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再生医療の未来は明るいが……。 [先端医療]

 ついにヒトの皮膚細胞=一般細胞から、万能細胞「人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)」を作り出すことに成功した。クローン胚から作った胚性幹細胞(ES細胞)の持つ倫理的問題を回避できるばかりか、理論的には拒絶反応皆無の移植治療などの再生医療などの応用に向けた研究が期待される。
 脳死臓器移植のような医療に無駄金を使わず、こういう研究に大幅に資源配分していればもっと達成スピードが早かったかも知れない。が、今回は本題ではないのでそこには言及しない。

 京大のチームが20日付の米科学誌「Cell」電子版に発表したものはpdfで読める。なお、この本論文(Cell 131;5:861-872)をwww.sciencedirect.comから購読購入するとUS $ 30.00かかってしまう。上のpdfなら内容は同じで無料である(爆)。

 参考までに、この論文のサマリーの、私Catsdukeによる訳を以下に示す。
Successful reprogramming of differentiated human somatic cells into a pluripotent state would allow creation of patient- and disease-specific stem cells. We previously reported generation of induced pluripotent stem (iPS) cells, capable of germline transmission, from mouse somatic cells by transduction of four defined transcription factors. Here, we demonstrate the generation of iPS cells from adult human dermal fibroblasts with the same four factors: Oct3/4, Sox2, Klf4, and c-Myc. Human iPS cells were similar to human embryonic stem (ES) cells in morphology, proliferation, surface antigens, gene expression, epigenetic status of pluripotent cell-specific genes, and telomerase activity. Furthermore, these cells could differentiate into cell types of the three germ layers in vitro and in teratomas. These findings demonstrate that iPS cells can be generated from adult human fibroblasts.

『分化型ヒト体細胞の多能性状態への再プログラム化に成功したことは、患者や疾患に特異的な幹細胞の生成を可能にするだろう。我々は、4つの特定の転写因子の形質導入によってマウス体細胞から得た、生殖系列への伝達可能な人工多能性幹(iPS)細胞の産生をすでに報告済みである。本論文で我々は、ヒト成人皮膚線維芽細胞から、マウスと同じ4因子:Oct3/4・Sox2・Klf4・c-MycによってiPS細胞が産生できたことを示す。ヒトiPS細胞は、形態学的にも、増殖・表面抗原・遺伝子発現・多能性細胞特異的な遺伝子の後成的な状態・テロメラーゼ活性の点でも、ヒト胚性幹 (ES) 細胞に類似している。さらに、これらの細胞は、インビトロでもテラトーマ検証でも、三胚葉の各細胞型に分化することができた。これらの発見はiPS細胞が成人ヒト線維芽細胞から生成されうることを示している。』

 なお米ウィスコンシン大などのチームも21日付米科学誌「Science」電子版で発表する。すでにアブストラクトも読める(http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1151526)[【追記】すでにScience 318:1917-1920に収録された]


 京大の山中伸弥教授と高橋和利助教授は、体細胞を胚の状態に戻して分化能を復活させる=初期化には四つの遺伝子が必要なことを発見し、昨年8月にマウスの皮膚細胞からiPS細胞を作ることに成功していた("Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors" Cell 2006;126:663–676)。


これ以降、世界中でヒトのiPS細胞の開発を目指し、研究者は激しい競争を繰り広げていた。

 山中教授らは、マウスでの4遺伝子と同じ働きをするヒトの4遺伝子(Oct3/4・Sox2・ Klf4・c-Myc)を成人の皮膚細胞に導入し、ヒトのiPS細胞を開発することに成功。この細胞が容器内で拍動する心筋や神経などの各種細胞に分化することを確認した。
 一方、ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授らは、胎児や新生児の皮膚細胞から、京大チームとは異なる組み合わせの4遺伝子(OCT4,・SOX2・NANOG・LIN28)を使い、iPS細胞を作ることに成功した。

 世界初の体細胞クローン動物、羊のドリーを誕生させた英国のイアン・ウィルムット博士が、今回の成果を受け、ヒトクローン胚研究を断念する方針を決めたのは、事実上の敗北宣言である。クローン胚由来のES細胞はドリーの件でも分かっていたように、効果にも倫理的にも限界があったからだ。
 
 万能性の回復に癌遺伝子が関わることを心配する向きがあるが、そんなことより、これによって、逆に癌治療にある種の知見が波及してブレイクスルー(素人考えで恐縮だが、例えばアポトーシス誘導やプログレッション段階からの正常化条件の判明など)がもたらされる可能性も出てきたことに注目すべきではないのか。

 さらに、これで、たとえ死の基準を変えてまでドナーを増やそうとしても需要と供給が永遠に釣り合わなかった不完全医療たる臓器移植のあり方が変わるだろうし、そのことは素直に寿ぎたい。命に軽重をつけドナーの死を早める差別医療が消えることになるからだ。

