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【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】救急領域と漢方医学2「かぜ症候群(含インフルエンザ)に対する漢方診療」 [東洋医学]

領域別入門漢方医学シリーズ 「ツムラ・メディカルトゥディ」08年11月5日放送
「救急領域と漢方医学」 熊本赤十字病院 総合内科 加島 雅之 先生

(2)かぜ症候群に対する漢方診療
 内科系の救急外来に受診する患者で最も多いのはウイルス感染症である。ことにかぜ症候群は群をぬいて多いわけであるが、通常、初期においては、西洋医学の総合感冒薬を使用して多くの場合は対処している。

 一方で、インフルエンザなどのように初期から強い症状を呈して救急外来でも難渋する場合がある。インフルエンザの迅速検査には感度の問題があり、抗ウィルス薬が必ずしも処方されるわけではない。また抗ウイルス薬も初期48時間以内に内服が開始されれば発熱期間の短縮(Catsduke注:タミフルの場合、エビデンスでは1日あるかないかに過ぎないのに異常行動など中枢抑制系の副作用はある。万能薬でも何でも無い!)には有効だが、その他の症状に関してはあまり軽快しないこと、48時間を過ぎると無効であることを考えると漢方診療の出番は多い。

 また、ほとんどのウイルス性疾患では西洋医学では多くの場合は対症療法のみであり、ことに中期~後期の症状には症状のコントロールも難しい。こうした状況下でも漢方は豊富な方法論を持ち、若
干のポイントを押さえれば著効することも多い。

1. 漢方で感染症を考えるときの基本概念
 漢方の感染症の概念(外感病)では気候因子である六淫外邪が体外から侵襲してくるととらえる。そして主に体表面を意味する「表」で最初に闘病反応がおこり、その後、邪が徐々に体内に侵入するに従って、体内の深部構造を意味する「裏」に病態の主座が変化していくのが基本と考えられている。こうした外邪の身体侵襲するために必須のいわば、邪の主役を演じるのは風邪であり、その名をちなんで全てのウイルス感染症の基本モデルである“カゼ”を漢字で「風邪」と書く。

 六淫外邪の侵襲によるカゼ症候群もすべての物を寒熱のカテゴリーに分類する漢方医学の基本的性質にもれなく、主に寒の性質を帯びた外邪と熱の性質を帯びた外邪に弁別し、その対応法は異なる。

 寒性を帯びた外邪は主に冬季や寒冷な気候・環境に誘発されることが多く、悪寒期も比較的長い。一方、熱性を帯びた外邪の侵襲は春~夏の季節や温暖な気候・環境に誘発されることが多く、悪寒期が比較的短く、初期から口渇や強い咽頭痛などの熱性の症状が強い。
 日本のエキス剤は寒の性質を帯びた外邪の侵襲に対しての対応を中心にまとめられた『傷寒論』を出典とする方剤がほとんどを占めるため、熱の性質をおびた外邪の侵襲の場合には工夫を要することが多い(Catsduke注:中医学にはふさわしい方剤がある)。

2. カゼ症候群初期の漢方診療
 カゼ症候群の初期は、漢方医学では「表証」と総括される。表証は寒気が残存し、筋痛などがあり、脈が浮き、舌苔は薄い白苔で変化を来しておらず、腹痛や下痢などの消化器症状や強い咳嗽・喀痰などの腸管や肺といった五臓六腑のような深部臓器の症状を未だ呈していない状態をいう。こうした表証に対しては体表の気を発散させることで外邪をともに発散させる(現象としては軽度の発汗がみられる)、「解表法」と呼ばれる方法論が用いられる。

 まず、寒性をおびた邪の侵襲の病態を論じると、悪寒が強く、発汗を呈しない(Catsduke注:無汗の証)風寒邪の侵襲による表証の場合は麻黄湯が使用される。寒気程度で自発的な発汗が認められる(Catsduke注:有汗の証)風邪単独の侵襲による表証では桂枝湯が使用される。
 風寒邪の侵襲が体表のごく浅い層のみならず、筋肉の層まで影響を与え、表証と後頚部のこわばりや痛みを伴う場合には葛根湯が用いられる。同じように風寒邪の侵襲が体表のごく浅い層のみならず鼻や気管支といったいわゆる肺気が支配する領域に影響を与えた場合、水様鼻水や透明な痰を伴う咳嗽が出現し、いわゆるカタル性の鼻炎や気管支炎を来した場合には小青竜湯が用いられる。

