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再生医療の未来は明るいが……。 [先端医療]

 ついにヒトの皮膚細胞=一般細胞から、万能細胞「人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)」を作り出すことに成功した。クローン胚から作った胚性幹細胞(ES細胞)の持つ倫理的問題を回避できるばかりか、理論的には拒絶反応皆無の移植治療などの再生医療などの応用に向けた研究が期待される。
 脳死臓器移植のような医療に無駄金を使わず、こういう研究に大幅に資源配分していればもっと達成スピードが早かったかも知れない。が、今回は本題ではないのでそこには言及しない。

 京大のチームが20日付の米科学誌「Cell」電子版に発表したものはpdfで読める。なお、この本論文(Cell 131;5:861-872)をwww.sciencedirect.comから購読購入するとUS $ 30.00かかってしまう。上のpdfなら内容は同じで無料である(爆)。

 参考までに、この論文のサマリーの、私Catsdukeによる訳を以下に示す。
Successful reprogramming of differentiated human somatic cells into a pluripotent state would allow creation of patient- and disease-specific stem cells. We previously reported generation of induced pluripotent stem (iPS) cells, capable of germline transmission, from mouse somatic cells by transduction of four defined transcription factors. Here, we demonstrate the generation of iPS cells from adult human dermal fibroblasts with the same four factors: Oct3/4, Sox2, Klf4, and c-Myc. Human iPS cells were similar to human embryonic stem (ES) cells in morphology, proliferation, surface antigens, gene expression, epigenetic status of pluripotent cell-specific genes, and telomerase activity. Furthermore, these cells could differentiate into cell types of the three germ layers in vitro and in teratomas. These findings demonstrate that iPS cells can be generated from adult human fibroblasts.

『分化型ヒト体細胞の多能性状態への再プログラム化に成功したことは、患者や疾患に特異的な幹細胞の生成を可能にするだろう。我々は、4つの特定の転写因子の形質導入によってマウス体細胞から得た、生殖系列への伝達可能な人工多能性幹(iPS)細胞の産生をすでに報告済みである。本論文で我々は、ヒト成人皮膚線維芽細胞から、マウスと同じ4因子:Oct3/4・Sox2・Klf4・c-MycによってiPS細胞が産生できたことを示す。ヒトiPS細胞は、形態学的にも、増殖・表面抗原・遺伝子発現・多能性細胞特異的な遺伝子の後成的な状態・テロメラーゼ活性の点でも、ヒト胚性幹 (ES) 細胞に類似している。さらに、これらの細胞は、インビトロでもテラトーマ検証でも、三胚葉の各細胞型に分化することができた。これらの発見はiPS細胞が成人ヒト線維芽細胞から生成されうることを示している。』

 なお米ウィスコンシン大などのチームも21日付米科学誌「Science」電子版で発表する。すでにアブストラクトも読める(http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1151526)[【追記】すでにScience 318:1917-1920に収録された]


 京大の山中伸弥教授と高橋和利助教授は、体細胞を胚の状態に戻して分化能を復活させる=初期化には四つの遺伝子が必要なことを発見し、昨年8月にマウスの皮膚細胞からiPS細胞を作ることに成功していた("Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors" Cell 2006;126:663–676)。


これ以降、世界中でヒトのiPS細胞の開発を目指し、研究者は激しい競争を繰り広げていた。

 山中教授らは、マウスでの4遺伝子と同じ働きをするヒトの4遺伝子(Oct3/4・Sox2・ Klf4・c-Myc)を成人の皮膚細胞に導入し、ヒトのiPS細胞を開発することに成功。この細胞が容器内で拍動する心筋や神経などの各種細胞に分化することを確認した。
 一方、ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授らは、胎児や新生児の皮膚細胞から、京大チームとは異なる組み合わせの4遺伝子(OCT4,・SOX2・NANOG・LIN28)を使い、iPS細胞を作ることに成功した。

 世界初の体細胞クローン動物、羊のドリーを誕生させた英国のイアン・ウィルムット博士が、今回の成果を受け、ヒトクローン胚研究を断念する方針を決めたのは、事実上の敗北宣言である。クローン胚由来のES細胞はドリーの件でも分かっていたように、効果にも倫理的にも限界があったからだ。
 
 万能性の回復に癌遺伝子が関わることを心配する向きがあるが、そんなことより、これによって、逆に癌治療にある種の知見が波及してブレイクスルー(素人考えで恐縮だが、例えばアポトーシス誘導やプログレッション段階からの正常化条件の判明など)がもたらされる可能性も出てきたことに注目すべきではないのか。

 さらに、これで、たとえ死の基準を変えてまでドナーを増やそうとしても需要と供給が永遠に釣り合わなかった不完全医療たる臓器移植のあり方が変わるだろうし、そのことは素直に寿ぎたい。命に軽重をつけドナーの死を早める差別医療が消えることになるからだ。

 しかし、そのようにして得られた「健康」に問題は無いのか。再生臓器を移植してもらえるのは、やはり今の移植と同じく「先進国」の「金持ち」だけである(実験医療=無料である日本の移植医療ではそこがネグられている。幼児を海外で移植する際にだけ露呈している)ことには変わりはない。
 さらに「予防」という点をますます軽視して、医学は過剰医療=キャナライゼーション、「マッチポンプ」医療を推進することになるだろう。そういう流れを放置していいのかということは、環境倫理・世代間倫理的にも問題になろう。