 しかし、そのようにして得られた「健康」に問題は無いのか。再生臓器を移植してもらえるのは、やはり今の移植と同じく「先進国」の「金持ち」だけである(実験医療=無料である日本の移植医療ではそこがネグられている。幼児を海外で移植する際にだけ露呈している)ことには変わりはない。
 さらに「予防」という点をますます軽視して、医学は過剰医療=キャナライゼーション、「マッチポンプ」医療を推進することになるだろう。そういう流れを放置していいのかということは、環境倫理・世代間倫理的にも問題になろう。

 また、そのようにして長らえられる我々の生とは何か、という問題も根本に残る。SF映画『ソイレント・グリーン』のような未来が迫っているのではないのか。

【コメント】
自己レスです。

私は上に、
>万能性の回復に癌遺伝子が関わることを心配する向き
>があるが、そんなことより、これによって、逆に癌治
>療にある種の知見が波及してブレイクスルー(素人考
>えで恐縮だが、例えばアポトーシス誘導やプログレッ
>ション段階からの正常化条件の判明など)がもたらさ
>れる可能性も出てきたことに注目すべきではないのか。

と書いたが、その通り、早速、以下のような動きが出てきました。やっぱり。

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万能細胞の山中氏に賞授与 独のがん研究センター
提供:共同通信社【07年11月27日】
 ドイツ南部ハイデルベルクに本拠を置くドイツがん研究センター(DKFZ)は26日、人の皮膚からさまざまな臓器や器官を形成する「万能細胞」を世界で初めてつくることに成功した京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授に、がん研究で成果を挙げた人物に与える「マイエンブルク賞」を授与することを明らかにした。

 同日夜にDKFZで授賞式が行われ、山中教授が出席する。賞金は5万ユーロ(約800万円)。同センターによると、がん研究に対する賞としては世界で最高額という。同賞は1981年から毎年授与されている。

 昨年のノーベル医学生理学賞を受賞した米スタンフォード大のアンドルー・ファイアー教授も2002年にマイエンブルク賞を受賞している。

 山中教授は大人の皮膚細胞に4種類の遺伝子を組み込む方法で、胚性幹細胞のように人体のさまざまな細胞に成長できる人工多能性幹細胞を世界で初めてつくった。

 ES細胞では、大きな問題となってきた受精卵や卵子を材料にする倫理問題を回避できるため、傷んだ組織を修復する再生医療を大きく進展させる成果として世界的に注目された。

 DKFZは実業家の故ウィルヘルム・フォン・マイエンブルク氏の妻マリアさんが1976年にがん研究振興のために設立した基金を基に、当初は州政府、後に連邦政府が後援。ドイツを代表するがん研究機関として、世界各国から学者らを招聘している。


【ES・iPS細胞参考書】

山中伸弥 編『実験医学増刊 Vol. 26-5』(再生医療へ進む最先端の幹細胞研究―注目のiPS・ES・間葉系幹細胞などの分化・誘導の基礎と、各種疾患への臨床応用)




山中伸弥『iPS細胞の産業的応用技術』(シーエムシー出版)




NHKスペシャル取材班『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命』




山中伸弥『iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』




須田年生『幹細胞の基礎からわかるヒトES細胞』




【生命倫理・参考書】
人間改造論―生命操作は幸福をもたらすのか?


◆「人間改造」のどこが問題か?◆(出版社HPより)
 クローン羊、人工授精、臓器移植、ヒトゲノムの解読など、生命科学や医療技術の進展にはめざましいものがあります。このままいけば、遺伝子操作によって「永遠の生命」を手に入れるのも夢でないかもしれません。しかし、そこに落とし穴、危険性はないでしょうか。ヒト・クローンにおいてアイデンティティはどうなるのでしょうか。人間の生活・生命の根拠そのものが危機に瀕しては元も子もないはずですが。
 著者たちは「人間改造」や「生命操作」やエンハンスメント(増進的介入)はどこまで許容できるのか。許容できないとすればどこに問題があるのか、歯止めをかける根拠は?など、これらの問題の現状を丹念に調査したうえで問題点を拾い上げ、ひろく議論を提供しようとします。執筆者は鎌田東二・上田紀行・粟屋 剛・加藤眞三・八木久美子の諸氏。

◆目 次◆
 生命倫理の文明論的展望(町田宗鳳)
 クローンと不老不死(鎌田東二)
 エンハンスメントに関する小論(栗屋 剛)
 心のエンハンスメント(上田紀行)
 肥満社会とエンハンスメント願望のもたらす悲劇(加藤真三)
 人口生殖は神の業への介入か?(八木久美子)
 先端科学技術による人間の手段化をとどめられるか?(島薗 進)

池田清彦『脳死臓器移植は正しいか』(角川ソフィア文庫)

