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癌の攻撃に脂質粒子を利用----抗癌薬封入して体外から加熱

 米・デューク大学医療センター・放射線腫瘍学の上級研究員で温熱療法プログラムの責任者でもあるMark Dewhirst教授らは,悪評の高い脂質の粒子をヒト癌などの高次元治療に対する利用を試みている。詳細は、Journal of the National Cancer Institute(2007; 99: 53-63)に発表された。

<腫瘍到達後20秒で溶解>
 脂質を用いたカプセルにより開発された顕微鏡レベルの“スマート爆弾”は,内部に抗癌薬が封入されており,癌を選択的に攻撃するよう調製されている。
 Dewhirst教授らによると,腫瘍を体外からマイクロ波により加熱することで,抗癌薬のカプセルは腫瘍に誘導されるという。

 ラットを用いた新たな試験で,脂質から成るカプセル,すなわちリポソームは加熱された腫瘍に到達後20秒以内に溶解し,封入された薬剤が瞬時に放出されるため,従来の化学療法における緩徐な薬剤注入に比べて,はるかに高い効力を示すことがわかった。
 この新しい温熱感受性リポソームの試験は,胸壁に乳癌の再発が認められた女性を対象に行われた。

 同教授は「薬剤をリポソーム内部に封入して血流に注入することで,通常の化学療法の30倍の薬剤を腫瘍部位に送達することが可能である。リポソームは腫瘍内部でのみ溶解するため,正常組織に対する毒性は軽減される」と述べている。

 温熱感受性リポソームに封入された薬剤を放出する際の実時間観察の実証と報告は,これが初めてである。観察ではMRIの3次元画像により,薬剤が腫瘍に到達して組織に行き渡る様子が描出された。
http://jnci.oxfordjournals.org/content/vol99/issue1/images/large/jncidjk005f02_ht.jpeg
筆頭研究者で同大学のAna Ponce氏は「薬剤は腫瘍を覆う白い布のように描出される」と述べている。

<腫瘍辺縁の近傍で最大濃度に>
 Dewhirst教授らは「この知見の最も重要な点は,腫瘍の栄養補給を担う血管に富む腫瘍辺縁の近傍で,薬剤濃度を最大限に高める方法を実証していることである。この領域を薬剤で覆うことにより,腫瘍への栄養補給が絶たれる結果,最も著しい腫瘍の退縮が得られることが明らかになった」と述べている。
 今回の研究では,リポソームの静注前,静注時ないし静注後のいずれかの時点でラットの腫瘍を加熱した。

 リポソーム投与と同時に加熱されたラットは,治療に対する反応が最も良好なことが明らかになった。この方法により,ラット7匹のうち2匹で腫瘍の完全退縮が認められた。他の5匹でも,腫瘍増殖の遅延が有意に認められ,生存期間が治療を行わなかった対照群と比べて35日延長した。ラットにおける35日は,ヒトの数年に相当する。

 リポソーム投与が腫瘍の加熱前あるいは加熱後であったラットでは,投与と加熱を同時に受けたラットに匹敵する腫瘍の退縮は認められなかった。薬剤濃度はこれらのラットでも同等に高かったが,薬剤の分布は腫瘍の増殖抑制作用があまり見られない領域に限局していた。

<乳癌再発患者で予備試験>
 2003年に同大学が報告した乳癌患者に関する一連の研究では,温熱療法と薬剤封入リポソームの併用により,腫瘍の劇的な退縮が生じることが明らかにされたが,これらの研究では温熱感受性リポソームは使用されていなかった。

 同大学の研究者であるDavid Needham博士により開発された新しいリポソームの予備試験が,乳癌を再発した女性を対象に行われた。患者にリポソームを注入し,その直後にマイクロ波を胸壁に照射して腫瘍を加熱した。加熱が後で行われるのは,ヒトの薬剤代謝はラットよりも緩徐であるためである。

 Dewhirst教授は「リポソームが腫瘍に到達するまでに,腫瘍は既に加熱されている」と説明。「加熱により腫瘍血管の透過性が亢進するため,リポソームは血流から腫瘍へ容易に移行する。腫瘍血管は正常血管よりも透過性が高い。加熱により腫瘍血管網の破壊が促進されるため,リポソームのように微小な粒子の血流からの移行や腫瘍における集積は容易となる」と述べている。
 リポソームは加熱されると,腫瘍に到達した部位から最も近い領域,すなわち腫瘍辺縁近傍の血管内で封入された薬剤を放出する。


 同教授は「正常組織は加熱を受けていないので,薬剤は少量が数週間にわたり移行し,肝臓と脾臓で代謝され、毒性は問題とならない」としている。

<加熱で薬剤吸収率高める>
 Dewhirst教授によると,腫瘍血管網の破壊は,癌治療において急速に発展している分野である。腫瘍細胞は,治療後も腫瘍血管が障害を受けていなければ再増殖することが多くの臨床試験で立証されている。手術や化学療法で死滅を免れて遊走するわずかな腫瘍細胞でも,増殖を維持する血管網が存在すれば,新たな腫瘍組織に成長することが可能である。

 同教授は「bevacizumabをはじめとする米国で上市されている最新薬のいくつかは,腫瘍組織への栄養補給を担う血管の新生阻害に照準を合わせて開発されたものである」と述べている。

 加熱自体も癌に有効であることは,広く認識されている。加熱の作用としては,癌細胞の薬剤吸収率を高めることが挙げられる。また,加熱により腫瘍組織において,多くの抗癌薬が正常に作用するために不可欠となる酸素の濃度が上昇する。さらに,抗癌薬がDNA損傷の修復を担う酵素を阻害することで,細胞に及ぼす作用も増強する。

 同教授は「温熱療法により,放射線治療や化学療法の効果は,加熱を行わない場合と比べて最大で10倍まで高まった。当大学による温熱療法プログラムの目標は,正確な温熱管理下で加熱を行うことで腫瘍組織を選択的に破壊し,化学療法や放射線治療の正常組織に対する毒性を最小限に抑制することである」と述べている。
 今回の研究は,米国立癌研究所(NCI)の助成を受けた[MT誌:07年3月29日 (VOL.40 NO.13) p.10]。


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