 もし、冬季で強い悪寒・節々の痛みが強く、汗がでないが咽頭痛が強い場合は、表は寒邪が包むとともに内熱がこもっていると考え、大青竜湯が適合となる。インフルエンザではこのタイプになることがしばしばあるが、エキス剤では麻杏甘石湯に桂枝湯を併用する。熱の程度で桔梗石膏を追加してもよい。
 老人などで悪寒が持続しなかなか発熱せず、全身倦怠感が持続する場合は通常の感冒薬では症状の軽快はなかなかはかれない。これは陽が不足しているために闘病反応が引き起こせないのであり、麻黄附子細辛湯(悪寒が強い場合は附子末1g/日を併用)を使用する。
 麻黄附子細辛湯を使用し、悪寒が去った後でなかなか倦怠感などとれない場合は、補中益気湯を内服して気を補うとともに、残った邪の排除に勤めると早期に症状の改善がみられる。

 寒気と熱感が交互に出現する往来寒熱の熱型を呈する場合には半表半裏と呼ばれ病位に病態の主座が移ったことを意味する。ちょうど、体表・外郭の筋肉といった場所が病態の主座であった表証と、消化器や五臓を病態の主座とする裏証の中間に位置する病態で、寒気、頭痛、咽頭痛といった表証の部分症状、上腹部不快感や軽度の吐き気や軟便といった裏証の部分症状を呈する。

 こうした際には小柴胡湯が有効である。実際に救急外来に来院する患者もインフルエンザの時期を除けば多くは、症状出現時から2~3日たって、倦怠感や食思不振といった症状の増悪を迎えて来院することが多く、半表半裏の状態を最も多く見かける。
 また往来寒熱はあるが、まだ体表の違和感などの表の症状が強い場合には、小柴胡湯に桂枝湯を合方した柴胡加桂枝湯が使用され、実際の使用頻度も高い。冬場の風邪で咽頭痛のみが主となり、局所の発赤が強くない場合は甘草湯がよい。もし軽度の咳嗽も伴っている場合は桔梗湯を使用する。

 熱性を帯びた邪による侵襲の場合は初期の純粋な表証に対応することのできる処方は残念ながら日本のエキス剤にはない。しかし、臨床上は多くの患者がやや時間がたったところで、受診することが多いため半表半裏になり始めている段階となっており、小柴胡湯加桔梗石膏で治療可能な場合が多い。咳嗽が強くなり始めている場合には小柴胡湯に麻杏甘石湯を合方し使用する。ウイルス性髄膜炎の初期や副鼻腔炎を起こしやすい人など初期から頭痛を中心とした症状を呈する場合には川芎茶調散が有効な場合が多い。

 ここで湿邪による侵襲の場合を特に論じたい。湿邪はその名から分かるように湿度の高い季節や環境での発症をその特徴とするが、あたかも風寒邪のように悪寒や強い節々の痛みを呈する。
 しかし、熱と結びつきやすい性質をもっており、このときに麻黄湯などを使用するとかえって高熱になったり、倦怠感を増悪させたり嘔吐をしたりといったことを起こす。
 鑑別点としては、梅雨時期や夏季などの発症季節と、表証を呈している、ごく初期から軟便や腹部の不快感やのどが渇くのに飲みたがらない、舌の苔が厚いなどである。

 こうした病態に対しては日本のエキス剤は十分に適応できる処方が少ないが、茵蔯五苓散半夏厚朴湯を合方し、熱の所見に合わせて黄連解毒湯を追加する方法をとる。やや病期が進んでほとんど表証がみられなくなった場合には柴苓湯に熱の所見に合わせて黄連解毒湯を併用することも多い。

3. カゼ症候群後期の漢方診療
 気管支炎の咳嗽に関しても通常の鎮咳薬はなかなか十分な効果は得られない。コデインなどの麻薬系鎮咳薬は痰の喀出を阻害するためにすすめられない。こうした際にも漢方薬は力を発揮する。悪寒期を過ぎ去り気管支炎となり発熱と咳が強い場合は麻杏甘石湯が良い。痰の量が多い場合には五虎湯の方がよい。

 もし、半表半裏の症候で咳嗽時の胸痛などのウイルス性胸膜炎の症状を呈した場合には小陥胸湯と小柴胡湯を合方した柴陥湯の使用がすすめられる。悪寒期を過ぎさり、高熱・発汗・口渇が持続している場合は陽明経証と考え白虎加人参湯がすすめられる。痰が黄色、口渇が強いなどの症状が強い場合には柴陥湯桔梗石膏を追加する。

 回復期に咳嗽が持続する場合は昼夜を問わず乾性咳嗽や切れの悪い痰を伴う咳嗽が持続する場合は麦門冬湯が著効することが多い。夜間咳嗽や不眠・倦怠感の持続などの症状が持続する場合には竹筎温胆湯で改善することも多い。

 さらに明らかにウイルス感染症でも症状が遷延したり、全身状態がわるくて入院することがある。こうした際、多くの場合は半表半裏の病態を呈していることが多く、小柴胡湯を中心に使用し速やかな症状の軽快をえることも多い。
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