 臓器移植、人工臓器、遺伝子治療……医療技術の進歩は、さまざまな病気の治療を可能にした。なかでも脳死臓器移植技術の進歩は著しいが、一方で、この技術は、死生観の再検討を迫っている。脳死は人の死か。そもそも人の死とは何か。脳死後、臓器摘出中に動いたり、脳死状態で数十年も生き続けたりする人を前に「死」をどう捉えればよいのか。脳死臓器移植の問題点に、構造主義生物学者でリバータリアンである筆者が真正面からぶつかり、歴史・医療技術・経済の見地から私たちに鋭く問いかける。 生命倫理の新たな基本文献とも言える書籍。

【拙ブログ・iPS細胞/万能細胞関係記事】
iPS細胞を10難病患者の細胞から作成…ハーバード大

ヒト睾丸由来の生殖幹細胞から新たな万能細胞を作成

胸腺内でのヘルパーT細胞への分化メカニズムを解明
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北大チームの画期的な研究ーー引退名選手の復帰も可能になる? [先端医療]

ひざ軟骨の自然再生に成功=スポーツ治療に光明----北大グループ(時事通信社 - 11月30日 16:01)

 運動で負荷が掛かり、故障しやすいひざやひじの関節。北海道大大学院の安田和則教授(整形外科)らの研究グループは、不可能とされてきた関節軟骨の自然再生に、ウサギを使った実験で成功したと30日までに発表した。ひざを痛めた中高年層やスポーツ選手のけがの治療に応用できる可能性があるという。論文はドイツの学術専門誌「マクロモレキュラー・バイオサイエンス」電子版に掲載された。

 安田教授によると、2種類のゲル状高分子化合物を北大が開発した独自の手法で組み合わせ、軟骨に分子構造が似た新たなゲル素材を開発。ウサギのひざ関節軟骨の欠損部に埋め込んだところ、4週間で軟骨が再生した。副作用は出ていない。
 
 元記事で言及されているのは、Macromolecular Bioscience (Published Online: 21 Nov 2008)の論文で、タイトルは、"A Novel Double-Network Hydrogel Induces Spontaneous Articular Cartilage Regeneration in vivo in a Large Osteochondral Defect"(新たなダブルネットワーク・ハイドロゲルは、重度の骨軟骨欠損部にインビボで関節軟骨の自然な再生を誘導する)である。


 安田和則先生は、北大医学部で、膝関節外科/スポーツ医学がご専門である。日本を代表する膝関節の専門医であり、米国整形外科スポーツ医学会会員であり、靭帯再建術をすべて関節鏡視下手術でなさることでも知れる通り、日本関節鏡学会の理事もなさっているし、北大病院ではスポーツ医学診療科(火・木)の外来診療をなさっている(なお北大病院の当該医局の医師は日本ハムのチームドクターをしている)。


 先生は、特に膝靭帯損傷の治療に関しては、国際的にも指導的立場にある方である。

ABSTRACT
 We have developed a novel method to induce spontaneous hyaline cartilage regeneration in vivo for a large osteochondral defect by implanting a plug made from a double-network hydrogel composed of poly(2-acrylamido-2-methylpropanesulfonic acid) and poly(N,N-dimethylacrylamide) at the bottom of the defect, leaving the cavity vacant. In cells regenerated in the treated defect, type-2 collagen, Aggrican, and SOX9 mRNAs were highly expressed and the regenerated matrix was rich in proteoglycan and type-2 collagen at 4 weeks. This fact gave a significant modification to the commonly established concept that hyaline cartilage tissue cannot regenerate in vivo. This study prompted an innovative strategy in the field of joint surgery to repair an osteochondral defect using an advanced, high-function hydrogel.


[アブストラクト](Catsduke訳)
 我々は、重度な骨軟骨欠損に対して、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とN,N-ジメチルアクリルアミドを組み合わせて作ったダブルネットワーク・ハイドロゲルからなるプラグを欠損部の基底部に埋め込み、インビトロで硝子軟骨の自然再生を誘導する新たな手法を開発した。処置後に再生された細胞内では、II型コラーゲン、アグリカンとSOX9 mRNAが高レベルで発現しており、4週では再生マトリクスはプロテオグリカンとII型コラーゲンが増加していた。この事実は硝子軟骨組織は生体内では再生できないという通念に著しい修正を迫るものである。本研究は関節外科の分野において、高機能なハイドロジェルを用いた骨軟骨欠損の修復に革新的なストラテジーを促した。


 松井選手や清原選手のように、スポーツ選手が膝の軟骨をオペで対症療法的にいじると、普通は再生しないので、絶対に縮小再生産的に機能が落ちて行かざるを得ず、引退を速めるだけの結果に陥りがちである。

 しかし、この研究では、2種類のゲル状高分子化合物を組み合わせた、軟骨に分子構造が似た新素材によって、再生が可能だという画期的な技術が開発されたことになる。
 安田研究室では、上述の二つのゲル網目を組み合わせて、水分を90%以上も含みつつも、従来のゲルの何百倍もの強度を持ち、生体軟骨に匹敵するほどの丈夫さを有する「ダブルネットワークゲル」の発明に成功した訳である。こうしたゲル素材の研究は、生体類似性が高く、低摩擦で、しかも衝撃吸収性にも優れる人工関節の研究にも生かせるものと言える。

