ミニ脳卒中ーー尿酸の正常高値が原因の可能性 [抗酸化剤]
ジョンズホプキンス大学精神科・行動科学のDavid Schretlen博士らは、尿酸の正常高値は検出困難であるが、高齢者の精神機能低下の一因となるミニ脳卒中の原因となる可能性があるとNeurology(69: 1418-1423)に発表した。同博士は「尿酸は脳には有益だが、特定の状況下では尿酸の産生過程が有害になりうる」としている。
<脳に相反する影響>
筆頭研究者のSchretlen博士は「食事や運動,アロプリノールなどの尿酸産生を阻害する薬剤は尿酸値を低下させるため、特に糖尿病・肥満・高血圧などの危険因子を有する高齢者のミニ脳卒中リスクを軽減するうえで役立つ可能性がある。しかし、現段階では実際に試してみるのは時期尚早である」と述べている。
今回の研究では、尿酸値がいわゆる脳白質過強度域(WMH)の増加と関連していることが明らかになった。WMHは,酸素欠乏により脳細胞が死滅した脳内の小規模な壊死領域を指す。脳血栓あるいは脳出血に起因する酸素欠乏は、大規模な脳卒中の典型的な特徴である。
同博士は「このようなミニ脳卒中は、一生のうちに何回か起きているが発見されないことが多い。しかし、WMHの全体量が増加すると、思考速度と情報の効果的な学習と記憶が重度に阻害される可能性がある」と述べている。
尿酸の役割が最も顕著な痛風患者では尿酸が沈着して下肢や足指に疼痛や障害が生じる。しかし、同博士は「尿酸は脳に対しては相反する影響を与えるようだ」と指摘している。例えば、尿酸には強力な抗酸化作用があるため、組織を損傷する活性酸素を抑制することにより、パーキンソン病やアルツハイマー病に対し予防的に働く可能性がある。
一方、高尿酸値は糖尿病・肥満,心疾患と関連があり、脳卒中のよく知られた危険因子である。このような尿酸の相反する性質について、同博士は「尿酸は有益ではあるが、諸刃の剣のごとく特定の状況下では尿酸の産生に至る過程が有害になりうるのではないか」と説明している。
同博士は「今回の研究から、尿酸値が軽度の認知機能低下とミニ脳卒中に関連していると示されたことから,今後、両者がどのように関連しているかを解明する必要がある。どの要因が最も大きな影響を与えているかを明らかにしなければならない」と指摘。さらに「今後の研究により,高尿酸値が脳に有害な影響を与えるという仮説が実証されれば,痛風の治療薬として数10年間にわたり安全に使用されてきた尿酸産生阻害薬アロプリノールなどを用いた臨床研究を実施する価値があるのではないか」と付け加えている。[07年12月13日 (VOL.40 NO.50) p.50]
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