消化管カンジタがアレルギーを悪化させていた [感染症]
以下のような、喘息が抗生物質で悪化するのは腸内でカビが増殖するせいだという毎日新聞の配信記事を読んだので、元論文を検索した。Cell Host & Microbe, Vol 15, Issue 1, 95-102 ( 15 January 2014 )であった。で、翻訳してみた。

ということは、以上から分かることとして、喘息が改善しなかったり、アトピーが悪化して抗生物質を常用してたりするような患者は、抗生物質の服用を止め、ファンギソンシロップなどの抗真菌剤を服用しつつ、オリゴ糖とRー1などの生きて届く乳酸菌を取りまくって、消化管カンジタを殺して、腸内細菌フローラを善玉菌優位にすれば、炎症は改善するということになるはずである。
もちろん、アレルギーを悪化させ炎症体質をもたらしているプロスタグランジンE2を減少させるためには、リノール酸(=γリノレン酸)摂取を減らし、E2と拮抗するE3を得る為に青魚を食べたりサプリメント(処方薬なら持田エパデールなど)を利用したりで、ω6/ω3比を改善するためにEPAの摂取量を増やすことで、脂肪酸摂取のインバランスが前提として正されていなければならないでしょうが。

<ぜんそく>抗生物質で悪化も 腸内でカビ増殖
毎日新聞(2014年01月20日 11:11)
抗生物質を服用することで腸内細菌のバランスが乱れ、ぜんそくの症状が悪化することを、筑波大や米ミシガン大などの研究チームが動物実験で確かめた。腸内にカビが増える一方で「善玉菌」の乳酸菌が減っており、ヒトにも同じ仕組みがあると見ている。成果は米科学誌「セル・ホスト&マイクローブ」電子版に掲載された。
研究チームの渋谷彰・筑波大教授は「アレルギー発生のメカニズムは基本的に同じなので、花粉症やアトピー性皮膚炎など、他のアレルギー性疾患の治療にも役立てることができる」と話している。
ぜんそくやアトピー性皮膚炎などの発症には、腸内細菌が影響していることが知られているが、その仕組みはわかっていない。
研究チームは、マウスに5種類の抗生物質を2週間投与した後、人工的にぜんそくを発症させて詳しく調べた。そのうち、感染症治療に使われる抗生物質を投与したマウスは、投与しないマウスに比べて気管支での炎症細胞の数が倍増し、ぜんそく症状が悪化した。腸内を調べたところ、乳酸菌が減り、代わりにカンジダというカビの一種が異常に増殖していた。カンジダを抑える薬を投与することで症状は改善した。
渋谷教授は「抗生物質により腸内細菌のバランスが崩れ、ぜんそくが悪化することを証明できた」と話す。【相良美成】
Gut Dysbiosis Promotes M2 Macrophage Polarization and Allergic Airway Inflammation via Fungi-Induced PGE2
[Summary]
Although imbalances in gut microbiota composition, or “dysbiosis,” are associated with many diseases, the effects of gut dysbiosis on host systemic physiology are less well characterized.
We report that gut dysbiosis induced by antibiotic (Abx) treatment promotes allergic airway inflammation by shifting macrophage polarization in the lung toward the alternatively activated M2 phenotype.
Adoptive transfer of alveolar macrophages derived from Abx-treated mice was sufficient to increase allergic airway inflammation.
Abx treatment resulted in the overgrowth of a commensal fungal Candida species in the gut and increased plasma concentrations of prostaglandin E2 (PGE2), which induced M2 macrophage polarization in the lung.
Suppression of PGE2 synthesis by the cyclooxygenase inhibitors aspirin and celecoxib suppressed M2 macrophage polarization and decreased allergic airway inflammatory cell infiltration in Abx-treated mice.
Thus, Abx treatment can cause overgrowth of particular fungal species in the gut and promote M2 macrophage activation at distant sites to influence systemic responses including allergic inflammation.
以下、拙訳。
「腸内毒素症はカンジタ誘導性PGE2を介してM2マクロファージの分化とアレルギー性気道炎症を促進する」
[アブストラクト]
腸内細菌叢構成のインバランスないしは腸内毒素症は、多くの疾患と関連しているが、腸内毒素症が宿主の全身性の生理機能に対して与える効果は未だ十分に位置づけられていない。
我々は抗生物質治療により起こる腸内毒素症 (Abx)が、肺マクロファージが極性化し、活性化したM2表現型マクロファージにシフトすることで、アレルギー性の気道炎症を促進していることを、ここに報告する。
Abx処置マウスからの肺胞マクロファージの養子移植によって、アレルギー性気道炎症を増悪させることができた。
Abx処置は、腸内に共生するカンジタ真菌の異常増殖をもたらし、PGE2の血漿中濃度を上げ、肺中M2表現型マクロファージの極性化を誘導する。
