで$31.50払って講読しなければ、もう記事全文は見られません。ですが、京大学術情報リポジトリKURENAIで、この論文が公開されているので、図表以外は全文を読むことができます。


 とりあえず、アブストラクトを以下に引用紹介します。
Abstract
The nuclear factor erythroid 2-related factor 2 (Nrf2)-antioxidant response element (ARE) pathway is a cellular defense system against oxidative stress. Activation of this pathway increases expression of antioxidant enzymes. Epidemiological studies have demonstrated that the consumption of fruits and vegetables is associated with reduced risk of contracting a variety of human diseases. The aim of this study is to find Nrf2-ARE activators in dietary fruits and vegetables. We first attempted to compare the potency of ARE activation in six fruit and six vegetables extracts.Green perilla (Perilla frutescens var. crispa f. viridis) extract exhibited high ARE activity. We isolated the active fraction from green perilla extract through bioactivity-guided fractionation.Based on nuclear magnetic resonance and mass spectrometric analysis, the active ingredient responsible for the ARE activity was identified as 2′,3′-dihydroxy-4′,6′-dimethoxychalcone (DDC). DDC induced the expression of antioxidant enzymes, such as γ-glutamylcysteine synthetase (γ-GCS), NAD(P)H: quinone oxidoreductase-1 (NQO1), and heme oxygenase-1.DDC inhibited the formation of intracellular reactive oxygen species and the cytotoxicity induced by 6-hydroxydopamine. Inhibition of the p38 mitogen-activated protein kinase pathway abolished ARE activation, the induction of γ-GCS and NQO1, and the cytoprotective effect brought about by DDC. Thus, this study demonstrated that DDC contained in green perilla enhanced cellular resistance to oxidative damage through activation of the Nrf2-ARE pathway.


アブストラクト[Catsduke訳]
 p45核因子赤血球由来2関連因子2(Nrf2)ー抗酸化剤応答配列 (ARE) 経路は、酸化ストレスから細胞を防御するシステムである。この経路の活性化は抗酸化酵素の発現を増強する。疫学研究では果物や野菜の摂取は多くの疾患への罹患リスクの減弱に相関していることが証明されている。
 本研究の目標は、Nrf2-ARE経路のアクチベータを果物や野菜から発見することである。我々はまず6種類の果実と6種類の野菜で、Nrf2-ARE経路の活性化作用の効力を比較しようと試みた。その結果、青紫蘇エキス (Perilla frutescens var. crispa f. viridis)が高いARE活性化能を示した。 我々は青ジソエキスから活性画分を生物活性誘導分画によって単離した。そして、核磁気共鳴と質量分析による構造解析で、抗酸化剤応答配列に活性化を起こす成分は 2′,3′-ジヒドロキシ-4′,6′-ジメトキシカルコン(DDC)であると同定された。
 このDDCは、γ-グルタミルシステインジンターゼ (γ-GCS)、やNAD(P)Hキノンオキシドレダクターゼ1(NQO1)、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)などの抗酸化酵素の発現を誘導した。さらにDDCは、細胞内活性酸素種の生成と、6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)に誘導された細胞毒性を阻害した。p38 MAPK経路の阻害は、ARE活性化を無効化し、γ-GCS とNQO1の誘導と細胞保護的効果がDDCによってもたらされた。それ故、本研究では、青ジソに含まれるDDCはNrf2-ARE経路の活性化を通して、酸化ダメージへの細胞の抵抗性を増強することが立証された。



 本記事では、DDCが抗酸化物質のようにも取れる書き出しでしたが、中盤で「抗酸化酵素を誘導する」旨が書かれていたし、このアブストラクトでも分かるように、各種の抗酸化酵素を誘導する物質であるということです。
 この物質DDCは、正式には、2′,3′-ジヒドロキシ-4′,6′-ジメトキシカルコンという物質です(構造式は上の図表中に示されています)。


 DDCは、抗酸化酵素を発現誘導する生体内抗酸化システムとしてのNrf2-ARE経路を活性化して、生体の酸化ストレスに対する抵抗性を獲得した状態を維持させます。

 転写因子であるNrf2は、通常はKeap1と結合し細胞質に留められているのだが、生体が酸化ストレスに晒されると核内移行して、遺伝子の上流に存在するARE配列に結合することで、グルタチオンペルオキシダーゼ、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)、カタラーゼなどの抗酸化酵素やNAD(P)Hキノンオキシドレダクターゼ1(NQO1)などの第2相薬物代謝酵素の発現を誘導します。

 
 久米先生のグループが、多くの果汁のNrf2-ARE経路活性化能を調べたところ、相対値で温州みかんを1とするとクランベリージュースが約12、青ジソ生葉が約70と、青ジソが圧倒的にアクチベータとして優れていることが分かりました。
 後にDDCを合成して、6-OHDAを用いて酸化ストレスに対する機能解析をおこなって有効性評価をおこなったところ、DDCは酸化ストレスに対して細胞保護作用を示すことが明らかになったわけです。

 
 実は、このDDCは、すでにタイの研究者によって、熱帯に生えるバンレイシ[蕃茘枝]科 (Annonaceae) の植物に含まれていることが報告されていました。Uvaria属は約150種あるそうですが、Uvaria dulcisはその一つであり、Traditional Chinese Medicineによると、中国では甜紫玉盘(TIAN ZI YU PAN)と言い、英名Sweet Uvariaに当たるものです。
 その論文は"A chalcone and a dihydrochalcone from Uvaria dulcis"(Phytochemistry Vol.53, Issue4, 9 Feb 2000, P.511–513)だと思われます。



 ちなみにバンレイシとは、中南米原産ですが、フロリダや東南アジアで栽培されており、台湾や沖縄の一部でも栽培されています。別名「釈迦頭」とも呼ばれ、英語でsugar appleと言われる果物で、甘くて梨のような食感があるものです。



 しかし、我が国や亜熱帯でないような地域では一般的でない、バンレイシ科の植物からではなく、身近な青紫蘇葉に、このDDCが多量に含まれていることを発見したのが、京大チームの功績です。


 ということで、この目的では、青ジソ葉の次に著しくDDCを含んでいるクランベリージュースの飲用がもっともC/P比のよい選択ではないでしょうか。


 そもそも、クランベリーは、尿路感染症に著効を有する植物とされていますが、それは細菌の細胞膜への接着を阻止する成分が含まれているために、尿と一緒に細菌が流されてしまい、膀胱炎を殺菌作用を持たないのに治してしまう効果があるからです。
 ちなみに最新のレビューが、Arch Intern Med. 2012 Jul 9;172(13):988-96.に掲載されています。メタ解析の結果、10試験、1,494名が解析の対象となり、クランベリー摂取群は、非摂取群に比べて、38%の尿路感染症リスク低下作用が見出されたということです(RR=0.62, 95% CI, 0.49-0.80)。
 


 ただ海外のマトモなクランベリー抽出物サプリメントでは、標準化されている成分がプロアントシアニジンなので、DDCも含まれてはいるでしょうが、DDCの含有の程度は分かりません。プロアントシアニジンの標準化のための犠牲になっている可能性もあり得ます。


 しかし、サプリメントよりは比較的安価であって、果実全体を搾って、あったとしても若干の加糖程度の処置のみで、場合によっては濃縮還元だけの100%天然ジュースが入手できるのですから、試験に用いられたのがジュースであった以上は、DDCを健康に資する嗜好品として気軽に利用するできる商品として選択するのは合理的だと思われます。


 ただ、クランベリーに含まれるフラボノイドがCYP2C9を阻害する可能性があるので、ワルファリンの抗凝固作用を高めることがありえる(600 mL/日摂取以下なら影響が見られないという報告あり)ことと、シュウ酸を含むため1 L/日以上を長期摂取すると、理論上腎臓の尿酸結石のリスクが増加する可能性があることが注意点になるでしょうが。

 
 元記事には「微量なので、合成して利用するほうが」良いと書かれているので大丈夫だと思いますが、日本人は極めて安直な「みのもんた的一物健康法」に走りがちなので、老婆心ながら、ここで読者の皆様にご注意申し上げたいことがあります。


 シソは漢方生薬としては「蘇葉」であって、漢方処方「香蘇散」=胃腸型感冒用の漢方薬の主成分として有名で、他にも「参蘇飲」「半夏厚朴湯」にも用いられています。

 薬理作用は「鎮静・免疫賦活・抗アレルギー・TNF産生抑制,・抗菌」であって、効能として去痰・鎮咳・健胃・発汗・解熱・解毒(抗アレルギー)作用を有し、感冒・気管支炎・神経痛・不眠・魚蟹中毒時の嘔吐や腹痛に良いとされています。


 すなわち、れっきとした漢方生薬の一つなのです。従って「証」が合わないと効果があるとは限らないのです。


 元記事で言われているのは、西洋医学的な「単味」での使用例になり、活性酸素消去酵素のインデューサーとしての機能のみを問題にしている訳ですが、蘇葉には他の成分も含まれているのだから、たくさん取れば、抗活性酸素=抗老化作用だけが得られるわけではなく、副作用もあり得るということになります。古人が「証」を合わせて使ってきた理由がそこに存する訳です。


 また、万一、仮に自己責任で、常食・多食する(極度の「偏食」です!)などで多量に利用するにしても、問題なのは、市販のシソは最も農薬が使われている類の野菜だという点です。そんなものを多量に購入し利用するのは愚かです。自宅のプランターや庭の畑で「無農薬」でお作りになる分には、その点では心配はないわけですが。


 市販の大葉で天ぷらなんていうのは、農薬を身体に入りやすくするための調理法になってしまうことをくれぐれもお忘れ無く(笑)。

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消化管カンジタがアレルギーを悪化させていた [感染症]

以下のような、喘息が抗生物質で悪化するのは腸内でカビが増殖するせいだという毎日新聞の配信記事を読んだので、元論文を検索した。Cell Host & Microbe, Vol 15, Issue 1, 95-102 ( 15 January 2014 )であった。で、翻訳してみた。

<ぜんそく>抗生物質で悪化も 腸内でカビ増殖
毎日新聞(2014年01月20日 11:11)

 抗生物質を服用することで腸内細菌のバランスが乱れ、ぜんそくの症状が悪化することを、筑波大や米ミシガン大などの研究チームが動物実験で確かめた。腸内にカビが増える一方で「善玉菌」の乳酸菌が減っており、ヒトにも同じ仕組みがあると見ている。成果は米科学誌「セル・ホスト&マイクローブ」電子版に掲載された。
 研究チームの渋谷彰・筑波大教授は「アレルギー発生のメカニズムは基本的に同じなので、花粉症やアトピー性皮膚炎など、他のアレルギー性疾患の治療にも役立てることができる」と話している。
 ぜんそくやアトピー性皮膚炎などの発症には、腸内細菌が影響していることが知られているが、その仕組みはわかっていない。
 研究チームは、マウスに5種類の抗生物質を2週間投与した後、人工的にぜんそくを発症させて詳しく調べた。そのうち、感染症治療に使われる抗生物質を投与したマウスは、投与しないマウスに比べて気管支での炎症細胞の数が倍増し、ぜんそく症状が悪化した。腸内を調べたところ、乳酸菌が減り、代わりにカンジダというカビの一種が異常に増殖していた。カンジダを抑える薬を投与することで症状は改善した。
 渋谷教授は「抗生物質により腸内細菌のバランスが崩れ、ぜんそくが悪化することを証明できた」と話す。【相良美成】

Gut Dysbiosis Promotes M2 Macrophage Polarization and Allergic Airway Inflammation via Fungi-Induced PGE2

[Summary]
 Although imbalances in gut microbiota composition, or “dysbiosis,” are associated with many diseases, the effects of gut dysbiosis on host systemic physiology are less well characterized.
 We report that gut dysbiosis induced by antibiotic (Abx) treatment promotes allergic airway inflammation by shifting macrophage polarization in the lung toward the alternatively activated M2 phenotype.
 Adoptive transfer of alveolar macrophages derived from Abx-treated mice was sufficient to increase allergic airway inflammation.
 Abx treatment resulted in the overgrowth of a commensal fungal Candida species in the gut and increased plasma concentrations of prostaglandin E2 (PGE2), which induced M2 macrophage polarization in the lung.
 Suppression of PGE2 synthesis by the cyclooxygenase inhibitors aspirin and celecoxib suppressed M2 macrophage polarization and decreased allergic airway inflammatory cell infiltration in Abx-treated mice.
 Thus, Abx treatment can cause overgrowth of particular fungal species in the gut and promote M2 macrophage activation at distant sites to influence systemic responses including allergic inflammation.

