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ビタミンCサプリメントの服用が痛風の予防に役立つ [ビタミンC]

 米国国立衛生研究所(NIH)の協力で行われた、バンクーバー総合病院とブリティッシュコロンビア大学のHyon K. Choi, MD, DrPHらによる、ビタミンCの補充が痛風の予防に役立つ可能性があるという研究、"Vitamin C Intake and the Risk of Gout in Men: A Prospective Study"(「男性のビタミンC摂取と痛風リスク:前向き研究」)が、"Archives of Internal Medicine"[2009;169(5):502-507.]で報告された。


ABSTRACT
Background
Several metabolic studies and a recent double-blind, placebo-controlled, randomized trial have shown that higher vitamin C intake significantly reduces serum uric acid levels. Yet the relation with risk of gout is unknown.
Methods
We prospectively examined, from 1986 through 2006, relation between vitamin C intake and risk of incident gout in 46 994 male participants with no history of gout at baseline. We used a supplementary questionnaire to ascertain the American College of Rheumatology criteria for gout. Vitamin C intake was assessed every 4 years through validated questionnaires.
Results 
During the 20 years of follow-up, we documented 1317 confirmed incident cases of gout. Compared with men with vitamin C intake less than 250 mg/d, the multivariate relative risk (RR) of gout was 0.83 (95% confidence interval [CI], 0.71-0.97) for total vitamin C intake of 500 to 999 mg/d, 0.66 (0.52-0.86) for 1000 to 1499 mg/d, and 0.55 (0.38-0.80) for 1500 mg/d or greater (P < .001 for trend). The multivariate RR per 500-mg increase in total daily vitamin C intake was 0.83 (95% CI, 0.77-0.90). Compared with men who did not use supplemental vitamin C, the multivariate RR of gout was 0.66 (95% CI, 0.49-0.88) for supplemental vitamin C intake of 1000 to 1499 mg/d and 0.55 (0.36-0.86) for 1500 mg/d or greater (P < .001 for trend).



【背景】いくつかの代謝研究および最近の二重盲検プラセボ対照ランダム化試験で、ビタミンC摂取を増やせば血清尿酸レベルが有意に低下することが示されているが、痛風リスクとの関係は未知だとされている。

【方法】我々は、1986 - 2006年に、ベースライン時に痛風の既往がなかった46,994例の男性被験者のビタミンC摂取と偶発的に発生する痛風リスクとの関連の評価のために前向き研究を行った。米国リウマチ学会の痛風基準の確認に補足質問票を使用した上に、妥当性が証明された質問票を使用し、4年おきにビタミンC摂取量を調査した。

【結果】20年間にわたる追跡調査の期間中、偶発的な痛風症例が1317例確認された。ビタミンC摂取量が250mg/日未満の男性と比較して、ビタミンC総摂取量が500 - 999mg/日の男性の痛風の多変量相対リスク(RR)は0.83(95%信頼区間 [CI]・0.71 - 0.97)であった。ビタミンC摂取量が1000 - 1499mg/日の男性のRRは0.66(95% CI・0.52 - 0.86)で、1500mg/日以上の男性のRRは0.55(95% CI・0.38 - 0.80;傾向検定における有意確率 P<0.001)だった。1日あたり総ビタミンC摂取量500mgの増加に伴う、多変量RRは0.83(95% CI・0.77 - 0.90)だった。

 これらの関連は、食事に関連する痛風のリスクファクターや、他の痛風のリスクファクター(BMI・年齢・高血圧・利尿薬服用・飲酒、および慢性腎不全など)とは独立しており、BMI・飲酒・乳製品の摂取によって層化した各サブグループにおいて認められた。

 ビタミンCサプリメントを服用しなかった男性と比べて、1000 - 1499mg/日のビタミンCサプリメントを服用した男性の痛風の多変量RRは0.66(95% CI・0.49 - 0.88)で、1500mg/日以上では0.55(95% CI・0.36 - 0.86)だった(傾向検定における有意確率P<0.001)。


「ビタミンCの高摂取量と痛風の低リスクには独立した関連があり、ビタミンCサプリメントの服用が、痛風予防に有益である可能性がある」と著者らは述べている。本研究の限界には、食事の摂取について質問票によって自己報告したこと、観察研究のデザインであること、関節液中の尿酸結晶の観察によって痛風の診断を確認していないこと、および医療関係者に限定されているため、一般化の可能性が限られることが含まれる。

 米国国立衛生研究所(NIH)とTAP Pharmaceuticals社が本研究を部分的に支援したが、著者らは利害関係はないと発表している。


【コメント】
 かつては尿酸は痛風の原因物質として、単なる「悪玉」されていましたが、抗酸化物質に関する知見が一般化してきた今となっては、見方が百八十度変わったといっても過言ではありません。

 哺乳動物の血中尿酸値の高さと寿命が相関しているという知識が知られるようになりました。
 つまり、ビタミンC合成能力を失った人間は、ジャングルに暮らしていた頃は豊富な果物を利用してそれを補ってきた訳ですが、エデンであるアフリカのジャングルを出て、世界に広がってからは、のちに野菜となる植物などから摂取できない場合は、重度の場合、いわゆる壊血病という欠乏症状になります。これが船乗りに多発し、それがライム果汁やザワークラウトの摂取で予防できたことが、1932年の壊血病の原因発見につながりました。
 ただ、重度のものではないにせよ、現代人の場合、古典的な壊血病症状が発症するまでのことはないにせよ、野菜不足など食生活の偏りなどから、慢性的かつ軽度な欠乏状態にあるといえます。

 自分でビタミンC合成能力を持つ多くの動物は、ストレス環境によって、その合成量が5倍〜10倍のオーダーで変化する事が知られています。例えば、ネズミを回転車や水泳させるような高ストレス環境におくと、合成量が跳ね上がります。それはストレスホルモンであるコルチゾールの合成にもその代謝にもビタミンCが必要になるため、大量に消耗してしまうからです。このことは人間においても原理的には全く同様です。

 ストレスが過多であると、コルチゾール合成量が増えます。ナチュラルキラー細胞はコルチゾールのレセプターを持っています。従って、ストレスが過多な環境ではNK細胞が死んでしまい免疫力が低下しまうのです。新潟大の安保先生が「癌患者の多くは、近親者の死を初めとする大きなストレス環境の後で発癌することが多い」と仰るのは、そのような意味においてです。
 逆に言えば、ビタミンCを必要最低限量ではなく、オプチマルな量を摂取できていれば、発癌を抑制し、白血球の活動能や抗体産生や内因性インターフェロン合成能も活性化するので、免疫力が増強し、風邪やインフルエンザなどの感染症にも強くなるのです。

 しかるに、まだまだ古典的栄養学のパラダイムが支配している日本の一般医学の世界では、病態に応じて多めに補給するという発想に欠けています。多くの現代人が、職業的にも高ストレス環境におかれており、まだまだ喫煙者が多かったり、若者を中心に野菜不足に陥っていたりで、食餌から十分なビタミンCが得難い上に、摂取量が各自のストレス環境=個体差に応じた必要量を反映していない状況であるにも関わらずです。

 SODなどの活性酸素消去酵素を除けば、人間が自前で合成できる低分子抗酸化物質は、尿酸しかありません。人間の場合160〜450μMol/Lと、本来なら不要なはずの尿酸の値が上がっているのは、生体の合目的的な生産=適応の結果であるということが、その蓋然性から理解されるようになってきたのです。すなわち尿酸のスカベンジャー効果が比較的高かったからで、尿酸は食餌由来のビタミンC=外因性抗酸化物質が得られない際の代償性のスカベンジャー、すなわち人間が唯一自前で作りうる=内因性の低分子抗酸化物質としての役割があった訳です。

 冒頭にも書きましたように、人間の血中尿酸値は元来(針状)結晶化する限界値近くまで高いのが、他動物に比しての特徴なのです。ところで、高尿酸血症に関して言えば、ここにビタミンAが十分に摂取されていて、血中レチノール濃度が高いと結晶化が押さえられるという事実があります。従って、針状結晶化して、いわゆる痛風になっている場合には、Cの欠乏のみならず、これも「鳥目」という(ロドプシンに関わる)古典的欠乏症にまでには至っていないにせよ、オプチマルな摂取量からすればAの潜在的欠乏も疑われる訳です。
 これが中年以降の痛風患者さんの場合、そのA不足によって、免疫力の低下から風邪にかかりやすかったり、上皮細胞分裂に弱点を抱えている為に、医薬品の服用で胃が荒れやすかったり、いわゆる「魚の目」などの皮膚症状があったり、コンドロイチン硫酸合成が弱くて膝に弱みを抱えていたりといった症状が個体差によっては併存している可能性も高いでしょう。三石 巌はこのことを早くから指摘していました。師はビタミンCの不足に関わるカスケード理論を提唱していましたが、それはAにおいても全く同じ事が言えるはずだからです。

 またCが欠乏しているからには、尿酸だけではビタミンEの再生が効きにくいと思われるので、Eの潜在的欠乏がある可能性も高くなります。従って、総合的な食生活の正常化に留意しつつ、抗酸化ビタミン類のみならぬ、総合的なサプリメントの対症療法的服用が必要になってくるでしょう。農薬・除草剤を多用し、過肥料で連作される今時の野菜中のビタミン類は成分表の含有量などないことは自明だからです。