アスピリンやセレコキシブのようなシクロオキシゲナーゼ阻害剤によるPGE2合成の抑制は、Abx処置マウスのM2型マクロファージの極性化を抑制し、アレルギー性気道炎症性細胞浸潤を減少させた。
それ故、Abx処置は腸内の特定のカンジタ菌種の異常増殖を引き起こし、アレルギー性炎症を含む全身性の反応に影響するような、遠隔部位におけるM2型マクロファージの活性化を促進する。
ということは、以上から分かることとして、喘息が改善しなかったり、アトピーが悪化して抗生物質を常用してたりするような患者は、抗生物質の服用を止め、ファンギソンシロップなどの抗真菌剤を服用しつつ、オリゴ糖とRー1などの生きて届く乳酸菌を取りまくって、消化管カンジタを殺して、腸内細菌フローラを善玉菌優位にすれば、炎症は改善するということになるはずである。
もちろん、アレルギーを悪化させ炎症体質をもたらしているプロスタグランジンE2を減少させるためには、リノール酸(=γリノレン酸)摂取を減らし、E2と拮抗するE3を得る為に青魚を食べたりサプリメント(処方薬なら持田エパデールなど)を利用したりで、ω6/ω3比を改善するためにEPAの摂取量を増やすことで、脂肪酸摂取のインバランスが前提として正されていなければならないでしょうが。
【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】新型インフルエンザでパンデミックは起きない。 [感染症]
NPO法人医薬ビジランスセンター浜 六郎所長が「新型インフルエンザでパンデミックは起きるか?」というタイトルで、「診断と治療」09年3月号に掲載された論文に解説を加えた記事を掲載されています。
以下、その記事を引用・紹介します。オリジナルの全文ならびに、その他の関連記事を参照されたい方は、医薬ビジランスセンター http://www.npojip.org でご参照ください。なお、下線・色字の強調はCatsdukeによるものです。
以下、その記事を引用・紹介します。オリジナルの全文ならびに、その他の関連記事を参照されたい方は、医薬ビジランスセンター http://www.npojip.org でご参照ください。なお、下線・色字の強調はCatsdukeによるものです。
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No118(09.05.14号)
新たなウイルスによるインフルエンザの流行がパンデミック直前の状態だと、世界中で大騒ぎになり、特に日本の水際防止という名の厳戒態勢ぶりは異様ともいえます。
今回のA型H1N1インフルエンザは、豚由来インフルエンザA/H1N1(Swine-origin influenza A/H1N1:S-OIV)とされていますが、全くの新型とすると矛盾する現象があり、未確定であることから、NPO法人医薬ビジランスセンターでは、これを「2009A/H1N1」と呼ぶことにしています。
インフルエンザや普通のかぜでさえ、非ステロイド抗炎症剤でライ症候群や脳症から多臓器不全を起こして死亡する例が少なくありません。また、タミフルによる突然死や異常行動、統合失調症を思わせる重大な精神障害がタミフルを予防に使用しても生じていますが、なぜか今回の流行に際して、非ステロイド抗炎症剤の害や、タミフルの害が全く議論になっていません。
2009A/H1N1の流行に関しては、近日中に別に論じたいと思います。今回はとりあえず、「新型インフルエンザの世界的流行、パンデミックは本当にくるのか?」というテーマで本年3月に書いた論文(「診断と治療」2009年3月号:pdf版)を紹介しておきたいと思います。
結論は、
「鳥インフルエンザウイルスから変異した新型インフルエンザウイルスでパンデミックが起きるとは思えない。万が一流行したとしても、今の日本で、メディアで騒がれているような1918年のスペインかぜの時ほど多数が死亡することはあり得ない」
です。
ただし前提があります。
1.非ステロイド抗炎症剤を解熱剤として使用しないこと、
2.タミフルを使用しないこと、
3.実験室から、高病原性遺伝子を組み込み豚に接種したヒトインフルエンザウイルスが一般社会に持ち出されないこと。
です。
ウイルスの培養やワクチン製造に使われる鶏卵の中で、偶然出来上がった人為ミスの可能性が報道されています。
実際その可能性もあります。しかし、NPO法人医薬ビジランスセンターでは、「診断と治療」09年3月号ですでに論じたように、むしろさらに積極的に、高病原性遺伝子をヒト型インフルエンザウイルスに組み込み、ブタに接種する実験が米国中心になされていることを重視しています。このため、人為的に確実に高病原性を獲得させたヒト型インフルエンザウイルスが実験室から一般社会に出る可能性があると考えています。
以下、「診断と治療」2009年3月号を、出版社の許可を得て転載します。
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新型インフルエンザでパンデミックは起きるか?
NPO法人医薬ビジランスセンター 浜 六郎
<はじめに>
新型インフルエンザの世界的流行、パンデミックは本当にくるのか?という大きなテーマを頂いた。結論は、鳥インフルエンザウイルスから変異した新型インフルエンザウイルスでパンデミックが起きるとは思えない。同様の批判はすでにある[1,2]。万が一、流行したとして、今の日本で、メディアで騒がれているような1918(大正7)年のスペインかぜの時ほど多数が死亡することはあり得ない。
WHOをはじめ、世界中の大部分の政府機関が新型インフルエンザのパンデミックが近々来ることを前提にして施策を考え準備している時期に、真っ向からの反対意見は「不届き千万」と思われる方は多いだろう。しかし、かなり確実な根拠に基づいている。
ただ、高病原性の遺伝子を組み込まれたヒト型インフルエンザウイルスが実験室から持ち出され、市中に侵入し蔓延してパンデミックを起こすという危険性は否定できない。むしろ鳥型からの変異よりも、こちらの方がはるかにその確率は大きいのではないか。
高病原性のインフルエンザが流行したとして、リン酸オセルタミビル(タミフル)やザナミビル(リレンザ)などのノイラミニダーゼ阻害剤(NA阻害剤)を用いることが、その蔓延防止や治療に効果が期待できるのか、についても疑問である。その根拠についても述べたい。なお、本稿ではパンデミックの可能性のあるA型インフルエンザに限って論じる。