 この研究は、論文の共著者を参照すれば分かるとおり、北大大学院の理学研究院・生命科学部門生命理学部門生命融合化学分野・ソフト&ウェットマター研究室の龔 剣萍教授や長田義仁名誉教授(理化学研究所・基幹研究所副所長)との共同研究である。

 上で言及されているSox9遺伝子とは、現在20種以上が同定されているSry-type HMG box遺伝子の一つで、発生過程で主として軟骨組織特異的に発現が認められるものである。ヒトにおけるSox9の遺伝子変異が大腿骨・脛骨の彎曲・角状変形を特徴とする骨系統疾患である彎曲肢異形成症(Campomelic dysplasia)の原因となることが報告されている。
 さらにSox9タンパクは軟骨の代表的な細胞外マトリクスであるII型コラーゲンの遺伝子上の特定の塩基配列に結合し、II型コラーゲン遺伝子の転写活性を増加させることが報告されていて、Sox9は軟骨組織特異的に発現する転写因子として関心が持たれている。
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ヒト睾丸由来の生殖幹細胞から新たな万能細胞を作成 [先端医療]

成人男性の精子幹細胞から万能細胞作成----再生医療へ応用期待(時事通信社 - 08年10月09日)

 成人男性から精子のもとの幹細胞を採取して特殊な方法で培養し、増殖能力が高く、身体のあらゆる細胞に分化する胚性幹細胞(ES細胞)によく似た万能細胞(多能性幹細胞)を生み出したと、ドイツのテュービンゲン大などの研究チームが9日、英科学誌ネイチャーの電子版に発表した。

 精子幹細胞からの多能性幹細胞作成は、2004年12月に京都大大学院医学系研究科の篠原隆司教授らが新生児マウスで初めて成功し、「多能性生殖幹(mGS)細胞」と名付けたと発表。4年足らずでヒトでも実現した。将来、男性難病患者の再生医療への応用が期待される。 
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 元記事で言及されているのは、論文"Generation of pluripotent stem cells from adult human testis"(成人ヒト睾丸からの多能性幹細胞の産生)の事で、Nature(Published online 8 October 2008)に掲載された、独・チュービンゲン大・実験発生学部・解剖学研究所のSabine Conrad博士らの研究である。

Abstract
 Human primordial germ cells and mouse neonatal and adult germline stem cells are pluripotent and show similar properties to embryonic stem cells. Here we report the successful establishment of human adult germline stem cells derived from spermatogonial cells of adult human testis. Cellular and molecular characterization of these cells revealed many similarities to human embryonic stem cells, and the germline stem cells produced teratomas after transplantation into immunodeficient mice. The human adult germline stem cells differentiated into various types of somatic cells of all three germ layers when grown under conditions used to induce the differentiation of human embryonic stem cells. We conclude that the generation of human adult germline stem cells from testicular biopsies may provide simple and non-controversial access to individual cell-based therapy without the ethical and immunological problems associated with human embryonic stem cells.


アブストラクト[Catsduke訳]
 ヒト始原生殖細胞とマウスの新生児期および成体生殖幹細胞は多能性を有し、ES細胞と相似した諸特徴を有する。ここに我々は成人ヒト精巣の精原細胞由来のヒト成体生殖幹細胞の樹立に成功した事を報告する。これらの細胞の細胞および分子キャラクタリゼーションはヒトES細胞との多くの類似点を明らかにし、生殖幹細胞は免疫不全マウスへの移植後にテラトーマを産生した。ヒト成体生殖幹細胞は、ヒトES細胞の分化誘導に使われたものと同状況下では、三胚葉全ての様々なタイプの体細胞に分化した。我々は精巣バイオプシーから得たヒト成体生殖幹細胞の産生は、ヒトES細胞に伴う倫理的・免疫学的諸問題のない細胞療法に、単純かつ問題の生じない手段を提供する可能性があるという結論に達した。

【コメント】
 日本では、京大の篠原隆司教授の研究チーム(京大ほか、東京医科歯科大学、理研バイオリソースセンター、鳥取大生命科学研究科との共同研究)がマウスの精巣から、ES細胞とほぼ同様の機能を持つ、この多能性幹細胞の樹立に既に成功している。
 なお篠原先生は、京大医学部を経て大学院修了後、平成11年ペンシルバニア大・獣医学部リサーチフェロー。翌年、京大院医学研究科の分子生体統御学講座分子生物学・助手、平成15年に先端領域融合医学研究機構・特任助教授を経て、翌年に遺伝医学講座分子遺伝学分野教授となり、現在に至る。


