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ヒット続きの理研----ES細胞から赤血球前駆細胞株作成に成功。 [先端医療]

 あらゆる臓器や組織に育つ能力を持つマウスの胚性幹細胞(ES細胞)から、赤血球のもとになる細胞株を作ることに、理化学研究所の研究チームが成功した。細胞株は試験管内で長期間増殖させることができ、赤血球を効率よく大量に作ることが可能。チームは近く、ヒトの人工多能性幹細胞(iPS)を使った研究を始める予定で、成功すれば、献血に頼らず、感染症の心配のない輸血が実現する。6日付の米科学誌に発表した。

 骨髄液やへその緒の血液に含まれる血液幹細胞から赤血球を作った例はあるが、効率の悪さが実用化への課題になっていた。

 理研バイオリソースセンター(茨城県つくば市)の中村幸夫・細胞材料開発室長(血液学)らは、8種類のマウスES細胞と、細胞増殖作用などがある6種類のたんぱく質を使って実験した。組み合わせを変えながら63回試み、三つの組み合わせで赤血球のもとになる赤血球前駆細胞株を作ることに成功した。

 この株を貧血のマウスに注射すると、マウスの体内で赤血球が増加し、症状を改善できることを確認した。がん化などの問題も起きていないという。

 中村室長は「一日も早い臨床応用を目指したい」と話している。(西川 拓:毎日新聞 - 02月06日 11:03を引用)
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【コメント】
 元記事の米科学誌に掲載された論文とは、PLoS ONE(2008.2.06)の” Establishment of Mouse Embryonic Stem Cell-Derived Erythroid Progenitor Cell Lines Able to Produce Functional Red Blood Cells”である。

*アブストラクトを引用する*
Background
 The supply of transfusable red blood cells (RBCs) is not sufficient in many countries. If erythroid cell lines able to produce transfusable RBCs in vitro were established, they would be valuable resources. However, such cell lines have not been established. To evaluate the feasibility of establishing useful erythroid cell lines, we attempted to establish such cell lines from mouse embryonic stem (ES) cells.

Methodology/Principal Findings
 We developed a robust method to obtain differentiated cell lines following the induction of hematopoietic differentiation of mouse ES cells and established five independent hematopoietic cell lines using the method. Three of these lines exhibited characteristics of erythroid cells. Although their precise characteristics varied, each of these lines could differentiate in vitro into more mature erythroid cells, including enucleated RBCs. Following transplantation of these erythroid cells into mice suffering from acute anemia, the cells proliferated transiently, subsequently differentiated into functional RBCs, and significantly ameliorated the acute anemia. In addition, we did not observe formation of any tumors following transplantation of these cells.

Conclusion/Significance
 To the best of our knowledge, this is the first report to show the feasibility of establishing erythroid cell lines able to produce mature RBCs. Considering the number of human ES cell lines that have been established so far, the intensive testing of a number of these lines for erythroid potential may allow the establishment of human erythroid cell lines similar to the mouse erythroid cell lines described here. In addition, our results strongly suggest the possibility of establishing useful cell lines committed to specific lineages other than hematopoietic progenitors from human ES cells.

【Catsduke訳】
<本研究の背景>
 多くの国で輸血用の赤血球の供給は不足している。もし試験管中で輸血用の赤血球を産生可能な赤血球の培養細胞株が確立できれば、治療に役立つ資源となりうる。しかし、過去こうした細胞株は樹立できなかった。そこで、有用な赤血球培養細胞株の樹立が可能かどうかを評価するために、我々はマウスES細胞からそれを樹立しようと試みた。

<本研究の方法および主要な発見>
 我々は、マウスES細胞の造血細胞の分化誘導を伴う分化細胞系を得るための頑強な方法を開発し、この方法で5つの独立した血液前駆細胞株を樹立した。このうち3種類は赤血球系の細胞株であった。これら3種類の詳細な特性にはばらつきがあるが、試験管内での分化能を有し、成熟した赤血球に分化し、脱核赤血球を産み出す能力も持っていた。急性貧血を誘発したマウスへ赤血球前駆細胞株を移植すると、一過性に増殖し、引き続き生体内で機能を有する赤血球に分化し、急性貧血を寛解させた。さらに、赤血球前駆細胞株を移植したマウスでは、腫瘍形成が全く認められなかった。