まず、インフルエンザの鳥型とヒト型の違い、パンデミックは鳥型のままでは起きないこと、重症化にかかわる炎症性サイトカインの重要性、それに対する非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)の関与、鳥インフルエンザのヒトへの感染率と死亡率など、現在判明している基本的事実に触れておきたい。
<インフルエンザの鳥型とヒト型の違い>
1)同じH1でも鳥型はヒトには原則的には感染しない
鳥インフルエンザのHAは16種類(H1〜H16)、NAは9種類(N1〜N9)が発見されている。最も強毒性のウイルスはH5N1型高病原性ウイルスである。ヒトのHAはH1〜H3、NAはN1とN2が確認されている。鳥のH5は特別な例外を除いてヒトには通常感染しない。このことは一般にはよく知られているが、同じH1どうしでも、鳥のウイルスはヒトには原則的には感染しないことは案外知られていないのではないか。
インフルエンウイルスのシアル酸(sialic acid:SA:ノイラミン酸)は鳥とヒトとでは、立体異性体の関係にあり、このため、細胞のガラクトース(レセプター)と結合する部位は鳥とヒトでは異なる[3-a]。鳥ではガラクトースの3位の炭素とシアル酸の2位の炭素が結合するα2,3結合であるが、ヒトではガラクトースの6位の炭素とシアル酸の2位の炭素が結合するα2,6結合である[3-a]。そしてヒトの気管支粘膜上皮細胞に含まれるのは大部分がSAα2,6ガラクトースであり、アヒルの腸粘膜上皮細胞に含まれているのは大部分がSAα2,3ガラクトースである[3-a](ただし、絶対ではないため例外はありうる[3-a])。
このように、立体異性体であること、そのために、受容体への結合方法が異なるために、基本的に両者は異なり、一部の例外を除いて原則的に相互に感染しない。ただし、これは顕性感染を起こさないというだけで、不顕性感染はありうるようだ。その理由は後述がH5N1やH5N2に対する抗体を養鶏業従業員だけでなく、その周囲の人も相当保有しているからだ(文献も後述)。
2)問題は鳥インフルエンザそのものではない
現在、死亡率が高いとされているインフルエンザウイルスは、高病原性のH5N1鳥インフルエンザウイルスである。しかし、鳥インフルエンザウイルスでヒトからヒトへのパンデミックが起こりようのないことは、前項で述べたようにシアル酸の立体異性体の関係、レセプターの違いから明らかである。
パンデミックの可能性が怖れられているのは、これまでのパンデミックの変異の様子からの仮定として、鳥インフルエンザの高病原性遺伝子が組み込まれたヒト型ウイルスによるパンデミックである。しばしば「鳥インフルエンザのパンデミック」という表現が使われるが、したがって適切でない。
<ウイルスとサイトカイン、NSAIDs>
1)ウイルスの失活には発熱とサイトカインが最重要
ヒポクラテスの時代から解熱剤が利用されるようになった19世紀半ばまでの約2000年間、感染したときに熱が出るのは体にとって有益な兆候とみられていた[4]。たとえば17世紀、英国の医師・シデナムは「熱は、自然が与えてくれた外敵に勝つための原動力(エンジン)だ」と書いている[4]。発熱は、感染した細菌やウイルスの排除に重要な役割を持っている。
インフルエンザウイルスの失活に対して、発熱とともに重要なのは、炎症性サイトカインである。インフルエンザウイルスが、単球-マクロファージに感染すると、それぞれのサイトカイン誘導に必要なタンパクが合成され、TNF-α、インターロイキン(IL)-1β、IL-6、インターフェロンなどが誘導され[5]、発熱などの全身反応を生じる。この結果、症状が出始め、インターフェロンが出始めてから半日後には、鼻粘膜中のインフルエンザウイルスは減少し始める[3b]。
2)感染症はサイトカインストームで重症化
ライ症候群[6]やインフルエンザ脳症等重症脳症[7]、敗血症性ショック、高病原性鳥インフルエンザによる死亡者[8]で炎症性サイトカインが異常高値となっていることはよく知られている。インフルエンザ脳症の予防に対するオセルタミビルの有効性のエビデンス(証拠)はなく、むしろ「否定的」とされている[9]。その理由として、「インフルエンザ脳症は、インフルエンザウイルスの感染が引き金になってはいるが、病態形成の中心はウイルスによる細胞傷害ではなく、免疫システムの過剰反応、すなわち過剰な炎症性サイトカインの産生・放出にあること(cytokine storm)」「オセルタミビルは・・cytokine stormの発来は防止できないこと」とされている[9]。
1918/19年パンデミックでも多くの人は数日間の激しい症状の後に回復したが、重症化例では、病変は全身におよび、DIC様の全身の出血、意識障害・精神症状(脳症症状)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の徴候を備え、硬化病変を主体とする通常の肺炎とは極めて異なる場合が多かったとされている。すなわち、これらは、今日サイトカインストームによって生じる病変に一致していると考えられている[10]。特に若者の死亡者が多かった軍隊における解剖例のほぼ半数に今日ARDSと呼ぶべき所見が認められたという。軍隊では特にアスピリンの使用が多かった。
3) 感染時のNSAIDs使用と重症化、死亡率への影響
非ステロイド抗炎症剤系解熱剤(NSAIDs解熱剤)を感染動物に使用すると死亡率を増加させることは10論文16実験のメタ解析の結果で示されている(統合Petoオッズ比:7.52:95%信頼区間(CI)4.58-12.35,p<0.00001)[11]。米国のライ症候群の8件の症例対照研究を併合した場合のアスピリン(サリチル酸製剤)使用の統合オッズ比は19.79(95%信頼区間10.46-30.43、p<0.00001)であった。すでにアスピリンはライ症候群の原因として確立している[11]。
日本でも、擬似症例対照研究(脳症死亡例と脳症生存例の比較)3件と1件の症例対照研究(脳症死亡例と非脳症対照との比較)を併合したNSAIDs使用の統合オッズ比は15.20(95%CI:3.52-65.55、p=0.0003)であった[11]。脳症死亡例と非脳症対照との比較では、オッズ比47.4(95% CI:3.29-1458、p=0.0019)であった[11]。