 また、そのようにして長らえられる我々の生とは何か、という問題も根本に残る。SF映画『ソイレント・グリーン』のような未来が迫っているのではないのか。

【コメント】
自己レスです。

私は上に、
>万能性の回復に癌遺伝子が関わることを心配する向き
>があるが、そんなことより、これによって、逆に癌治
>療にある種の知見が波及してブレイクスルー(素人考
>えで恐縮だが、例えばアポトーシス誘導やプログレッ
>ション段階からの正常化条件の判明など)がもたらさ
>れる可能性も出てきたことに注目すべきではないのか。

と書いたが、その通り、早速、以下のような動きが出てきました。やっぱり。

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万能細胞の山中氏に賞授与 独のがん研究センター
提供:共同通信社【07年11月27日】
 ドイツ南部ハイデルベルクに本拠を置くドイツがん研究センター(DKFZ)は26日、人の皮膚からさまざまな臓器や器官を形成する「万能細胞」を世界で初めてつくることに成功した京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授に、がん研究で成果を挙げた人物に与える「マイエンブルク賞」を授与することを明らかにした。

 同日夜にDKFZで授賞式が行われ、山中教授が出席する。賞金は5万ユーロ(約800万円)。同センターによると、がん研究に対する賞としては世界で最高額という。同賞は1981年から毎年授与されている。

 昨年のノーベル医学生理学賞を受賞した米スタンフォード大のアンドルー・ファイアー教授も2002年にマイエンブルク賞を受賞している。

 山中教授は大人の皮膚細胞に4種類の遺伝子を組み込む方法で、胚性幹細胞のように人体のさまざまな細胞に成長できる人工多能性幹細胞を世界で初めてつくった。

 ES細胞では、大きな問題となってきた受精卵や卵子を材料にする倫理問題を回避できるため、傷んだ組織を修復する再生医療を大きく進展させる成果として世界的に注目された。

 DKFZは実業家の故ウィルヘルム・フォン・マイエンブルク氏の妻マリアさんが1976年にがん研究振興のために設立した基金を基に、当初は州政府、後に連邦政府が後援。ドイツを代表するがん研究機関として、世界各国から学者らを招聘している。


【ES・iPS細胞参考書】

山中伸弥 編『実験医学増刊 Vol. 26-5』(再生医療へ進む最先端の幹細胞研究―注目のiPS・ES・間葉系幹細胞などの分化・誘導の基礎と、各種疾患への臨床応用)




山中伸弥『iPS細胞の産業的応用技術』(シーエムシー出版)




NHKスペシャル取材班『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命』




山中伸弥『iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』




須田年生『幹細胞の基礎からわかるヒトES細胞』




【生命倫理・参考書】
人間改造論―生命操作は幸福をもたらすのか?


◆「人間改造」のどこが問題か?◆(出版社HPより)
 クローン羊、人工授精、臓器移植、ヒトゲノムの解読など、生命科学や医療技術の進展にはめざましいものがあります。このままいけば、遺伝子操作によって「永遠の生命」を手に入れるのも夢でないかもしれません。しかし、そこに落とし穴、危険性はないでしょうか。ヒト・クローンにおいてアイデンティティはどうなるのでしょうか。人間の生活・生命の根拠そのものが危機に瀕しては元も子もないはずですが。
 著者たちは「人間改造」や「生命操作」やエンハンスメント(増進的介入)はどこまで許容できるのか。許容できないとすればどこに問題があるのか、歯止めをかける根拠は?など、これらの問題の現状を丹念に調査したうえで問題点を拾い上げ、ひろく議論を提供しようとします。執筆者は鎌田東二・上田紀行・粟屋 剛・加藤眞三・八木久美子の諸氏。

◆目 次◆
 生命倫理の文明論的展望(町田宗鳳)
 クローンと不老不死(鎌田東二)
 エンハンスメントに関する小論(栗屋 剛)
 心のエンハンスメント(上田紀行)
 肥満社会とエンハンスメント願望のもたらす悲劇(加藤真三)
 人口生殖は神の業への介入か?(八木久美子)
 先端科学技術による人間の手段化をとどめられるか?(島薗 進)

池田清彦『脳死臓器移植は正しいか』(角川ソフィア文庫)

 臓器移植、人工臓器、遺伝子治療……医療技術の進歩は、さまざまな病気の治療を可能にした。なかでも脳死臓器移植技術の進歩は著しいが、一方で、この技術は、死生観の再検討を迫っている。脳死は人の死か。そもそも人の死とは何か。脳死後、臓器摘出中に動いたり、脳死状態で数十年も生き続けたりする人を前に「死」をどう捉えればよいのか。脳死臓器移植の問題点に、構造主義生物学者でリバータリアンである筆者が真正面からぶつかり、歴史・医療技術・経済の見地から私たちに鋭く問いかける。 生命倫理の新たな基本文献とも言える書籍。

【拙ブログ・iPS細胞/万能細胞関係記事】
iPS細胞を10難病患者の細胞から作成…ハーバード大

ヒト睾丸由来の生殖幹細胞から新たな万能細胞を作成

胸腺内でのヘルパーT細胞への分化メカニズムを解明
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