<本研究の結論と意義>
 我々の知る限り、本報告は成熟赤血球産生可能な赤血球前駆細胞株の確立の可能性を示した最初の報告である。多くのヒトES培養細胞系が従来確立されてきたことを考えれば、有望な赤血球培養系を集中的に検証することは、本論文で示したマウス赤血球前駆細胞株と同様に、ヒト赤血球前駆細胞株の確立を導くだろう。加えて、我々の得た結果からすれば、マウスES細胞を用いて赤血球前駆細胞株の樹立に成功したことは、ヒトES細胞由来の血液前駆細胞以外の特異的な系列に関係づけられた有用な培養細胞系の樹立可能性を強く示唆するものである。(誤訳があればご教示下さい)

 最近の理研の諸研究にコメントした過去記事同様だが、ES細胞にあった倫理的問題も京大で研究の進むiPS細胞においては何の問題も無い。さらにiPS細胞にあった発癌性の問題も、導入遺伝子の組合せを変えることで解消されるという研究が、最近、他で発表されたので更に望ましい進展が期待できよう。

 輸血は、ドナー不足と、献血に混じるHIVをウィンドウ・ピリオドの問題で排除できず汚染されている可能性がある等、問題が多いのだが、多量に試験管内で赤血球を作ることができればというのは、夢であった訳である。

 高校生物の知識であるが、人間の赤血球自身は核を持たないので、細胞分裂で増えることはできない。体内では赤血球前駆細胞が増殖し、核が抜け出る「脱核」を経て、赤血球が産生される(フィリピンの心霊手術の際に出た血液をハンカチで拭き取り採取して、電顕的に検査したら核があったので、ニワトリの血だとバレ、手品だとバレた事件もあった。笑)。

 従って、大量に赤血球を作るには、この前駆細胞の大量増殖が大前提となる。よって、上の論文にあるように「細胞株」の樹立が不可欠なのだ。すなわち、ひとたび樹立した細胞株なら、試験管の中で半永久的に増殖させられるので、欲しいだけ増やして治療に役立て得るのである。

 上の結論にも遠回しに書かれているのだが、白血病細胞由来のヒト赤血球前駆細胞株なら既に存在するのだが、白血病細胞=癌化した細胞には最終分化する能力がなく、脱核(=成熟)赤血球は生産できないのだ。また血液幹細胞などの正常な血液細胞は、一般の体細胞同様に分裂寿命があるので、こちらからも赤血球前駆細胞株の樹立には成功していなかったのだ。

 理研の研究グループは、不死化細胞であるES細胞に注目し、ES細胞から脱核赤血球を生産する能力を保有した赤血球前駆細胞株を樹立できないかと考え、研究に成功した訳である。

 すでにこの研究グループは、臍帯血中の血液幹細胞から効率良く脱核赤血球を生産する分化誘導技術を開発しており(Nature Biotechnology 24:1255-1256)、ヒト赤血球前駆細胞株を樹立できた暁には、その分化誘導技術で効率良く輸血可能な脱核赤血球を生産することも可能になろう。

 また、試験管内でヒト赤血球前駆細胞株から脱核赤血球の大量生産ができることは、ヒト赤血球に核がない=腫瘍形成の心配もないので、安全な臨床応用可能な細胞となり、それは遺伝子操作をしたヒトiPS細胞由来の細胞株でも同様である。

 脱核赤血球の大量生産が可能になれば、献血の諸リスクを払拭できるだろう。また、いわゆるO negative=O型Rh(-)の血液型の脱核赤血球は、理論的にはすべての患者に輸血が可能な血液として知られ、救急現場には不可欠なものだが、O Rh(-)のヒト赤血球前駆細胞株を樹立し、脱核赤血球を大量生産することができれば、輸血用血液不足も解決できる。今後はヒトでの確立を目指す研究を継続されるようなので、大変期待が持てる。

【ES・iPS細胞参考書】
 須田年生『幹細胞の基礎からわかるヒトES細胞』

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