NSAIDsは動物でもヒトでも、感染時に使用すると致死的疾患を増加させ死亡率を増加させると結論できる[11]。
4)NSAIDsによる病原体増、サイトカイン増と臓器傷害
感染動物にNSAIDsを使用した実験から、ウイルスも細菌も、NSAIDsを使用すると、血中や臓器中に、平均数倍から20倍(細菌)、あるいは100倍(ウイルス)増加し、インターフェロンなどサイトカインは増加した[12,13]。
また、in vitroでもNSAIDsがTNF-αの誘導を増強することが確認されている[8]。アスピリンおよびインドメタシンが、エンドトキシンで刺激されたマクロファージからのTNF-αの誘導を増強した。しかもインドメタシンはアスピリンの10分の1の濃度でもアスピリンよりも強く増強したが、アセトアミノフェンでは誘導増強がほとんどなかった[6]。
5)1918年以前のパンデミック
1889年から1890年にかけてもパンデミックが記録され、さらには、1900年から1903年にかけても中等度の流行があったと記録されている。1889年流行ウイルスはH2N8(ウマ型)、1900年流行はH3N8(ウマ型)であったとされている[14]が、それらがヒトからヒトに感染してパンデミックを起こしたヒトインフルエンザウイルスであるとのコンセンサスは得られていない[3-b]。したがって、単にウマインフルエンザが多くのヒトに対して感染しただけであったのかもしれない。
6) NSAIDs登場とインフルエンザパンデミック
NSAIDsは、サリシン(1827年)、サリチル酸(1838年)、サリチル酸ナトリウム(1875年)の限定的な使用の後、1884年のアンチピリンやすぐその後のアミノピリンの登場で本格的に医療に用いられるようになった[15]。アセトアミノフェンは1893年に導入されたがあまり普及しなかった。しかし、アスピリンは1899年に医療用として市販、1915年から一般用薬剤(OTC薬剤)として市販され急速に広く使用されるようになった[15] 。
スペインかぜの流行に際しては、インフルエンザ治療にアスピリンの使用が推奨された。1日100グレイン(約6.5g)あるいは、48時間で240グレイン(約15.6g)を使用した例も記録されている[16]。いわば乱用とも言うべき使用がなされたようである。そして、アスピリンを使うほど「治りが遅い」あるいは「死亡が多い」との印象が異口同音に語られている[16]。この中で、アスピリン使用と不使用が比較できる調査が少数ながらあった。
たとえば、一般市民の治療で、アスピリン不使用では575人中死亡は1人(0.17%)であったが、アスピリンが用いられた大学病院では294人中15人(5.1%)が死亡したとの報告があった。これだと、オッズ比30.9(95%CI:4.3-630、p=0.0000003)である。また他にも、アスピリンなしでは1.05%、アスピリン使用で30%の死亡、軍隊では、アスピリンなしでは死亡は3%未満、アスピリン使用で20%が死亡したとの報告がある。動物実験や症例対照研究でのNSAIDsの死亡危険のオッズ比とほぼ同等の死亡危険度であり、アスピリン使用の寄与危険度はほぼ90%を超えると考えられる。
アスピリンがインフルエンザにおける死亡を増加させた可能性については、動物実験や、その後ライ症候群との因果関係が確立されたことなどからみて当然ありうると考える。単にありうるというレベルではなく、むしろ積極的に主要な原因であったのではないかと考えている。
<鳥インフルエンザに感染したヒトの死亡率は低い>
1)高病原性鳥インフルエンザの本当の症例死亡率とは
ついで、ヒトが鳥インフルエンザに感染しても「重症化や死亡はまれ」という点が重要と考える。
WHOでは、高病原性インフルエンザ罹患者の症例死亡率(発症者中の死亡者の割合:case fatality)を2008年11月10日現在、63%(245/387)としている。特にインドネシアでは82%(112/137)と極めて高い。WHOの症例死亡率を見る限りは、死亡率は高いという印象を多くの人が持つのも無理はない。しかし実際のところは、不顕性感染が多く、ヒトどうしの感染もありうるが、重症化や死亡は極めてまれである。
症例死亡率とは、たとえば、ライ症候群など脳症を発症した患者のうちの死亡した患者の割合をいう。2000年以前は、脳症の症例死亡率はおおむね約30%であった。このうち、NSAIDs使用者の症例死亡率は52%から67%であった。しかし、これをもってインフルエンザやかぜにNSAIDsを使用して60%前後が死亡するとはだれも思わない。日常の診療から明らかだからである。
同様に、鳥インフルエンザの症例死亡率が平均60%と高いのは、WHOに登録される鳥インフルエンザに罹患した重症発症者、いわば最初から脳症のような重症例が分母になっているからである。高病原性インフルエンザといえども、それが全ての人に高病原性とはいえない。感染者全体を母数にするとどうなるのであろうか。この点について、疑問を呈した論文も見られるが、全体像は未だに不明である。
2)濃厚接触で新たな感染3%、有症状2%、重症化0
そこで、実際の感染者、軽症発病者も含めた発病者の割合がどの程度か、できる限り資料を集めて検討してみよう。最も正確な調査は香港での調査である。
香港で鳥インフルエンザが人に感染して死亡者が出た1997年、香港の養鶏業従業員ら約1525人が調査され、81人がマイクロ中和法とWestern blot法でH5抗体陽性であった。30-44歳では12.3%(56/806)、年齢調整の結果では全体の10%が抗体陽性であった[17]。つまりこれらのヒトにはH5の感染があったということを示している。また、家禽が10%超の死亡率を示した養鶏業従業員であることや、家禽の解体従事者が最も抗体陽性の危険度が高く、また従事する作業の種類が多いほど、抗体陽性率が高くなっていた[17]。
鳥からヒトへの新たな感染は、政府機関の職員293人(年齢中間値41歳)の調査[17]で判明する。また、ヒトからヒトへの濃厚接触は、重症患者の医療に直接関与した医療従事者や、重症患者の家族で判明する(文献割愛)。
表1 一般人、濃厚接触者へのH5N1鳥インフルエンザ感染、重症発病、死亡率(1997年香港での流行時)
SC:セロコンバージョン:抗体が(-)⇒(+)に移行