 もはや痛風・リウマチ専門医なら誰も肯定しませんが、かつては「プリン体」が尿酸の原因物質だからと、摂取を禁じ、「焼肉屋でビールなどもってのほか!」と無意味に食餌制限をしましたが、今や上の事情から、内因性で合成されるものであるが故に、肉にもビールにも原因を求めないのが常識です。  未だに普通の内科医や短大卒程度の栄養士レベルに残るような古い迷信に基づいた「プリン体カットビール」なる噴飯物で今なお商売させているのは、もはや犯罪といっても過言ではないでしょう。
 ちなみに、Dohertyが今年発表した論文「痛風の疫学的新知見」("New insights into the epidemiology of gout."[Rheumatology 2009;48 Suppl 2:ii2-ii8]




でも、「最近の研究では、食餌のリスクとしては肉食・果糖・ビールの多量摂取と痛風は相関しないとされており、コーヒー・低脂肪食・ビタミンC摂取はリスク低下と相関している」と、もはや常識として指摘されています。

ちなみに、拙ブログ過去記事「血中尿酸塩値が高いことがパーキンソン病のリスクに保護的に作用」も御覧下さい。

なお、ビタミンC一般に関しては、以下の一般書・専門書を参考にしてください。

村田 晃『新ビタミンCと健康―21世紀のヘルスケア』共立出版(1999)




ポーリング博士のビタミンC健康法』平凡社(1995)




Pauling & Cameron『Cancer and Vitamin C』(1993増補版)



木本 英治『l-アスコルビン酸カスケード』開成出版(1994)*木本 福岡大理学部名誉教授は今秋永眠されました。日本ビタミン学会の末席を汚す者として、先生のご逝去を悼み、学恩に感謝親します。

三羽信比古『ビタミンCの知られざる働き―生体への劇的な活性化メカニズム』丸善(1992)

三羽信比古『バイオ抗酸化剤プロビタミンC皮膚障害・ガン・老化の防御と実用化研究フレグランスジャーナル社(1999)



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【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】インフルエンザ騒ぎとタミフル問題[転載] [医療の相対化]

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版から、直近のインフルエンザ報道と、タミフル薬害と関連すると思われる分析を転載する。
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No126(09.8.18号)
 「新型」初の死者はタミフルの害では?
  腎不全で透析中ならタミフル蓄積⇒肺炎・多臓器不全併発の可能性大
    NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)  浜 六郎

 沖縄県で2009A/H1N1インフルエンザ(いわゆる新型)に感染した沖縄県宜野湾市の男性(57)が入院先の病院で死亡したとの報道があった。死者は初めてとのことである。

 報道によると、この男性は心筋梗塞の治療歴があり、慢性腎不全で人工透析を受けていた。9日午後から、のどの痛みなどの体調不良を訴えていた。10日に病院で透析を受けた際、37度台の発熱があり簡易検査を受け陰性だった。12日、透析中に39℃に上昇したため再度検査を受けたところインフルエンザA型陽性と判明。タミフルを投薬され、中部徳洲会病院(同県沖縄市)に入院したが、14日未明から容体が悪化し、15 日午前6時54分に死亡した。

 県が緊急に感染確認のための詳細(PCR)検査を行った結果、15日午後4時ごろ、新型インフルエンザに感染していたことが分かったという。

「新型インフルエンザに感染したことで肺炎を併発し、その後、敗血症を起こしたことが死因とみられ」たり、あるいは「心疾患や慢性腎不全の持病があり、免疫力が落ちている状態で新型インフルエンザに感染し、急速に容体が悪化した」との県の説明が報道されている。しかし果たして、「新型」によるといえるのか。

<厚生労働省が公表している透析患者の死亡例>
 ここで厚生労働省が公表している死亡例の1人(症例番号40)を紹介して、 タミフルが透析中の患者に使用された場合に、1回使用するだけでもいかに重大な結果が生じうるか解説する。

 54歳男性。高血圧の既往歴があり。糖尿病、糖尿病性網膜症、慢性腎不全および頚椎後縦じん帯骨化症で入院透析を行っていたが、全身状態は極めて不良であった。入院から約6週間後、インフルエンザと診断。
 翌日夕方、タミフル75mgを1回のみ服用(併用薬はアジスロマイシンとミノマイシン)。服用の数日後、下痢および全身倦怠感が出現し、肝機能障害が出現。下血を繰り返し尿毒症症状が悪化し、その後出血性十二指腸潰瘍で死亡した。

<透析患者では1日以上後に血中濃度が6倍に>
 通常の腎機能の人と透析中の人を比較すると、抗ウイルス作用を有する活性体タミフルの血中濃度の動きは著しく異なる。

 最高血中濃度に達する時間は、通常3〜4時間に対して、透析中の人は4時間以降もどんどん上昇を続け27時間かかってピークの濃度に達する。その結果、最高血中濃度は約6倍に達する。血中濃度が半分になる時間は、通常5.5時間に対して、透析中の人は159時間と極めて長い。
 透析をすれば5分の1の血中濃度に低下するのだが、透析しない場合には、もしも1日2回使用されたとすると、血中濃度は腎機能正常者の12倍の状態が持続することになる。

<活性体タミフルで腎障害、肺炎、出血、多臓器不全>
 健康人を対象にインフルエンザ予防に用いた臨床試験で、腎尿路系疾患が有意に増加しており、小児の臨床試験では使用終了後の肺炎が有意に増加していた。市販後にも肺炎や多臓器不全の例も多数報告されている。

 動物実験でも、腎障害や肺炎・出血も生じている。これは、脳を抑制した未変化体のタミフルではなく、抗ウイルス作用を有する活性体のタミフルが人のノイラミニダーゼを阻害した結果と考えられる。

<少なくともタミフルによる有害事象−徹底的に調査を>
 国は、国立感染症研究所で、死亡した男性の検体を用いてウイルスの変異の有無を確認するという。タミフルとの関係に触れている報道やコメントはないが、少なくともタミフル使用後2日以内に容態が悪化し2日余りで死亡したのであるから、死亡は、タミフルの有害事象として扱われなければならない

 さらに、上で指摘したように、因果関係についてかなり濃厚である。少なくとも、その可能性は否定できないはずである。害反応(副作用)として徹底的に検討が加えられなければならない。

元記事:http://www.npojip.org/sokuho/090818.html

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No127(09.8.22号)
  09年型インフルエンザでタミフルによる害の兆候が続々と
   日本で2人目の死亡者も透析をしていた
  3人目は、非ステロイド解熱剤の使用につき検証が必要
   メキシコ(入院重症者)でも、米国妊婦でも死亡の危険が増大
    NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)  浜 六郎

<日本で2人目の死亡者も透析をしていた>
 沖縄県で2009A/H1N1(いわゆる「新型」)インフルエンザに感染した男性に引き続き、 神戸市で2人目の死亡者が報道されましたが、この人も透析中でした。
 厚生労働省の発表によると、この人は70歳代の男性。肺気腫(肺から空気が出て行きにくいために呼吸困難になる病気)と 糖尿病があり、糖尿病による腎不全のために透析を受けていた。
 8月16日に38℃の発熱、息苦しさがあり、 17日に医療機関に受診し、検査でインフルエンザは陰性。 午後1時ころ状態不良のため紹介され別の病院に入院。 急性気管支炎による肺気腫の悪化と診断され、 迅速検査でA型インフルエンザ陽性であったために、 タミフルや抗生物質が使用された。
 18日午前6時20分、容態急変にて死亡。 死因は急性気管支炎による肺気腫の悪化とされた。 そして市で精密検査(PCR)をしたところ「新型インフルエンザ」が陽性との判定がでたとのことである。

 この方の場合は、タミフル服用からおそらく12時間前後で死亡しています。そして、容態が急変したのが午前6時20分とされていますが、詳細は不明です。急変に気づいたのが午前6時20分ということなら、それより前に睡眠中に死亡していた可能性はないのでしょうか気になります。いずれにしても、睡眠中に呼吸が抑制されて死亡したという可能性は否定できないのではないかと思われます。

 タミフルにより呼吸が抑制され突然死した可能性を考慮して、この点での徹底的な調査が必要でしょう。

 この人は、肺気腫、糖尿病、透析中というハイリスクの要因を3つ持っていたのですが、それにしてもA型インフルエンザと確認されて24時間以内での死亡というのは、インフルエンザだけによる死亡とするには余りにも早いのではないかと思われます。タミフルが関与していなかったかどうか、かなり強く疑われます。

<3人目は、非ステロイド解熱剤が使用されていなかったか検証を>
 3人目は、名古屋市の80歳代の女性です。 もともと多発性骨髄腫(骨髄のがん)と心不全があった方です。
 厚生労働省の発表によれば、8月13日39.5℃の発熱で入院。 15日咳がひどく状態がわるいので、個室に移る。
 17日簡易検査でA型インフルエンザ陽性。翌日精密検査(PCR)により 「新型」と判明。酸素吸入など実施したが、 19日深夜1時32分死亡。死因は重症肺炎とされた。

 この方の場合は、タミフルは使われなかったようですが、多発性骨髄腫ということですから、 この病気の一般的な治療として、ステロイド剤や抗がん剤が使用されていた可能性があります。 そこへ、39.5℃の発熱があったということですから、何らかの解熱剤が使われたでしょう。
 非ステロイド解熱剤が使われたなら、80歳を超えた高齢者ではしばしば、 尿が出なくなることがあります。もともと心不全もあったのですから、 2〜3日のうちに心不全が悪化して呼吸困難で死亡したという可能性があります。
 そうした経過がなかったのか、十分な検証が必要です。