 元記事の研究は、これをヒトにおいて行ったものであり、成功するのは単に時間の問題であった。先鞭をつけたのは先生方の研究である。

 生殖系列細胞は多能性の細胞を生じる能力を持ち、胎生期の内部細胞塊からはES細胞(embryonic stem cell:胚性幹細胞)、始原生殖細胞からはEG細胞(embryonic germ cell:胚性生殖細胞)と呼ばれる多能性幹細胞を作ることができる。ただし、生殖細胞の多能性細胞の形成能力は胎生中期に失われ、生後の生殖細胞には多能性はないと考えられていた。

 文字通り、精子形成の源になる細胞が精子幹細胞であるが、2003年に篠原先生のグループはこの精子幹細胞の長期培養法を、論文"Long-Term Proliferation in Culture and Germline Transmission of Mouse Male Germline Stem Cells"で報告している。 (Biology of Reproduction 69:612-616)。

Abstract
 Spermatogenesis is a complex process that originates in a small population of spermatogonial stem cells. Here we report the in vitro culture of spermatogonial stem cells that proliferate for long periods of time. In the presence of glial cell line-derived neurotrophic factor, epidermal growth factor, basic fibroblast growth factor, and leukemia inhibitory factor, gonocytes isolated from neonatal mouse testis proliferated over a 5-month period and restored fertility to congenitally infertile recipient mice following transplantation into seminiferous tubules. Long-term spermatogonial stem cell culture will be useful for studying spermatogenesis mechanism and has important implications for developing new technology in transgenesis or medicine.


アブストラクト(Catsduke訳)
 精子形成は精原幹細胞の小集団において起こる複雑なプロセスである。ここに我々は、長期間増殖可能な精原幹細胞の生体外培養法を報告する。グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)と上皮細胞増殖因子(EGF)と塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と白血病抑制因子(LIF)の存在下で、新生児マウスの精巣からの始原生殖細胞は5ヶ月間にわたり増殖し、精細管への移植後に先天的不妊のレシピエントマウスの受精能が回復した。長期間の精原幹細胞の培養は、精子形成のメカニズムの研究に有用であろうし、遺伝子組換えや医学における新たなテクノロジーの開発に対する重要な意味を有することになろう。

 篠原先生がたのこの精子幹細胞の長期培養法では、上のアブストラクトにもあるように、新生児マウスの精巣細胞をGDNF・LIF・EGF・bFGFの存在下で培養すると、培養生殖細胞はES細胞とは別形態のコロニーを生じ、精子幹細胞の対数増殖を誘導する。培養された精子幹細胞は不妊マウスの精巣内に移植すると精子を作り、雌との交配によって正常な子孫を産む。この性質に因み、培養された精子幹細胞はGermline Stem Cell=「GS細胞」と命名された。

 篠原先生がたは次のステップとして、このGS細胞を用いた遺伝子改変マウス作成を試みた。その過程で、2004年にGS細胞にまじってES細胞と同様な形態を持つコロニーが出現することを発見し、Cellに発表した論文"Generation of plluripotent stem cells from neonatal mouse testis(新生児マウス睾丸からの多能性幹細胞の産生)"では、この細胞がES細胞とほぼ同様な性質を持つ細胞であることを報告された(Cell 119:1001-12)。唯一ES細胞と異なる点はDNAのメチル化のパターンで、ES細胞は体細胞型であるのに対して、この精巣由来ES様細胞は精子に近いものであったことである。ES/EG細胞は胎児組織から樹立されるが、このMultipotent Germline Stem Cell=「mGS細胞」は生後の生殖細胞からも同等の性質を持つ細胞が得られることを示している。


Abstract
 Although germline cells can form multipotential embryonic stem (ES)/embryonic germ (EG) cells, these cells can be derived only from embryonic tissues, and such multipotent cells have not been available from neonatal gonads. Here we report the successful establishment of ES-like cells from neonatal mouse testis. These ES-like cells were phenotypically similar to ES/EG cells except in their genomic imprinting pattern. They differentiated into various types of somatic cells in vitro under conditions used to induce the differentiation of ES cells and produced teratomas after inoculation into mice. Furthermore, these ES-like cells formed germline chimeras when injected into blastocysts. Thus, the capacity to form multipotent cells persists in neonatal testis.The ability to derive multipotential stem cells from the neonatal testis has important implications for germ cell biology and opens the possibility of using these cells for biotechnology and medicine.


[アブストラクト:Catsduke訳]
 生殖系列細胞は、多分化能のES細胞/EG細胞を形成できるが、これらの細胞は胚性組織からしか得られず、こうした多能性細胞は新生児の生殖腺からは得られなかった。ここに我々は新生児マウス睾丸由来のES様細胞確立に成功した事を報告する。これらES様細胞は、そのゲノム刷り込みのパターンにおいて以外は、表現型的にES/EG細胞によく似ている。これらは、ES細胞の分化誘導に用いられる条件下で、様々なタイプの体細胞に生体外で分化し、マウスへの移植後にテラトーマを産生した。その上、これらES様細胞は胚盤胞に注入した時に異生殖系列キメラを形成した。それ故、多能性細胞形成の可能性は、新生児の睾丸内に存在している。新生児睾丸由来の多能性幹細胞の持つ能力は、生殖細胞生物学に重要な意味を持つし、これらの細胞の使用はバイオテクノロジーと医学に多くの可能性を開いている。

