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高読解力が鉛曝露から脳機能を保つ [中毒]

 米国神経学会(AAN)の会員で職業環境神経学センター(メリーランド州ボルティモア)のMargit L. Bleecker博士は、認知予備能の影響について研究し、読書量の多い鉛精錬工は少ない鉛精錬工に比べて、脳に対する鉛曝露の悪影響から保護されることをNeurology(2007; 69: 470-476)に発表した。



<低読解力なら悪影響が2.5倍>

 職業的鉛曝露が、神経やいくつかの脳の活動領域に悪影響を及ぼすことは以前から知られていた。しかし長年身に付けたいくつかの脳機能は鉛曝露の悪影響に抵抗するその1つが読解力で、これは認知予備能あるいは損傷に対して機能を維持する脳の能力の指標でもある。認知予備能に寄与する因子としては遺伝・教育・小児期の認知能がある。

 この研究は加・ニューブランズウィック州の鉛精錬工112例を組み入れ、複数の認知・運動速度試験と読解力測定を行った。鉛精錬工の経時的な鉛の血中濃度から職業生活における鉛曝露を算出し、読解力レベルが12以上の高認知予備能群と、11以下の低認知予備能群に分けた。

 Bleecker博士は「両群の鉛曝露量は類似していたにもかかわらず、認知能への鉛の影響は低読解力群のほうで2.5倍高かった。一方、運動速度に対する鉛の影響は両群で同等で、認知予備能は運動機能とは異なる、つまり高い認知予備能には保護効果があり、運動スキルへの影響に示されるように鉛が神経系を障害しても、鉛精錬工が機能を保てることが示唆された」と述べている。

 また同博士は認知予備能がいかにして脳を損傷から守るかについてはさまざまな理論があるとし、「例えば、より大きな脳における皮質シナプス密度が高ければ脳の能力が高まり、代替的な脳回路の利用が容易になり、実際の脳回路においてより効率的に作業を処理できるようになる」との見解を示している。[MT誌07年9月20日 (VOL.40 NO.38) p.54]


【コメント】
 脳機能学のド素人としては、学習によって形成されたニューロンのリゾーム状のネットワークが多くの迂回路を形成するが故に、鉛中毒による器質的な神経障害という下部構造のもたらすデメリットを上回り、補償可能という理解でよいのでしょうか。ご教示をお願いします。

 さて鉛中毒といえば、通常は職業的に曝露する環境にある方以外は、もはや日本では問題にならないのかもしれませんが、米国ではまだまだ問題です。その辺りの事情はTVドラマ『ER』で何度も描かれています。米では'77年以降は塗料への添加は禁止されているのですが、古壁のペンキが剥がれていて、それをガム代わりに噛む子供がいたり、水道配管に鉛管がまだ使われているような劣悪な住環境にある黒人街などに住む人間には未だビビッドな問題な訳です。

 通常は鉛中毒の治療は、軽い場合はサクシマーの経口投与、重い場合はジメルカプロールやサクシマー、ペニシラミンやエデト酸CaNa2などのキレート剤注射の入院治療になります。キレート剤は亜鉛・銅・鉄など重要なミネラルも取り除くため、これらミネラルのサプリメンテーションが必要になります。
→【参考】『メルク・マニュアル』「鉛中毒の項」

 Catsdukeが私淑する故・三石 巌先生は、70年代に品川電線公害で鉛中毒になられ、上のようなキレート療法の副作用で糖尿病になられました。その後、分子栄養学の知識と実践でグリケーションを押さえ込み、95歳まで著作活動を続けられ毎冬スキーをなさり長寿を全うされました。
 すでにそのときにも、ご自身で文献検索の末、ビタミンCによるキレート療法にたどり着かれ、メガビタミン療法の一環としてご自身で実践なさっていたのです。その効果については、ご自身の健康・長寿が何よりの証明となっています(『三石 巌全業績18:鉛が人を呑み込むとき』現代書林, 1983 に詳細が載っています)。

 さて、鉛中毒への分子矯正医学的対応としては、79年に加・西オンタリオ大のGoyerとCherianが鉛中毒のビタミンCによるキレート療法の可能性を示した、動物実験(ラット)を行い、鉛中毒治療におけるビタミンCとEDCAの有効性を比較したものがあります。
 そこで経口投与したアスコルビン酸がEDTAの鉛解毒性と同等のキレート特性を有するだけでなく、併用するとより効果的だと報告しました(Life Sciences[24:433-438])。

 その後、人間での否定的結果があったことから、基礎的研究として、カリフォルニア大のSimonとHudesが”Relationship of Ascorbic Acid to Blood Lead Levels”(JAMA 281:2289-2293全文)という論文で検証を試みました。ここで御参考までに紹介します。NHANES IIIの20000人あまりのデータを使って、血中の鉛もビタミンC濃度もCDCで測定したものです。

 Cの影響を除外した、鉛とCの相関関係ですが、最も血清C濃度が高い青年群は、最も血清C濃度が低い青年群と比較して血液中の鉛濃度が89%減少し(95%信頼区間:65%〜96%、P=0.002)、最も血清C濃度が高い成人群は、最も血清C濃度が低い成人群と比較して血液中の鉛濃度が65〜68%減少しており(P=0.03)、ロジスティック回帰分析で多変量線形モデルによる解析の結果、血清C濃度が低い成人群は、血中鉛濃度が高く(P<0.001)、統計的有意差が有りました。

 また10mgのCを飲食により摂取した時の血中鉛濃度上昇率は3.5%減少し(P=0.10)、危険率10%で有意差がありました。従って、Cの服用による血中濃度の上昇は鉛濃度の減少に有効である可能性が高く、1000mg以上の薬理量投与であれば更に高まると考えられます。またキレート剤による一般的なビタミンの損失も補う上に、鉄の吸収も高めるでしょうから、さらに病態改善に資するはずです。

 最新の研究(Annals of Occupational Hygiene 51:563-569)では、CとB1の投与によって、酸化ストレスを減弱し、肝臓の鉛毒性を軽減する治療法も報告されています。


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