以下、拙訳。
「腸内毒素症はカンジタ誘導性PGE2を介してM2マクロファージの分化とアレルギー性気道炎症を促進する」
[アブストラクト]
 腸内細菌叢構成のインバランスないしは腸内毒素症は、多くの疾患と関連しているが、腸内毒素症が宿主の全身性の生理機能に対して与える効果は未だ十分に位置づけられていない。
 我々は抗生物質治療により起こる腸内毒素症 (Abx)が、肺マクロファージが極性化し、活性化したM2表現型マクロファージにシフトすることで、アレルギー性の気道炎症を促進していることを、ここに報告する。
 Abx処置マウスからの肺胞マクロファージの養子移植によって、アレルギー性気道炎症を増悪させることができた。
 Abx処置は、腸内に共生するカンジタ真菌の異常増殖をもたらし、PGE2の血漿中濃度を上げ、肺中M2表現型マクロファージの極性化を誘導する。
 アスピリンやセレコキシブのようなシクロオキシゲナーゼ阻害剤によるPGE2合成の抑制は、Abx処置マウスのM2型マクロファージの極性化を抑制し、アレルギー性気道炎症性細胞浸潤を減少させた。
 それ故、Abx処置は腸内の特定のカンジタ菌種の異常増殖を引き起こし、アレルギー性炎症を含む全身性の反応に影響するような、遠隔部位におけるM2型マクロファージの活性化を促進する。

 ということは、以上から分かることとして、喘息が改善しなかったり、アトピーが悪化して抗生物質を常用してたりするような患者は、抗生物質の服用を止め、ファンギソンシロップなどの抗真菌剤を服用しつつ、オリゴ糖とRー1などの生きて届く乳酸菌を取りまくって、消化管カンジタを殺して、腸内細菌フローラを善玉菌優位にすれば、炎症は改善するということになるはずである。


 もちろん、アレルギーを悪化させ炎症体質をもたらしているプロスタグランジンE2を減少させるためには、リノール酸(=γリノレン酸)摂取を減らし、E2と拮抗するE3を得る為に青魚を食べたりサプリメント(処方薬なら持田エパデールなど)を利用したりで、ω6/ω3比を改善するためにEPAの摂取量を増やすことで、脂肪酸摂取のインバランスが前提として正されていなければならないでしょうが。

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マグネシウム摂取不足の解消こそが糖尿病の増加を抑える [糖尿病]

 “Forgotten Mineral(忘れられたミネラル)”と称されるマグネシウム(Mg)。その慢性的な摂取不足を解消することは糖尿病の増加を抑えることにつながる――。東京慈恵会医科大学附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科の横田邦信氏は、5月19日まで横浜で開催された第55回日本糖尿病学会(JDS2012)のシンポジウム「糖尿病増加の誘因は?」に登壇、追加発言を行った。
 早くから日本人のMg摂取不足と糖尿病発症との関連性に着目してきた横田氏は、海外だけでなく国内でもエビデンスが積み重なってきているとし、改めてMg摂取不足への対応を訴えた。



 横田氏は、「Ⅱ型糖尿病の発症は食事性Mgの慢性的摂取不足が強く関与する」という“Mg仮説”を提唱してきた。追加発言では、自説にもとづき、シンポジウムのテーマである「糖尿病増加の誘因は?」への回答を提示した。

 横田氏は、わが国においてⅡ型糖尿病が戦後に増えた要因として、戦後の食生活の欧米化を挙げる。
「食生活の欧米化は、脂肪分の過剰摂取、穀物摂取量の激減という特徴を併せ持つ」と指摘する横田氏は、高脂肪食と運動不足による腹部肥満がインスリン抵抗性を招いたと説明する。
 その一方で、穀物摂取量の低下で食物繊維だけでなく慢性的なMgの摂取不足に陥り、これによりインスリン抵抗性の発現につながっているとした。Mg不足は「日本人があまり太っていなくても糖尿病になりやすいことを説明できる」(横田氏)という。

 近年、慢性的Mgの摂取不足は、アディポネクチンの低下を招き、高感度CRPやIL-6の上昇に関連していることが分かってきた。  横田氏は、Mg不足のインスリン抵抗性の発現機序についてエビデンスが集積しているとし、たとえば全粒穀物の繊維およびMgを十分に摂取すると、Ⅱ型糖尿病発症リスクを約35%低減するとの前向き研究の結果やメタ解析の成績が出ていることを紹介した。

 しかし、現実は厳しい。横田氏は主要ミネラルの摂取の現状を提示。平成22年国民健康・栄養調査の結果によると、日本人成人(30~49歳男性)のMg推定摂取量は240~244mg/日だった。日本人の食事摂取基準(2010年版)の370mg/日よりも130mg/日も不足しており、WHO推奨量である420mg/日と比べても176mg/日も不足している。

 横田氏は現状を、「無意識のうちに慢性的なMg摂取不足に陥っている」と警告した。その上で、「日ごろから十分なMg摂取を心がけることが、Ⅱ型糖尿病・メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の発症あるいは進展の予防に極めて重要」と指摘、「若いころからの正しい食育が強く望まれる」と求め講演を終えた。
日経メディカル「学会ダイジェスト:第55回日本糖尿病学会」

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/jds2012/201205/525038.html
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再生医療の未来は明るいが……。 [先端医療]

 ついにヒトの皮膚細胞=一般細胞から、万能細胞「人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)」を作り出すことに成功した。クローン胚から作った胚性幹細胞(ES細胞)の持つ倫理的問題を回避できるばかりか、理論的には拒絶反応皆無の移植治療などの再生医療などの応用に向けた研究が期待される。
 脳死臓器移植のような医療に無駄金を使わず、こういう研究に大幅に資源配分していればもっと達成スピードが早かったかも知れない。が、今回は本題ではないのでそこには言及しない。

 京大のチームが20日付の米科学誌「Cell」電子版に発表したものはpdfで読める。なお、この本論文(Cell 131;5:861-872)をwww.sciencedirect.comから購読購入するとUS $ 30.00かかってしまう。上のpdfなら内容は同じで無料である(爆)。

 参考までに、この論文のサマリーの、私Catsdukeによる訳を以下に示す。
Successful reprogramming of differentiated human somatic cells into a pluripotent state would allow creation of patient- and disease-specific stem cells. We previously reported generation of induced pluripotent stem (iPS) cells, capable of germline transmission, from mouse somatic cells by transduction of four defined transcription factors. Here, we demonstrate the generation of iPS cells from adult human dermal fibroblasts with the same four factors: Oct3/4, Sox2, Klf4, and c-Myc. Human iPS cells were similar to human embryonic stem (ES) cells in morphology, proliferation, surface antigens, gene expression, epigenetic status of pluripotent cell-specific genes, and telomerase activity. Furthermore, these cells could differentiate into cell types of the three germ layers in vitro and in teratomas. These findings demonstrate that iPS cells can be generated from adult human fibroblasts.

『分化型ヒト体細胞の多能性状態への再プログラム化に成功したことは、患者や疾患に特異的な幹細胞の生成を可能にするだろう。我々は、4つの特定の転写因子の形質導入によってマウス体細胞から得た、生殖系列への伝達可能な人工多能性幹(iPS)細胞の産生をすでに報告済みである。本論文で我々は、ヒト成人皮膚線維芽細胞から、マウスと同じ4因子:Oct3/4・Sox2・Klf4・c-MycによってiPS細胞が産生できたことを示す。ヒトiPS細胞は、形態学的にも、増殖・表面抗原・遺伝子発現・多能性細胞特異的な遺伝子の後成的な状態・テロメラーゼ活性の点でも、ヒト胚性幹 (ES) 細胞に類似している。さらに、これらの細胞は、インビトロでもテラトーマ検証でも、三胚葉の各細胞型に分化することができた。これらの発見はiPS細胞が成人ヒト線維芽細胞から生成されうることを示している。』

 なお米ウィスコンシン大などのチームも21日付米科学誌「Science」電子版で発表する。すでにアブストラクトも読める(http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1151526)[【追記】すでにScience 318:1917-1920に収録された]


 京大の山中伸弥教授と高橋和利助教授は、体細胞を胚の状態に戻して分化能を復活させる=初期化には四つの遺伝子が必要なことを発見し、昨年8月にマウスの皮膚細胞からiPS細胞を作ることに成功していた("Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors" Cell 2006;126:663–676)。


これ以降、世界中でヒトのiPS細胞の開発を目指し、研究者は激しい競争を繰り広げていた。

 山中教授らは、マウスでの4遺伝子と同じ働きをするヒトの4遺伝子(Oct3/4・Sox2・ Klf4・c-Myc)を成人の皮膚細胞に導入し、ヒトのiPS細胞を開発することに成功。この細胞が容器内で拍動する心筋や神経などの各種細胞に分化することを確認した。
 一方、ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授らは、胎児や新生児の皮膚細胞から、京大チームとは異なる組み合わせの4遺伝子(OCT4,・SOX2・NANOG・LIN28)を使い、iPS細胞を作ることに成功した。

 世界初の体細胞クローン動物、羊のドリーを誕生させた英国のイアン・ウィルムット博士が、今回の成果を受け、ヒトクローン胚研究を断念する方針を決めたのは、事実上の敗北宣言である。クローン胚由来のES細胞はドリーの件でも分かっていたように、効果にも倫理的にも限界があったからだ。
 
 万能性の回復に癌遺伝子が関わることを心配する向きがあるが、そんなことより、これによって、逆に癌治療にある種の知見が波及してブレイクスルー(素人考えで恐縮だが、例えばアポトーシス誘導やプログレッション段階からの正常化条件の判明など)がもたらされる可能性も出てきたことに注目すべきではないのか。

 さらに、これで、たとえ死の基準を変えてまでドナーを増やそうとしても需要と供給が永遠に釣り合わなかった不完全医療たる臓器移植のあり方が変わるだろうし、そのことは素直に寿ぎたい。命に軽重をつけドナーの死を早める差別医療が消えることになるからだ。

 しかし、そのようにして得られた「健康」に問題は無いのか。再生臓器を移植してもらえるのは、やはり今の移植と同じく「先進国」の「金持ち」だけである(実験医療=無料である日本の移植医療ではそこがネグられている。幼児を海外で移植する際にだけ露呈している)ことには変わりはない。
 さらに「予防」という点をますます軽視して、医学は過剰医療=キャナライゼーション、「マッチポンプ」医療を推進することになるだろう。そういう流れを放置していいのかということは、環境倫理・世代間倫理的にも問題になろう。

 また、そのようにして長らえられる我々の生とは何か、という問題も根本に残る。SF映画『ソイレント・グリーン』のような未来が迫っているのではないのか。

【コメント】
自己レスです。

私は上に、
>万能性の回復に癌遺伝子が関わることを心配する向き
>があるが、そんなことより、これによって、逆に癌治
>療にある種の知見が波及してブレイクスルー(素人考
>えで恐縮だが、例えばアポトーシス誘導やプログレッ
>ション段階からの正常化条件の判明など)がもたらさ
>れる可能性も出てきたことに注目すべきではないのか。

と書いたが、その通り、早速、以下のような動きが出てきました。やっぱり。

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万能細胞の山中氏に賞授与 独のがん研究センター
提供:共同通信社【07年11月27日】
 ドイツ南部ハイデルベルクに本拠を置くドイツがん研究センター(DKFZ)は26日、人の皮膚からさまざまな臓器や器官を形成する「万能細胞」を世界で初めてつくることに成功した京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授に、がん研究で成果を挙げた人物に与える「マイエンブルク賞」を授与することを明らかにした。

 同日夜にDKFZで授賞式が行われ、山中教授が出席する。賞金は5万ユーロ(約800万円)。同センターによると、がん研究に対する賞としては世界で最高額という。同賞は1981年から毎年授与されている。

 昨年のノーベル医学生理学賞を受賞した米スタンフォード大のアンドルー・ファイアー教授も2002年にマイエンブルク賞を受賞している。

 山中教授は大人の皮膚細胞に4種類の遺伝子を組み込む方法で、胚性幹細胞のように人体のさまざまな細胞に成長できる人工多能性幹細胞を世界で初めてつくった。

 ES細胞では、大きな問題となってきた受精卵や卵子を材料にする倫理問題を回避できるため、傷んだ組織を修復する再生医療を大きく進展させる成果として世界的に注目された。

 DKFZは実業家の故ウィルヘルム・フォン・マイエンブルク氏の妻マリアさんが1976年にがん研究振興のために設立した基金を基に、当初は州政府、後に連邦政府が後援。ドイツを代表するがん研究機関として、世界各国から学者らを招聘している。


【ES・iPS細胞参考書】

山中伸弥 編『実験医学増刊 Vol. 26-5』(再生医療へ進む最先端の幹細胞研究―注目のiPS・ES・間葉系幹細胞などの分化・誘導の基礎と、各種疾患への臨床応用)




山中伸弥『iPS細胞の産業的応用技術』(シーエムシー出版)




NHKスペシャル取材班『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命』




山中伸弥『iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』




須田年生『幹細胞の基礎からわかるヒトES細胞』




【生命倫理・参考書】
人間改造論―生命操作は幸福をもたらすのか?


