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チャングムびっくり、防風通聖散がやせ薬? [東洋医学]

 防風通聖散を肥満に使うのは、いかに日本漢方がいい加減かを示す好例である。プラセボ以上に効くのかどうか、有効性をEBMできちんと示しえているのかどうか、大変疑わしい。肥満で便秘があったら、あるいは高血圧気味なら効くのだと思っていれば、漢方を知らないアホである。

 専門的で恐縮だが、中医学では防風通聖散は「表寒・裏実熱」証に用いる「辛温解表・清熱解毒・瀉下利水」剤なのである。
 日本漢方では表裏倶実(詳しくは後述)を体力の充実ととらえ、「重役タイプの太鼓腹」を目標としており、一貫堂医学の「臓毒証体質」から来たものであろうが、こんなものは本来の漢方とは無関係のインチキ診断であり、ここから本剤の瀉下利水効果を「肥満」の治療に使うという類推が起こっているのだと思われる(こういう考えは私だけではない。検索すればすぐヒットする漢方専門薬局の薬剤師さんの多くのブログやここなどを参照されたい)。

 しかし、漢方薬は「証」が合わねば効かないものであり、そうした投薬は「誤治」であって、効かぬだけではなく、服用による被害、すなわち世間で言う副作用が生じ得る。
(副作用は体に良くないものだけではない。標的器官は心臓だったのに勃起力を高める副作用を持ったバイアグラは、逆に性的不能治療剤に転用された。ナイトールやドリエルなどの睡眠導入剤は、かぜ薬などに含まれる抗ヒスタミン剤が脳内伝達物質であるヒスタミンをブロックして眠気を誘うという副作用を正作用に逆用している)。

 そんな漢方的には誤っているパラダイムの元で、少々症例報告を集めようが、小規模試験をしようが、大体ほかに「やせ薬」が無いのだから、効力を二重盲検法(DBT)で比較できる薬がない訳だし、プラセボ対照DBTだったとしても漢方薬が薬物である以上は何らかの効果はあるに決まっている。
 そこで、例えば証が合わず効いていないが故の下痢などで体重が減った(そも防風通聖散には大黄が含まれている)のも「効果あり」にカウントされていては何だかなぁであって(それなら普通の漢方の下剤ーーもっとマイルドなものーーを用いれば良い)、いずれにせよ、東洋医学的にも西洋医学的にもいかがわしいということになるのではないのか。

 日本漢方では、表/裏・実/虚・熱/寒・燥/湿などの、漢方の基本的診断をネグっている。医師が東洋医学のトレーニングを医学部で受けずに勝手に「病名処方」で用いるからで、望診も脈診もいいかげんだからだ。チャンドクやシン・イクピル医務官による厳しいトレーニングを受けたチャングムの爪の垢でも煎じて飲まさねばならない(笑)。
湯液・鍼灸・導引全てをこなす漢方の大家・テジャングム様

 「表寒・裏実熱」証ということは、1.悪寒・頭痛・無汗・咳嗽・呼吸困難などの表寒証に加えて、2.口が苦い・口渇・目の充血・のどの痛み・イライラ・腹部膨満感・便秘・尿色が濃いなどの裏実熱証を伴い、3.高熱が見られ、4.舌診は紅色で舌苔が黄厚~垢濁、脈は滑数~弦数でなければならない。

 つまり、今この状態でない者には、全く効かないのが漢方薬である防風通聖散である。そればかりか、証を合わさず用いているということは「漢方薬」として用いている訳ではないのだから、痩せるどころか副作用もありうる訳である。

 ちなみにクラシエ(旧カネボウ)の防風通聖散のインタビューフォームには
「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(動悸・肩こり・のぼせ)・肥満症・むくみ・便秘」

 と日本漢方丸だしな適当なこの程度の説明しかされておらず、証もくそもない。クラシエは自社の医家向けのホームペイジで「随証治療」という項目を設けながら、この体たらくである。