<メキシコ(入院重症者)や米国妊婦でも死亡の危険が増大>は速報128号に掲載します。

 元記事:http://www.npojip.org/sokuho/090822.html
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No128(09.8.24号)
 タミフルによる害:米国妊婦、メキシコ重症者で死亡危険が増大
 日本でも重症者の多くがタミフル服用後に悪化
  NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)  浜 六郎

 日本で、いわゆる「新型」インフルエンザで死亡した人について、前回に報告しました。今回は、メキシコや米国妊婦の重症例で、タミフルの使用で死亡の危険が増大する可能性について検討した結果を報告したいと思います。

<米国妊婦で死亡の危険が増大傾向あり>
 最新の米国CDC(疾病コントロールセンター)の調査結果がランセット誌(Jamieson DJら、Lancet. 2009 Aug 8;374(9688):451-8)に掲載されました。
 4月14日から5月18日までの約1か月あまりの間にCDCに報告されたいわゆる「新形」インフルエンザに感染した妊婦は、確定例が31人、疑い例が3人でした。このうち1人が死亡。この妊婦は、重症化後にタミフルを服用しましたが死亡しました。タミフルを服用していたのは、34人の中17人(50%)でした。

 死亡例については、さらに1か月延長した期間について報告がされています。4月15日から6月16日までの約2か月間に、「新形」インフルエンザでの死亡した人は合計45人いました。そのうち妊婦の死亡が6人でした(先の妊婦34人中の死亡1にも含まれています)。

 その妊婦の死亡者全員にタミフルが使用されていたのです。
 この2か月間で何人の妊婦がいわゆる「新形」インフルエンザにかかったのか、タミフルを服用していなかった人は何人いたのかがわかれば、死亡とタミフルとの関連が検討できるので、その数をこの報告中にないかと探したのですが、報告されていませんでした。

 しかしながら、死亡者全員がタミフルを服用していたのですから、タミフルを服用しなかった妊婦で死亡者がいなかったことは確かです
 ところが、タミフルを服用しなかった妊婦で死亡した人はいなかったということについて、このCDC調査結果の中では、全く何も触れられていないのです。そこで、いろんなデータ(文末:注)を元に、その間の妊婦数とタミフル服用者数、タミフルを服用しなかった妊婦の数を推定してみました。
 あくまで推定ですが、タミフル服用者は74人中6人死亡、タミフル非服用者37人中死亡は0と推定されました。

 タミフルの服用は相当危険であるように見えます。

<メキシコの入院重症者でもタミフルで死亡増大傾向あり>
 もうひとつの最新の調査(Perez-Padilla Rら,New England Journal of Medicine,2009 Aug 13;361(7):680-9.)は、メキシコからのいわゆる「新型インフルエンザ」による重症患者の報告です。

 メキシコにおいて初期(4月)に重症化して入院した18人の調査結果が報告されました。

 タミフル使用者は14人いて、そのうち7人が死亡し、タミフルを飲まなかった4人は、死亡は0でした。
<タミフルは有意に死亡を増加させうる>
——米国妊婦とメキシコ重症例を総合すると——
 どちらの調査でも、タミフルを飲まずに死亡した人はおらず、死亡者はタミフルを飲んだ人ばかりでしたので、タミフルが死亡に関係している可能性が疑われます。ただ、個々に検討した結果では、統計学的には有意とはいえませんでした。

 しかし、両方の調査を総合して検討すると、タミフルは死亡を5.6倍増加させる危険性がありうると計算できました(統計学的方法は文末参照)。

<使用時期の問題ではない>
 メキシコの調査でも、妊婦の調査でも、インフルエンザが発症して数日から1週間以上もしてタミフルが用いられていたことがかなり強調されているように見えます。それならば、遅れての使用方法は止めればよいはずですが、CDCでは相変わらず、遅くに使ってもよいと言っています。

 メキシコの調査では、タミフルが使われた人の方がより重症だったという可能性がなくはありませんが、メキシコで入院した患者は全て重症者でしたし、そのようなコメントは、メキシコ調査の報告書には記載されていませんでした。

 妊婦の調査報告では、そもそも、タミフルを使用しなかった妊婦は死亡が0であったということに何も触れていません

<みなさん、冷静に判断しましょう>
「新型」との恐怖がばら撒かれる中で、WHOや米国CDCをはじめ世界中でタミフルがさも特効薬であるかのように捕らえられて、一般の方まで「タミフルがなければ」、「タミフルのおかげでよくなった」などと思い込まされているようです。

 しかし、冷静に、最新のデータを分析した結果、以上のように、タミフルがインフルエンザによる死亡を増大させる可能性を示すデータが続々と出てきているのです。

 そして、ようやく、軽症の人には不要、との考え方が出てきたようです。重症の人、ハイリスク者には危険で使えない、軽症の人には不要。それならば、全くタミフルは使い道がない、と判断してよいということになります。

 冷静に考えていただきたいと思います。

 日本の重症例(人工呼吸管理や脳症)については、No129

注:タミフル服用妊婦数、非服用妊婦数を推計する元になったデータ
 4月14日〜5月18日までに報告のあった妊婦の「新形」インフルエンザ罹患数34人、この間のインフルエンザ患者数全体の増加の程度(5469人から、17855人に増加)、タミフル服用率が、4月14日から4月30日までの発症者では20人中8人(40%)であり、5月1日から5月6日までの発症者では11人中8人(73%)であったというデータ。これらを考慮して計算した。

<詳しい統計学的な検討結果を知りたい方に>
 米国妊婦の調査と、メキシコ重症者の調査結果を総合して検討する方法には、メタ解析(meta-analysis)の手法を用いています(以下は、できるだけ一般の方にもわかりやすいように、平易に解説したつもりです)。

 死亡に対するタミフルの服用の危険度(Petoオッズ比)は5.6倍と計算できました(統計学的に有意:下図参照)。

 統計学的に有意というのは、オッズ比の95%信頼区間と、p値で表します。
2つの調査結果を併合したPetoオッズ比の95%信頼区間は 1.44-22.13でした。

 95%信頼区間の下限が1を超えると有意ですが、1.44とかなり超えています。また、やはり統計用語で、p値が0.05未満なら有意とふつう考えますが、 p値は0.013でした、やはり0.05よりかなり小さい値であり、有意です。

元記事:http://www.npojip.org/sokuho/090824.html
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No129(09.8.25号)
 タミフル:害の兆候は日本でも/重症例の多くがタミフル服用後に悪化
  NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)  浜 六郎

 いわゆる「新型」インフルエンザで、日本で死亡した人、メキシコの重症例、米国の妊婦について、前回までに報告してきました。

 今回は、日本で重症化して人工呼吸器を装着した人や、脳症/脳炎になったために報告された人についてみてみましょう。

 いわゆる「新型インフルエンザ」にかかって入院し人工呼吸器が装着された人や、脳症/脳炎になった人は、各自治体を通じて厚生労働省(厚労省)に届けられます。そうした例について、厚労省が「新形インフルエンザに関する報道発表資料」として公表しています。その情報に基づいて検討してみました。

 8月4日から、20日までに死亡した3人以外に、いわゆる「新形」インフルエンザから重症化して人工呼吸器が装着された人や、脳症や脳炎になった人が合計11人報告されています。脳症/脳炎の2人は人工呼吸管理をすることなく経過しましたが、他の9人は人工呼吸管理されました。11人中4人がタミフルを服用したことが報告書に記載されています。その人たちについて示しておきましょう。

 まとめると、タミフルを服用したことがはっきりしている人は全員、服用後に悪化しています。このことからタミフルの関与が強く疑われます。また、タミフル服用の記載がない人では、解熱剤やけいれんを誘発する薬剤が重症化に関与していることが大いに疑われました。

<タミフル服用後,意味不明の言動、見当識障害>
8月4日発表:5歳男児。基礎疾患はなし。
>7月30日39.5℃発熱、嘔気、嘔吐、頭痛があり、31日、近くのA医院を
>受診。髄膜炎疑いで解熱剤の処方を受けたが40℃が持続し、8月1日に再
>度A医院を受診。インフルエンザA型と診断され、B病院に入院し、タミ
>フルドライシロップが使用された。CT検査では異常なかったが、夜から
>意味不明の言動、見当識障害(自分が誰か、どこにいるのか、状況の判断
>ができない状態)があり、8月3日朝、タミフルは中止。MRIで「脳炎」の
>所見が認められたが、頭痛、嘔気、嘔吐なし。精密検査(PCR法)で「新
>型インフルエンザ」の「陽性」が確定した。4日、脳炎症状は残存するも
>のの、解熱(37.2℃)し、食欲あり、回復の方向にあった。

(浜コメント)
 解熱剤使用後かえって熱が上昇し、重症化して入院しています。インフルエンザやかぜから脳症になり重症化する最大の原因はイブプロフェンなど非ステロイド抗炎症剤系の解熱剤(非ステロイド解熱剤)です(「くすりで脳症にならないために」参照)。
 以前よく用いられていたボルタレンやポンタールはさすがに最近は使われていないと思われますが、イブプロフェンはまだ医療機関では処方されることがあります。非ステロイド解熱剤が用いられていなかったか検証が必要でしょう。