◆「人間改造」のどこが問題か?◆(出版社HPより)
 クローン羊、人工授精、臓器移植、ヒトゲノムの解読など、生命科学や医療技術の進展にはめざましいものがあります。このままいけば、遺伝子操作によって「永遠の生命」を手に入れるのも夢でないかもしれません。しかし、そこに落とし穴、危険性はないでしょうか。ヒト・クローンにおいてアイデンティティはどうなるのでしょうか。人間の生活・生命の根拠そのものが危機に瀕しては元も子もないはずですが。
 著者たちは「人間改造」や「生命操作」やエンハンスメント(増進的介入)はどこまで許容できるのか。許容できないとすればどこに問題があるのか、歯止めをかける根拠は?など、これらの問題の現状を丹念に調査したうえで問題点を拾い上げ、ひろく議論を提供しようとします。執筆者は鎌田東二・上田紀行・粟屋 剛・加藤眞三・八木久美子の諸氏。

◆目 次◆
 生命倫理の文明論的展望(町田宗鳳)
 クローンと不老不死(鎌田東二)
 エンハンスメントに関する小論(栗屋 剛)
 心のエンハンスメント(上田紀行)
 肥満社会とエンハンスメント願望のもたらす悲劇(加藤真三)
 人口生殖は神の業への介入か?(八木久美子)
 先端科学技術による人間の手段化をとどめられるか?(島薗 進)

池田清彦『脳死臓器移植は正しいか』(角川ソフィア文庫)

 臓器移植、人工臓器、遺伝子治療……医療技術の進歩は、さまざまな病気の治療を可能にした。なかでも脳死臓器移植技術の進歩は著しいが、一方で、この技術は、死生観の再検討を迫っている。脳死は人の死か。そもそも人の死とは何か。脳死後、臓器摘出中に動いたり、脳死状態で数十年も生き続けたりする人を前に「死」をどう捉えればよいのか。脳死臓器移植の問題点に、構造主義生物学者でリバータリアンである筆者が真正面からぶつかり、歴史・医療技術・経済の見地から私たちに鋭く問いかける。 生命倫理の新たな基本文献とも言える書籍。

【拙ブログ・iPS細胞/万能細胞関係記事】
iPS細胞を10難病患者の細胞から作成…ハーバード大

ヒト睾丸由来の生殖幹細胞から新たな万能細胞を作成

胸腺内でのヘルパーT細胞への分化メカニズムを解明
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中皮腫、鉄の過剰蓄積が原因=アスベストによる発症解明―名古屋大 [癌の分子医学]

 アスベスト(石綿)により発症する中皮腫は、悪性の鉄分が体内に過剰蓄積されることが原因だったことを、名古屋大学の豊国伸哉教授らの研究グループがラットを使った実験で突き止めた。研究成果は3日付の英科学誌「Journal of Pathology」の電子版に掲載された。

 豊国教授は「既に石綿を吸入した患者の中皮腫発症予防治療開発や早期発見につながる可能性がある」と話した。【時事通信 8月4日 3時5分配信 】

 上で言及されている論文は「Iron overload signature in chrysotile-induced malignant mesothelioma」(アスベスト誘発性の悪性中皮腫には特徴的な鉄の過剰蓄積が存在する)というタイトルの論文で、アブストラクトはここで見られる。


 以下、Catsdukeが翻訳、紹介する。
Abstract
Exposure to asbestos is a risk for malignant mesothelioma (MM) in humans. Among the commercially used types of asbestos (chrysotile, crocidolite, and amosite), the carcinogenicity of chrysotile is not fully appreciated. Here, we show that all three asbestos types similarly induced MM in the rat peritoneal cavity and that chrysotile caused the earliest mesothelioma development with a high fraction of sarcomatoid histology. The pathogenesis of chrysotile-induced mesothelial carcinogenesis was closely associated with iron overload: repeated administration of an iron chelator, nitrilotriacetic acid, which promotes the Fenton reaction, significantly reduced the period required for carcinogenesis; massive iron deposition was found in the peritoneal organs with high serum ferritin; and homozygous deletion of the CDKN2A/2B/ARF tumour suppressor genes, the most frequent genomic alteration in human MM and in iron-induced rodent carcinogenesis, was observed in 92.6% of the cases studied with array-based comparative genomic hybridization. The induced rat MM cells revealed high expression of mesoderm-specific transcription factors, Dlx5 and Hand1, and showed an iron regulatory profile of active iron uptake and utilization. These data indicate that chrysotile is a strong carcinogen when exposed to mesothelia, acting through the induction of local iron overload. Therefore, an intervention to remove local excess iron might be a strategy to prevent MM after asbestos exposure.

[アブストラクト]
 アスベスト被曝は、ヒトの悪性中皮腫(MM)のリスクの一つである。商用利用された種々の形態のアスベスト(白石綿、青石綿、茶石綿)の中で、白石綿(クリソタイル)が十分に評価されていなかった。ここに我々は、これら3種のアスベスト全てが、ラットの腹腔に悪性中皮腫を誘発することと、白石綿が早期中皮腫の発生の原因であることを肉腫組織学を用いて示した。
 白石綿誘発性の中皮腫発癌の病変形成は鉄の過剰蓄積と強く関連していた:鉄キレート剤の反復投与によって、フェントン反応を促進するニトリロ三酢酸が発癌期に有意に減少した;腹腔内器官に広範な鉄の沈着と高濃度な血清フェリチンが見られた;CDKN2A/2B/ARF腫瘍抑制遺伝子のホモ欠損は、ヒト中皮腫や齧歯類の鉄誘発性発癌において最もよく見られる遺伝子変異だが、それがアレイベースの比較遺伝子交雑形成研究において92.6%のケースで見られた。
 誘発されたラットの悪性中皮腫細胞は、中胚葉特異的な転写制御因子であるDlx5とHand1の高発現を明らかにし、能動的な鉄の取り込みと利用に関する鉄の制御特性を示した。これらのデータは、白石綿が、中皮に接触したときに局所的な鉄の過剰蓄積による誘発作用によって強力な発癌物質となることを示している。それ故に、局所的な鉄蓄積を除去する処置は、アスベスト被曝後の悪性中皮腫発生を予防する治療戦略となり得るだろう。

 名古屋大の第1病理学教室の豊国伸哉教授は、活性酸素と病理との関わりの研究における権威の一人であるが、社会と基礎医学研究の接点を求めるというポリシーで、アスベスト被曝による発癌である「中皮腫」の各種研究を夙に行ってきた方である。

 最近では、昨年、カーボンナノチューブの直径と発ガン性に強い関連があることを突き止め、直径50nmサイズの毒性が最も高かったことを発見されている。カーボンナノチューブはアスベストのように細く丈夫な構造をしているので、細胞をガン化させやすいことを解明されたのである。
 成果は「米科学アカデミー紀要」に、「多層カーボンナノチューブの直径と剛性は、中皮細胞傷害と中皮腫形成に重要な因子である」("Diameter and rigidity of multiwalled carbon nanotubes are critical factors in mesothelial injury and carcinogenesis" [PNAS December 6, 2011 vol.108 no.49 E1330-E1338 ])として掲載された(オープンアクセス論文)。


 アスベストによる肺癌の発生機序は、ガラス状の微細な針状繊維が末梢細気管支周辺で肺胞マクロファージに貪食されても消化ができないために、マクロファージが自爆し次亜塩素酸や過酸化水素などの活性酸素やライソゾームなどの酵素を過剰にまき散らす結果となって、炎症が慢性的に起こるせいだと考えられている。
 こうして肺内に残存する石綿繊維の部分は石綿小体の形はとらず、繊維のまま肺内に残存し続ける訳で,肺線維化の原因となる。

 悪性中皮腫は、肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜にできる腫瘍ではあるが、これに類する機序が想定される。気管支や肺末梢に吸入された石綿は脈管を介して胸腔内に運ばれるという説と、肺に吸入されたアスベストが直接肺を突き抜けて胸膜を刺激するという説の二つがあるが、ただ、石綿の壁側胸膜への到達経路については現在も不明である。
 いずれにせよ、上のカーボンナノチューブによる誘発実験は、まさにそのパラダイムに基づくものであろう。

 ところが、本論文では、アスベストに関しては、鉄を含まない白石綿と、鉄を含む青石綿・茶石綿の3種類あるのだが、97匹のラットを3グループに分け、各石綿を腹部に投与する実験をしたところ、すべてのラットが中皮腫を発症し、中皮腫周辺の細胞の鉄含有量を測定したところ、どのグループも健康な場合の3~5倍の鉄を含んでいたということだった。

 肺内に残存する石綿繊維の一部は、鉄含有蛋白を含む石綿小体を形成するから、そこからすれば、青石綿・茶石綿の両者が鉄を介した発癌の原因かと思われるが、白石綿を投与したラットも中皮腫を発症したとなると、単純な想像を超える機序が想定されねばならないだろう。

 石綿繊維の表面には強力な吸着力があるが故に、かつては産業排液中の有害微量物質の除去などに利用されていた訳だが、そこからすれば、鉄の含有に関わらず白石綿も発癌物質の担体として働いているのではないかと思われる。
 白石綿は、かつては鉄を含まないため発癌性は低いとされていて、現在でも日本以外のアジア諸国では使用されているが、この研究では、白石綿は体内の赤血球から鉄を過剰に集めていることが分かった。

 さて、本論文で言われている癌抑制遺伝子の欠損において、鉄の過剰蓄積による発癌との関連が指摘されている。豊国教授は「中皮腫の発症過程で、局所的に鉄が過剰になることを明らかにできた」と仰っている。
 つまり、鉄との関わりが指摘されているということは、ヒドロキシラジカルという活性酸素の発生で有名な「フェントン反応」と関わっているということになる。

 TVドラマ『ER』の第1か第2シーズンくらいだったと思うが、子供が食卓上の大人用のマルチミネラルの瓶から勝手に錠剤を服用している事を問診から突き止められなかったので、急性の肝障害の原因が分からず、調査に家庭訪問して気づいた時には既に遅く、キレート治療が遅れて死に至らしめてしまい、救急医たちが「鉄中毒」を疑わなかったことを悔いるエピソードがあったことをご記憶の一般の方はあるだろうか。
 鉄サプリメントの過剰摂取を避けなければならないのは、このフェントン反応に由来するのだ(ちなみに、レバーなどを常食する肉食民族である欧米人は、物理的な鉄分不足がさほど心配ないため、閉経後の女性や男性はiron-freeのマルチビタミン&ミネラルサプリメントを服用するのが常識になっている)。

 物理的刺激が根本原因に見えた中皮腫も、結局は、鉄によるフェントン反応が根本原因であることを解明した功績は大きい。
 アブストラクトには書かれていないことだが、肺胞に入り込んだ微細な繊維を取り除くことは難しいものの、過剰な鉄蓄積を、鉄分不足にならないようにキレート治療することなら比較的容易にできるので、中皮腫の発生予防や進行を抑える治療の可能性が開けてきたからである。
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ディシブルドの研究をさらに進展させた名古屋大! [癌の分子医学]

