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セレン摂取にII型糖尿病予防効果はなくむしろリスクを高める? [セレニウム]

 動物モデルではセレンの補充が糖代謝を改善することが示唆されているが、ヒトに長期にわたってセレン・サプリメントを摂取させた研究ではII型糖尿病予防効果はなく、むしろそのリスクを高める可能性があると、ニューヨーク州立大学バッファロー校などのグループがAnnals of Internal Medicine(147: 217-223)に発表した。

 この研究では、セレン摂取が少ない米国東部地域の皮膚科クリニックを受診したベースライン時にII型糖尿病のない1,202人を、セレン200μg/日またはプラセボを経口摂取する群にランダム化割り付けし,II型糖尿病の新規発症を比較した。
 平均7.7年(SD, 2.7年)の追跡で、セレン補充群の58人とプラセボ群の39人にII型糖尿病の発症が確認された。1,000人年当たりの発症率はセレン補充群12.6人、プラセボ群8.4人で、セレン補充群のII型糖尿病発症リスクは1.55倍 [95% CI, 1.03 to 2.33]だった。この結果は年齢・性・BMI・喫煙習慣を層別化した解析でも変わらなかった。またベースライン時の血漿セレン値の最高三分位群では、II型糖尿病発症リスクが有意に高いことも示された(ハザード比2.70、CI, 1.30 to 5.61)[MT誌07年9月6日 (VOL.40 NO.36) p.20]。

【コメント】
 この結果だけで、セレンが糖尿病に無効ということにはならないと思います。動物なら有効なのに人間なら無効・有害というのは、種差のせいではなく動物とヒトとの間の<別の>差異に起因すると思われるからです。というのも、抗酸化酵素による抗酸化機構は両者に共通の下部構造だからです。
 糖尿病がβ細胞の疲弊・傷害によるものであるならば、酸化ストレスを減じることは、グリケーションの進行にも影響しうる訳で無意味ではあり得ません。膵臓、とりわけβ細胞は活性酸素に弱く、血漿中の濃度以上に[=能動輸送で]ビタミンCをチャージしていることで有名な器官です。

 そして、セレンに関して言えば、抗酸化酵素であるグルタチオン・ペルオキシダーゼ(GPx)やチオレドキシン・レダクターゼなどのセレン酵素の活性中心としての作用が中心だと思われます。

 これら抗酸化酵素は、セレンの摂取量に対して、ある程度は用量依存的に増加するでしょうが、摂れば摂るだけ合成量が増えるはずが無いのは実験を経ずして自明ではないでしょうか。抗酸化酵素合成に結びつかない=過剰分の摂取が問題を生まない訳も無いと思われます。通常のサプリメントでは1日量は50mcgです。なおRDAでは男女とも55mcg/日と下方修正されましたが、この数値は血漿中のGPxの飽和度から求めたものです。

 そこからすれば、この試験の使用量は、病態下とは言え、かなり多めの量であり、過剰摂取気味で、やや意図的なものを感じますね。というのも、全米科学アカデミーの食品栄養委員会では耐用最高摂取量を400mcg/日としているものの、前立腺癌予防試験などのデータ解析に基づいて定められた、オレゴン州立大・ポーリング研究所の推奨量は、癌予防用なのに200〜300mcg/日と更に低めに下方修正されている程だからです。
 ビタミンCやEの諸効果を否定する試験には、一般人でもアメリカなら1000mg/日・400IU/日は摂っているご時世に、酸化ストレスの高い諸病態に対して、例えば100mg/日・50IU/日とか信じられないほどの低用量で(しかも我々よりガタイのデカイ米国人に)投与して無効、という意図的なものが過去散見されましたが、こういうケースは逆のパターンだと思われますね。

 サプリメントも問題です。セレンは、セレン酸など無機セレンでは問題があり、通常のサプリメントは、アミノ酸キレートのもの=酵母由来のセレノメチオニンが一番多いでしょう。もっとも筋肉内蓄積はセレノメチオニンの形態だそうですが、GPx合成にはセレノシステインが使われるせいか、体内で全てこの形に代謝される訳で、バイオアベイラビリティの問題まで含めて、使用剤形の詳細を検討すべきでしょう。ちなみにうちのタマに与えているものは、グリシンでキレートされている製品です。

 一番の問題は、セレン単独の抗酸化効果だけで糖尿病態下の酸化ストレスに立ち向かえるのかという問題です。他の抗酸化ビタミン、少なくともA・C・E、ナイアシンをはじめとするB群ビタミン摂取も考慮しなければ駄目でしょう。
 もし単独での効果研究を純粋にチェックするなら、茶カテキンや、ワインやグレープジュース中のポリフェノールまで含んだ、他の抗酸化剤の全ての摂取を補正しなければ意味がないでしょう。逆に喫煙以外の不健康因子も更にチェックして関与を除外する必要もあるでしょう。
 また単独で立ち向かえるはずがないという前提を認めるなら、患者への福祉を考えれば、他の抗酸化ビタミンとの併用によって効果が相乗的に増加するのかそうでないのかという試験デザインであるべきでしょう。

 いずれでも無いのだとしたら、セレン摂取を止めさせようという意図のもとに行われた撹乱用の小規模試験だと思わざるを得ません。サマリーしか読んでおらず元論文未見のため、詳細は後日読み次第報告します。

 参照:http://lpi.oregonstate.edu/infocenter/minerals/selenium/index.html


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