*a:有症状者、SCした人、抗体(+)⇒(−)への移行も含めた数。
*b:症例死亡率は33%だが、人口中の死亡率、感染例中の死亡率は不明
*c:調査人数(人口)に対する割合(%)
*d:年齢調整の結果(30-44歳では806人中56人=12.3%が抗体陽性であった)
上記の表から、
1)濃厚接触持続で10%程度が何らか感染して抗体ができる。
2)新たに濃厚接触した場合に3%程度が新たに感染し、
3)2%程度に何らかの症状が出て、
4)1%程度に明瞭なセロコンバージョンが検出される、と言える。
これらについて調査された結果を表1にまとめた。政府機関の職員と重症患者の医療に携わった医療従事者とで、抗体保有割合、新たな感染、有症状、セロコンバージョンの割合はほぼ同じである。また、重症患者の家族でも抗体保有割合を除けば、ほぼ同じである。重症患者の家族で抗体保有者6人中5人は家禽を扱っていた。抗体保有割合が高いのはこのためであり、症状の出なかった4人は既感染者であったと考えられる。
したがって、表1から、
濃厚接触持続で10%程度が感染して抗体ができる。
新たに濃厚接触した場合には3%程度が新たに感染し、
2%程度に何らかの症状が出て、
1%程度に明瞭なセロコンバージョンが検出される、と言えよう。
香港での18人の重症鳥インフルエンザ患者中の症例死亡率は6人(33%)であったが、122人(104+18)中の6人とすると、たかだか5%である。調べられていない不顕性感染者は104人よりはるかに多いと考えられるので、実際の死亡率はこれよりはるかに少なくなるであろう(なお、ベトナムなどでは、抗体陽性者が出ていないが、原因は不明)。
3)日本でも不顕性感染、軽症発病例は少なくない
日本で初めて鳥インフルエンザが流行したときも、京都府内の養鶏業者の従業員16人中4人(25%)は、鳥インフルエンザの抗体が陽性であった[18]。鳥インフルエンザが流行した養鶏業者の鳥の処理に従事した京都府職員42人中1人が鳥インフルエンザ抗体(H5抗体)陽性で、軽い症状(のどの痛み)が出たことも確認されている。
特に従業員の1人は、抗体が陰性から陽性にセロコンバージョンした[18]。つまりこの人は、鳥インフルエンザに感染し、軽症だが発病した。この人はタミフルを服用していなかった。また京都府職員の多くはタミフルを前もって服用して、作業に従事した。抗体が陰性のままで「発熱や悪寒等を訴える者があった」が、迅速検査では陰性であったという[18]。タミフルはインフルエンザウイルスの抗体産生を妨げないとのデータはあるが、抗体産生を抑制するとの知見もある。京都府職員での症状出現と抗体陰性の結果をみると、抗体産生を抑制するのかも知れない。
タミフルは、検査陽性のインフルエンザ感染は防止するが、インフルエンザ症状の出現は予防しない[19]。同様に、鳥インフルエンザの感染予防にタミフルを使っても、インフルエンザは通常のインフルエンザ同様、迅速検査で「インフルエンザ」と診断できなくなるだけで、インフルエンザ症状の発症を抑えることはできず、軽い発病あるいは、不顕性感染は生じるということである。
H5N1以外では、H5N2(日本では茨城県で流行)、H7N3、H7N7、H9N2などのヒトへの感染が報告されている。2003年にオランダで発生したH9N2高病原性鳥インフルエンザには89人が感染し、83人に結膜炎症状が出現した。大部分は軽微な症状が現れただけであったが、1人の獣医が肺炎とARDSを伴い死亡した(受診前の治療内容は不明である)。ヒトからヒトへの感染(発病)が3件で認められ、感染(発病)した養鶏業従業員と接触のあった59%が抗体陽性となった[3b]。
以上、香港や日本での鳥インフルエンザの流行時のヒトへの感染状態をみると、ヒトが鳥インフルエンザウイルスに曝された場合には、鳥インフルエンザに感染し、軽く発病する人も出る。ごくまれに出る重症者に濃厚に接した者の中にはヒトからヒトへの感染もありうるが、その場合でも軽症で済んでいる。なお、ベトナムで、娘を遠いところから訪ね、濃厚に看病した母親が感染発病し、肺炎で死亡した例が報告されているが、極めてまれである。
<高病原性の原因遺伝子>
1)高病原性発揮の種々の因子
H5N1型鳥インフルエンザの高病原性の発現には、HAおよびNAの遺伝子、ウイルス増殖に関係するPB2遺伝子、ウイルスのシアル酸(SA)と宿主側受容体(galactose)の結合関係(SAα-2,3Gal結合が可能か否か)、サイトカインの攻撃と関係するNS1遺伝子、さらには、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand:TRAIL)のupregulationや、CD8+ リンパ球の細胞傷害性の減少などが高病原性発現に関連しているのではないかと見られている[3-b.8,20] 。
これらの中でも、サイトカインの異常に関係するNS1遺伝子は精力的に検討され、ウイルスの増殖による組織傷害とともに高病原性発現の主要な機序の一つと考えられている[8]。
2)NS1遺伝子変異でサイトカインの攻撃を逃れる
香港で流行したH5N1型鳥インフルエンザウイルスは、ヒトに感染する通常のインフルエンザウイルスや、他の型の鳥インフルエンザウイルス、ブタインフルエンザウイルスと異なり、インターフェロン(αとγ)やTNF-αの抗ウイルス作用に対して耐性を有していることが確認された[21]。これは、培養したブタ肺上皮細胞を用いたin vitroの実験で確認されたものである。
この耐性の状態は、極めて顕著であり、インターフェロン(αとγ)やTNF-αいずれかに曝しておくと、通常のインフルエンザウイルスはまったく検出されなくなるが、H5N1型鳥インフルエンザウイルスは、インターフェロンやTNF-αなどに曝されていないウイルスと同程度のウイルス量を示したのである。つまり、インターフェロンやTNF-αによって増殖が全く抑制されなかったということを示している。
in vitroの実験だけでなくin vivo実験も行われている[21]。H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスのNS1遺伝子をH1N1ヒト型インフルエンザウイルスに組み込んでブタに感染させ、通常(wild type)のH1N1ヒト型インフルエンザウイルスを感染させたブタと比較している。ヒト型ウイルスを感染させた方が、ウイルス血症が著しく長期間続き、発熱も長時間で体重減少も著しかった[21]。