 本研究では、以前の精子幹細胞の培養条件下で新生児マウスの精巣を培養すると、約20%の頻度でES細胞様形態を持つ細胞が出現することが発見された。この細胞はES細胞と同様な分子マーカーを発現しており、筋肉・血液・神経などの種々の体細胞を産生し、胚盤胞内への移植で生殖細胞を形成し、当該細胞由来の子孫も作成可能になった。この発見で、今後は精子幹細胞を用いた再生医療・バイオテクノロジーの研究が飛躍的に進むと考えられる。

 ES細胞の樹立には受精卵=胎児を犠牲にしなければならず、倫理的問題が生じている。しかし、個体の生命を犠牲にせずに同様な機能を持つ細胞を樹立可能なことが示され、ES細胞を用いた再生医療の持つ問題点を解決する一つの方向性を示すとは言える。核移植を使わずとも自己の精巣組織から免疫学的拒絶反応がない多能性細胞が取れるのも利点である。しかし、バラ色の技術と呼ぶだけでなく、以下の問題点は存するのではないか。

1.自己の精巣組織から拒絶反応がない多能性細胞を取り、治療に使えるのは、所詮は先進国の一部の金持ちに過ぎない。来世紀にでもならない限りは、これが国民皆が受けられるような安価で一般的な治療法になるとは思えない。即ち、臓器移植のドナーとレシピエントの非対称性と全く同じ問題を有する。

2.mGS細胞は生殖細胞を形成する能力も持つので、mGS細胞のゲノム操作を行うことで、新しい個体遺伝子改変法の開発を促すと考えられるが、それもまた、数回も心臓移植をしているようなアラブの金持ちのような一部の経済的選良にのみ許される遺伝子操作に繋がらないのかという疑問は残る。


【ES・iPS細胞参考書】
山中伸弥 編『実験医学増刊 Vol. 26-5』(再生医療へ進む最先端の幹細胞研究―注目のiPS・ES・間葉系幹細胞などの分化・誘導の基礎と各種疾患への臨床応用)



山中伸弥『iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』


須田年生『幹細胞の基礎からわかるヒトES細胞』


【生命倫理・参考書】
人間改造論―生命操作は幸福をもたらすのか?


◆「人間改造」のどこが問題か?◆(出版社HPより)
 クローン羊、人工授精、臓器移植、ヒトゲノムの解読など、生命科学や医療技術の進展にはめざましいものがあります。このままいけば、遺伝子操作によって「永遠の生命」を手に入れるのも夢でないかもしれません。しかし、そこに落とし穴、危険性はないでしょうか。ヒト・クローンにおいてアイデンティティはどうなるのでしょうか。人間の生活・生命の根拠そのものが危機に瀕しては元も子もないはずですが。
 著者たちは「人間改造」や「生命操作」やエンハンスメント(増進的介入)はどこまで許容できるのか。許容できないとすればどこに問題があるのか、歯止めをかける根拠は?など、これらの問題の現状を丹念に調査したうえで問題点を拾い上げ、ひろく議論を提供しようとします。執筆者は鎌田東二・上田紀行・粟屋 剛・加藤眞三・八木久美子の諸氏。

◆目 次◆
 生命倫理の文明論的展望(町田宗鳳)
 クローンと不老不死(鎌田東二)
 エンハンスメントに関する小論(栗屋 剛)
 心のエンハンスメント(上田紀行)
 肥満社会とエンハンスメント願望のもたらす悲劇(加藤真三)
 人口生殖は神の業への介入か?(八木久美子)
 先端科学技術による人間の手段化をとどめられるか?(島薗 進)

池田清彦『脳死臓器移植は正しいか』(角川ソフィア文庫)

 臓器移植、人工臓器、遺伝子治療……医療技術の進歩は、さまざまな病気の治療を可能にした。なかでも脳死臓器移植技術の進歩は著しいが、一方で、この技術は、死生観の再検討を迫っている。脳死は人の死か。そもそも人の死とは何か。脳死後、臓器摘出中に動いたり、脳死状態で数十年も生き続けたりする人を前に「死」をどう捉えればよいのか。脳死臓器移植の問題点に、構造主義生物学者でリバータリアンである筆者が真正面からぶつかり、歴史・医療技術・経済の見地から私たちに鋭く問いかける。 生命倫理の新たな基本文献とも言える書籍。
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大腸癌の抑制遺伝子を発見=シンガポール国立大チーム [先端医療]

(時事通信社 - 09月09日 02:11)シンガポール国立大学(NUS)医学部腫瘍学研究所(所長・伊藤嘉明教授)は8日、「RUNX3」と呼ばれる遺伝子が、大腸がんの発生を抑える抑制遺伝子として機能していることを発見したと発表した。