 また、入院し、タミフルを使用後に、「意味不明の言動、見当識障害」など精神神経症状が出現しています。MRIで「脳炎」所見が認められたといっても、「頭痛や嘔気、嘔吐」などの症状はなかったのです。タミフルで、精神神経症状が出現した可能性が高いでしょう。非ステロイド解熱剤が使用されていたなら40℃の高熱と重症化にも関係していた可能性がありえます。

<タミフル開始後、無気肺悪化、呼吸状態悪化>
8月5日発表:6歳男児。基礎疾患はないが、乳児喘息の既往あり
>7月25日咳。26日38℃の発熱で近医(A)受診。左の無気肺を認めたた
>めA医療機関に入院。抗菌剤開始。 27日迅速検査陽性A型インフルエンザ
>タミフルを開始。無気肺により呼吸状態が悪化したため気管内挿管。人工
>呼吸、酸素吸入。B病院に転院。28日精密検査(PCR法)で「新型インフ
>ルエンザ」確定。30日抜管し、人工呼吸中止。その後回復し8月5日退院
>した。

(浜コメント)
 乳児喘息の既往があるとのこと。インフルエンザで気管支の炎症が起きて粘稠な痰がたまると、気管支の一部が閉塞して無気肺になり呼吸困難を呈することがあります。

 タミフル服用後に睡眠中に呼吸が抑制されて突然死した幼児や成人が少なくありません。その上、無気肺で呼吸の一部が障害されていれば、タミフル服用で呼吸が抑制され、より強い呼吸困難が生じて低酸素状態になり、人工呼吸管理が必要になった可能性は十分ありうると考えられます。

<タミフル開始後人工呼吸管理開始>
8月13日発表:29歳男性
基礎疾患のためにもともと気管切開がなされており、人工呼吸器の使用歴のある人である(ただし基礎疾患の詳細は不明)。8月10日、39.2℃発熱。迅速検査でA型インフルエンザが判明。タミフルが開始された。その後(時間は不明だが)、人工呼吸器の使用を開始した。11日PCR法実施し、12日「新型」と確定。38.3℃。13日37℃。人工呼吸器は使用しているが状態安定。

(浜コメント)
 もともと気管切開がなされ、人工呼吸管理がされたことがあるということですが、インフルエンザ罹患前には人工呼吸管理はされていませんでした。

 それが、タミフルが開始されてから、おそらくは半日以内に人工呼吸管理が必要となったのです。気管切開がされることになった元の病気は不明ですが、神経系あるいは筋肉疾患である可能性が高いでしょう(筋萎縮性側索硬化症など)。すると、タミフルによる呼吸中枢の抑制作用が、そうでない人よりも強く作用します。

 したがって、この人の場合も、タミフル服用後に、脳が麻痺して呼吸する力が弱くなり人工呼吸管理が必要になった可能性が高いと考えられます。

<タミフル開始翌朝、意識障害、血圧低下、呼吸障害>
8月17日発表:40歳男性
>もともと、慢性硬膜下血腫による両下肢機能全廃のため身体障害1級の人
>である。8月14日、午前中にA施設内(入所中)で40.2℃の発熱があり、
>簡易検査でA型インフルエンザ陽性であった。タミフルを服用し経過を観」
>察。翌日(15日)朝に、意識障害、血圧低下、呼吸障害のため、市内のB
>医療機関に入院。肺炎の合併があり、人工呼吸管理をし、ICUに入室。精
>密検査(PCR法)で「新型インフルエンザ」と確定。17日午後2時現在
>解熱、回復傾向あるが、なお人工呼吸管理は継続中。

(浜コメント)
14日のタミフル服用開始から、翌朝の意識障害、血圧低下、呼吸障害まで、24時間を要していません。非常に短時間の間に急変しています。タミフルは午前に1回と夜に1回服用した可能性があるでしょう。したがってその翌朝の急変は大いに関連があると考えるべきでしょう。

 通常でも夜間睡眠中は呼吸が抑制されやすいので、まして、慢性硬膜下血腫による両下肢機能全廃があるのですから、呼吸筋の機能にも障害があるかもしれません。それなら、なおさら呼吸停止は起きやすいでしょう。

 以上、タミフル使用が明瞭に記載されている重症の4人と死亡した2人は、少なくとも重症化にタミフルが関与した可能性が高いのではないかと考えられました。

 なお、14人中1人(死亡した80歳代の女性)がタミフルを使用していなかったことがはっきりしていますが、あとの7人は、タミフルの服用状況は不明でした。タミフル使用が記載されていなかった8人中6人は、非ステロイド抗炎症剤が解熱剤として用いられていたなら重症化に関与した可能性があると考えられました(このうち一人は他のけいれん誘発性の薬剤の関与もありえますが)。

 また、症状の経過から、4人(うち2人には非ステロイド解熱剤も関与か)は、もしもタミフルが用いられていれば、タミフルが関与した可能性があると思われました。

 結局、純粋にインフルエンザだけで重症化したといえる例は、ほとんどないのではないかと思われました。この点からも、十分な検証が必要です。

 再度申し上げたいと思います。「新型」との恐怖がばら撒かれる中で、WHOや米国CDCをはじめ世界中でタミフルが、さも特効薬であるかのように言われ、捕らえられて、一般の方まで「タミフルがなければ」「タミフルのおかげでよくなった」などと思い込まされているようです。

 しかし、冷静に、最新のデータを分析した結果、以上のように、タミフルが、ハイリスクの人ほど、インフルエンザによる死亡を増大させている可能性を示していますそれを示すデータが続々と出てきています。

 そして、ようやく、軽症の人には不要、との考え方が出てきたようです。しかしよく考えてみて下さい。
 重症の人、ハイリスク者には危険で使えない、軽症の人には不要。それならば、全くタミフルは使い道がない、と判断してよいということになりませんか。


みなさん、冷静に判断しましょう
追記:
 この報告を書き上げてから、4人の重症者(人工呼吸管理例)が報告されました。神奈川県からの1人と、沖縄県からの3人です。
 そのうち3人はタミフルや解熱剤の使用の有無は不明でしたが、1人にはタミフルが使用されていました。

 タミフルが使用されていたのは40歳代の女性です。39℃の発熱で近医を受診し4日後に症状が改善せず受診したところ肺炎疑いで入院、急速に悪化し、転院後人工呼吸管理がされて、その後にインフルエンザA型が判明したためにタミフルが使用されたというものです。39℃の発熱で近医を受診し4日後に急速に症状が悪化するまでには、非ステロイド解熱剤が使用された可能性が高いのではないかと疑われます。

 また、タミフルが使用されたときには、すでに人工呼吸管理がされていていましたので、たとえタミフルで呼吸抑制が起きても、影響がでることはありません。

元記事:http://www.npojip.org/sokuho/090825.html

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糖尿病ネコへのインスリン治療・関連論文 [糖尿病]

 過去記事「[拙訳]ランタス[=グラルギン]の糖尿病ネコに対する使い方」ですが、記事発表後も相変わらずアクセスが多いので、若干の訳文の変更に加えて、この翻訳文中に、私が割注して紹介した論文のアブストラクトと、ついでに関連する論文のアブストラクトもこちらに翻訳紹介しておきます。過去記事からリンクで来られた方には説明は不要でしょうが、こちらの記事にネットサーフ中にダイレクトに来られた方は、上の元記事も宜しければご参照ください。

 2005年のACVIMフォーラムで口頭発表され、翌年にこの"Use of Glargine and Lente Insulins in Cats with Diabetes Mellitus"という論文となった。タフツ大・獣医学部のKelli E. Weaver(あの「ER」のケリー・ウィーバーではないよなぁ。笑)が筆頭著者。

Journal of Veterinary Internal Medicine
"Use of Glargine and Lente Insulins in Cats with Diabetes Mellitus" (J Vet Intern Med 2006;20(2):234-238
「糖尿病ネコへのグラルギンおよびレントインスリンの使用」
ABSTRACT
 The goals of this study were to compare the efficacy of once-daily administered Glargine insulin to twice-daily administered Lente insulin in cats with diabetes mellitus and to describe the use of a high-protein, low-carbohydrate diet designed for the management of diabetes mellitus in cats. All cats with naturally occurring diabetes mellitus were eligible for inclusion. Baseline testing included a physical examination, serum biochemistry, urinalysis and urine culture, serum thyroxine concentration, and serum fructosamine concentration. All cats were fed the high-protein, low-carbohydrate diet exclusively. Cats were randomized to receive either 0.5 U/kg Lente insulin q12h or 0.5 U/kg Glargine insulin q24h. Re-evaluations were performed on all cats at weeks 1, 2, 4, 8, and 12, and included an assessment of clinical signs, physical examination, 16-hour blood glucose curve, and serum fructosamine concentrations. Thirteen cats completed the study (Lente, n = 7, Glargine, n = 6). There was significant improvement in serum fructosamine and glucose concentrations in all cats but there was no significant difference between the 2 insulin groups. Four of the 13 cats were in complete remission by the end of the study period (Lente, n = 3; Glargine, n = 1). The results of the study support the use of once-daily insulin Glargine or twice-daily Lente insulin in combination with a high-protein, low-carbohydrate diet for treatment of feline diabetes mellitus.