 胃や前立腺のがん細胞の転移に、「デイプル」と呼ばれるたんぱく質の働きが関わっていることを、名古屋大医学部の高岸麻紀研究員らの研究グループが突き止め、30日までに英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」の電子版に掲載された。
 高岸研究員は「デイプルが胃がんや前立腺がんの転移を抑える治療法開発の鍵になる可能性がある」としている。

 研究グループは、デイプルを培養した細胞実験で、胃や前立腺がんの転移を促す信号として知られる別のたんぱく質「ウィント」の働きとの関連を調べた。
 その結果、デイプルを培養した細胞では、ウィントがデイプルを活性化して突起物が作られ、細胞が移動した。デイプルの働きを抑えた細胞では、大きな変化は見られなかったという。

 マウスに傷を付けた実験では、皮膚の表面や真皮の中にあるデイプルが傷口の治癒に効果があることも判明。高岸研究員は「デイプルが人体にどう作用するかを調べ、がんの予後の回復や転移の仕組みを解明したい」と話している。[時事通信社 - 05月30日 21:05]
 記事の論文は「The Dishevelled-associating protein Daple controls the non-canonical Wnt/Rac pathway and cell motility」(Dapleは非標準的ななWnt/Racシグナル伝達経路と細胞運動性をコントロールする)である。

 オープンアクセス論文なので全文を無料で見られる。


以下、アブストラクトを引用する。
[Abstract]
 Dishevelled is the common mediator of canonical and non-canonical Wnt signalling pathways, which are important for embryonic development, tissue maintenance and cancer progression. In the non-canonical Wnt signalling pathway, the Rho family of small GTPases acting downstream of Dishevelled has essential roles in cell migration. The mechanisms by which the non-canonical Wnt signalling pathway regulates Rac activation remain unknown. Here we show that Daple (Dishevelled-associating protein with a high frequency of leucine residues) regulates Wnt5a-mediated activation of Rac and formation of lamellipodia through interaction with Dishevelled. Daple increases the association of Dishevelled with an isoform of atypical protein kinase C, consequently promoting Rac activation. Accordingly, Daple deficiency impairs migration of fibroblasts and epithelial cells during wound healing in vivo. These findings indicate that Daple interacts with Dishevelled to direct the Dishevelled/protein kinase λ protein complex to activate Rac, which in turn mediates the non-canonical Wnt signalling pathway required for cell migration.

[アブストラクト]Catsduke訳
 ディシブルド(Dvl)とは、胚発生や組織維持や癌の進展に重要な、(β-catenin依存的に転写を制御する)canonicalなものと(RacやRhoなどの活性化を引き起こす)non-canonicalなものの、双方のWntシグナル伝達経路に共通のメディエーターである。
   後者のWntシグナル伝達経路では、Dvlの下流で機能している低分子GTPアーゼのRhoファミリーは、細胞運動において重要な役割を果たしている。
しかし後者のWntシグナル伝達経路がRacの活性化を制御する機序は未だ知られていない。
   ここに我々はデイプルが、Wnt5a刺激依存的なRacの活性化とDvlとの相互作用を通じて、膜状仮足(ラメリポディア)の形成を制御することを示す。
   デイプルは、DvlとaPKCのアイソフォームとの複合体形成を増加させ、それが結果的にRacの活性化を促進している。従って、デイプルの欠乏は、生体内での創傷治療時における繊維芽細胞と上皮細胞の運動を障害する。
 従って、これらの発見は、デイプルがDvlと相互作用をし、Dvl/PKλタンパク複合体をしてRacの活性化に向かわせ、それが次に細胞運動に必要なnon-canonicalなWntシグナル伝達経路を媒介するということを示している。
*さっき見て、やっつけで訳したので、誤訳があるかもしれません。その場合は、識者のご教示をお願いします。

*体組織を作ること以外で、最も重要なタンパク質の機能が「シグナル伝達」です。細胞内では、生命維持にとって情報のシグナルを、タンパク質の情報をリレーによって伝達しています。ただ、そこにエラーが生じると細胞の無限増殖=「癌化」が起こりえます。

 そのシグナル伝達系の中で最も重要な役割を果たすのは、上の論文で触れられている「Wnt[ウィント]シグナル伝達系です。ここに異常が起こると肝臓癌などが発生しうるのです。
 この伝達系の重要な部分は、ディシブルド(Dvl)などによって調節されていることは分かっていましたが、細かいメカニズムは不明でした。日本では兵庫県立大の樋口・柴田先生、イギリスではM・ビエンツ博士たちの研究グループによって、ディシブルドの特異な構造が明らかになりました。

*名古屋大のグループは、すでに、高橋先生の研究室で「癌関連遺伝子の発癌および形態形成における役割」を研究していたわけですが、筆頭著者である特別研究員の高岸麻紀先生(腫瘍病理学)の今回の論文で、さらにDapleの追究を通してDvlの関与をより詳細に解明した点に画期性があります。
 この分野の研究が更に進展して、癌の浸潤・転移の抑制に関わる、「細胞毒ではない」抗癌剤の開発などに繋がれば素晴らしいと思います。
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マグネシウム摂取量の増加でⅡ型糖尿病発症率が有意に低下 [糖尿病]

 マグネシウム摂取量と糖尿病発症に関する疫学研究は、欧米人を対象とした海外での報告が多く、日本人を対象とした研究は少ない。そこで、福岡県久山町の健診データを用いて追跡研究を行ったところ、Ⅱ型糖尿病発症率は、マグネシウム摂取量の上昇に伴い低下し、特にインスリン抵抗性・慢性炎症・飲酒習慣を有する患者でその効果が高いことが示された。5月19日まで横浜で開催されていた第55回日本糖尿病学会年(JDS2012)で、九州大学大学院環境医学分野の秦明子氏らが発表した。

 対象は、1988年に久山町の健診を受診した糖尿病のない40~79歳の住民のうち、その後糖尿病発症の有無を確認できた1999人。追跡期間は21年間で、その間にⅡ型糖尿病を発症したのは417人だった。

 食事調査から得られたベースラインの1日当たりのマグネシウム摂取量によって4分位(Q1≦148.5mg/日、Q2:148.6~171.5mg/日、Q3:171.6~195.5mg/日、Q4≧195.6mg/日)に層別化した。

 分位別に見ると、マグネシウム摂取量が増加するにつれ、Ⅱ型糖尿病の発症率は低下した(P for trend<0.01)。Q1のⅡ型糖尿病発症の相対危険度を1とした場合、分位が高くなるにつれて相対危険度は減少した(Q2:0.84、Q3:0.67、Q4:0.63、P for trend<0.01)。

 さらに糖尿病の危険因子別に、マグネシウム1SD上昇ごとのⅡ型糖尿病発症の相対危険度を検討したところ、インスリン抵抗性、HOMA-IR、飲酒習慣の3因子において、マグネシウム摂取量との有意な交互作用を認めた。つまり、インスリン抵抗性(HOMA-IR)のある群はない群より、慢性炎症の指標である高感度CPPが高い群は低い群より、飲酒習慣がある群はない群よりも、それぞれ、マグネシウム1SD上昇ごとの相対危険度が有意に低かった。

 秦氏は、「日本人のデータにおいても、マグネシウムの摂取はⅡ型糖尿病発症の独立した防御因子であることが示された。また、インスリン抵抗性、慢性炎症、飲酒習慣の3つの危険因子を有する人で防御効果が見られた。よって、これらのリスクを有する人には特にマグネシウム摂取が推奨される」とまとめた。

日経メディカル「学会ダイジェスト」

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/jds2012/201205/525011.html
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レスベラトロールが糖尿病合併症を予防 [糖尿病]

 英・ペニンシュラ医科大学の生物医学・臨床科学研究所のMatt Whiteman博士らは、ブドウの皮に含まれる天然化合物レスベラトロール(resveratrol)は、糖尿病患者で大量に産生されるブドウ糖の血管内皮細胞傷害作用を抑制し、心疾患・網膜症・腎症などの糖尿病合併症を予防できる可能性があるとDiabetes, Obesity and Metabolism(10: 347-349)に論文"Resveratrol blocks high glucose–induced mitochondrial reactive oxygen species production in bovine aortic endothelial cells: role of phase 2 enzyme induction?"(「レスベラトロールは、ウシ大動脈内皮細胞における高血糖誘発性ミトコンドリア由来活性酸素種の産生を防ぐ:薬物代謝第2相酵素の役割?」)を発表した。


【ブドウ糖の細胞傷害作用を抑制】
 糖尿病患者の血糖値が上昇すると、細胞内でエネルギーをつくり出すミトコンドリアが傷害され、細小血管系および大血管系の合併症を引き起こす。ミトコンドリアの機能が障害されると電子が漏洩して有害な"フリーラジカル"が発生し、腎症、心疾患、網膜症といった合併症の発症につながる。

 レスベラトロールは細胞を保護する酵素の産生を促して、この電子の漏洩と高毒性のフリーラジカル産生を抑制し、ミトコンドリアの機能傷害に歯止めをかける。

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チャングムびっくり、防風通聖散がやせ薬? [東洋医学]

 防風通聖散を肥満に使うのは、いかに日本漢方がいい加減かを示す好例である。プラセボ以上に効くのかどうか、有効性をEBMできちんと示しえているのかどうか、大変疑わしい。肥満で便秘があったら、あるいは高血圧気味なら効くのだと思っていれば、漢方を知らないアホである。

 専門的で恐縮だが、中医学では防風通聖散は「表寒・裏実熱」証に用いる「辛温解表・清熱解毒・瀉下利水」剤なのである。
 日本漢方では表裏倶実(詳しくは後述)を体力の充実ととらえ、「重役タイプの太鼓腹」を目標としており、一貫堂医学の「臓毒証体質」から来たものであろうが、こんなものは本来の漢方とは無関係のインチキ診断であり、ここから本剤の瀉下利水効果を「肥満」の治療に使うという類推が起こっているのだと思われる(こういう考えは私だけではない。検索すればすぐヒットする漢方専門薬局の薬剤師さんの多くのブログやここなどを参照されたい)。

 しかし、漢方薬は「証」が合わねば効かないものであり、そうした投薬は「誤治」であって、効かぬだけではなく、服用による被害、すなわち世間で言う副作用が生じ得る。
(副作用は体に良くないものだけではない。標的器官は心臓だったのに勃起力を高める副作用を持ったバイアグラは、逆に性的不能治療剤に転用された。ナイトールやドリエルなどの睡眠導入剤は、かぜ薬などに含まれる抗ヒスタミン剤が脳内伝達物質であるヒスタミンをブロックして眠気を誘うという副作用を正作用に逆用している)。

 そんな漢方的には誤っているパラダイムの元で、少々症例報告を集めようが、小規模試験をしようが、大体ほかに「やせ薬」が無いのだから、効力を二重盲検法(DBT)で比較できる薬がない訳だし、プラセボ対照DBTだったとしても漢方薬が薬物である以上は何らかの効果はあるに決まっている。
 そこで、例えば証が合わず効いていないが故の下痢などで体重が減った(そも防風通聖散には大黄が含まれている)のも「効果あり」にカウントされていては何だかなぁであって(それなら普通の漢方の下剤ーーもっとマイルドなものーーを用いれば良い)、いずれにせよ、東洋医学的にも西洋医学的にもいかがわしいということになるのではないのか。

 日本漢方では、表/裏・実/虚・熱/寒・燥/湿などの、漢方の基本的診断をネグっている。医師が東洋医学のトレーニングを医学部で受けずに勝手に「病名処方」で用いるからで、望診も脈診もいいかげんだからだ。チャンドクやシン・イクピル医務官による厳しいトレーニングを受けたチャングムの爪の垢でも煎じて飲まさねばならない(笑)。
湯液・鍼灸・導引全てをこなす漢方の大家・テジャングム様

