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十全大補湯の肝癌発症に対する防御作用はクッパー細胞由来酸化ストレスの抑制に基づく [東洋医学]


 UNC Gillings School of Global Public HealthでPostdoctoral Research Associateをなさっている土屋雅人先生と山梨大医学部第一外科の松田政徳・河野 寛の両先生は、十全大補湯(TJ-48)が肝癌発症を防御する作用機序を考察し、その肝癌発症に対する防御作用がクッパー細胞由来酸化ストレスを抑制することに基づくことを解明、論文"Protective effect of Juzen-taiho-to on hepatocarcinogenesis is mediated through the inhibition of Kupffer cell-induced oxidative stress"をInternational Journal of Cancer(123:2503-2511)に発表された。


ABSTRACT
Traditional herbal formulations, such as Juzen-taiho-to (TJ-48), are used extensively in medical practice in Asia even though their mechanism of action remains elusive. This study tested a hypothesis that TJ-48 is protective against hepatocarcinogenesis by impeding Kupffer cell-induced oxidative stress. Forty-eight patients were randomly assigned to receive TJ-48 (n = 10), or no supplementation (n = 38) for up to 6 years after surgical treatment for hepatocellular carcinoma (HCC). In addition, to investigate the mechanism of protective action of TJ-48, diethylnitrosamine-containing water was administered for 22 weeks to male mice that were fed regular chow or TJ-48-containing diet. Liver tumor incidence, cell proliferation, number of 8-hydroxy-2-deoxyguanosine- or F4/80-positive cells, and cytokine expression were evaluated. Although most of the patients experienced recurrence of HCC, a significantly longer intrahepatic recurrence-free survival was observed in the TJ-48 group. In mice, TJ-48 inhibited the development of liver tumors, reduced oxidative DNA damage, inflammatory cell infiltration and cytokine expression. Administration of TJ-48 improves intrahepatic recurrence-free survival after surgical treatment of hepatocellular carcinoma. On the basis of animal experiments, we reason that the protective mechanism of TJ-48 involves inhibition of Kupffer cells. This leads to lower levels of pro-inflammatory cytokines and oxidants in liver which may slow down the process of hepatocarcinogenesis and improves hepatic recurrence-free survival in patients with HCC.


【アブストラクト】(Catsduke訳)
 伝統的な漢方処方、例えば十全大補湯(TJ-48)は、その作用機序が十分に解明されてはいないものの、東アジアにおいては広範に治療に用いられてきた。本研究で我々は十全大補湯がクッパー細胞誘発性酸化ストレスを妨害することで肝癌形成を抑制するという仮説を検証した。肝細胞癌(HCC)術後6年以上の48人の患者が十全大補湯投与群(10人)と非投与群(38人)にランダム割り付けされた。加えて、十全大補湯の防御作用機序の解明のために、通常の固形飼料または十全大補湯含有飼料を与えたオスのマウスに肝癌誘発物質であるジエチルニトロソアミン含有水を22週間投与する動物実験も行い、肝癌発生率、細胞増殖、8-ヒドロキシ-2-デオキシグアノシン-またはF4/80-陽性細胞、サイトカイン発現量が評価された。大部分の患者は再発したが、投与群は非投与群よりも無転移生存期間が有意に長かった。またマウスにおいて、投与群は肝腫瘍の発育を抑制し、DNAの酸化による損傷、炎症性の細胞浸潤、サイトカインの発現をいずれも減少させた。十全大補湯の投与によって、肝細胞癌の術後に無転移生存期間を改善できる。動物実験に基づき、我々は十全大補湯の防御作用機序には、クッパー細胞活性化抑制が含まれると判断した。このことは肝における炎症促進性サイトカインとオキシダントを低レベルに抑え、それは肝癌形成の過程を遅らせるだろうし、肝細胞癌患者が再発なく生存できることを可能にする。

【コメント】
 山梨大学医学部第1外科は、各種の病院本でも有名な病院であるが、肝細胞癌の再発予防に漢方薬を用いた研究を医局員が積極的に行っている。松田・河野両先生は2003年に「PROGRESS IN MEDICINE」(和雑誌)(23:1556-1557)に「肝細胞癌発癌抑制を目的とした十全大補湯によるKupffer細胞の活性化抑制と抗腫瘍免疫能活性化 」を発表されている。
 翌2004年には第66回日本臨床外科学会総会で、ツムラのランチョンセミナーである第14回外科漢方研究会でも、「肝細胞癌発癌機序における活性化Kupffer細胞の関与と十全大補湯による再発抑制の試み」をこの3名の先生方を中心とした発表を行っておられる。
【目的】 Kupffer細胞(KC)の肝癌発症における関与の解明と、抗酸化と抗腫瘍免疫活性化作用を有する漢方薬である十全大補湯(TJ-48)投与による、KC活性化抑制を介した抗酸化療法による肝癌発症抑制の可能性を検討した。
【方法】C型肝炎ウイルス(HCV)抗体陽性肝細胞癌患者(HCC群)、慢性HCV感染患者(CH群)、健常者 の血清中8-OHdG、IL-18値を検討した。また肝内のCD68(KCマーカー)、8-OHdG、HNE、IL-18発現を検討した。根治的HCC切除症例において、血清IL-18値と、肝臓の非腫瘍部での8-OHdG発現について再発との関連を検討した。さらに肝癌手術症例を対象にTJ-48を投与し末梢血中IL-18値を測定した。
【成績】血清中8-OHdG値はCH、HCC群で増加。HCV感染肝での8-OHdGとHNE発現は正常肝と比較し有意に増加していた。肝内HNEと8-OHdG発現はCD68陽性細胞と相関し局在が一致した。さらに、IL-18、8-OHdG発現とKC数との間に正相関を認めた。血清IL-18高値群と、肝臓の非腫瘍部での8-OHdG高発現群において、より早期にHCCが再発していた。血清IL-18値はTJ-48投与により2ヶ月より低下し、4ヶ月後ではほぼ正常範囲となり7ヶ月経過した後においてもその効果は持続していた。さらに今回は、これまでの臨床結果を追加報告したい。
【結果】末梢血中IL-18値がKC活性化と肝内酸化ストレスの指標となり予後と相関した。TJ-48投与により末梢血中IL-18は有意に低下した。更なる経過観察が必要であるが肝細胞癌におけるTJ-48による抗酸化療法の可能性が考えられた。


 その後、この3人の先生方は、日本消化器病学会雑誌(2005;102 : 345)に「十全大補湯(TJ-48)によるKupffer細胞活性化抑制効果と肝発癌抑制の検討」を発表されているし、翌年の第42回日本肝癌研究会では、大阪市大・肝胆膵外科学の久保正二先生を座長とした「肝癌の再発予防2」というセッションで、「十全大補湯による肝細胞癌再発予防効果の検討」の演題で発表されている。そして2007年に河野・松田両先生は「十全大補湯による肝細胞癌根治治療後の再発抑制効果」を日本消化器病学会雑誌(104 : 227)に発表している。そうした先行研究が今回の論文の研究につながった訳である。

 一般的に、漢方薬にはフラボノイド等が多く含まれる上に、本来なら土瓶で煎じること=遠赤外線による諸有効成分の重合解除により、強いスカベンジャー作用を有することが示唆されている。単一成分の足し算ではなく、相乗効果による、西洋医薬とは異なる作用機序が想定されるケースが多いが、酸化ストレスの制御により、様々な薬効をもたらすことが、本研究のように証明されていけば、生薬資源の問題はあるにせよ、患者に優しい癌治療が今後ますます可能になっていくだろう。
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