[アブストラクト:Catsduke訳]
 本研究の目的は、糖尿病ネコに対するグラルギンの1日1回注射とレントインスリンの1日2回注射の有効性の比較と、糖尿病の管理のためにデザインされた高タンパク+低炭水化物食について説明することであった。本研究に用いた全てのネコは自然発生糖尿病で、試験に用いるには好適であった。ベースライン調査には、身体的診察・血清生化学検査・尿検査・尿培養・血清チロキシン濃度・血清フルクトサミン濃度が含まれていた。全てのネコは高タンパク+低炭水化物食だけを与えられていた。その後、ネコたちはくじ引きで、レントインスリン0.5 U/kg・1日2回投与群か、グラルギン0.5 U/kg・1日1回投与群に割り付けられた。再評価は全てのネコに対して、1・2・4・8・12週に行われ、臨床的兆候・身体的診察・16時間血糖値曲線・血清フルクトサミン濃度が評価項目として含まれていた。試験を終了したのは13匹のネコ(レント群=7、グラルギン群=6)で、全ネコにおいて血清フルクトサミン値と血糖値の優位な改善がもたらされた。しかし使用した両インスリン間においては、統計的優位差はなかった。13匹中4匹が試験期間終了までに寛解した(レント群=3、グラルギン群=1)。本研究の結果は、糖尿病ネコの治療には、食餌を高タンパク+低炭水化物のものにした上で、グラルギンを1日1回注射することか、レントインスリンを1日2回注射することが望ましいことを支持している。

 以上を踏まえて、クイーンランド大の論文では、自分たちの知見として「グラルギンSIDはレントインスリンのBIDと同等」→「グラルギンBIDの方がよりコントロールが良好」と述べているのだと思われると過去記事でコメントした訳です。

 さて、同誌の最新号には、次の論文も掲載されているので、ついでにアブストラクトを訳出しておきます(Published Online: 26 Jun 2009)。カリフォルニア大・獣医学部のR.W. Nelsonと、IDEXXのK. HenleyとC. Coleの他は、PZIR Clinical Study Group(PZIRのネコ糖尿病治療薬としての使用承認をFDAから得るため組織された研究者=獣医師グループ)による論文です。
 
"Field Safety and Efficacy of Protamine Zinc Recombinant Human Insulin for Treatment of Diabetes Mellitus in Cats" (J Vet Intern Med 2009;23(4):787-793
「プロタミン亜鉛遺伝子組換えヒトインスリンの糖尿病ネコ治療への使用に対する市場安全性と有効性」
ABSTRACT
Background: This study describes the efficacy of a new protamine zinc recombinant human insulin (PZIR) preparation for treating diabetic cats.
Objective: To evaluate effects of PZIR on control of glycemia in cats with newly diagnosed or poorly controlled diabetes mellitus.
Animals: One hundred and thirty-three diabetic cats 120 newly diagnosed and 13 previously treated.
Methods: Prospective, uncontrolled clinical trial. Cats were treated with PZIR twice daily for 45 days. Control of glycemia was assessed on days 7, 14, 30, and 45 by evaluation of change in water consumption, frequency of urination, appetite, and body weight, serum fructosamine concentration, and blood glucose concentrations determined 1, 3, 5, 7, and 9 hours after administration of PZIR. Adjustments in dosage of PZIR were made as needed to control glycemia.
Results: PZIR administration resulted in a significant decrease in 9-hour mean blood glucose (199 ± 114 versus 417 ± 83 mg/dL, X± SD, P < .001) and serum fructosamine (375 ± 117 versus 505 ± 96 μmol/L, P < .001) concentration and a significant increase in mean body weight (5.9 ± 1.4 versus 5.4 ± 1.5 kg, P= .017) in 133 diabetic cats at day 45 compared with day 0, respectively. By day 45, polyuria and polydipsia had improved in 79% (105 of 133), 89% (118 of 133) had a good body condition, and 9-hour mean blood glucose concentration, serum fructosamine concentration, or both had improved in 84% (112 of 133) of the cats compared with day 0. Hypoglycemia (<80 mg/dL) was identified in 151 of 678, 9-hour serial blood glucose determinations and in 85 of 133 diabetic cats. Hypoglycemia causing clinical signs was confirmed in 2 diabetic cats.
Conclusions and Clinical Relevance: PZIR is effective for controlling glycemia in diabetic cats and can be used as an initial treatment or as an alternative treatment in diabetic cats that do not respond to treatment with other insulin preparations.


[アブストラクト:Cattsduke訳]
【背景】:本研究は新しいプロタミン亜鉛遺伝子組換えヒトインスリン (PZIR) 製剤の糖尿病ネコ治療に対する有効性を説明するものである。
【目的】:新たに糖尿病と診断されたネコまたはコントロール不良のネコの糖血症のコントロールに対するPZIRの効果を評価すること。
【患者】:133匹の糖尿病ネコで、うち120匹は新たに糖尿病と診断されたネコで、残り13匹はすでに治療を受けているネコであった。
【方法】:前向き・非対照臨床試験。ネコはPZIRを1日2回、45日間注射された。糖血症のコントロールは、7日め・14日め・30日め・45日めに評価され、項目は水分消費・尿回数・食欲・体重・血清フルクトサミン濃度・血糖値曲線(PZIR投与後1・3・5・7・9時間後に測定)であった。PZIR投与量の調整は糖血症のコントロールの必要に応じて行われた。
【結果】:PZIRの投与は、9時間後の血糖値の平均 (199 ± 114 versus 417 ± 83 mg/dL, X± SD, P < .001) と、血清フルクトサミン濃度 (375 ± 117 versus 505 ± 96 μmol/L, P < .001) が有意に低下しており、133匹の45日めの体重の平均値 は開始日と比べて(5.9 ± 1.4 versus 5.4 ± 1.5 kg, P= .017) 全員が有意に増加していた。45日めの時点で多尿と多飲はそれぞれ79% (105 of 133)・89% (118 of 133) と改善していた。また試験開始日と比べて、9時間後の血糖値平均、血清フルクトサミン濃度、あるいはその両方が改善したネコは84% (112 of 133) だった。低血糖 (<80 mg/dL) は、9時間後までの連続した血糖値測定回数のうち678回中に151回見られ、糖尿病ネコ133匹中では85匹に見られた。うち、低血糖の臨床的兆候を示したネコは2匹だった。
【結論と臨床的意義】:PZIRは糖尿病ネコの糖血症のコントロールに有効であり、初期治療薬として、また、他のインスリン製剤での治療に反応しない糖尿病ネコに対する代替薬として使用し得る。

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ホメオパシーの誤りーー「未科学」と「非科学」の混同 [代替療法]


 私は、代替医療関連3学会の学会員になったが、残念ながらホメオパシーの有効性を示すものは、ほとんど存在しないというシンプルな事実がある。すなわち、ホメオパシーにはプラセボ二重盲検法で効果有りとする結果は皆無に近いのだ。ということは、仮に効果があったにしても、論理的には、最高でもプラセボと同等であることになる----即ちホメオパシーは「プラセボ」に過ぎないということなのだ。
 
 ヨーロッパの医大で自然療法として扱っているにせよ、ハーブ療法のように生化学的基礎の有るものとしてより、従って、プラセボの要素が強いものとして利用されていると思われるのだ。
 例えば、英国ではヒーラーの手かざしにさえ保険が効くが、ヒーラーは国家登録制だ。怪しげな新興宗教の人間でない者による心理的癒しで治ってもらえば、長期の薬物治療より安く上がるから許可しているという現実主義を感じる。ホメオパシーの扱いもその程度のものではないのか。

 というのも、レメディも「無限小」の原則で希釈作製されれば、モル数なら分子数0=法律的には「乳糖錠」で、化学物質として、標的器官・部位に化学変化に基づく正作用を与え得ぬ以上、副作用も起こり得ず、安全だから認めているだけで、患者が治り、医療費抑制につながり得るなら「方便」として何でも使う欧州の歴史に根ざした強かさを感じるからである。

 ところで、その基本原理である「ダイナマイゼシション(振盪)で<水に薬剤の記憶を与える>ことによって希釈しても元の物質の<情報>は保存されるが、薬品としての濃度は下がるので副作用は無くなる」という主張はトンデモな戯言であり、水素結合による水のクラスター化から、水が情報を保存できるという考えは、「πウォーター」というイカサマ高価格水の論理にも通ずるが、物理学では水のクラスター理論は70年代に終わった理論だという。平熱でさえ1兆分の1秒で転位する水の分子の早さからは、いかなる情報も保存しえないのは自明だ。

 ましてや、ホメオパシーとは直接関係ないが、水の結晶に「愛」とか「健康」と言葉かけをして、綺麗な結晶になるような水を飲めば健康になるなどといった世迷い言を信じる馬鹿どもは、小学校の時に中谷宇吉郎の「雪の結晶」の話も読んだことのない理科離れ世代に決まっているのだろうが、あまりのレベルの低さに言葉もないほどである。

写真上:雪の(正確には水の)結晶の写真。
この形になるのは水素結合や「自己組織化」の問題で、なにも愛のせいではない(笑)。雪印乳業は愛が無いから古い牛乳を日向で混ぜて再利用し食中毒を出し、メグミルクになったのだ(爆)。