 「表寒・裏実熱」証ということは、1.悪寒・頭痛・無汗・咳嗽・呼吸困難などの表寒証に加えて、2.口が苦い・口渇・目の充血・のどの痛み・イライラ・腹部膨満感・便秘・尿色が濃いなどの裏実熱証を伴い、3.高熱が見られ、4.舌診は紅色で舌苔が黄厚~垢濁、脈は滑数~弦数でなければならない。

 つまり、今この状態でない者には、全く効かないのが漢方薬である防風通聖散である。そればかりか、証を合わさず用いているということは「漢方薬」として用いている訳ではないのだから、痩せるどころか副作用もありうる訳である。

 ちなみにクラシエ(旧カネボウ)の防風通聖散のインタビューフォームには
「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(動悸・肩こり・のぼせ)・肥満症・むくみ・便秘」

 と日本漢方丸だしな適当なこの程度の説明しかされておらず、証もくそもない。クラシエは自社の医家向けのホームペイジで「随証治療」という項目を設けながら、この体たらくである。

 そして何より「肥満」の改善に対する臨床試験が一切ない。元々、漢方薬はモノによっては二千年近い臨床試験=人体実験が行われている(異常に長いフェイズIV。笑)のだから、安全性試験は不要として、日本医師会・武見会長当時の厚生省は一括認可したという経緯があるのだ。
 それはある意味正しいとしても、あくまでそれは証を正しく診断して、その証に合う方剤を処方投薬したときだけであることは論を俟たない。
 
 防風通聖散を、一種の「やせ薬」として、一般的に肥満に対して用いるなどという適応は無い。ならば、大規模臨床試験はやってないにしても、小規模臨床試験や動物実験を反映した肥満改善に関する研究報告くらいは追加収載され載っているかと思って、インタビューフォームを見てみたら、なんと何も載っていない!
「臨床成績:1.臨床効果=該当資料なし、 2.臨床薬理試験:忍容性試験=該当資料なし、3.探索的試験:用量反応探索試験=該当資料なし、4.検証的試験=該当資料なし、5.治療的使用=該当資料なし」
というご立派な状態だった。
(参考:http://www.kampoyubi.jp/seihinjouhou/if_p/ek062_if.pdf

 ただし「 安全性(使用上の注意等)に関する項目」の「5. 慎重投与内容とその理由」には、
「次の患者には慎重に投与すること:下痢・軟便のある患者、胃腸虚弱な患者、食欲不振・悪心・嘔吐のある患者、病後の衰弱期か著しく体力の衰えている患者、発汗傾向の著しい患者、狭心症・心筋梗塞等の循環器系障害のある・または既往歴のある患者、重症高血圧・高度の腎障害・排尿障害・甲状腺機能亢進症の患者」
とされている。副作用や元疾患を悪化させる可能性があるからだろう。
 証に合わさず漠然とした投与対象を初めに挙げるから、後でこういう注意が必要になる。

 しかしコッコアポを買うような層は、こういうところを詳しくは読みはしないだろう。実際に副作用報告も散見される。例えば、元山ほか(大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学)「防風通聖散による薬物性肝障害の一例」(「日本消化器病学会雑誌」2008;105(8):1234-1239)などである。


 では、載っていないから、肥満改善に関する研究が皆無なのかといえば、そうではない。動物実験もある。私が検索ですぐに発見したのは、森元ら(鐘紡・漢方ヘルスケア研究所)「フルクトース負荷ラットの体脂肪蓄積に対する防風通聖散の作用」(「日薬理誌」2001;117 (1):77-86)であった。
 鐘紡とはクラシエの旧名である。なぜそれを自分の会社の防風通聖散のインタビューフォームに載せられないのか。ラット4群を比較した研究らしいが、各何匹かすらアブストラクトに書かれていない、怪しい。自社の研究所が発表した論文が、自社の漢方薬のインタビューフォームに載っていないのは、「載せられない」水準だからだろうと思われてもしかたあるまい。

 ヒトでの研究も一例報告に毛の生えたもの(~3例報告)くらいは散見される(例えば、伊藤「小児科臨床」58-7、など)。そうでないものでも、食事制限と併用していたりしていて、医療介入を受けているという意識変化がもたらしたプラセボ的効果を排除できず論文にはならないようなものがほとんどである。

 ざっと検索した中では、京都府立医大の小規模RCT「耐糖能異常を有する日本人肥満女性での防風通聖散の有効性と安全性」(「臨床漢方薬理研究会会誌」2004; 100 回記念号: 19-22)が85人を2群に分けた6ヶ月間のプラセボ対象RCTであった。
 しかし、被暗示性の強い女性ならではだと思うが、プラセボ群まで体重・体脂肪率・皮下脂肪量・収縮期血圧・拡張期血圧・中性脂肪・総コレステロールが半年後に改善が見られた本研究を、僅かの有意差をもって、防風通聖散が耐糖能異常のある肥満者の治療に有用であると結論付けられるかどうかはデータの詳細を見なければ何とも言えない(有意差有りとは言うが、アブストラクトにP値すら載っていない、怪しい)。
 そもそも漢方専門誌に載ったこの研究が、漢方薬のインタビューフォームに載っていないのは、「載せられない」水準だからだろう。

 さて、本来は副作用がないのが漢方薬であるが、それはあくまでも東洋医学的に正しく用いた時だけである。西洋医学の病院で出る漢方薬には副作用が有りえるし、実際にあるのだ。まして、薬局で一般人が適当に買ってきた漢方薬にも副作用は大いに起こりえる(これをどこまでPL法的自己責任に帰し得るか)。

 例えば、小柴胡湯という漢方薬は、中国では肝炎を初めとする肝臓疾患のおよそ数%にしか処方されないような薬なのに、日本では、肝炎に一時80%近く「病名処方」し、しかもインターフェロンと併用していた。その結果、間質性肺炎という副作用を起こし、死者も出してしまった。何と、漢方薬初の「薬害」である。中国では、この対岸の火事を、驚きと困惑とともに見ていたという(『中医臨床』)。

 証も無視した上に西洋医薬と併用する(三国時代の名医・華佗もびっくり!)など、「漢方薬」として用いたのではない(=恣意的に民間薬のハーブをコンビネーションで用いたのと同じになってしまう)訳だから、本来は小柴胡湯自体は無実なのだが、これ以後、副作用を持つ「恐い薬」にされてしまった。漢方薬を真面目に使っていた医家は、しばらくは多大な迷惑を被ったのだった。

 防風通聖散の適応症は、1.体内に炎症や代謝亢進状態があって熱の産生状態が高まっている者(=裏熱)が、2.新たに感染や寒冷な環境に晒されて表在血管の収縮・汗腺閉塞を起こし、体表からの熱放散が妨げられ、鬱熱状態を引き起こしたため、3.体温上昇し、腸管の蠕動が抑制されて便秘になり(=裏実)、4.水分の吸収障害から尿が濃縮されるという状態の者である。

 こうした体表から熱の放散が出来ず、大小便としての排泄も妨げられ、病邪が表裏共に盛んな状態を「表裏倶実」という。また、体内の炎症が強く、反射的に体表血管の収縮が起こり、熱放散が妨げられた状態を「裏熱による表鬱」というが、このいずれかになら投与して効果が考えられる。

 具体的に、こうした病態とは、感冒・インフルエンザ・肺炎・気管支炎・急性腎炎・急性肝炎・胆嚢炎・腎盂炎・膀胱炎・皮膚化膿症・胃腸炎などであるが、しかもその場合でも「表寒・裏実熱か表鬱」を呈する者でなければならない(そうでない証の者になら、感冒やインフルエンザなどには、タミフルなどが比べ物にならないくらい、安全で効果的な漢方薬=適薬がある)。それが「証を合わせる」という漢方の基本なのだ。従って、これらの病名に対して単純に処方=投与すれば効くとは行かないのが漢方薬なのだ。

 ところが、日本漢方ではこの表裏倶実を体力の充実ととらえ、「赤ら顔をした重役タイプの太鼓腹」をアホみたいに目標としている。
 何度も言うが、こんなものは漢方とは無関係のインチキ診断であり、ここから本剤の発汗効果や瀉下利尿効果を、代謝産物の排泄や脂肪の減少に有効だと考え、「肥満」の治療に使うという類推が起こっているのだと思われる。
 そして、これも何度も言うが、証が合わねば全く効かないのが漢方である。日本漢方の欠点は、このような、熱/寒証の診断がいい加減な点である。
 
 日本の医師は、医大で東洋医学の講義を受けていない者が90%である。マークシートに過ぎないとはいえ、国家試験にも以前には出題さえされなかった。すなわち「葛根湯」の使い方すら怪しいのだ。
 チャンドクに鍛えられ散脈もつかめる医女となったチャングムのような能力を持たぬ日本の一般医師は、生薬の区分試験や患者の脈診・問診・望診の試験、漢方の古典の暗唱試験などを彼女のように受ければ間違いなく全員落第するだろう(笑)。

 では、薬剤師なら万全かといえば、医師法に抵触するので患者に触れられず、脈診=脈を取ることができないので、まともな処方はできない。そこで諸症状に対して、患者に詳細に質問し、表/裏・実/虚・熱/寒・燥/湿などの、漢方の基本的診断を問診・望診で行うしかない。これがいい加減なら効くはずがない。
 ちなみに責任感があり、きちんと漢方を学んでいる薬剤師は、医師法違反にならないように、脈診=患者に「触れても」いいように、マッサージ師や柔道整復師や鍼灸師の資格(場合によっては複数)を取っている方々がいらっしゃる。

 一般人が東洋医学的知識無しに買って服用する漢方薬は効かないし、副作用もありえる。中国製痩せ薬を「中国の薬だから漢方薬」的な短絡的な脳味噌で被害に遭ったのは、被害者には些かお気の毒ではあるが、言わば「自業自得」であろう。
 その次が、こうした「日本の製薬会社が作った漢方薬だから安心で効く」といった思考回路になるのだろうが、それも錯覚であり、愚かさにおいては五十歩百歩である。日本の製薬会社の作った薬で、多くの副作用・薬害被害が起こり、人が死んでいる。小柴胡湯問題もあったのだから、漢方薬さえも例外ではない。

 私は漢方に感嘆し、日本相補代替医療学会にも日本統合医療学会にも属し、その効果を科学的に検証する(=証の客観化)という作業に興味を持つ者であるが、こんな生薬資源の無駄遣いとも言える漢方薬の使用拡大には反対だ。

 そも、こんな使い方がはやるのも、日本独自の、メタボリック・シンドロームに関する国際的にインチキな基準に端を発したものではないか。
 それは、かつて総コレステロール値が220mg/dlという国際基準以下の、日本の学会がでっち上げたいい加減な数字に基づいて、高脂血症剤メバロチンを安易に投与し、年間1800億円も医療費を無駄遣いしてきたのと、医療用医薬品と市販薬との差こそあれ、全く同じ構造ではないか。

 痩せたければ、食べないか、コアリズム(笑)しかない。一月半でウェスト85から65になった、くわばたりえを見よ!(爆)

 すなわち、現代人は食べすぎなのだから、摂取カロリー(特に、種々の甘味飲料中の果糖由来のもの→「ポカリ飲む馬鹿、健康馬鹿」)を減らすか、基礎代謝量を上げるために筋肉を増やすしかない。当たり前ではないか。
 もしもサプリメントをとるなら、脂質代謝に関わるビタミンB群、とりわけイノシトールやコリンを多量に含む、良質なものを、海外から輸入して服用するならまだ生化学的に根拠があるが。

 それから薬局やドラッグストアなどで買える大衆薬(OTC医薬品)市場が、一時の低迷を抜け出して急回復していると言われているが、同様に、大衆の無知を利用しているケースとして、過去記事「OTC剤:ガスターは譫妄を起こす、ATP剤は効かない(笑)」で二つの薬品を取り上げているので、興味のある向きは参照されたい。
 そもカネボウがクラシエになったのは経営不振による、業態の整理統合に伴う改名であった。またこの種の薬を平気で売っている他のメーカーもそれなりの評判のメーカーばかりだ。無知な一般人を騙してこんなことで儲けようというさもしい根性は唾棄すべきものだ。

 船場吉兆を初めとして、無知な者は何かに貢がされる構造になっているのが、この世の中である。国家にであれ、製薬会社にであれ。そして、その両方にであれ。
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OTC剤:ガスターは譫妄を起こす、ATP剤は効かない(笑) [基礎医学]