【コメント】
 伊藤教授は、東北大医学部ご出身で、のち米デューク大学と英インペリアル癌研(ICRF)でポスドク、ICRFのスタッフとなった後、ポリオーマウイルスのミドルT抗原を発見。米NIHの細胞形質転換セクションの主任を務めた後,米NCIを経て、84年-02年3月まで京大医学部教授。在任中の84年に、RUNX3が胃癌の主要な腫瘍抑制因子であることを発見し、癌研究の新たなフロンティアとしてのRUNX遺伝子ファミリーの確立に寄与。95年-01年京大ウイルス研所長を兼任。02年4月よりシンガポール国立分子細胞生物学研究所(IMCB)主任研究員・教授、05年よりシンガポール国立大(NUS)腫瘍学研究所(ORI)所長を兼任されている(参考:ORIのプロフィール&研究領域紹介)。

 ちなみに昨年からは、シンガポール国立大では、先生ご出身の東北大医学部との間でジョイント・シンポジウムも開かれている。東北大からは菅村和夫教授が参加されたし、逆に伊藤教授が、この9月1日開催の「東北大学グローバルCOE・Network Medicine 創生拠点キックオフシンポジウム」に参加され、「Tumor Suppressor RUNX3 : A novel gatekeeper of colon carcinogenesis」(腫瘍抑制因子RUNX3 : 結腸癌発生の新たな門番)という講演をなさっている。

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胸腺内でのヘルパーT細胞への分化メカニズムを解明 [先端医療]

免疫T細胞の作り分けを解明=エイズやがんの新治療法期待−理研(時事通信社 - 09月08日 11:01)

 体内への病原体の侵入やがん細胞の発生を他の免疫細胞に知らせる司令塔役の「ヘルパーT細胞」と、直接攻撃する「キラーT細胞」を作り分ける遺伝子の詳細な働きを、理化学研究所の免疫・アレルギー科学総合研究センターが解明し、米科学誌ネイチャー・イムノロジー電子版に8日発表した。この遺伝子を人為的に制御できれば、エイズやがんなどの新治療法につながると期待される。

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iPS細胞を10難病患者の細胞から作成…ハーバード大 [先端医療]

 パーキンソン病など10種類の遺伝性疾患を持つ患者の細胞から、さまざまな細胞や組織になる人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作ることに、米ハーバード大などの研究チームが成功し、22日付の米科学誌セルに発表する。発症の仕組みの解明や新薬開発に役立つと期待される。
 研究チームは、筋ジストロフィーやダウン症、1型糖尿病など、抜本的な治療法がない10種類の疾患を持つ、生後1カ月〜57歳の患者から皮膚や骨髄の細胞の提供を受けた。iPS細胞を開発した京都大チームと同じ4種類の遺伝子、またはがん発生にかかわる遺伝子を除く3種類の遺伝子を導入し、いずれも作成に成功した。
 研究チームは今春、10種類の疾患のうち、遺伝子異常によって重度の高尿酸血症などを起こす「レッシュ・ナイハン症候群」について、患者の皮膚細胞からiPS細胞作りに成功したことを、毎日新聞の取材に明らかにしていた。
 ハーバード大などの別の研究チームは先月、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者からiPS細胞を作ったと発表しており、難病患者の細胞を使った研究が急速に進展している。【毎日新聞 08月11日 12:11関東晋慈】

【コメント】
 このチームには島村明子・ワシントン大医学部小児科助教授(血液学/腫瘍学)が参加されているが、先生はシアトル小児病院、フレッド・ハッチンソン癌研究センターのFacultyでもいらっしゃる。
 先生は、ロチェスター大医学部・ジョンズホプキンス大医学部を経て、同大でResidency、ボストン小児病院Fellowshipを経て、現職である。

 骨髄不全がご専門だが、このように海外で、寝食を惜しんで世界水準の研究と診療とに活躍される本物の医師を見ると感激する(力量の無さ故に救急や小児科や産婦人科診療から逃げ回っている連中とは雲泥の差だ)。

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ヒット続きの理研----ES細胞から赤血球前駆細胞株作成に成功。 [先端医療]

 あらゆる臓器や組織に育つ能力を持つマウスの胚性幹細胞(ES細胞)から、赤血球のもとになる細胞株を作ることに、理化学研究所の研究チームが成功した。細胞株は試験管内で長期間増殖させることができ、赤血球を効率よく大量に作ることが可能。チームは近く、ヒトの人工多能性幹細胞(iPS)を使った研究を始める予定で、成功すれば、献血に頼らず、感染症の心配のない輸血が実現する。6日付の米科学誌に発表した。

 骨髄液やへその緒の血液に含まれる血液幹細胞から赤血球を作った例はあるが、効率の悪さが実用化への課題になっていた。

 理研バイオリソースセンター(茨城県つくば市)の中村幸夫・細胞材料開発室長(血液学)らは、8種類のマウスES細胞と、細胞増殖作用などがある6種類のたんぱく質を使って実験した。組み合わせを変えながら63回試み、三つの組み合わせで赤血球のもとになる赤血球前駆細胞株を作ることに成功した。

