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ES細胞での網膜づくり効率化に成功----理化学研究所 [先端医療]

 万能細胞の一つ、胚性幹細胞(ES細胞)から人の目の網膜細胞を効率よく作り出すことに、理化学研究所・発生再生科学総合研究センター(神戸市)などのグループが成功した。これまで0.01%程度だった効率が一挙に30%近くまで引き上げられ、網膜の病気にからむ再生医療の実現性が高まった。3日付の米科学誌ネイチャー・バイオテクノロジー電子版に掲載される。

 作製に成功したのは、小坂田文隆研究員ら。網膜の主要な細胞である光を感知する視細胞と、網膜に栄養を供給する網膜色素上皮細胞を作った。

 グループは05年、マウスでES細胞から視細胞をつくった。ただ、成分が不明な牛の血清を使うなど人に応用するには安全面の問題があった。今回使ったのは、人のES細胞。培養時間を工夫して問題の成分を使わずに視細胞の前段階まで分化させた。さらに、視細胞への誘導には、レチノイン酸とタウリンが必要なことを突き止め、誘導された細胞のうち30%近くが視細胞になった。

 体のあらゆる細胞になる能力を持った万能細胞では、京都大の山中伸弥教授らが作り出した人工多能性幹細胞(iPS細胞)が注目を集めているが、ES細胞とでは倫理問題や安全性などで長所短所が違う。比較研究をすることで、利点が明確になる上に、両者の万能性に違いがあるのかも確認できる。理研グループは、京大から提供を受けたiPS細胞でも網膜細胞の分化に成功し、すでに機能を比べる段階に入っている。

 網膜は傷むと修復が難しい。今回の成果は、国内に約3万人の患者がいるとされる網膜色素変性や、高齢者の失明原因となっている加齢黄斑変性などの治療法の開発に役立つ見込みだ。(08年02月04日:asahi.comより引用。強調はCatsdukeが加筆)

【コメント】
 元記事の論文はNature Biotechnology(26:215-224)の"Toward the generation of rod and cone photoreceptors from mouse, monkey and human embryonic stem cells"(オンライン先行全文公開終了につきPubMedにリンク変更)である。


先ず、アブストラクトを引用する。

 We previously reported the differentiation of mouse embryonic stem (ES) cells into retinal progenitors. However, these progenitors rarely differentiate into photoreceptors unless they are cultured with embryonic retinal tissues. Here we show the in vitro generation of putative rod and cone photoreceptors from mouse, monkey and human ES cells by stepwise treatments under defined culture conditions, in the absence of retinal tissues. With mouse ES cells, Crx+ photoreceptor precursors were induced from Rx+ retinal progenitors by treatment with a Notch signal inhibitor. Further application of fibroblast growth factors, Shh, taurine and retinoic acid yielded a greater number of rhodopsin+ rod photoreceptors, in addition to default cone production. With monkey and human ES cells, feeder- and serum-free suspension culture combined with Wnt and Nodal inhibitors induced differentiation of Rx+ or Mitf+ retinal progenitors, which produced retinal pigment epithelial cells. Subsequent treatment with retinoic acid and taurine induced photoreceptor differentiation. These findings may facilitate the development of human ES cell–based transplantation therapies for retinal diseases.

【Catsduke訳】
「マウス・サル・ヒトES細胞からの桿体・錐体視細胞の誘導に向けて」

 我々は既にマウスES細胞の網膜前駆細胞への分化誘導の成功を報告した(Catsduke注:PNAS 2005;102:11331-11336)。しかし、これらの前駆細胞を視細胞に分化させるには、胎児網膜組織と共培養しなければならなかった。そこで我々は、網膜組織なしでの限定された培養条件下の段階的処理による、マウス・サル・ヒトES細胞由来の桿体・錐体視細胞の試験管内での生成を報告する。マウスES細胞を用いて、Rx陽性網膜前駆細胞からノッチシグナル阻害剤を培地に処置してCrx陽性視細胞前駆細胞が誘導された。さらに、線維芽細胞成長因子、すなわちソニックヘッジホッグ 、タウリン、レチノイン酸の培地への添加は、初期状態の錐体産生に加えて、大量のロドプシン陽性桿体視細胞をもたらした。サルとおよびヒトES細胞を用いると、WntシグナルおよびNodalシグナル阻害剤を培地添加した無フィーダーおよび無血清懸濁培養系で、Rx陽性あるいはMitf陽性網膜前駆細胞の分化を誘導し、網膜色素上皮細胞を産生した。引き続き、レチノイン酸とタウリンで処置すると視細胞の分化を誘導した。これらの発見は網膜症に対するヒトES細胞ベースの移植療法の発展を促進するだろう。[誤訳があればご教示下さい]

 網膜疾患や失明の原因は、視細胞や網膜色素上皮細胞の変性である。その治療法として、変性した網膜部への視細胞移植による網膜再生が考えられた。しかし、胎児網膜を使うこととなり、入手が困難で代替物が求められていた。

 そこで小坂田研究員を初めとする研究グループは、大量培養可能なES細胞から、視細胞や網膜色素上皮細胞を分化誘導し、移植細胞を得る方法の確立をめざした。ただ臨床応用を考慮すると、感染や拒絶反応の可能性を持つ血清や組織を用いない分化誘導方法の開発が求められた。

 小坂田研究員らは、胎児網膜中に含まれる分化誘導因子に着目し、視細胞を誘導する因子を探索した結果、ヒトES細胞から既知組成の培養条件で杆体視細胞や錐体視細胞からなる視細胞を大量に得る手法を確立するとともに、網膜色素上皮細胞の分化誘導にも成功した。

 この研究成果により、ヒトES細胞から分化させた網膜細胞が胎児網膜に代わる移植細胞源として活用することが可能となり、これまでの網膜移植の根本的な問題を解決することができると期待される。またiPS細胞からも原理的には網膜細胞を得られるはずなので、その場合はヒトES細胞からの場合と異なり、倫理的問題もクリアできる。今後、有効性や安全性を詳細に検討する必要はあるが、ヒトへの応用の道が開けたと言っても過言ではない。

 画期的研究成果である。「眼」力なくしては生きられない、にゃんの必須栄養素たるタウリンとビタミンA(≒レチノイン酸)がやはり視細胞誘導に不可欠だったことが確認できたのも興味深い。

【ES・iPS細胞参考書】
 須田年生『幹細胞の基礎からわかるヒトES細胞』

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