つまり、高病原性NS1遺伝子は、インターフェロンやTNF-αなどのサイトカインの攻撃を免れる性質を有していたこと、このNS1をヒト型H1N1に組み込んだインフルエンザウイルスは、H5N1と同様にサイトカインの攻撃を免れる性質を有するように変化するのである。
3) NS1遺伝子はヒト型ウイルスをも高病原性に
この事実は、HAが鳥型インフルエンザウイルスH5にならなくとも、またウイルス増殖に関係するPB1遺伝子や、ウイルスのシアル酸(SA)と宿主側受容体(galactose)がSAα-2,3Gal結合をする構造を持っていなくとも、ヒトの通常のインフルエンザウイルスH1N1に組み込まれれば、高病原性を発揮することにつながる。
そして、それが自然に起きることは、かなりまれなことであったとしても、実験室ではすでに遺伝子組み換えの方法を用いてブタに対して高病原性を発揮するH1N1が作られ、現実にブタが重症化しているのである。
したがって、自然に高病原性のウイルスができるというより、実験室から何らかの事故によって外界に飛び出す可能性のほうが、実際上よほど高いというべきであろう。
実際、SARSを研究していた研究者が感染して、外界に持ち出されそうになったことがあるが、高病原性インフルエンザウイルスに関しても、そうならないという保証はない。
4)高病原性が多くの人に毒性が低いのはなぜか
この問題は、高病原性新型ウイルスが流行したとしてもスペインかぜの時のような規模にはなり得ないことに通じる。たとえばインフルエンザウイルスは基本的にはウイルス血症を起こさないといわれるが、動物の好中球をX線照射しておくとウイルス血症を起こす。NSAIDsを用いれば、通常は高病原性を持たない病原体でも高い死亡率を示すようになる。
スペインかぜの時代は、人生わずか50年にもなっていなかった。戦争で人々は疲弊していた。現在の日本では寿命が男性約30年、女性では約35年以上延長した。ベトナムの平均寿命もすでに73.7歳(2005年、男女計)に達している。
あらゆる防御機構が完全であれば、一つの防御機構に欠陥があってもかろうじて重症化を免れているのかもしれない。しかし、こうした場合には、他のいずれかのわずかな異常が防御機能全体の破綻につながり重症化につながるであろう。
<HA遺伝子のサブタイプの変異は数万年に1回>
ヒトインフルエンザウイルスのHAは、スペインかぜ(H1N1)以降、ヒトで流行した順にH1からH3、NAもN1とN2と名付けられたものである。1957年のアジアかぜ(H2N2)、1968年の香港かぜ(H3N2)、1977年のソ連型(H1N1)とだんだんと軽くなり、パンデミックとも呼べない程度の規模になっている。そして、ソ連型のH1N1はスペインかぜと同じ型であるが、今ではH3N2より症状が軽いのが特徴でさえある。
日本では現在、香港かぜ(H3N2)のなごりが最も多く約半分を占め、ソ連型(H1N1)のなごりとB型がそれぞれ4分の1ずつ、入り混じって流行している(最近20年間の日本でのデータ)。アジアかぜ(H2N2)は1968年の香港かぜの流行以降、姿を消した。
鳥インフルエンザは、Hは16種類(H1〜H16)、Nは9種類(N1〜N9)が発見されている。理論的には144種類(16×9通り)の組み合わせがありうることになる。
鳥は1億年以上の歴史がある。Hが16種類ですべてであるとすると、Hの変異は約600万年に1回、Nの変異は1000万年以上に1回ということになる。
一方、ヒトの起源は、原人を含めると約180万年、ホモ・サピエンスの起源はたかだか数十万年前(20〜30万年)である。この間にHは3種類、Nは2種類を獲得した。ヒトの起源を原人の歴史にとればHは60万年1種類、ホモ・サピエンスの起源を20万年前とすれば、7万年に1回の割合で大変異が生じたということになる。
鳥インフルエンザの遺伝子がヒト型に変化したとして、1回の変異に数万年を要していることになる。HやNの1〜3の型の変異は、これほどの長い期間をかけなければ起きない変異のはずである。
それが、ここ数年の間に急に起きるかもしれないといわれ始めたのは、いかにも不自然ではないか。 1918年のパンデミックを起こしたインフルエンザウイルスが鳥からの遺伝子が組み込まれたために新しくなりパンデミックを起こした、という説がほとんど疑いのない説として信じられている。
この説は、系統発生の分析が根拠になっているが、その解釈はあいまいなものであり、解釈そのものに対する反対意見も少なくない[22,23]。したがって、鳥インフルエンザウイルスの遺伝子が組み込まれたということ自体、根拠は明確ではない。
一方、先述したように、高病原性の最大の因子ともいうべきサイトカインの攻撃を免れるNS1遺伝子の変異型を有するヒト型インフルエンザウイルスが実験室から外界に飛び出す可能性は、よほど現実的である。
<高病原性インフルエンザにタミフルは効かない>
京都府の職員がタミフルを服用して防疫作業に当たったけれども、抗体産生のないまま、発熱などの症状は出現した。タミフルの予防使用のRCTでは、発熱など症状は抑えていない[18]。べトナムやタイでの鳥インフルエンザ感染者にタミフルを2倍量使用しても効果がなかった。
また、H5N1が高病原性を発揮する最も重要な因子がNS1であるなら、その部位(およびその結果としての機能)にタミフルは全く無関係であるから、タミフルは理論的にも高病原性インフルエンザウイルスには無効である。
ベトナムなどでの鳥インフルエンザで重症になった症例の報告では、タミフルは全く効いていない。耐性ウイルスも、30%から50%出現する可能性があることが分かった。
たとえば、タイでは、タミフルを服用した10人中7人が死亡(死亡率70%)、服用しなかった7人中5人が死亡した(死亡率71%)。また、ベトナムのひとつの調査ではタミフルを服用した5人中4人死亡(死亡率80%)、服用しなかった人も5人中4人死亡(死亡率80%)した。ベトナムのホーチミン市では重症患者10人全員がタミフルを服用したが、80%が死亡した。さらに、最近の耐性ウイルスの報告では、タミフルを服用した8人中4人が死亡し、そのうち耐性ウイルスの検査がきちんとできた2人から耐性ウイルスが検出された。