 ちなみに「波動」という言葉を安易に使う輩は、どうせ物理学でいう「波動」を理解してはいないのだろうが、それだけでインチキの証拠になるので、一般の方々は「波動」=眉唾という試金石として使われるとよいだろう。

 閑話休題。結局「濃度が低い方が効く」というホメオパシーの原則は、彼らの言うアロパシーたる現代医学で、医薬品一般が、中毒域以下の濃度で薬物として作用するため、濃度によって正に「毒にも薬にもなる」という事実からの、類推による原始人的なまでの拡大解釈であり、従って、実のところ、ホメオパシーは所詮アロパシーの陰画[ネガ]に過ぎないのだ。

 例えば、ヒ素は中毒を起こすが「薄めて」医薬品とすれば抗白血病薬となり得るし、中毒症状と白血病の症状に類似点が有るからといって、ヒ素のレメディが両方を治せるというような考えは単なる思いつきで、実際は大半の化合物において、こうした類似性が見られることは皆無に近い。

 そもそも、たかだか200年かそこらの歴史しか持たないホメオパシー(1790年に彼は英国の医師カレンWilliam Cullen著『Materia medica, 1789』を独訳中にヒントを得てホメオパシーを創始し学校を開いた)が、漢方やアーユルヴェーダに勝てる訳がない。その原理が正しければ、ハーネマンという一個人が発見する前に、彼が観察し得た程度の薬理現象[があったとして]と人間の反応との相関関係は数千年前から中国やインドで発見され検証され体系化されていた筈だからだ。
写真(ハーネマンの切手。1955年西ドイツ発行)

 かつて、設立当初のある代替医療系学会のサテライト会場で、ホメオパシーを用いた難治性のアレルギー治療の発表が有った。O ・S病院というホリスティック医学の有名病院に所属する若い女医であった。漢方が奏功しないからホメオパシーで治療したとのことだった。

 私は「あれっ、O先生は中西医結合を謳い文句に、難治性の癌の治療に漢方を用い、院内の道場でも気功を指導しているほどで、自身も中国に学んだはず。中国からも交換研修の医師も来ていたはず。それが漢方でアトピー程度が治せないとは? EPAなどのことも知っているはずだし、食餌のコントロールと合わせても治せるはずだが? それに<総力戦>とか統合医療というと聞こえは良いが、なぜ似て非なるホメオパシーなんか病院で始めたのかな。全く原理が相互に異なるのに、漢方薬をホメオパシー的に使って薬物資源の節約を、とかいうアホな本があったが、まさかあの馬鹿薬剤師の悪影響ではあるまいな?(笑)」という疑問を持って会場に行って発表を聞いた。

 発表はひどいものだった。すかさずフロアから質問した。「漢方で効かなかったということですが、院内で漢方治療を担当した医師の弁証論治はどうだったのですか。O・S病院でしたら中医学ですよね? 投薬の経過は? どうダメだったから、ホメオパシーの適応だとして切り替わったのですか?」会場には漢方・鍼灸の実践家ばかりが集っていたので、この質問には多くの方々がうなずいていた。

 「え〜、漢方に詳しくないので、その点で引き継ぎをしていませんからよく判りません」…会場の一部失笑。

 私は続いて「……(驚きで二の句が継げず)……え〜、通常、アメリカの自然医療系の治療では、アトピーの治療をする時には、広範なアレルゲンチェックをしますよね。それはハウスダストのチェックというレベルに留まらず、多くの食べ物のチェックは常識ですよね。嗜好品も一旦全て中断して症状が出現・増悪するかどうかで帰納的にしらみつぶしにチェックしますね。その時、大好物が意外にアレルゲンであるケースも多いですよね。この症例の女性は、偏食の傾向がありますが、嗜好品の中にチョコレートが有りますね。これは自然医療系では最も疑われるものの一つですよね。例えば、これを止めさせてチェックするといった形で検査はされましたか?」

「え〜、特にそういうチェックはやってません」…会場の相当数の苦笑。

 ホリスティックを謳い、ホメオパシーを推進しようという代表的病院でこの有り様である。本人の不勉強は明らかだが、本山でこれなら指導しているO先生のレベルもこれで知れた訳である。漢方治療も、こうなると中医学的弁証がきちんと行われていたかどうかも怪しい。日本漢方的病名処方+食餌のコントロールも無しで(ω6優位)炎症体質を放置していたようである。それは治らんわなぁ。

 しかも、ここの食養は「粗食のすすめ」の、あの御仁ではないか。確かに、日本を初めとする伝統的食生活には多くの科学的な叡智が背景にあるし、西洋的食生活中心の偏食に基づく失調には粗食も結構だろうが、代謝回転に基づくタンパク質の損失は不可避的かつ絶対的なものである。
 むろん、病態も考慮せねばならないが、例えば、健常者でも完全タンパク質(人肉。笑)換算で体重の1/1000を毎日得られなければ縮小再生産に陥ってしまうのだ。
 21世紀になってさえ病院食が、病態も個体差も無視した非科学的=原始的なカロリー一元主義なのも問題だが、現代栄養学の最新の成果を無視するのは明らかに誤っている。

 ともあれ、その時はそれ以上追いつめる質問はしなかったが、ここまでの私の質問で、会場の参加者は主として東洋医学系および自然医療系の医師や実践家なので、全てを理解されたようであった。多くの出版物の割に、総本山に近いこの医師の所属する病院がネット上で意外に評判が悪いのは何となく分かるような気がした。

 コンピュータ版の「マテリア・メディカ」と首っ引きでの当てづっぽう処方を、いくら分子数ゼロで副作用もないからといって(プラセボの持つ副作用と同程度にはあるだろうが)治療に用いるのは、医学的にメリットが有るとは思えない。

 患者はこの間、不適切な治療(=無治療)を受けていた訳だから、まともな漢方クリニックであれば治っていたかも知れないし、何より、東洋医学の力を借りずとも、大学病院とまでは言わないが、まともな皮膚科でなら治っていた可能性さえある。
 仮にホメオパシーという怪しい代物を治療に使うというなら、西洋医学を修めている人間でありつつ、加えて、せめて海外のホメオパシーの大学や専門学校に留学・卒業したくらいの力量で初めて使うくらいの責任性があるだろうが。
 この程度のレベルで実地治療に用いるとは、東京女子医大の連中の無経験オペと変わらない無責任さではないか。良心のかけらもなく、患者をマテリアルとして用いている。医療倫理的にも問題がある。

 医師免許を持つものが、生化学的・分子医学的基礎が全く無いものを平気で用いるということは許せない。未科学と非科学とは違うのだ。

 漢方薬の多くの作用機序は、証を合わせて投与すれば経験的にはよく効く事が判っていても、かつては分析技術の未熟から不明だったものが有る。大黄が止瀉・緩下の相反する両作用を持ったり、柴胡の代謝物が多すぎてどれが薬効成分なのか同定できなかったりといったことである(もちろん今では判明している。前者は腸内細菌フローラの状態が、後者は肝での薬物代謝が関わっていたのだ)。
 その当時は西洋医学=科学的分析で科学的説明ができなかった。帰納的には治療できるという事実はあったが、演繹的には西洋医学的理論では説明の範疇外だったわけである。

 ただし、この状態は「未科学」であるが、「非科学」的ではないのである。

 というのも、投薬治療と薬効=治癒との間には明らかに因果関係は存在するからだ。ただ、それを説明する方途が未発見なだけだからで、観察・観測・測定手段が発見されれば、一挙に解決して、説明可能になる可能性が常に有る。科学者は謙虚であるべきなので、こうした場合、説明できないものを直ちに否定はしない。なぜなら、そういう態度こそがむしろ非科学的だからだ。

 ところが、水のクラスターが転移の早さ故に同位置を保ちえない=何ら情報を蓄えられないという事実は、いわば高校化学のブラウン運動と同じ原理に起因している訳だから、それが否定されることは有り得ないほどのベーシックな原理に基づいている。絶対零度以外の分子は必ず熱運動しているからだ。よって、水が液体であるという理由によって、溶けていた物質の形を10のマイナス12乗秒を超えて記憶するような性質は水には存在しないのだ。

 にもかかわらず、人体=36.5度という環境下で、さらに加えて、何か特異な状況下において構造化するとして、しかもそれがモル数ゼロにもかかわらず薬理効果を持つように、人体中の一種のレセプターおよび何らかの「翻訳機構」を通して生体秩序を回復する、というように、ここには何重にも無理が有るのだ。レセプター1つとっても、化学物質の濃度依存性なのだから。

 従って、ホメオパシーの原理を正しく有らしめるには、この原理を否定した、全く別の理論体系で、一から物理化学を組立てるしか有りえなくなる(実は、更に困難なことに生化学・免疫学を含む生体メカニズム自体もそれが作用するようなシステムに総取っ換えせねばならぬという信じ難い困難さまで生じてくる筈なのだが、本稿ではそこはネグることとする)。
 というのも、科学理論の進化=パラダイムチェンジのあり方からすれば、ホメオパシーのような無茶な理論を包摂した、上位互換性のある物理学体系を作る訳にはいかないからである。

