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ディシブルドの研究をさらに進展させた名古屋大! [癌の分子医学]

 胃や前立腺のがん細胞の転移に、「デイプル」と呼ばれるたんぱく質の働きが関わっていることを、名古屋大医学部の高岸麻紀研究員らの研究グループが突き止め、30日までに英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」の電子版に掲載された。
 高岸研究員は「デイプルが胃がんや前立腺がんの転移を抑える治療法開発の鍵になる可能性がある」としている。

 研究グループは、デイプルを培養した細胞実験で、胃や前立腺がんの転移を促す信号として知られる別のたんぱく質「ウィント」の働きとの関連を調べた。
 その結果、デイプルを培養した細胞では、ウィントがデイプルを活性化して突起物が作られ、細胞が移動した。デイプルの働きを抑えた細胞では、大きな変化は見られなかったという。

 マウスに傷を付けた実験では、皮膚の表面や真皮の中にあるデイプルが傷口の治癒に効果があることも判明。高岸研究員は「デイプルが人体にどう作用するかを調べ、がんの予後の回復や転移の仕組みを解明したい」と話している。[時事通信社 - 05月30日 21:05]
 記事の論文は「The Dishevelled-associating protein Daple controls the non-canonical Wnt/Rac pathway and cell motility」(Dapleは非標準的ななWnt/Racシグナル伝達経路と細胞運動性をコントロールする)である。

 オープンアクセス論文なので全文を無料で見られる。


以下、アブストラクトを引用する。
[Abstract]
 Dishevelled is the common mediator of canonical and non-canonical Wnt signalling pathways, which are important for embryonic development, tissue maintenance and cancer progression. In the non-canonical Wnt signalling pathway, the Rho family of small GTPases acting downstream of Dishevelled has essential roles in cell migration. The mechanisms by which the non-canonical Wnt signalling pathway regulates Rac activation remain unknown. Here we show that Daple (Dishevelled-associating protein with a high frequency of leucine residues) regulates Wnt5a-mediated activation of Rac and formation of lamellipodia through interaction with Dishevelled. Daple increases the association of Dishevelled with an isoform of atypical protein kinase C, consequently promoting Rac activation. Accordingly, Daple deficiency impairs migration of fibroblasts and epithelial cells during wound healing in vivo. These findings indicate that Daple interacts with Dishevelled to direct the Dishevelled/protein kinase λ protein complex to activate Rac, which in turn mediates the non-canonical Wnt signalling pathway required for cell migration.

[アブストラクト]Catsduke訳
 ディシブルド(Dvl)とは、胚発生や組織維持や癌の進展に重要な、(β-catenin依存的に転写を制御する)canonicalなものと(RacやRhoなどの活性化を引き起こす)non-canonicalなものの、双方のWntシグナル伝達経路に共通のメディエーターである。
   後者のWntシグナル伝達経路では、Dvlの下流で機能している低分子GTPアーゼのRhoファミリーは、細胞運動において重要な役割を果たしている。
しかし後者のWntシグナル伝達経路がRacの活性化を制御する機序は未だ知られていない。
   ここに我々はデイプルが、Wnt5a刺激依存的なRacの活性化とDvlとの相互作用を通じて、膜状仮足(ラメリポディア)の形成を制御することを示す。
   デイプルは、DvlとaPKCのアイソフォームとの複合体形成を増加させ、それが結果的にRacの活性化を促進している。従って、デイプルの欠乏は、生体内での創傷治療時における繊維芽細胞と上皮細胞の運動を障害する。
 従って、これらの発見は、デイプルがDvlと相互作用をし、Dvl/PKλタンパク複合体をしてRacの活性化に向かわせ、それが次に細胞運動に必要なnon-canonicalなWntシグナル伝達経路を媒介するということを示している。
*さっき見て、やっつけで訳したので、誤訳があるかもしれません。その場合は、識者のご教示をお願いします。

*体組織を作ること以外で、最も重要なタンパク質の機能が「シグナル伝達」です。細胞内では、生命維持にとって情報のシグナルを、タンパク質の情報をリレーによって伝達しています。ただ、そこにエラーが生じると細胞の無限増殖=「癌化」が起こりえます。

 そのシグナル伝達系の中で最も重要な役割を果たすのは、上の論文で触れられている「Wnt[ウィント]シグナル伝達系です。ここに異常が起こると肝臓癌などが発生しうるのです。
 この伝達系の重要な部分は、ディシブルド(Dvl)などによって調節されていることは分かっていましたが、細かいメカニズムは不明でした。日本では兵庫県立大の樋口・柴田先生、イギリスではM・ビエンツ博士たちの研究グループによって、ディシブルドの特異な構造が明らかになりました。

*名古屋大のグループは、すでに、高橋先生の研究室で「癌関連遺伝子の発癌および形態形成における役割」を研究していたわけですが、筆頭著者である特別研究員の高岸麻紀先生(腫瘍病理学)の今回の論文で、さらにDapleの追究を通してDvlの関与をより詳細に解明した点に画期性があります。
 この分野の研究が更に進展して、癌の浸潤・転移の抑制に関わる、「細胞毒ではない」抗癌剤の開発などに繋がれば素晴らしいと思います。
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