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受精卵成長のかぎ見つけた----卵子由来の「核小体」必要 [先端医療]

哺乳類の受精卵が正常に成長するには、卵子の細胞核に含まれる「核小体」が必要なことを理化学研究所・発生再生科学総合研究センター(神戸市)のチームが突き止め、2/1日付の米科学誌Science(2008 319:613-616)"The Maternal Nucleolus Is Essential for Early Embryonic Development in Mammals"(「哺乳類の初期胚発生には母系性の核小体が必要」)を発表した。

 核小体は核の中にある直径1000分の数ミリの密度が高い領域。体細胞ではタンパク質の合成に重要な役割を果たすが、卵子や受精卵での働きはこれまで不明だった。

 大串素雅子研究員は「核小体を目印にして正常な卵子を見分けることができれば、不妊治療に役立つ可能性がある」としている。

 チームはマウスとブタを使った実験で、卵子のもとになる卵母細胞から核小体を取り去ると、受精後すぐに細胞分裂が止まることを確認。
 代わりに体細胞の核小体を入れても正しく分裂せず、卵母細胞の核小体を戻してやると正常に成長することを突き止めた。

 神戸大やチェコ共和国の国立畜産研究所との共同研究。(記事:共同通信社・08年2月1日にCatsdukeが加筆)

【コメント】
 理研・発生再生科学総合研究センターの哺乳類生殖細胞研究チームの大串素雅子研究員、神戸大学、チェコ国立畜産研究所を中心とする国際共同研究グループによる成果である。

 大串先生は、神戸大の学部生の時代から、ブタの卵母細胞などで研究をなさってきた方である。マイクロマニュピレーターでの神業的な技術を元に今回の偉大な発見をなさった訳である。また、以前チェコには留学されていた。

 高校生物などで、片親からもたらされる細胞小器官として、ミトコンドリア(卵子由来。1974年発見)、中心小体(精子由来。1976年発見)があることを一般の方も学んでいた筈だが、哺乳類の受精卵中の核小体が卵子のみに由来するという今回の発見は、それらに続く3番目の発見として、歴史的価値があり、生物学の歴史に名を残す研究となったと言えるだろう。

 ここで、Scienceのアブストラクトを引用する。
 With fertilization, the paternal and maternal contributions to the zygote are not equal. The oocyte and spermatozoon are equipped with complementary arsenals of cellular structures and molecules necessary for the creation of a developmentally competent embryo. We show that the nucleolus is exclusively of maternal origin. The maternal nucleolus is not necessary for oocyte maturation; however, it is necessary for the formation of pronuclear nucleolus after fertilization or parthenogenetic activation and is essential for further embryonic development. In addition, the nucleolus in the embryo produced by somatic cell nuclear transfer originates from the oocyte, demonstrating that the maternal nucleolus supports successful embryonic development.

【Catsduke訳】
 受精においては、接合体に対する父系性の寄与と母系性の寄与は同等ではない。卵母細胞と精子は、発生的にコンピテントな胚の創造に必要な細胞構造と分子の相補的な宝庫を備えている。我々は、ここで核小体が専ら母系由来であることを示す。母系由来の核小体は卵母細胞の成熟に必要なのではなく[Catsduke注:=卵母細胞の減数分裂の進行には無関係であり]、受精卵の前核の核小体形成や単為発生の活性化に必要で、さらなる胚発生に必要不可欠なのである。さらに、体細胞クローン胚中の核小体も卵母細胞に由来しており、それは母系性の核小体こそが胚発生を正常に進行させるために必要なことを実証している。[誤訳があらばご教示を]


 過去、長年に渡って「無用の長物」とされてきた卵母細胞の核小体が、全能性を持つ受精卵の構築や初期胚発生に不可欠であり、体細胞の核小体では代替できないことから、卵母細胞特異的な核小体の機能の存在が明確化された訳である。

 ES細胞研究で一般にも注目された訳だし、元々、高校生物の基本でもある事実だが、哺乳類の受精卵は、たった1つの細胞から発生・分化・個体形成する訳で、受精卵が脳細胞にも心筋細胞にも膵β細胞にも分化するという万能性を有していることになる。

 そうした万能性を持つ受精卵の核は、全能性機序の情報を有している訳で、万能性機序の解明につながる可能性を持つ。iPS細胞の研究などの関連研究とリンクして、一層発展することが期待される。さらに生殖医療、とりわけ不妊治療への展開も期待されるだろう。

 とにかくエポックメイキングな研究である。

 しかし、同じ号には、東京医科歯科大の高柳 広教授による、リウマチ治療にブレイクスルーを齎し得る研究も発表されており、日本の生物医学研究の底力を垣間みた気がする。


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