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【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】救急領域と漢方医学3「感染性下痢症などの感染症に対する漢方診療」 [東洋医学]

領域別入門漢方医学シリーズ 「ツムラ・メディカルトゥディ」08年11月12日放送
「救急領域と漢方医学」 熊本赤十字病院 総合内科 加島 雅之 先生

(3)感染性下痢症などの感染症に対する漢方診療
1. 感染性下痢症
 感染性下痢症の多くはウイルス感染または毒素型の細菌性下痢症であり抗生剤の適応はない。よしんば感染型の細菌性下痢症であっても免疫抑制状態や症状がかなりひどくない限りは抗菌薬療法の適応とはならない。そのため西洋医学ではほとんどの場合まったくの対症療法のみということになる。

 標準的な治療法では止嘔剤や腸管蠕動抑制剤を投与し、加えて整腸剤や適応を限って止痢剤を投与することになろうと思うが、一時的に症状が改善しても嘔気や腹痛は持続するとともに全身倦怠感や食思不振といった症状はなかなか改善しない。 また、症状が強い例では輸液をしながら経静脈的に薬剤投与を行っても症状の改善が十分にみられないこともある。

 こうした際には入院ということになるが、感染性下痢症を引き起こすロタウイルスやノロウイルスは感染力が極めて強く、その後の院内感染の対策で難渋させられる。特に症状が強く大流行を見せるロタウイルス・ノロウイルスは救急外来の現場で難渋させられる。しかし、このノロウイルス・ロタウイルス感染症の特徴である水様性下痢と噴水様嘔吐を伴う感染性胃腸炎にこそ漢方薬が著効する。

 冬場で悪寒がなく、水様下痢を呈する場合(噴水様嘔吐の合併は問わない)は風寒邪の胃腸への直接侵襲による水逆と考えられ五苓散が著効する。おおむね五苓散を使用すると嘔吐は15分程度から改善し、下痢は30~1時間で改善する。腹痛が強い場合には芍薬甘草湯の頓用とする。

 また嘔吐があっても五苓散は内服できる場合が多いが、嘔吐が強い場合には湯に溶かして少量づつ内服させる。
 輸液をしながら経静脈的に止嘔剤、腸管蠕動抑制剤を使用しても効果不十分な場合でも五苓散と芍薬甘草湯の投与で軽快する例をしばしば経験する。もし、高熱を呈し、本人も熱感が強かったり「往来寒熱」が見られる場合には柴苓湯または、ほぼ同じことである五苓散+小柴胡湯とした方がよい。

 もし、つよい悪寒があるがなかなか発熱しない時または脈沈を呈したり手足の冷えが強い場合など循環障害がある場合は陽虚水気と考え、真武湯(冷えが強い場合には附子末1g/日を併用)とするほうがよい。この場合は嘔吐を合併することは少ない。

 また、真武湯を使用するような場合には芍薬甘草湯で十分に腹痛が取れないことがあり、その際には附子末0.5gを併用して頓用とする。
 インフルエンザの胃腸型のように悪寒発熱・節々の痛みなどの表証が強くあらわれている時に下痢を呈する場合は体表と胃の経絡の気の流れの阻害がおきた病態と考えられ、葛根湯が有効である(Catsduke注:「太陽と陽明の合病は必ず自ずから下痢す。葛根湯是れを癒す」と古典にある)。

 嘔吐を伴う場合はエキス剤では葛根湯小半夏加茯苓湯を併用する。嘔吐下痢やある程度止んだ後も、吐き気や上腹部不快感、軟便が持続する場合は半夏瀉心湯を服用させると速やかに症状が消失することが多い。

 夏の感染性胃腸炎で水様下痢を呈する場合には侵襲する外邪の性質に湿熱が加わるため清熱の効能を加えた方がよい。そのため日本のエキス剤では柴苓湯(小柴胡湯+五苓散)または茵蔯五苓散がすすめられる。便臭が強い/肛門の灼熱感があるなどの場合は適宜、黄連解毒湯を併用する。
 また、舌の苔が厚い、上腹部不快感が強い、節々の痛みがとれないなどの症候を伴うときは、半夏厚朴湯を適宜併用する。水様下痢の完全な回復は五苓散のときより若干時間がかかり、数時間を要することが多い。

 それでは、典型的な感染性下痢症の症例を1例ご紹介したいと思います。
 症例は28歳の男性です。主訴は突然の嘔吐と下痢で来られました。冬の12月15日に、2時間前からの激しい腹痛と30分ごとに繰り返す嘔吐、水様性下痢のために昼の12時過ぎに救急外来を受診されました。私が診察し、感染性胃腸炎と診断してラクトルリンゲル液で輸液を開始。ブチルスコポラミン20mgとメトクロプラミド10mgの静脈注射を行い、1時間ほど経過をみました。最初、のたうち回るほど苦しがっていらっしゃいましたが、今言ったような処置で、やや吐き気は減少したのですが、下痢と腹痛が持続するとおっしゃっています。そこで、漢方薬を使おうと思いまして、芍薬甘草湯エキスを1袋内服させました。
 15分ほどで腹痛は10分の3まで軽快。五苓散エキスを2包内服していただくと、さらに15分ほどで吐き気もほぼ消失し、腹痛もほぼ消失。以降、下痢をしなくなりました。

[他の感染症 ]
 扁桃炎も溶連菌の迅速抗原検査により細菌感染が確認されない場合は抗生剤の使用適応はない。こうした際にも、まずは小柴胡湯または炎症が強い場合には小柴胡湯桔梗石膏が有効である。

 ウイルス性リンパ節炎も西洋医学ではなかなか有効な方法論はないが、小柴胡湯が有効であることが多い。もし熱感が強い場合には小柴胡湯桔梗石膏がすすめられる。

 副鼻腔炎・中耳炎も近年の研究で抗菌薬の必要な病態は限られてきている。
 こうした際にも漢方薬は速やかに症状の軽快を図れる。副鼻腔炎で漿液性鼻汁である場合は葛根湯加川芎辛夷を用いる。膿性鼻汁の場合には辛夷清肺湯を使用する。それでも鼻閉が強い場合は排膿散及湯を合方し著効することがある。

 出血性膀胱炎もしばしば強い排尿時痛みと血尿で驚いて受診するが、猪苓湯が著効することが多い。
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