 そして何より「肥満」の改善に対する臨床試験が一切ない。元々、漢方薬はモノによっては二千年近い臨床試験=人体実験が行われている(異常に長いフェイズIV。笑)のだから、安全性試験は不要として、日本医師会・武見会長当時の厚生省は一括認可したという経緯があるのだ。
 それはある意味正しいとしても、あくまでそれは証を正しく診断して、その証に合う方剤を処方投薬したときだけであることは論を俟たない。
 
 防風通聖散を、一種の「やせ薬」として、一般的に肥満に対して用いるなどという適応は無い。ならば、大規模臨床試験はやってないにしても、小規模臨床試験や動物実験を反映した肥満改善に関する研究報告くらいは追加収載され載っているかと思って、インタビューフォームを見てみたら、なんと何も載っていない!
「臨床成績:1.臨床効果=該当資料なし、 2.臨床薬理試験:忍容性試験=該当資料なし、3.探索的試験:用量反応探索試験=該当資料なし、4.検証的試験=該当資料なし、5.治療的使用=該当資料なし」
というご立派な状態だった。
(参考:http://www.kampoyubi.jp/seihinjouhou/if_p/ek062_if.pdf

 ただし「 安全性(使用上の注意等)に関する項目」の「5. 慎重投与内容とその理由」には、
「次の患者には慎重に投与すること:下痢・軟便のある患者、胃腸虚弱な患者、食欲不振・悪心・嘔吐のある患者、病後の衰弱期か著しく体力の衰えている患者、発汗傾向の著しい患者、狭心症・心筋梗塞等の循環器系障害のある・または既往歴のある患者、重症高血圧・高度の腎障害・排尿障害・甲状腺機能亢進症の患者」
とされている。副作用や元疾患を悪化させる可能性があるからだろう。
 証に合わさず漠然とした投与対象を初めに挙げるから、後でこういう注意が必要になる。

 しかしコッコアポを買うような層は、こういうところを詳しくは読みはしないだろう。実際に副作用報告も散見される。例えば、元山ほか(大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学)「防風通聖散による薬物性肝障害の一例」(「日本消化器病学会雑誌」2008;105(8):1234-1239)などである。


 では、載っていないから、肥満改善に関する研究が皆無なのかといえば、そうではない。動物実験もある。私が検索ですぐに発見したのは、森元ら(鐘紡・漢方ヘルスケア研究所)「フルクトース負荷ラットの体脂肪蓄積に対する防風通聖散の作用」(「日薬理誌」2001;117 (1):77-86)であった。
 鐘紡とはクラシエの旧名である。なぜそれを自分の会社の防風通聖散のインタビューフォームに載せられないのか。ラット4群を比較した研究らしいが、各何匹かすらアブストラクトに書かれていない、怪しい。自社の研究所が発表した論文が、自社の漢方薬のインタビューフォームに載っていないのは、「載せられない」水準だからだろうと思われてもしかたあるまい。

 ヒトでの研究も一例報告に毛の生えたもの(~3例報告)くらいは散見される(例えば、伊藤「小児科臨床」58-7、など)。そうでないものでも、食事制限と併用していたりしていて、医療介入を受けているという意識変化がもたらしたプラセボ的効果を排除できず論文にはならないようなものがほとんどである。

 ざっと検索した中では、京都府立医大の小規模RCT「耐糖能異常を有する日本人肥満女性での防風通聖散の有効性と安全性」(「臨床漢方薬理研究会会誌」2004; 100 回記念号: 19-22)が85人を2群に分けた6ヶ月間のプラセボ対象RCTであった。
 しかし、被暗示性の強い女性ならではだと思うが、プラセボ群まで体重・体脂肪率・皮下脂肪量・収縮期血圧・拡張期血圧・中性脂肪・総コレステロールが半年後に改善が見られた本研究を、僅かの有意差をもって、防風通聖散が耐糖能異常のある肥満者の治療に有用であると結論付けられるかどうかはデータの詳細を見なければ何とも言えない(有意差有りとは言うが、アブストラクトにP値すら載っていない、怪しい)。
 そもそも漢方専門誌に載ったこの研究が、漢方薬のインタビューフォームに載っていないのは、「載せられない」水準だからだろう。