 スイッチOTCは、個人主義的選択肢を増やす規制緩和だと思っていたら、無知なリバータリアンは権力の餌食になりますよ(笑)。

 例えば、H2ブロッカーたるガスターは副作用も有る薬だし、素人がいい加減に「胃薬」として飲むのは危険だ。実際、病院では老人患者などに譫妄も起こす薬である。薬剤師は、だからパンシロンとは異なる種類の薬であるが故に服用量・服用法に注意喚起する建て前になっているが、ドラッグストアでの売られ方を見ると、単なる「よく効く胃薬」のノリで売られている。

 そもそもこの薬がスイッチOTCになったのは、ピロリ菌への抗生物質治療(=胃潰瘍の根治療法だ)の保険適用が決まったのとほぼ同時である。厚生省のそういう業界保護的な体質は、かつてはキノホルム、最近でも薬害エイズの血液製剤まで全く変わっていない。

 それから、日本だけに存在する最もトンデモナイ薬にATP剤がある。高校生物などで学ぶ、あのATPである。
 確かに、高校生物では、リン酸結合の結合・開裂を通してATP⇔ADPの変換が起こり、その際にエネルギーを取りだせるという「エネルギー物質」という説明がされている。

 だから、それを口から薬剤としてとれば、体によく、エネルギーが出て、元気溌剌となるだろうというのである。一見、前提からすれば科学的だが、実は論理に飛躍があり、思い込みにもたれている。こうした思考パターンを(「科学的」ならぬ)「科学主義」的発想という。
 ウィルス性疾患は熱が上がる→熱を下げれば(下がれば、ではない)治るという誤解なども、高校レベルの免疫学を無視した原始人的思い込みであり、幼稚な「科学主義」の典型例であり、日本(と台湾)独自の解熱剤脳症(インフルエンザのせいだと思い込んでいるのは、ライ症候群もろくに知らない日本の不勉強な医師だけ)を生んだ。
 すなわち「科学主義」とは、科学のイデオロギー化・宗教化の異名であることは、医療社会学の基本認識なのである。

 さて、この一日当たりの人体における合成量はいかほどかといえば、ほぼ体重相当分である。人間が様々な活動をするために、ATP⇔ADPの変換の総体で、延べの合成量がそれくらいになるのは、初歩の健康科学の計算問題の常識である。すなわち60kgの人間なら、一日あたり約60kg程になる訳だ。
 できたりもどったりではあるが、延べでは、そのくらい多量につくられている。一日の行動に要するカロリーからすれば、そうなってしまうのだ。

 ところが「パ○オンコーワ」の1日量は60mgである。60kg=60.000g=60.000.000mgに60mg=100万分の1加えたところで「露天風呂に耳かき一杯」程度のものである。
 固定的にATPが60kgプールされている訳ではないにしろ、一日の総量がそれくらいのオーダーのものに、外から加わるATPがたったそれだけということは、やはり馬鹿馬鹿しいにも程があるのだ。

 その昔、元・モントリオール大医学部ストレス研にいらして、現在、医療ジャーナリストであり、あの「ブラックジャックによろしく」の原作者である永井 明先生が、その旨をMRに糾した所、「先生、まぁ、そう硬いことを言わないでください。この薬が抱き合わせ処方で出されれば、その分で病院も潤う訳ですから」という答が返ってきたという。

 最近は、流石にそれに気付く者も出てきたのか、新たな屁理屈として、血管内等にある ATP受容体(P2受容体) に結合する事で循環機能や代謝機能の改善を改善するのだという説明がなされている。
 これも噴飯物だ。全身の血管の総距離数はいったい何キロあると思っているのか、毛細血管込みで約10万km=地球を2周半する長さなのだ。
 たった60mgでどれだけの血管のレセプターに結合し得るというのだ。また、全身のどの部分の血管の循環をどうやって選択的に改善できるというのか。選択的でないのなら、相手は10万キロだぞ!(爆)
 こんな濃度で薬が効くのなら、ホメオパシー薬だって十分効くことになって、非科学だと批判できなくなってしまうではないか!

 従って、そういう用途(=病院経営のため)に使われる薬だから、医療財政の厳しき折、財務省の睨みも利いている昨今、厚労省もいつまでもそんな保健点数を大ぴらに認める訳に行かなくなる。
 さすれば、OTCにして一般人に買わせれば、プラセボとして十分効くと言いだす連中も居るからええやんかという訳だ。意味のない薬を廃止するのではなく、一般向け販売に切り替える訳だから、国民のためではなく、ここでは業界保護しか眼中にない。また、それが天下り先確保につながるという点では官僚の自己利益もあろう。

 ちなみにこの商品はB群ビタミンが入っているから、プラセボ以上の、それなりの疲労回復効果は出てくる訳で、そこで意図的に錯覚をさそうというレシピになっている(笑)。
 「パイロゲン」というπウォーター商品(=イカサマ健康食品)があるが、これなんかも生産物責任法を恐れてか、やはりビタミンを配合して、同じような誤魔化しをしているのだが、正統医療の側がこの体たらくでは五十歩百歩である。

「脳循環代謝改善薬」という怪しいカテゴリーがある。ここは、今までに効果があるからこそ認可されたはずのものが効果無しとして取り消しになり消えていくものが存在するという怪しいフィールドである。「脳血流が改善されれば脳機能は改善されるはず」というシンプルな理論を楯に、屁理屈次第では怪しいものがまかり通ってしまうのである。

 そこでは、このATP製剤は「アデホス」という名で使われている(まさか飲んで効くと思っている者はアホデスというアナグラムではないでしょうな。爆)。
http://www.kowa-souyaku.co.jp/medical/product/interview/pi_005.pdf
これが注、
http://www.kowa-souyaku.co.jp/medical/product/interview/pi_008.pdf
これがエンテリック・コーティング剤のインタビュー・フォームである。
 
 ともに海外では発売されていない=できないような怪しい薬であることが分かる。文献表を見よ。ATPの発見に関わるような大昔(1929・1931年)の2文献を除けば、全てが日本人の日本人による日本人のための医学雑誌にしか論拠が無い。プラセボ対照DBT等、まともな大規模臨床試験すらされていない。たった168例対象の小規模試験だけで認可されているのだ。ATPに毒性などあるわけがないのだから、それだけで認可していいのか。

 ATPが生命の基本物質であるということと、経口ないし静注で薬物として体外から摂取して、薬効を持ち得るかということは別の話である。この手の一足飛びの「科学主義」的説明に、かつて国試に汲々としたような医師(根本的に生化学などを学ばなかったような、かつての受験秀才の成れの果て)は簡単に騙される。ましてや素人は騙されてしまう。理科離れの昨今なら尚更である。

 国際医学雑誌に基づく論文=世界的に通用する根拠はゼロである。それも上の理由からすれば当然である。ところが、こんな薬が世界中で日本だけに認可されているのだ。
 
 何が笑えるといって「(1)治療上有効な血中濃度:該当資料なし」「2.薬物速度論的パラメータ:(2)バイオアベイラビリティ:該当資料なし」と平然と書いてあり、脳循環改善薬を謳っているのに「(1)血液-脳関門通過性:該当資料なし」と書かれているのだ。初めて見た時、私は暴れたくなった(爆)。

 EBM(Evidence-Based Medicine:根拠に基づく医療)が叫ばれて久しいが、この種の、ローカルな医薬品はまだまだ日本には存在する。こういうムダを廃すること、無根拠な医療行為(抗生物質の術後ダラダラ点滴など)を無くすことで医療費は大きく節約できる。その分を医療報酬や看護報酬に回したり、救急医療や産科医療をも含む日本の医療の改善に役立てるべきなのだ。
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ドイツ気象庁・放射性物質拡散予報 [疫学研究]

ドイツ気象庁のHPを、Web翻訳の独日翻訳が気持ち悪いので(笑)、独英翻訳から和訳して以下掲載します。

ドイツ気象サービスの「日本の天気と放射性物質拡散状況」の特別レポートは、05/31/2011に設置されました。この画像およびクリックで拡大表示されるループ動画もあります。

画像および6時間毎の変化を示すアニメーションは、福島第一原発の上空250mから、放射能汚染された大気がいかに拡散するかという状況予測を示しています。



重要な注意:放射性物質の強度(Catsduke訳注:要するに元の放出量)が分からないので、数値データは不特定の放射線源濃度の相対分散と希釈のみに基づいて評価されています。従って、この情報で、現場の実際の放射能汚染を決定することは不可能です(Catsduke訳注:単なる拡散地域の予測だということ)。詳細は、 BMU ( http://www.bmu.de )サイトで確認して下さい。
【拡散予想シミュレーション・animetion GIF画像→クリックで拡大】


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猫の分子矯正医学序論[1]----獣医学再考 [獣医学]

 ネコはビタミンCを自前で合成できる。
 そのせいで糖尿病でも糖化酸化LDLができにくいのか、合併症でもヒトとは違って、網膜症にはならないといわれる。ただ、うちのタマは白内障にはなっている。

 しかしストレス環境には陥りやすいので、その場合、コルチゾールやアドレナリンの合成・分解にCが必要だから、所要量は当然増す。病態下では、病院でのストレスも考慮すれば(イヌがキャンキャン鳴いているような入院環境ではなおのことそうだ)経口摂取・静脈点滴などでも補うべきなのだ。

 また単純な考え方をしていること、獣医学も医学も同様である。
 ネコには「結石」という問題が有る。すなわち、去勢・避妊などのせいでホルモンバランスがくずれると、結石のリスクが増える。ネコの場合、イヌのようなシスチン結石などは珍しく、大抵が「ストルバイト」(リン酸アンモニウムマグネシウム結石)がである。

 メスなら尿道が短く、砂状の小結晶ができたとしても成長=巨大化する前にすぐに排泄されるから問題が生じにくいが、オスの場合尿道が長いので、またテリトリーを示すためのスプレー尿ができるようになっているため、途中で狭窄している箇所もあることも相まって、尿pHが上がり、結晶が出来て詰まってしまうとすぐ尿閉を起こし、腎不全にまで至り得る。いわゆるFUSになる。

 だからFUS針という細い尿道用カテーテルで尿閉を解除したり、尿酸化剤としてdl-メチオニン(含硫アミノ酸だから当然尿中に硫酸イオンが出る)を増量した食餌[ロイヤルカナン「pHコントロール」等]を与えるなどする。

 餌の自由給餌を止め、決まった時間に餌をやる。運動をさせる。ストレスを減らす。など、対策が言われるが、もっともアホな話が「低マグネシウム餌を与える」従ってミネラルウォーターを与えないほうがいいとも言われる。
 それは結石の成分の一つがマグネシウムだからである。

 しかし、これは次の疑問で即刻破綻する。「ヨーロッパではネコも当然硬水=カルシウム・マグネシウムの含有量の多い水を毎日飲んでいる。そのせいでヨーロッパのネコは全員が結石になるのかといえばそうではない」。

 水道水はおそらく飲んでいないだろうし、わざわざ「軟水の」ミネラルウォーターを飲んでるにゃんはいないだろう。愛猫家は自分たちと同じヴィッテルやエビアンを与えているだろう。では、マグネシウムを減らすことで予防は可能なのか?
 その点をかかりつけの獣医に質問しても「う〜ん、確かに。でも、わかりません」との回答だった。この人は副院長であり、専門学校で獣医学を講義しているレベルの人にも関わらず、である。

 人間だと、Ca:Mg:P=2:1:1という体内比率に即した摂取比率が望ましいと言われている。ネコは、結石予防を謳い文句に、ここで著しくMg摂取量をおさえられてしまっている。

 しかし、チアミン(ビタミンB1)を保持するには十分量のMgが不可欠だということが分かっている。
 和歌山県の古座川流域やグアム島では、飲料水にMgが圧倒的に少なく、Alが多いという特徴があったために「アミトロ」=筋萎縮性側索硬化症が風土病として存在した。
 現在では、古座川水源の上水道にはMgが添加されており、この風土病の発生は皆無である。
 この病気の原因として、Mg不足が細胞のレセプターを変化させてしまい、チアミンを保持できなくなる結果、神経障害が起こるという機序であった。

 Mgが結石の材料になっているからMg摂取を減らせばいいといった単純かつ科学主義的で姑息な対症療法で、ネコをMg不足、ひいてはそこから来るチアミン不足に追い込んではいないのだろうか。

 ちなみに、最近の獣医学の研究では、結石は「含硫アミノ酸の摂取不足」、即ちアミノ酸インバランスのせいということになってきて、ペットフードにメチオニン・タウリンなどの添加が強化されているのだ。
 しかし、それは私が10年以上前から原理的に主張してきた通りの、分子矯正医学的立場からは当然の内容に過ぎない。そして、そのように修正されているのなら、Mg摂取に関しても獣医学的常識は修正されねばならないのではないのか?

