SSブログ

リウマチ患者に福音か----東京医科歯科大の快挙。 [先端医療]

 骨の破壊を防ぐと同時に過剰な免疫反応を抑える薬の開発に、東京医科歯科大の高柳 広教授(分子情報伝達学)らの研究グループが成功し、動物実験で効果を確認した。骨と免疫の両方に作用するメカニズムの発見は世界初で、関節リウマチの強力な新治療薬になる可能性があるという。1日付の米科学誌サイエンスに掲載された。

 過剰な免疫反応で関節が破壊されるリウマチは、免疫を抑える治療薬が有効だが、効果が限られる上、感染症などの副作用もある。

 研究グループは、骨が分解される時に働く「カテプシンK」と呼ばれるたんぱく質分解酵素に着目し、その働きを妨げる薬を開発。関節炎ラットに経口投与したところ、予想通り関節の変形を防ぐことができた。

 ところが、予期せず関節周囲の炎症を抑制する効果もみられた。このため、マウスの細胞を使ってカテプシンKの働きをより詳しく調べ、免疫細胞が活性化する際にも重要な役割を果たしていることを突き止めた。(時事通信社 - 02月01日 06:22) 
-------------------------------------------------------------------------------------------------

 元記事で言及されているのは、Scienceの今月1日号に発表されたREPORTS"Cathepsin K-Dependent Toll-Like Receptor 9 Signaling Revealed in Experimental Arthritis"(「実験的関節炎において明らかになったカテプシンK依存性トール様受容体9のシグナル伝達」)である(Science 2008; 319:624-627)。

 東京医科歯科大の高柳 広教授と日本ケミファなどの共同研究チームによって、骨破壊と炎症を同時に抑制可能な、画期的な関節リウマチ治療薬が開発された。大半が単純な抗炎症剤や免疫抑制剤である過去の治療薬とは全く異質な作用機序であるため、非常に強い効果が期待できる。

ここで上掲論文のアブストラクトを引用する。
 Cathepsin K was originally identified as an osteoclast-specific lysosomal protease, the inhibitor of which has been considered might have therapeutic potential. We show that inhibition of cathepsin K could potently suppress autoimmune inflammation of the joints as well as osteoclastic bone resorption in autoimmune arthritis. Furthermore, cathepsin K–/– mice were resistant to experimental autoimmune encephalomyelitis. Pharmacological inhibition or targeted disruption of cathepsin K resulted in defective Toll-like receptor 9 signaling in dendritic cells in response to unmethylated CpG DNA, which in turn led to attenuated induction of T helper 17 cells, without affecting the antigen-presenting ability of dendritic cells. These results suggest that cathepsin K plays an important role in the immune system and may serve as a valid therapeutic target in autoimmune diseases.

[Catsduke訳]
 カテプシンKは破骨細胞特異的なリソソームのプロテアーゼとして独自に同定され、この阻害剤が治療薬としての可能性を有すると考えられてきた。我々はカテプシンKを阻害することが、自己免疫性リウマチにおける破骨細胞による骨吸収同様に、関節の自己免疫性炎症も強力に抑制することができることを示す。さらにカテプシンKホモ欠損マウスは実験的自己免疫性脳脊髄炎に抵抗性であった。カテプシンKの薬理学的阻害ないしは標的破壊は、非メチル化領域たるCpG DNAに応答して、樹状細胞におけるトール様受容体9のシグナル伝達を不完全にするが、それは樹状細胞の抗原提示能に影響せずにTヘルパー17細胞の誘導の減弱という結果を順次導く。これらの結果は、カテプシンKが免疫システムにおいて重要な役割を果たしていることを示唆し、自己免疫性疾患における有効な治療標的として役立つだろう。
[誤訳あらばご教示を]
 
 この研究の発表までの大まかな流れを振り返ると、02年に高柳教授(当時は東大助手)は、東大の谷口維紹教授と、破骨細胞を形成するタンパク質NFATc1を発見された。造血幹細胞に、特定のタンパク質を与えると破骨細胞に分化することがすでに知られていたが、この時、細胞内に免疫系細胞を活性化するNFATc1が産生されることを発見されたのだ。そして培養した造血幹細胞の遺伝子を操作してNFATc1を産生不能にすると、幹細胞はどんな処理をしても破骨細胞に分化しないことを発見された。

 さらに05年には骨形成の仕組みを遺伝子レベルで解明された。破骨細胞を活性化させるNFAT遺伝子から作られるタンパク質が、オステリックスと呼ぶ別の遺伝子から作られるタンパク質と協調して、骨芽細胞を活性化することを突き止められたのだ。

 なお東京医科歯科大では、06年には青木和広助手(硬組織薬理学)も9つのアミノ酸が結合した「W9ペプチド」が、破骨細胞ができるときに必要な分子と結合して、その生成を抑えるという抗炎症作用を持つ物質として、骨粗鬆症などの際の骨減少を抑制することを発見されている。炎症と骨減少を抑える2つの働きを同時に持つ、副作用の少ない関節リウマチなどの薬剤開発につながる研究と期待されていた。

 こうした研究では東京医科歯科大は、世界水準のメッカとして、その研究の行く末が大変注目されていたところで、一昨年、高柳教授は、すでにNature Medicine(2006;12:1410-1416)に発表した"Regulation of osteoclast differentiation and function by the CaMK-CREB pathway"で、東大医学部(神経生化学)の尾藤晴彦助教授のグループと共同し、破骨細胞の形成や機能に必要な酵素「カルモジュリンキナーゼIV」と「転写因子CREB」を同定、その阻害剤が骨粗鬆症や関節リウマチの骨破壊の治療に有効であるという動物実験での証明をされていた。

 破骨細胞分化因子(RANKL)とカルシウムシグナルが、カルモジュリンキナーゼIVを活性化し、転写因子CREBを介して破骨細胞の形成を制御することを解明されたため、カルモジュリンキナーゼ阻害剤を閉経後骨粗鬆症モデル動物や関節リウマチなどの炎症性の骨破壊のモデル動物に投与すると、極めて有効な治療効果が得られたので、この研究成果の応用により、骨粗鬆症や関節炎の新たな治療法の開発の可能性がすでに示唆されていたのだ。

 その流れの中で、今回の高柳教授の研究が発表された。一般には、高柳教授はCMでもおなじみのバイオリニストの川井郁子さんの伴侶として知られているくらいだろうが(笑)、このように大変偉い学者なのである。

 関節リウマチでは過剰な免疫反応で関節骨に破壊と炎症が起きる訳だが、高柳教授は、骨を分解するときに働く「カテプシンK」というプロテアーゼに着目した。この働きを阻害する物質を見つけ、関節リウマチのモデルラットに経口投与して効果を調べた結果、関節の骨破壊が予想通りに抑制された上、炎症も大幅に軽減されることを確認し、骨破壊と免疫活性化による炎症の両方を同時に抑えることをこの研究で証明されたのだ。
 多発性硬化症などの自己免疫疾患や骨粗鬆症などにも効果があるとみられているため、まず多発性骨髄腫を対象に2008年内に臨床試験がアメリカで開始される。

 早期の認可・実用化が望まれる。

 しかし、同じ号には、理化学研究所の大串素雅子研究員による、哺乳類の受精卵中の核小体が卵子のみに由来するという世界的発見も発表されており、日本の生物医学研究の底力を垣間みた気がする。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

           医療用医薬品が買える! 三牧ファミリー薬局

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。