 さて、本来は副作用がないのが漢方薬であるが、それはあくまでも東洋医学的に正しく用いた時だけである。西洋医学の病院で出る漢方薬には副作用が有りえるし、実際にあるのだ。まして、薬局で一般人が適当に買ってきた漢方薬にも副作用は大いに起こりえる(これをどこまでPL法的自己責任に帰し得るか)。

 例えば、小柴胡湯という漢方薬は、中国では肝炎を初めとする肝臓疾患のおよそ数%にしか処方されないような薬なのに、日本では、肝炎に一時80%近く「病名処方」し、しかもインターフェロンと併用していた。その結果、間質性肺炎という副作用を起こし、死者も出してしまった。何と、漢方薬初の「薬害」である。中国では、この対岸の火事を、驚きと困惑とともに見ていたという(『中医臨床』)。

 証も無視した上に西洋医薬と併用する(三国時代の名医・華佗もびっくり!)など、「漢方薬」として用いたのではない(=恣意的に民間薬のハーブをコンビネーションで用いたのと同じになってしまう)訳だから、本来は小柴胡湯自体は無実なのだが、これ以後、副作用を持つ「恐い薬」にされてしまった。漢方薬を真面目に使っていた医家は、しばらくは多大な迷惑を被ったのだった。

 防風通聖散の適応症は、1.体内に炎症や代謝亢進状態があって熱の産生状態が高まっている者(=裏熱)が、2.新たに感染や寒冷な環境に晒されて表在血管の収縮・汗腺閉塞を起こし、体表からの熱放散が妨げられ、鬱熱状態を引き起こしたため、3.体温上昇し、腸管の蠕動が抑制されて便秘になり(=裏実)、4.水分の吸収障害から尿が濃縮されるという状態の者である。

 こうした体表から熱の放散が出来ず、大小便としての排泄も妨げられ、病邪が表裏共に盛んな状態を「表裏倶実」という。また、体内の炎症が強く、反射的に体表血管の収縮が起こり、熱放散が妨げられた状態を「裏熱による表鬱」というが、このいずれかになら投与して効果が考えられる。

 具体的に、こうした病態とは、感冒・インフルエンザ・肺炎・気管支炎・急性腎炎・急性肝炎・胆嚢炎・腎盂炎・膀胱炎・皮膚化膿症・胃腸炎などであるが、しかもその場合でも「表寒・裏実熱か表鬱」を呈する者でなければならない(そうでない証の者になら、感冒やインフルエンザなどには、タミフルなどが比べ物にならないくらい、安全で効果的な漢方薬=適薬がある)。それが「証を合わせる」という漢方の基本なのだ。従って、これらの病名に対して単純に処方=投与すれば効くとは行かないのが漢方薬なのだ。

 ところが、日本漢方ではこの表裏倶実を体力の充実ととらえ、「赤ら顔をした重役タイプの太鼓腹」をアホみたいに目標としている。
 何度も言うが、こんなものは漢方とは無関係のインチキ診断であり、ここから本剤の発汗効果や瀉下利尿効果を、代謝産物の排泄や脂肪の減少に有効だと考え、「肥満」の治療に使うという類推が起こっているのだと思われる。
 そして、これも何度も言うが、証が合わねば全く効かないのが漢方である。日本漢方の欠点は、このような、熱/寒証の診断がいい加減な点である。
 