 さらに最近の人間の医学での知見では、Mgが不足するとアディポネクチンの産生能が低下することが分かっている。Mgがインスリン抵抗性を解除するのは、このアディポネクチン産生を介してであろうと言われている。

 しかもMg不足・チアミン不足の状態で、本来、デンプンなど食べないネコに対して、ドライフードの賦形剤として炭水化物を与えている。これがアミロイドーシスの遠因だろうとは言われている。

 糖代謝をするにはチアミン(ビタミンB1)が不可欠だが、よほどチアミンが強化されていない限りは、このMg制限のせいもあって、フード中のチアミンは十分に利用されずに終わっている可能性が高い。

 その上、ペットフードに酸化防止剤として二酸化硫黄が含まれる場合、肉に含まれるチアミンを破壊するために、犬および猫のチアミン欠乏症の原因となっている(最近はビタミンC・Eや植物抽出の抗酸化成分を利用するものが増えてきて、いい傾向ではあるが)。

 ところで、チアミンは、塩酸塩・硝酸塩・燐酸塩があるが、通常は安価な塩酸チアミンが医薬品アンプルやサプリなどに多い。 
 というのも、どの形態のものでも体内で使用されるときには、リン酸化を受け、どうせ燐酸チアミンになるから、敢えて高い燐酸塩でなくても良いとされるからだ。

 しかし、糖尿病や癌性の悪液質といった病態下では、リン酸化がうまくいかないので、バイオアベイラビリティを上げるためには高価でもリン塩を最初から用いるべきだ。この程度のことも知らない医師・獣医師が多い。

 市販の製品では、第一・三共の「ビタメジン静注用」(薬価=145円/バイアル)がそうである。生食で20mlにして使用するが、1バイアル中に、リン酸チアミン=100mg・B6=100mg・B12=1mcg含有である。
 私はかかりつけの獣医師に頼んで、自分の猫用にはビタメジンをもらっている。

 糖尿病ネコの特徴の一つとして、間歇性跛行があるが、これはヒトの場合、動脈閉塞が理由のものと神経性のものがあるが、ネコはチアミン不足から来る神経炎で同様の症状が生じているのではないか?と素人ながら私は想像している(現在調査中)。【追記:2011.3.10/この正月にタマが悪化し、間歇性跛行を発症。ビタメジン大量投与と食餌=m/dへのMg大量添加[米国製サプリでCa:Mg=1:2の逆比になっているものにグルコン酸Znも添加。Mg100mg/日相当量]で症状を消失させました。このケースは、いわば「1例報告」ではあっても、この状態が可逆的反応で治癒できたことからも、上の私の理論の正しさは明らか】

 また室内飼いのネコに糖尿病が多いという点からは、ビタミンDと膵臓の関連を考えてしまう。フードにDが入っているとは言っても、どの程度給餌時まで残っているかはあやしいし、個体ごとの要求量は遺伝的には本来異なるはずである。生まれてからずっと室内飼いで、ヴェランダや窓が南向きでないなどの理由で、日光浴ができない飼育状態ならD不足が原因の一つになっていてもおかしくない。

 因みに無知な獣医師は知らないが、膵β細胞には活性型ビタミンDレセプターが存在するのだ。だから、人間の幼児の場合は、高用量ビタミンD投与がI型糖尿病の発症を低下させているというエピデンスもあるくらいだ。私は人間用タラ肝油由来のビタミンA&D[10000 IU & 400 IU]を週1回与えている。

 糖尿病といえば、ビオチンの不足もあやしい。腸内細菌叢(フローラ)によっては必要量が腸内合成されているかどうか怪しいのだ。フードにそれを意図して強化しているメーカーはあるのか。しかも動物病院では、人間の医院以上に、めったやたらに抗生物質の投与をしているのだ。私は海外製の1カプセル 1000mcg=1mgのビオチンを輸入してタマに適宜与えている。

 それから歯周病である。ネコにキャットフードを食べさせると歯垢が付きやすくなる。歯周病の炎症によるサイトカインがβ細胞をダメにするというのは最近はヒトでも言われていることだ。
 歯周病を、糖尿病の合併症ではなく、逆に原因であると考えて治療をし、悪化しうる要素は一つでも減らしてゆくという姿勢が必要なはずだ。うちのタマもクリーニングと抜歯をしてからは血糖のコントロールが効きやすくなった。

 ネコはヘモグロビンの構造がヒトと違うため、HbA1cが使えないので、フルクトサミン値しか使えない。東大でネコのHbA1c測定系を開発中という話を聞いたが、その後どうなったかは寡聞にして知らない。ネット検索してもひっかからない。

 ポーリングが序文を書いた"The Cat & VItamin Book"を米の古書店から入手して以降、ヒトの分子医学と分子矯正医学、獣医学とを結合しようと研究中だが、獣医領域の勉強が著しく遅れている。
 ネット上に分子矯正医学に興味の有る=儲け主義ではなく、対因療法を追究する獣医師がいれば、意見を交換しながらネコのための医療を探究できるのになぁ……。

 拙ブログ記事「マグネシウム摂取不足の解消こそが糖尿病の増加を抑える

 猫の糖尿病
 http://www.pet-hospital.org/cat-007.htm#cat-007-25

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ビタミンC点滴療法~安全かつ種々のがん種に適用可能:第11回国際統合医学会 [ビタミンC]

 高用量のアスコルビン酸を点滴静注するビタミンC点滴療法は,副作用が少ない安全ながん療法として,統合医学の領域では広く知られている。東京都で開かれた第11回国際統合医学会〔会頭=健康増進クリニック・水上 治院長〕の特別講演「VC点滴療法の抗がん効果とその検証」(座長=点滴療法研究会・柳澤厚生会長,日本ビタミンC協会・藤井毅彦代表)でカンザス大学(米カンザス州カンザスシティー)医療センターのQi Chen助教授は,最新の研究知見を踏まえながら同療法の効果および作用機序を検証,同療法は安全かつ種々のがん種に適用可能であると報告した。
【細胞外液にH2O2を送達】 
  VC点滴療法は,安全性が高く種々のがん種に適用可能な治療法であり,10カ月間の治療で両側の肺転移が消失した腎がん例や,同療法で9年以上無病生存している進行膀胱がん例,2週間の放射線療法との併用で診断後10年生存している第Ⅲ期B細胞リンパ腫例など,有効性を指摘する報告は多い。前向き臨床試験のエビデンスが不足していることから,現在は補完・代替療法として用いられているが,近年では,Chen助教授らの研究などから,同療法の作用機序や有効性を科学的に裏付ける基礎・臨床研究データが蓄積されており,米国では臨床試験も進められている。

 生体は大量のアスコルビン酸を経口摂取しても,血中アスコルビン酸濃度は0.2mM程度で飽和状態となるように厳格に制御されている。しかし同助教授によると,点滴静注や腹腔内投与ではこの制御は利かず,はるかに高い血中濃度を得ることが可能だという。VCによる腫瘍抑制作用は,そのように高い血中濃度が達成されて初めて発揮される。

 VC点滴療法では,非常に高濃度のアスコルビン酸が血中を循環し,細胞と血管の間の間質液(細胞外液)に移行してから,(モノデヒドロ)アスコルビン酸ラジカルへと酸化される。血中にはモノデヒドロアスコルビン酸還元酵素があるため,酸化は進まない。

 細胞外液では,次にアスコルビン酸が酸化される際に生じた還元鉄(Fe2+)が酸素供給源となって活性酸素(O2−)を生じ,最終的に過酸化水素(H2O2)を産生する。腫瘍細胞の死滅は,このH2O2が腫瘍細胞内に移行して細胞を傷害することで誘導される。

 正常細胞にはカタラーゼなどの分解酵素があるため,細胞内に入ったH2O2は速やかに分解されるが,腫瘍細胞の多くは分解酵素を欠いているため,H2O2による細胞傷害を受けやすい。つまりVC点滴療法は,正常細胞に影響せずに腫瘍細胞だけを死滅させることが可能であり,実際に同助教授らはin vivo研究で,その現象を確認している。

 アスコルビン酸は生理的濃度では抗酸化作用を発揮するが,VC点滴療法では,血中のアスコルビン酸が生理的濃度をはるかに超える高濃度になることで,逆に,活性酸素を生成するプロドラッグ(プロオキシダント)として作用し,細胞外液にアスコルビン酸ラジカルとH2O2を送達する。

【膵がんなどを有意に抑制】
 ヌードマウスに卵巣がん,膵がん,グリア芽腫の細胞を皮下移植して,高用量アスコルビン酸を腹腔内投与したChen助教授らの研究では,いずれの腫瘍においても対照群に比べて明らかな腫瘍増殖抑制,腫瘍重量低下が認められており,グリア芽腫では転移も見られなくなった(図)。

 さらに同助教授らは,膵がんの第一選択薬であるゲムシタビン(GEM)と高用量アスコルビン酸の併用により,膵がん細胞に対するGEMの効果が増大することをin vitro,in vivoの検討で確認するなど,他のがん療法との併用の有用性を示す結果も得ている。

 ヒトの血中アスコルビン酸濃度も動物研究と同等の20~30mMに上昇できることから,ヒトでも同様の腫瘍抑制効果が期待できる,と同助教授は指摘した。現在米国では,膵がんなどを対象にした高用量VC点滴療法の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験が少なくとも4件実施されており, その結果が待たれている。[MT誌:2010年10月14日(VOL.43 NO.41) p.30]
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薬事法改悪に反対する署名にご協力をお願いします。 [医療の相対化]

[署名サイト]反対署名を厚労省へ「ネットで薬がかえないと困る!

 リバタリアン的ポリシーからして、絶対に許せません。厚労省はあろう事か、薬害被害者まで改悪にかり出していますが、そもそも大半の薬害は、サリドマイドのようなケースを除けば、決して売薬中心でもなかったし、その販売形態としてネット販売が普及しだしてからおこってきた訳ではありません。薬害を引き起こしてきたものは医療用医薬品、すなわち病院で処方され、かつてなら院内薬局、今なら門前薬局という調剤薬局で出されたものが大半です(参照:片平冽彦『ノーモア薬害』『構造薬害』『タミフル薬害―製薬企業と薬事行政の責任と課題』・浜 六郎『薬害はなぜなくならないか』『やっぱり危ないタミフル』など)。

 例えば、小柴胡湯による薬害も、それをインターフェロンと病院で併用したが故の薬害であり、ネットで多くの女性が購入したインチキ中国製ヤセ薬とは全く別問題です。ネット薬局から購入されたものではもちろんない訳ですし、中国製なら漢方薬、という味噌も糞も一緒にした素人談義のレベルの錯覚を意図的に用いているかのようです。

 多くのインターネット薬局は問診票を購入者に記入させ、患者の状態チェックをしっかりやっています。PL法をおそれてのことかと思いますが、市井の一般薬局=ドラッグストアの類の中には、例えば、かつてはガスターをパンシロンの如き普通の胃薬のノリでワゴンセールなどやっていたところも有り、よほどいい加減に売っていました。

 一般薬局の販売指導強化も念頭にはあるかとも思いますが、結局は圧力団体としての一般薬局とそこにつとめる薬剤師どもの利権の温存の問題です。

 書籍でいえば、町の一般書店は、その品揃えの薄さ、2代目/3代目/4代目となっていくうちに書籍や文化一般への愛を失い、一家言ある品揃えなどなくなり、単なる雑誌屋と化したが故に、コンビニやAmazonに負け、廃業を余儀なくされましたが、それは自業自得というものです。消費者はネット書店から大きな利便を受けたし、読みたくなったらすぐ本が手に入る状況は、棚が確保できない、高価で部数の少ない学術書/準学術書の類を出す出版社にも恩恵をもたらしています。

