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動脈硬化予防に新有効成分=トマトに含有、コレステロール減少----熊本大 [フィトケミカル]

 トマトに含まれるステロイド化合物に動脈硬化を予防する新たな有効成分があることが16日、熊本大学大学院研究グループの研究で分かった。この研究成果は、米専門誌「ATVB」の12月号に掲載される予定。

 ステロイド化合物の働きを特定したのは、同大学院の藤原章雄助教授ら薬学研究部のグループ。03年にこの化合物をトマトから発見して分離に成功し、「エスクレオサイド」と命名した。

 グループはその後も研究を続け、血液に取り込まれたエスクレオサイドが、コレステロールをため込む働きをする酵素を阻害し、動脈硬化の原因となる免疫細胞「マクロファージ」の肥大化を防ぐ作用があることを突き止めた(時事通信社 - 10月17日 03:01)。

【コメント】
 藤原助教授の論文が掲載されたATVB誌(Atherosclerosis,Thrombosis,and Vascular Biology:動脈硬化・血栓・血管生物学)は、CirculationHypertensionStrokeほど一般の方には有名ではないかもしれないが、同じアメリカ心臓協会(AHA)のジャーナルである。

 今回の論文はオープン・アクセスで読むことができる。
 タイトルは"Esculeogenin A, a New Tomato Sapogenol, Ameliorates Hyperlipidemia and Atherosclerosis in ApoE-Deficient Mice by Inhibiting ACAT"

 そもそも、藤原教授のグループは、05年に「A New Tomato Pregnane Glycoside from the Overripe Fruits」(新たな完熟トマト由来のプレグナン・グリコシド:Chem. Pharm. Bull., Vol. 53, 584-585)で、新たなプレグナン・グリコシドをミニトマトの完熟果から単離、分光学的分析で構造決定した。

 翌06年には「Steroidal Alkaloid Glycosides, Esculeosides C and D, from the Ripe Fruit of Cherry Tomato」(完熟ミニトマト由来のステロイド・アルカロイド・グリコシド、エスクレオシドCおよびD:Chem. Pharm. Bull.;54:237-239)で、既知の3つのステロイド・アルカロイド・グリコシド(エスクレオシドA・BおよびリコペロシドG)と共に、エスクレオシドC・Dの2つを新たに分離し、これも分光学的分析に基づき構造決定した。

 さらに同年"Physiological functions of solanaceous and tomato steroidal glycosides"(J Nat Med; 61:1–13)「ナス科植物及びトマトのステロイドグリコシドの有する生理学的機能」(全文閲覧可能)では、ナス科植物であり、民間薬として抗癌薬・抗ヘルペス薬として用いられるヒヨドリジョウゴ(漢名:白英、山甜菜など)とイヌホオズキ(薬名:竜葵)に焦点を当て、グリコシドの持つ種々の癌細胞株に対する強い抗増殖活性や抗ヘルペス活性を証明し、 16-アシル-プレグナンとプレグナングリコシドの生合成回路などの、幾つかの新たな生合成経路を発見している。

 これらステロイド骨格を持つ諸分子に関する先行研究に続いて、今回の研究が成功した訳である。この研究はトマトに含まれるステロイド化合物、すなわち精製したエスクレオゲニンAがアシルCoA・コレステロールアシルトランスフェラーゼ活性を有意に抑制し、動脈硬化の抑制に通ずることを示唆するとことを示した最初のエピデンスである。

 動脈硬化に関しては、酸化LDL説、即ち、すでに人体の構成部品とは見なされず「異物」となった酸化LDLをマクロファージ(Mφ)が貪食し血管壁内で破裂することで硬化層ができるという簡単な説明がもはや一般的だとは思うが、今回の研究ではMφのこの肥大化をエスクレオシドが防ぐ作用を持つことを突き止めた訳である。