タミフルが重症化や脳症を予防しないことは横田俊平氏も指摘している[9]。すなわち、インフルエンザの脳症や重症化は、サイトカインストームによるものであり、理論的にも実際的にもタミフルは無効である。なお、タミフルの害については筆者の著作[24-26]ならびにNPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)のホームページ(http://npojip.org)を参照頂きたい。
<おわりに>
パンデミックは起きない、と言ったが、ただし書きがある。それは、イブプロフェンやロキソプロフェン、スルピリンなどを含め全てのNSAIDsを解熱剤として用いないことが条件である。小児だけでなく成人にも使用してはならない。また、ステロイドもパルス療法を含めて使用しないことである。これらNSAIDsやステロイド剤を解熱目的で使用すると、一時的には症状は軽快したとしても、その後に高サイトカイン血症を起こしてかえって重症化する危険性が高い。
抗ヒスタミン剤なども無効であり、ケイレンの頻度を高めるので、用いるべきではない。余分な薬剤を用いず、保温と安静を保ち、患者の免疫力が最大限に発揮されるよう配慮することが肝要である。そうすれば重篤化や死亡増大の危険性はない。したがって、一部に見られるように、医療従事者自身が恐怖におびえるという必要はまったくない。
*【pdf版の正誤表:p507 右列下から10行目 (誤)PB1→(正)PB2】
参考文献
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10.Barry JM. The Great Influenza-The story of the deadliest pandemic history. Penguin Books 2004 (平澤正夫訳、「グレート・インフルエンザ」共同通信社,2005年)
11.浜六郎ら、ライ症候群および、いわゆる「インフルエンザ脳症」を含む感染後脳症と解熱剤との関連に関する疫学調査の批判的吟味.第14回日本薬剤疫学会、2008年11月
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25.浜六郎、やっぱり危ないタミフル、金曜日、2008
26.浜六郎、くすりで脳症にならないために、NPO医薬ビジランスセンター(薬のチェック)2008
【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】豚インフルエンザ:今の状況は政府が招いたパニック」ー厚労省検疫官・木村盛世氏に聞く [感染症]
「大本営発表」を繰り返す厚労省。医療者からの正しい情報発信が重要
2009年5月11日 聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)「m3.com:医療維新より転載」
「新型インフルエンザで封じ込め対策は無意味。今の検疫は人権侵害と問題視される可能性はないのか」。今の政府の対策を強く批判するのは、現役の厚生労働省検疫官(東京空港検疫所支所・検疫医療専門職)で、医師の木村盛世氏。
WHO(世界保健機関)が推奨していない機内検疫を中止し、国内対策に重点を置くべきだと主張する。
「厚労省は大本営発表を繰り返すだけ」と問題視する木村氏は、「医療者自らがWHOやCDC(米国疾病対策センター)などの情報を入手し、情報発信していくことが必要」と説く(2009年5月10日にインタビュー)。
木村氏は、筑波大学医学群卒業。米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了(MPH[;公衆衛生学修士号)。内科医として勤務後、米国CDC多施設研究プロジェクトコーディネーター、財団法人結核予防会、厚労省大臣官房統計情報部を経て、厚労省検疫官。専門は感染症疫学。
――今の機内検疫などの封じ込め対策は無意味だと指摘されています。
例えば、国際的には機内検疫などは行われていません。5月7日にWHOは改めて見解を示しており、(1)検疫に、疾患の広がりを減らす機能があるとは考えていない、(2)国際交通に大きな影響を及ぼす方策を取っている国は、WHOに公衆衛生的理由と、その行為のエビデンスを提出しなければならない、としています(WHOのホームページ)。
歴史上、新型インフルエンザで封じ込め対策が有効だった例はありません。WHOは検疫、国境封鎖には意味がないと以前から指摘しており、現在、検疫を実施しているのは日本などごく一部の国です。
WHOのほか、米保健福祉省(HHS;United States Department of Health and Human Services)の最高責任者も務め、WHO天然痘根絶チーム初代部長のD.A..ヘンダーソン率いるバイオディフェンスチームでも、検疫は有効ではないとしています(Center for Biosecurityのホームページ)。また2003年のSARSの流行時でも、検疫が有効でなかったという報告があります(CDCのホームページ)。
さらに、CDCでは、5月5日に、学校閉鎖などは推奨しないとの声明も出しています(米保健福祉省のホームページ)。
――なぜ封じ込め対策は有効ではないのでしょうか。
インフルエンザの臨床症状は咳や発熱などですが、これらを呈する疾患は多々あり、新型インフルエンザに特有の症状はない上、季節性のインフルエンザと新型インフルエンザは症状からでは区別が付きません。
また、迅速診断キットの精度も100%ではなく、潜伏期間の問題もあります。WHOでは潜伏期間は最長1週間と言っていますので、3泊4日など短期間で帰国する人は検疫で把握することは難しい。
また最近では、1週間で世界各国を周るビジネスマンもいますが、今の機内検疫はまん延国(メキシコ・米国・カナダ)からの便が対象なので、彼らが途中でまん延国に立ち寄ったとしても機内検疫を受けないことになります。
インフルエンザは、日本語で言えば「流行性感冒」。幸い、今回の新型インフルエンザは弱毒性です。
にもかかわらず、政府は「日本で一人でも、流行性感冒の患者を発生させない」という姿勢なのですから、不可能なことを求めているのであり、狂気の沙汰としか思えません。
インフルエンザ対策では、「いかに集団として免疫を獲得するか」を目指すことが必要です。その間、健康被害の発生を最小限に抑える、つまり感染者の数を抑え、かつ重症者を出さないかという姿勢が重要。「一人も感染者を出さない」のは無理なことなのです。