 ところが、それは残念ながら不可能だろう。熱力学の基礎がひっくり返れば、いわばこの宇宙が存在しなくなる。だがこの宇宙は歴然と存在している。それはとりもなおさずホメオパシー理論が誤っている証左である。
 つまり「ホメオパシーの原理を可能にする何かがまだ発見されていないだけだ」という理屈は成り立たない訳だ。
 ここまでの説明の論理展開が判らない者は、そもそも科学が何であるかが判っていない。科学が何であるかが判っていない者が「ホメオパシーは[現代]科学では説明できないが真実だ」と言えるはずはないのは自明だろう(笑)。
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【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】新型インフルエンザでパンデミックは起きない。 [感染症]

NPO法人医薬ビジランスセンター浜 六郎所長が「新型インフルエンザでパンデミックは起きるか?」というタイトルで、「診断と治療」09年3月号に掲載された論文に解説を加えた記事を掲載されています。

以下、その記事を引用・紹介します。オリジナルの全文ならびに、その他の関連記事を参照されたい方は、医薬ビジランスセンター http://www.npojip.org でご参照ください。なお、下線・色字の強調はCatsdukeによるものです
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No118(09.05.14号)

 新たなウイルスによるインフルエンザの流行がパンデミック直前の状態だと、世界中で大騒ぎになり、特に日本の水際防止という名の厳戒態勢ぶりは異様ともいえます。

 今回のA型H1N1インフルエンザは、豚由来インフルエンザA/H1N1(Swine-origin influenza A/H1N1:S-OIV)とされていますが、全くの新型とすると矛盾する現象があり、未確定であることから、NPO法人医薬ビジランスセンターでは、これを「2009A/H1N1」と呼ぶことにしています。

 インフルエンザや普通のかぜでさえ、非ステロイド抗炎症剤でライ症候群や脳症から多臓器不全を起こして死亡する例が少なくありませんまた、タミフルによる突然死や異常行動、統合失調症を思わせる重大な精神障害がタミフルを予防に使用しても生じていますが、なぜか今回の流行に際して、非ステロイド抗炎症剤の害や、タミフルの害が全く議論になっていません

 2009A/H1N1の流行に関しては、近日中に別に論じたいと思います。今回はとりあえず、「新型インフルエンザの世界的流行、パンデミックは本当にくるのか?」というテーマで本年3月に書いた論文(「診断と治療」2009年3月号:pdf版)を紹介しておきたいと思います。

結論は、
「鳥インフルエンザウイルスから変異した新型インフルエンザウイルスでパンデミックが起きるとは思えない。万が一流行したとしても、今の日本で、メディアで騒がれているような1918年のスペインかぜの時ほど多数が死亡することはあり得ない」
です。

ただし前提があります。
 1.非ステロイド抗炎症剤を解熱剤として使用しないこと、
 2.タミフルを使用しないこと、
 3.実験室から、高病原性遺伝子を組み込み豚に接種したヒトインフルエンザウイルスが一般社会に持ち出されないこと。
です。

 ウイルスの培養やワクチン製造に使われる鶏卵の中で、偶然出来上がった人為ミスの可能性が報道されています

 実際その可能性もあります。しかし、NPO法人医薬ビジランスセンターでは、「診断と治療」09年3月号ですでに論じたように、むしろさらに積極的に、高病原性遺伝子をヒト型インフルエンザウイルスに組み込み、ブタに接種する実験が米国中心になされていることを重視しています。このため、人為的に確実に高病原性を獲得させたヒト型インフルエンザウイルスが実験室から一般社会に出る可能性があると考えています

 以下、「診断と治療」2009年3月号を、出版社の許可を得て転載します。
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新型インフルエンザでパンデミックは起きるか?
 NPO法人医薬ビジランスセンター 浜 六郎

<はじめに>
 新型インフルエンザの世界的流行、パンデミックは本当にくるのか?という大きなテーマを頂いた。結論は、鳥インフルエンザウイルスから変異した新型インフルエンザウイルスでパンデミックが起きるとは思えない。同様の批判はすでにある[1,2]。万が一、流行したとして、今の日本で、メディアで騒がれているような1918(大正7)年のスペインかぜの時ほど多数が死亡することはあり得ない。

 WHOをはじめ、世界中の大部分の政府機関が新型インフルエンザのパンデミックが近々来ることを前提にして施策を考え準備している時期に、真っ向からの反対意見は「不届き千万」と思われる方は多いだろう。しかし、かなり確実な根拠に基づいている

 ただ、高病原性の遺伝子を組み込まれたヒト型インフルエンザウイルスが実験室から持ち出され、市中に侵入し蔓延してパンデミックを起こすという危険性は否定できない。むしろ鳥型からの変異よりも、こちらの方がはるかにその確率は大きいのではないか。

 高病原性のインフルエンザが流行したとして、リン酸オセルタミビル(タミフル)やザナミビル(リレンザ)などのノイラミニダーゼ阻害剤(NA阻害剤)を用いることが、その蔓延防止や治療に効果が期待できるのか、についても疑問である。その根拠についても述べたい。なお、本稿ではパンデミックの可能性のあるA型インフルエンザに限って論じる

 まず、インフルエンザの鳥型とヒト型の違い、パンデミックは鳥型のままでは起きないこと、重症化にかかわる炎症性サイトカインの重要性、それに対する非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)の関与、鳥インフルエンザのヒトへの感染率と死亡率など、現在判明している基本的事実に触れておきたい。

<インフルエンザの鳥型とヒト型の違い>
1)同じH1でも鳥型はヒトには原則的には感染しない
 鳥インフルエンザのHAは16種類(H1〜H16)、NAは9種類(N1〜N9)が発見されている。最も強毒性のウイルスはH5N1型高病原性ウイルスである。ヒトのHAはH1〜H3、NAはN1とN2が確認されている。鳥のH5は特別な例外を除いてヒトには通常感染しない。このことは一般にはよく知られているが、同じH1どうしでも、鳥のウイルスはヒトには原則的には感染しないことは案外知られていないのではないか

 インフルエンウイルスのシアル酸(sialic acid:SA:ノイラミン酸)は鳥とヒトとでは、立体異性体の関係にあり、このため、細胞のガラクトース(レセプター)と結合する部位は鳥とヒトでは異なる[3-a]。鳥ではガラクトースの3位の炭素とシアル酸の2位の炭素が結合するα2,3結合であるが、ヒトではガラクトースの6位の炭素とシアル酸の2位の炭素が結合するα2,6結合である[3-a]。そしてヒトの気管支粘膜上皮細胞に含まれるのは大部分がSAα2,6ガラクトースであり、アヒルの腸粘膜上皮細胞に含まれているのは大部分がSAα2,3ガラクトースである[3-a](ただし、絶対ではないため例外はありうる[3-a])。

 このように、立体異性体であること、そのために、受容体への結合方法が異なるために、基本的に両者は異なり、一部の例外を除いて原則的に相互に感染しない。ただし、これは顕性感染を起こさないというだけで、不顕性感染はありうるようだ。その理由は後述がH5N1やH5N2に対する抗体を養鶏業従業員だけでなく、その周囲の人も相当保有しているからだ(文献も後述)。

2)問題は鳥インフルエンザそのものではない
 現在、死亡率が高いとされているインフルエンザウイルスは、高病原性のH5N1鳥インフルエンザウイルスである。しかし、鳥インフルエンザウイルスでヒトからヒトへのパンデミックが起こりようのないことは、前項で述べたようにシアル酸の立体異性体の関係、レセプターの違いから明らかである。

 パンデミックの可能性が怖れられているのは、これまでのパンデミックの変異の様子からの仮定として、鳥インフルエンザの高病原性遺伝子が組み込まれたヒト型ウイルスによるパンデミックである。しばしば「鳥インフルエンザのパンデミック」という表現が使われるが、したがって適切でない

<ウイルスとサイトカイン、NSAIDs>
1)ウイルスの失活には発熱とサイトカインが最重要
 ヒポクラテスの時代から解熱剤が利用されるようになった19世紀半ばまでの約2000年間、感染したときに熱が出るのは体にとって有益な兆候とみられていた[4]。たとえば17世紀、英国の医師・シデナムは「熱は、自然が与えてくれた外敵に勝つための原動力(エンジン)だ」と書いている[4]。発熱は、感染した細菌やウイルスの排除に重要な役割を持っている。

 インフルエンザウイルスの失活に対して、発熱とともに重要なのは、炎症性サイトカインである。インフルエンザウイルスが、単球-マクロファージに感染すると、それぞれのサイトカイン誘導に必要なタンパクが合成され、TNF-α、インターロイキン(IL)-1β、IL-6、インターフェロンなどが誘導され[5]、発熱などの全身反応を生じる。この結果、症状が出始め、インターフェロンが出始めてから半日後には、鼻粘膜中のインフルエンザウイルスは減少し始める[3b]。

2)感染症はサイトカインストームで重症化
 ライ症候群[6]やインフルエンザ脳症等重症脳症[7]、敗血症性ショック、高病原性鳥インフルエンザによる死亡者[8]で炎症性サイトカインが異常高値となっていることはよく知られている。インフルエンザ脳症の予防に対するオセルタミビルの有効性のエビデンス(証拠)はなく、むしろ「否定的」とされている[9]。その理由として、「インフルエンザ脳症は、インフルエンザウイルスの感染が引き金になってはいるが、病態形成の中心はウイルスによる細胞傷害ではなく、免疫システムの過剰反応、すなわち過剰な炎症性サイトカインの産生・放出にあること(cytokine storm)」「オセルタミビルは・・cytokine stormの発来は防止できないこと」とされている[9]。