 アメリカでは、高学歴で中年以降の男性は、皆自分のPSA値を知っている。中年男が数人集まれば、酒の肴に成ったりする程だ。日本でもこれに近くなりつつある。前立腺癌のマーカーとして検診好きの日本人の知るところとなってきたからである。日本では、他と同様、世界的エピデンスを無視して、何でもオペに誘導されている(因みにPSA自体にも血管新生抑制作用があり、この癌転移を減少させるPSAの血中濃度上昇は、生体が前立腺癌と戦い始めたことを示しているという考えもある。JNCI ; 91:1635-1640)。


 しかし、知っている人は知っているが、PSAでしか発見不可能な無症状の前立腺癌は、メタアナリシスの結果では「無治療で観察するのが有効な選択肢」とスエーデンの研究者が言っている(European Urology ; 40:488-494)し、カナダの研究者はPSA検診による発見治療に延命効果があったか否かは定かではないと言っている(Lancet ;359:1341-42)し、イエールの准教授もそう言っている(Archives of Internal Medicine 166: 38-43)。


 とは言え、放射線治療も前立腺全摘も生易しい治療ではないし、性的にもアクティブな西洋人は、オペにしろホルモン療法にしろ、男性機能が失われることにもおそれを持つこともあって、何とか予防したいという気になっている。
 そこで、トマトの登場である。前立腺はカロテン類であるリコペンがチャージされ高濃度に存在している器官である。そこから疫学調査でトマト類の摂取量と前立腺癌の発症率が逆相関しているという事実から、トマトジュースやリコペンのサプリメントを摂取する高学歴者の中年男性が海外では多いのだ。その上、予防のために、乳製品の摂取を避け、魚を食べるようになっているのだ。

 天然β-カロテンに抗前立腺癌効果があるという研究もあるが、一般的にはリコペンが前立腺癌予防と関連づけられている。血漿中の低リコペンは肺癌リスクを高めることから、肺癌予防のために摂取している向きもあるだろう。

 ところが、藤原助教授の研究ではリコペン以外の、ナス科植物に含まれるステロイド様物質の持つ抗癌成分や抗動脈硬化作用が発見された訳である。

 しかし、同様の知見はすでに得られていた。例えば、本ブログ過去記事「トマトとブロッコリーは前立腺癌の進展を遅らせる」では、ラットによる実験であったが、トマトとブロッコリーの各々を単独で食べたり、リコピンのサプリメントを服用するよりも、トマトとブロッコリーを一緒に食べる方が、前立腺癌の進行を遅らせる効果が高い、という研究(Cancer Research 67: 836-843)を紹介済みである。

 ここでは、リコピン単独でも、ある程度は抗前立腺癌活性を有するが、トマト果肉が含む広範なフィトケミカル類は、それらから抽出された単一のカロテノイドを上回る抗癌効果があること(10%ブロッコリー粉末+10%トマト粉末添加食を給餌された去勢群で最も抑制されていた=52%減。P<0.001。トマト単独は34%減。P<0.05)が明らかに示された」と著者Canene-Adamsらは記している。ここで藤原助教授の研究を勘案すれば、この著者らがリコペン以外のマルチカロテン的なワイドスペクトルなフィトケミカル類を薬効物質と想定している訳だが、それが上のステロイド様物質であったことが、証明されたことになる訳である。

 増殖の遅い前立腺癌を持つ多くの男性は「経過観察」扱いとなる。それは担当外科医が、癌の増殖が加速するまでは、無治療で注意深く経過観察することである、と彼女は指摘し、「食餌はおそらく副作用の無い非常に単純な物質であり、確実に手術や薬品より安価で、この経過観察期に前立腺癌の増殖を抑えられるだろう」と著者は述べていた。

 生薬類一般が、その全体を摂取するのと特定の抽出成分だけを摂取するのとでは、薬効に差があることが、西洋のハーブ医学でも東洋の漢方薬でも知られていたが、こういうケースからも明らかであろう。


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