封じ込め対策が有効なのは、天然痘など、見ただけで診断が付き、かつワクチンが有効であるなど感染拡大防止策が確立している疾患に限られます。
――政府は、検疫のためにサーモグラフィーを今回新たに151台購入したそうです(5月8日の参議院厚生労働委員会での民主党・足立信也氏の質問に対する厚労省の回答)。
従来、サーモグラフィーは1台約180万円だったのですが、今回購入したのは、新型インフルエンザ対応機種ということで、約300万円だったと聞いています。しかし、臨床試験などで有効性が確かめられたのでしょうか。
また、機内検疫には国立病院の医師なども動員されていますが、それよりも国内対策、あるいは日常診療に携わっていただくべきではないでしょうか。
機内検疫、停留措置や隔離は、検疫法に基づいて実施されていますが、検疫法は飛行機での渡航が一般的でない時代の法律。それを現代に当てはめているわけです。
先日のBBC(英国国営放送)では、日本と同じく島国である英国のヒースロー空港と成田空港を比較していました。ヒースロー空港では機内検疫などは実施していません。
あの報道を観た人には、日本の検疫は異様に映ったのではないでしょうか。停留対象となった方の人権問題などに発展する懸念もあります。
――では今、どんな対策に力を入れるべきなのでしょうか。
先ほども言いましたように、今回の新型インフルエンザのウイルスは弱毒性ですから、まずパニックにならないようにすること。今、一番、パニックに陥っているのは政府ですが。
疑い患者が出れば、「シロかクロか」と言う目で見る。それを記者会見し、マスコミも報道する。まるで罪人のように扱っています。
そして、機内検疫などをやめ、国内の体制整備を行うことです。国民に対しては、具合が悪かったら、自宅静養するよう呼びかける。
流行性感冒の基本はホームケアです。また「咳エチケット」、つまり自身が咳などをしている人にはマスクの着用を徹底させることです。
でも、なぜか日本は全く症状がない方がマスクをしています。マスクが感染予防になるというエビデンスはないのですが。
今はパニック状態に近いですから、それを沈めるため、また新型インフルエンザの第二波でウイルスが強毒化する可能性は否定できませんし、高病原性の鳥インフルエンザの流行に備えて、発熱外来の整備を進めることも重要です。どうしても薬がほしい患者、重症化しそうな患者にはそこに来てもらう。
「発熱外来」という発想がどこから来たのかは不明ですが、日本の医療機関の多くは個室の診察室を持っていないので、通常の外来とは別に、新型インフルエンザの疑い患者を診る場所は必要でしょう。
例えば、国立国際医療センターなど公立病院の敷地に、陰圧室を持つプレハブを建てる。同センターには国際医療協力局があり、発展途上国に医師を派遣しています。
国内が「非常事態」であれば、こうした医師を呼び戻し、各地の発熱外来での診察に当たってもらえばいいわけです。彼らは感染症の患者を見るのは専門ですから。
こうした体制を整備しないまま、今の対策を続けることは、新型インフルエンザ以外の一般の患者、免疫力が低下した患者は「犠牲になってもいい」と言っていることと同じです。
発熱外来などの整備が遅れるのは、法的な問題もあります。検疫法は厚労省の直轄ですが、国内で患者が発生した後は感染症法の管轄。厚労省は単に「やれ」と言えばいいわけで、それを実施するのは都道府県です。予算などがなければ、容易には進みません。
――厚労省が5月9日に事務連絡を出しました。迅速診断キットでA型陰性の場合は、まん延国への渡航者との接触歴など、疫学的関連の有無など慎重に調べることを求める内容です。
これは、「今、日本の新型インフルエンザの感染者は一人もいない」という前提での対策でしょう。
――なぜ日本での対策は、水際対策と国内対策がアンバランスであり、国際的に見ても特異な形になっているのでしょうか。
米国は、医療の面では問題がありますが、少なくても公衆衛生については世界のトップです。公衆衛生は「国防」です。
つまり海外から、未知のウイルス、細菌が入ってきて、国内社会が混乱するのを避けるために、CDCを中心に公衆衛生に取り組んでいるわけです。WHOも結局は各国政府の寄り合い所帯であり、CDCなどの動きを見ている状況です。
しかし、日本には「国防」という発想がなく、公衆衛生の専門家が厚労省で指揮しているわけではありません。私は、ハンセン病とHIV感染、日本は過去二度も誤った感染症対策をしてきたと思っています。今回が三度目になる懸念を持っています。
――最後に、医療者に向けて今、注意すべき点などがあれば、お願いします。
今の厚労省の発表は、太平洋戦争時の「大本営発表」と同じ。「厚労省の言うことは信じるな」と言いたいくらいです。
医療者には知的レベルが高い人が多いですから、WHOやCDCなど海外のしかるべき機関から、正しい情報を直接入手していただきたいと思います。
そして、マスコミ、国民に正しい知識を持ってもらうよう、多くの医療者から情報発信をしていけば、今の状況が改善するのではないでしょうか。私自身も、様々な形で情報発信していきたいと考えています。
【コメント】
厚労省は省益、自民党政府は選挙を控えて「危機管理・できる感」の演出ということで、利益が一致しているが故に、英語圏のニューズさえ参照できず、諸外国の様子を知ることのできない大衆を操作しようというミエミエの状況です。
自民党の「国民政治協会」や、現役閣僚である二階国交相の献金の方が、よほど問題があるにもかかわらず、官僚組織に手を入れようとする小沢代表への国策捜査とマスコミ操作で、世論誘導して、なんとしても民主党政権を作らせまいとしている動きと完全に同根です。
こうしたファシズム的風潮に、市民は騙されコントロールされること無く、冷静かつ科学的に対応していただきたいものです。タミフルの備蓄や使用拡大を目論み、問題点(→参考)など無かったことにしたい勢力も暗躍していることは明らかです。
牛乳に含まれる細菌がクローン病の原因に [感染症]
英・リバプール大学臨床科学科のJon Rhodes教授らは、畜牛に疾患を引き起こすことが知られている細菌の1種がヒトのクローン病の原因となっている可能性があるとの知見を Gastroenterology(2007; 133: 1487-1498)に発表した。