 日本の医師は、医大で東洋医学の講義を受けていない者が90%である。マークシートに過ぎないとはいえ、国家試験にも以前には出題さえされなかった。すなわち「葛根湯」の使い方すら怪しいのだ。
 チャンドクに鍛えられ散脈もつかめる医女となったチャングムのような能力を持たぬ日本の一般医師は、生薬の区分試験や患者の脈診・問診・望診の試験、漢方の古典の暗唱試験などを彼女のように受ければ間違いなく全員落第するだろう(笑)。

 では、薬剤師なら万全かといえば、医師法に抵触するので患者に触れられず、脈診=脈を取ることができないので、まともな処方はできない。そこで諸症状に対して、患者に詳細に質問し、表/裏・実/虚・熱/寒・燥/湿などの、漢方の基本的診断を問診・望診で行うしかない。これがいい加減なら効くはずがない。
 ちなみに責任感があり、きちんと漢方を学んでいる薬剤師は、医師法違反にならないように、脈診=患者に「触れても」いいように、マッサージ師や柔道整復師や鍼灸師の資格(場合によっては複数)を取っている方々がいらっしゃる。

 一般人が東洋医学的知識無しに買って服用する漢方薬は効かないし、副作用もありえる。中国製痩せ薬を「中国の薬だから漢方薬」的な短絡的な脳味噌で被害に遭ったのは、被害者には些かお気の毒ではあるが、言わば「自業自得」であろう。
 その次が、こうした「日本の製薬会社が作った漢方薬だから安心で効く」といった思考回路になるのだろうが、それも錯覚であり、愚かさにおいては五十歩百歩である。日本の製薬会社の作った薬で、多くの副作用・薬害被害が起こり、人が死んでいる。小柴胡湯問題もあったのだから、漢方薬さえも例外ではない。

 私は漢方に感嘆し、日本相補代替医療学会にも日本統合医療学会にも属し、その効果を科学的に検証する(=証の客観化)という作業に興味を持つ者であるが、こんな生薬資源の無駄遣いとも言える漢方薬の使用拡大には反対だ。

 そも、こんな使い方がはやるのも、日本独自の、メタボリック・シンドロームに関する国際的にインチキな基準に端を発したものではないか。
 それは、かつて総コレステロール値が220mg/dlという国際基準以下の、日本の学会がでっち上げたいい加減な数字に基づいて、高脂血症剤メバロチンを安易に投与し、年間1800億円も医療費を無駄遣いしてきたのと、医療用医薬品と市販薬との差こそあれ、全く同じ構造ではないか。

 痩せたければ、食べないか、コアリズム(笑)しかない。一月半でウェスト85から65になった、くわばたりえを見よ!(爆)

 すなわち、現代人は食べすぎなのだから、摂取カロリー(特に、種々の甘味飲料中の果糖由来のもの→「ポカリ飲む馬鹿、健康馬鹿」)を減らすか、基礎代謝量を上げるために筋肉を増やすしかない。当たり前ではないか。
 もしもサプリメントをとるなら、脂質代謝に関わるビタミンB群、とりわけイノシトールやコリンを多量に含む、良質なものを、海外から輸入して服用するならまだ生化学的に根拠があるが。

 それから薬局やドラッグストアなどで買える大衆薬(OTC医薬品)市場が、一時の低迷を抜け出して急回復していると言われているが、同様に、大衆の無知を利用しているケースとして、過去記事「OTC剤:ガスターは譫妄を起こす、ATP剤は効かない(笑)」で二つの薬品を取り上げているので、興味のある向きは参照されたい。
 そもカネボウがクラシエになったのは経営不振による、業態の整理統合に伴う改名であった。またこの種の薬を平気で売っている他のメーカーもそれなりの評判のメーカーばかりだ。無知な一般人を騙してこんなことで儲けようというさもしい根性は唾棄すべきものだ。

 船場吉兆を初めとして、無知な者は何かに貢がされる構造になっているのが、この世の中である。国家にであれ、製薬会社にであれ。そして、その両方にであれ。
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