 一般薬局とネット薬局の薬を巡る構図は、上とロジカルには全くイソモルフィックです。唯一の違いは、本の読み過ぎ・濫用で死人は出ない(出る場合もある。笑)が、医薬品では危険性が皆無とはいえないという一点です。しかし、それは問診票をパスした上での販売を、ネット薬局開設の際にシステムに組み込まねばならぬ点を義務化して違反を取り締まればすむことです。薬剤師がいる一般薬局でもいい加減な販売をしている店は山ほどあります。

 問診表のシステムさえあれば、むしろ、一般薬局より細かなチェックが可能です。市井の、医薬品知識もあやふやな薬剤師(老人もいれば、若いくせにパソコンと首っ引きな奴もいる。薬学部を卒業していながらp450別に競合阻害する薬剤のリストも頭に入っていないのか。飲み合わせを検索せねば分からないなら、素人と同じだろうが!)どものいる、しょうもない薬局よりは遥かにネット薬局の方が市民の役に立っています。

 ネットで薬剤師に仔細に相談した上で適薬と思われるものを購入し服用しても症状が改善しない。そうなれば、一次診療を行う医院への受療アクセスも早まるでしょう。怪しい薬剤師どものいる、訳の分からない一般薬局をはしごした上で来院するようなケースが減るだろうからです。
 
 ぜひ皆様のご署名をお願いいたします。

【100621追記】
 うちの糖尿病猫タマの血糖値測定用のチップが「医療用医薬品」(!)扱いで、最近の厚労省の指導通達により、ネット通販ができなくなりました。購入履歴のある者は経過措置でネットで購入できたのですが、それもならんという訳です。明らかに規制緩和に逆行します。
 民主党政権になり、この自民党時代の悪法は改正され元に戻るという方向だったのに、ここでも官僚どもは既得権益や癒着の故に、かえって規制を強めてきています。鳩山ー小沢を情報操作で葬って、官僚組織にメスが入らないと思ったのか、やりたい放題です。

 最安値の店から購入するのは安価だというのもありましたが、近隣になぜかニプロが扱っているフリースタイルのセンサーが一切販売されていないからだったのです。身体障害者の方々やご老人がた、多忙な主婦の方々、郡部にお住まいの方々などの便宜というものを一切考えない、弱者切り捨ての、悪法・悪施策です。

 私は結局、ネット通販で、以前本ブログでご紹介したDiabetic Promotionsから31Gのシリンジ同様、個人輸入で購入することになりました。送料を入れるとトントンなのですが、送ってくれるのですから文句は言えません。ニプロのセンサーが切れたら、つなぎに予備のアボットのPrecision Xceedを使います。これは近隣のスギ薬局でもセンサーを売っているからです。しかし、これは採血量が倍必要で、タマには侵襲的なのです。

 いずれにせよ、実質同じ事が可能なのに、これでは日本に金が落ちないので、政府は損をすることになるのですが。アホちゃうかと思います。皆さんも愚法には反対の意志を示して下さい。

 ついでに、英語圏の情報を取れる方々には承知のことと存じますが、米国・官僚・マスゴミの癒着による情報操作で、この国の官僚のしでかしてきたことを一切免罪し、消費税値上げで国民にツケ回しして誤摩化して、国富をアメリカに貢ぐという属国でいさせ続けるための圧力に屈した売国勢力には、断固反対の意志をお示し下さい。
 沖縄基地問題然り、検察の国策操作然り、郵政反国有化法案流産化然り、消費税10%導入案然り……官僚は200兆円は埋蔵金を隠しています。1割持ってくれば値上げは不要です。どうせ米国債は紙屑になります。これ以上買い支えて何の意味がありますか。しかし「無駄な延命治療」のように、体中スパゲティにしているチュープから金を流し入れてほしいのです。サウジや日本という属国から……。愛国者なら郵便貯金の限度額を上げて、そっちに金を貯えて、国外流出を少しでも防がねばなりません。





薬事法改正により、インターネットで市販薬の7割近くが購入できなくなります


近くに薬屋がなく、車もありません。インターネットで薬が買えなくなるのは大変困ります。
外出が困難な障害者にとって、通販で薬が買えなくなることは致命的です。自由に買い物に出かけられる人ばかりではないことを理解してほしい。
幼児がいるので、買い物の時間は限られます。薬の内容をじっくり検討して購入するのにインターネット通販は必要不可欠です。
薬屋があっても、自分の欲しい医薬品がないと、何軒も探しまわる羽目に。ネットで購入できるのはとても助かります。
 
2月17日 一般用医薬品の通信販売継続を求める署名が累計で50万件を突破

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十全大補湯の肝癌発症に対する防御作用はクッパー細胞由来酸化ストレスの抑制に基づく [東洋医学]


 UNC Gillings School of Global Public HealthでPostdoctoral Research Associateをなさっている土屋雅人先生と山梨大医学部第一外科の松田政徳・河野 寛の両先生は、十全大補湯(TJ-48)が肝癌発症を防御する作用機序を考察し、その肝癌発症に対する防御作用がクッパー細胞由来酸化ストレスを抑制することに基づくことを解明、論文"Protective effect of Juzen-taiho-to on hepatocarcinogenesis is mediated through the inhibition of Kupffer cell-induced oxidative stress"をInternational Journal of Cancer(123:2503-2511)に発表された。


ABSTRACT
Traditional herbal formulations, such as Juzen-taiho-to (TJ-48), are used extensively in medical practice in Asia even though their mechanism of action remains elusive. This study tested a hypothesis that TJ-48 is protective against hepatocarcinogenesis by impeding Kupffer cell-induced oxidative stress. Forty-eight patients were randomly assigned to receive TJ-48 (n = 10), or no supplementation (n = 38) for up to 6 years after surgical treatment for hepatocellular carcinoma (HCC). In addition, to investigate the mechanism of protective action of TJ-48, diethylnitrosamine-containing water was administered for 22 weeks to male mice that were fed regular chow or TJ-48-containing diet. Liver tumor incidence, cell proliferation, number of 8-hydroxy-2-deoxyguanosine- or F4/80-positive cells, and cytokine expression were evaluated. Although most of the patients experienced recurrence of HCC, a significantly longer intrahepatic recurrence-free survival was observed in the TJ-48 group. In mice, TJ-48 inhibited the development of liver tumors, reduced oxidative DNA damage, inflammatory cell infiltration and cytokine expression. Administration of TJ-48 improves intrahepatic recurrence-free survival after surgical treatment of hepatocellular carcinoma. On the basis of animal experiments, we reason that the protective mechanism of TJ-48 involves inhibition of Kupffer cells. This leads to lower levels of pro-inflammatory cytokines and oxidants in liver which may slow down the process of hepatocarcinogenesis and improves hepatic recurrence-free survival in patients with HCC.


【アブストラクト】(Catsduke訳)
 伝統的な漢方処方、例えば十全大補湯(TJ-48)は、その作用機序が十分に解明されてはいないものの、東アジアにおいては広範に治療に用いられてきた。本研究で我々は十全大補湯がクッパー細胞誘発性酸化ストレスを妨害することで肝癌形成を抑制するという仮説を検証した。肝細胞癌(HCC)術後6年以上の48人の患者が十全大補湯投与群(10人)と非投与群(38人)にランダム割り付けされた。加えて、十全大補湯の防御作用機序の解明のために、通常の固形飼料または十全大補湯含有飼料を与えたオスのマウスに肝癌誘発物質であるジエチルニトロソアミン含有水を22週間投与する動物実験も行い、肝癌発生率、細胞増殖、8-ヒドロキシ-2-デオキシグアノシン-またはF4/80-陽性細胞、サイトカイン発現量が評価された。大部分の患者は再発したが、投与群は非投与群よりも無転移生存期間が有意に長かった。またマウスにおいて、投与群は肝腫瘍の発育を抑制し、DNAの酸化による損傷、炎症性の細胞浸潤、サイトカインの発現をいずれも減少させた。十全大補湯の投与によって、肝細胞癌の術後に無転移生存期間を改善できる。動物実験に基づき、我々は十全大補湯の防御作用機序には、クッパー細胞活性化抑制が含まれると判断した。このことは肝における炎症促進性サイトカインとオキシダントを低レベルに抑え、それは肝癌形成の過程を遅らせるだろうし、肝細胞癌患者が再発なく生存できることを可能にする。

【コメント】
 山梨大学医学部第1外科は、各種の病院本でも有名な病院であるが、肝細胞癌の再発予防に漢方薬を用いた研究を医局員が積極的に行っている。松田・河野両先生は2003年に「PROGRESS IN MEDICINE」(和雑誌)(23:1556-1557)に「肝細胞癌発癌抑制を目的とした十全大補湯によるKupffer細胞の活性化抑制と抗腫瘍免疫能活性化 」を発表されている。
 翌2004年には第66回日本臨床外科学会総会で、ツムラのランチョンセミナーである第14回外科漢方研究会でも、「肝細胞癌発癌機序における活性化Kupffer細胞の関与と十全大補湯による再発抑制の試み」をこの3名の先生方を中心とした発表を行っておられる。
【目的】 Kupffer細胞(KC)の肝癌発症における関与の解明と、抗酸化と抗腫瘍免疫活性化作用を有する漢方薬である十全大補湯(TJ-48)投与による、KC活性化抑制を介した抗酸化療法による肝癌発症抑制の可能性を検討した。
【方法】C型肝炎ウイルス(HCV)抗体陽性肝細胞癌患者(HCC群)、慢性HCV感染患者(CH群)、健常者 の血清中8-OHdG、IL-18値を検討した。また肝内のCD68(KCマーカー)、8-OHdG、HNE、IL-18発現を検討した。根治的HCC切除症例において、血清IL-18値と、肝臓の非腫瘍部での8-OHdG発現について再発との関連を検討した。さらに肝癌手術症例を対象にTJ-48を投与し末梢血中IL-18値を測定した。
【成績】血清中8-OHdG値はCH、HCC群で増加。HCV感染肝での8-OHdGとHNE発現は正常肝と比較し有意に増加していた。肝内HNEと8-OHdG発現はCD68陽性細胞と相関し局在が一致した。さらに、IL-18、8-OHdG発現とKC数との間に正相関を認めた。血清IL-18高値群と、肝臓の非腫瘍部での8-OHdG高発現群において、より早期にHCCが再発していた。血清IL-18値はTJ-48投与により2ヶ月より低下し、4ヶ月後ではほぼ正常範囲となり7ヶ月経過した後においてもその効果は持続していた。さらに今回は、これまでの臨床結果を追加報告したい。
【結果】末梢血中IL-18値がKC活性化と肝内酸化ストレスの指標となり予後と相関した。TJ-48投与により末梢血中IL-18は有意に低下した。更なる経過観察が必要であるが肝細胞癌におけるTJ-48による抗酸化療法の可能性が考えられた。


 その後、この3人の先生方は、日本消化器病学会雑誌(2005;102 : 345)に「十全大補湯(TJ-48)によるKupffer細胞活性化抑制効果と肝発癌抑制の検討」を発表されているし、翌年の第42回日本肝癌研究会では、大阪市大・肝胆膵外科学の久保正二先生を座長とした「肝癌の再発予防2」というセッションで、「十全大補湯による肝細胞癌再発予防効果の検討」の演題で発表されている。そして2007年に河野・松田両先生は「十全大補湯による肝細胞癌根治治療後の再発抑制効果」を日本消化器病学会雑誌(104 : 227)に発表している。そうした先行研究が今回の論文の研究につながった訳である。

 一般的に、漢方薬にはフラボノイド等が多く含まれる上に、本来なら土瓶で煎じること=遠赤外線による諸有効成分の重合解除により、強いスカベンジャー作用を有することが示唆されている。単一成分の足し算ではなく、相乗効果による、西洋医薬とは異なる作用機序が想定されるケースが多いが、酸化ストレスの制御により、様々な薬効をもたらすことが、本研究のように証明されていけば、生薬資源の問題はあるにせよ、患者に優しい癌治療が今後ますます可能になっていくだろう。
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