 この株を貧血のマウスに注射すると、マウスの体内で赤血球が増加し、症状を改善できることを確認した。がん化などの問題も起きていないという。

 中村室長は「一日も早い臨床応用を目指したい」と話している。(西川 拓:毎日新聞 - 02月06日 11:03を引用)
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【コメント】
 元記事の米科学誌に掲載された論文とは、PLoS ONE(2008.2.06)の” Establishment of Mouse Embryonic Stem Cell-Derived Erythroid Progenitor Cell Lines Able to Produce Functional Red Blood Cells”である。

*アブストラクトを引用する*
Background

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リウマチ患者に福音か----東京医科歯科大の快挙。 [先端医療]

 骨の破壊を防ぐと同時に過剰な免疫反応を抑える薬の開発に、東京医科歯科大の高柳 広教授(分子情報伝達学)らの研究グループが成功し、動物実験で効果を確認した。骨と免疫の両方に作用するメカニズムの発見は世界初で、関節リウマチの強力な新治療薬になる可能性があるという。1日付の米科学誌サイエンスに掲載された。

 過剰な免疫反応で関節が破壊されるリウマチは、免疫を抑える治療薬が有効だが、効果が限られる上、感染症などの副作用もある。

 研究グループは、骨が分解される時に働く「カテプシンK」と呼ばれるたんぱく質分解酵素に着目し、その働きを妨げる薬を開発。関節炎ラットに経口投与したところ、予想通り関節の変形を防ぐことができた。

 ところが、予期せず関節周囲の炎症を抑制する効果もみられた。このため、マウスの細胞を使ってカテプシンKの働きをより詳しく調べ、免疫細胞が活性化する際にも重要な役割を果たしていることを突き止めた。(時事通信社 - 02月01日 06:22) 
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 元記事で言及されているのは、Scienceの今月1日号に発表されたREPORTS"Cathepsin K-Dependent Toll-Like Receptor 9 Signaling Revealed in Experimental Arthritis"(「実験的関節炎において明らかになったカテプシンK依存性トール様受容体9のシグナル伝達」)である(Science 2008; 319:624-627)。

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受精卵成長のかぎ見つけた----卵子由来の「核小体」必要 [先端医療]

哺乳類の受精卵が正常に成長するには、卵子の細胞核に含まれる「核小体」が必要なことを理化学研究所・発生再生科学総合研究センター(神戸市)のチームが突き止め、2/1日付の米科学誌Science(2008 319:613-616)"The Maternal Nucleolus Is Essential for Early Embryonic Development in Mammals"(「哺乳類の初期胚発生には母系性の核小体が必要」)を発表した。

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ES細胞での網膜づくり効率化に成功----理化学研究所 [先端医療]

 万能細胞の一つ、胚性幹細胞(ES細胞)から人の目の網膜細胞を効率よく作り出すことに、理化学研究所・発生再生科学総合研究センター(神戸市)などのグループが成功した。これまで0.01%程度だった効率が一挙に30%近くまで引き上げられ、網膜の病気にからむ再生医療の実現性が高まった。3日付の米科学誌ネイチャー・バイオテクノロジー電子版に掲載される。

 作製に成功したのは、小坂田文隆研究員ら。網膜の主要な細胞である光を感知する視細胞と、網膜に栄養を供給する網膜色素上皮細胞を作った。

 グループは05年、マウスでES細胞から視細胞をつくった。ただ、成分が不明な牛の血清を使うなど人に応用するには安全面の問題があった。今回使ったのは、人のES細胞。培養時間を工夫して問題の成分を使わずに視細胞の前段階まで分化させた。さらに、視細胞への誘導には、レチノイン酸とタウリンが必要なことを突き止め、誘導された細胞のうち30%近くが視細胞になった。

 体のあらゆる細胞になる能力を持った万能細胞では、京都大の山中伸弥教授らが作り出した人工多能性幹細胞(iPS細胞)が注目を集めているが、ES細胞とでは倫理問題や安全性などで長所短所が違う。比較研究をすることで、利点が明確になる上に、両者の万能性に違いがあるのかも確認できる。理研グループは、京大から提供を受けたiPS細胞でも網膜細胞の分化に成功し、すでに機能を比べる段階に入っている。

 網膜は傷むと修復が難しい。今回の成果は、国内に約3万人の患者がいるとされる網膜色素変性や、高齢者の失明原因となっている加齢黄斑変性などの治療法の開発に役立つ見込みだ。(08年02月04日:asahi.comより引用。強調はCatsdukeが加筆)

【コメント】
 元記事の論文はNature Biotechnology(26:215-224)の"Toward the generation of rod and cone photoreceptors from mouse, monkey and human embryonic stem cells"(オンライン先行全文公開終了につきPubMedにリンク変更)である。


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