 1918/19年パンデミックでも多くの人は数日間の激しい症状の後に回復したが、重症化例では、病変は全身におよび、DIC様の全身の出血、意識障害・精神症状(脳症症状)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の徴候を備え、硬化病変を主体とする通常の肺炎とは極めて異なる場合が多かったとされている。すなわち、これらは、今日サイトカインストームによって生じる病変に一致していると考えられている[10]。特に若者の死亡者が多かった軍隊における解剖例のほぼ半数に今日ARDSと呼ぶべき所見が認められたという軍隊では特にアスピリンの使用が多かった

3) 感染時のNSAIDs使用と重症化、死亡率への影響 
 非ステロイド抗炎症剤系解熱剤(NSAIDs解熱剤)を感染動物に使用すると死亡率を増加させることは10論文16実験のメタ解析の結果で示されている(統合Petoオッズ比:7.52:95%信頼区間(CI)4.58-12.35,p<0.00001)[11]。米国のライ症候群の8件の症例対照研究を併合した場合のアスピリン(サリチル酸製剤)使用の統合オッズ比は19.79(95%信頼区間10.46-30.43、p<0.00001)であった。すでにアスピリンはライ症候群の原因として確立している[11]。

 日本でも、擬似症例対照研究(脳症死亡例と脳症生存例の比較)3件と1件の症例対照研究(脳症死亡例と非脳症対照との比較)を併合したNSAIDs使用の統合オッズ比は15.20(95%CI:3.52-65.55、p=0.0003)であった[11]。脳症死亡例と非脳症対照との比較では、オッズ比47.4(95% CI:3.29-1458、p=0.0019)であった[11]。
 NSAIDsは動物でもヒトでも、感染時に使用すると致死的疾患を増加させ死亡率を増加させると結論できる[11]。

4)NSAIDsによる病原体増、サイトカイン増と臓器傷害
 感染動物にNSAIDsを使用した実験から、ウイルスも細菌も、NSAIDsを使用すると、血中や臓器中に、平均数倍から20倍(細菌)、あるいは100倍(ウイルス)増加し、インターフェロンなどサイトカインは増加した[12,13]

 また、in vitroでもNSAIDsがTNF-αの誘導を増強することが確認されている[8]。アスピリンおよびインドメタシンが、エンドトキシンで刺激されたマクロファージからのTNF-αの誘導を増強した。しかもインドメタシンはアスピリンの10分の1の濃度でもアスピリンよりも強く増強したが、アセトアミノフェンでは誘導増強がほとんどなかった[6]

5)1918年以前のパンデミック
 1889年から1890年にかけてもパンデミックが記録され、さらには、1900年から1903年にかけても中等度の流行があったと記録されている。1889年流行ウイルスはH2N8(ウマ型)、1900年流行はH3N8(ウマ型)であったとされている[14]が、それらがヒトからヒトに感染してパンデミックを起こしたヒトインフルエンザウイルスであるとのコンセンサスは得られていない[3-b]したがって、単にウマインフルエンザが多くのヒトに対して感染しただけであったのかもしれない

6) NSAIDs登場とインフルエンザパンデミック
 NSAIDsは、サリシン(1827年)、サリチル酸(1838年)、サリチル酸ナトリウム(1875年)の限定的な使用の後、1884年のアンチピリンやすぐその後のアミノピリンの登場で本格的に医療に用いられるようになった[15]。アセトアミノフェンは1893年に導入されたがあまり普及しなかった。しかし、アスピリンは1899年に医療用として市販、1915年から一般用薬剤(OTC薬剤)として市販され急速に広く使用されるようになった[15] 。

 スペインかぜの流行に際しては、インフルエンザ治療にアスピリンの使用が推奨された。1日100グレイン(約6.5g)あるいは、48時間で240グレイン(約15.6g)を使用した例も記録されている[16]。いわば乱用とも言うべき使用がなされたようである。そして、アスピリンを使うほど「治りが遅い」あるいは「死亡が多い」との印象が異口同音に語られている[16]。この中で、アスピリン使用と不使用が比較できる調査が少数ながらあった。

 たとえば、一般市民の治療で、アスピリン不使用では575人中死亡は1人(0.17%)であったが、アスピリンが用いられた大学病院では294人中15人(5.1%)が死亡したとの報告があった。これだと、オッズ比30.9(95%CI:4.3-630、p=0.0000003)である。また他にも、アスピリンなしでは1.05%、アスピリン使用で30%の死亡、軍隊では、アスピリンなしでは死亡は3%未満、アスピリン使用で20%が死亡したとの報告がある動物実験や症例対照研究でのNSAIDsの死亡危険のオッズ比とほぼ同等の死亡危険度であり、アスピリン使用の寄与危険度はほぼ90%を超えると考えられる

 アスピリンがインフルエンザにおける死亡を増加させた可能性については、動物実験や、その後ライ症候群との因果関係が確立されたことなどからみて当然ありうると考える。単にありうるというレベルではなく、むしろ積極的に主要な原因であったのではないかと考えている。

<鳥インフルエンザに感染したヒトの死亡率は低い>
1)高病原性鳥インフルエンザの本当の症例死亡率とは
 ついで、ヒトが鳥インフルエンザに感染しても「重症化や死亡はまれ」という点が重要と考える

 WHOでは、高病原性インフルエンザ罹患者の症例死亡率(発症者中の死亡者の割合:case fatality)を2008年11月10日現在、63%(245/387)としている。特にインドネシアでは82%(112/137)と極めて高い。WHOの症例死亡率を見る限りは、死亡率は高いという印象を多くの人が持つのも無理はない。しかし実際のところは、不顕性感染が多く、ヒトどうしの感染もありうるが、重症化や死亡は極めてまれである。

 症例死亡率とは、たとえば、ライ症候群など脳症を発症した患者のうちの死亡した患者の割合をいう。2000年以前は、脳症の症例死亡率はおおむね約30%であった。このうち、NSAIDs使用者の症例死亡率は52%から67%であった。しかし、これをもってインフルエンザやかぜにNSAIDsを使用して60%前後が死亡するとはだれも思わない。日常の診療から明らかだからである。

 同様に、鳥インフルエンザの症例死亡率が平均60%と高いのは、WHOに登録される鳥インフルエンザに罹患した重症発症者、いわば最初から脳症のような重症例が分母になっているからである。高病原性インフルエンザといえども、それが全ての人に高病原性とはいえない。感染者全体を母数にするとどうなるのであろうか。この点について、疑問を呈した論文も見られるが、全体像は未だに不明である。

2)濃厚接触で新たな感染3%、有症状2%、重症化0
 そこで、実際の感染者、軽症発病者も含めた発病者の割合がどの程度か、できる限り資料を集めて検討してみよう。最も正確な調査は香港での調査である

 香港で鳥インフルエンザが人に感染して死亡者が出た1997年、香港の養鶏業従業員ら約1525人が調査され、81人がマイクロ中和法とWestern blot法でH5抗体陽性であった。30-44歳では12.3%(56/806)、年齢調整の結果では全体の10%が抗体陽性であった[17]。つまりこれらのヒトにはH5の感染があったということを示している。また、家禽が10%超の死亡率を示した養鶏業従業員であることや、家禽の解体従事者が最も抗体陽性の危険度が高く、また従事する作業の種類が多いほど、抗体陽性率が高くなっていた[17]。

 鳥からヒトへの新たな感染は、政府機関の職員293人(年齢中間値41歳)の調査[17]で判明する。また、ヒトからヒトへの濃厚接触は、重症患者の医療に直接関与した医療従事者や、重症患者の家族で判明する(文献割愛)。

表1 一般人、濃厚接触者へのH5N1鳥インフルエンザ感染、重症発病、死亡率(1997年香港での流行時)
SC:セロコンバージョン:抗体が(-)⇒(+)に移行
*a:有症状者、SCした人、抗体(+)⇒(−)への移行も含めた数。
*b:症例死亡率は33%だが、人口中の死亡率、感染例中の死亡率は不明
*c:調査人数(人口)に対する割合(%)
*d:年齢調整の結果(30-44歳では806人中56人=12.3%が抗体陽性であった)
上記の表から、
 1)濃厚接触持続で10%程度が何らか感染して抗体ができる。
 2)新たに濃厚接触した場合に3%程度が新たに感染し、
 3)2%程度に何らかの症状が出て、
 4)1%程度に明瞭なセロコンバージョンが検出される、と言える。

 これらについて調査された結果を表1にまとめた。政府機関の職員と重症患者の医療に携わった医療従事者とで、抗体保有割合、新たな感染、有症状、セロコンバージョンの割合はほぼ同じである。また、重症患者の家族でも抗体保有割合を除けば、ほぼ同じである。重症患者の家族で抗体保有者6人中5人は家禽を扱っていた。抗体保有割合が高いのはこのためであり、症状の出なかった4人は既感染者であったと考えられる。

したがって、表1から、
 濃厚接触持続で10%程度が感染して抗体ができる。
 新たに濃厚接触した場合には3%程度が新たに感染し、
 2%程度に何らかの症状が出て、
 1%程度に明瞭なセロコンバージョンが検出される、と言えよう。
 
 香港での18人の重症鳥インフルエンザ患者中の症例死亡率は6人(33%)であったが、122人(104+18)中の6人とすると、たかだか5%である。調べられていない不顕性感染者は104人よりはるかに多いと考えられるので、実際の死亡率はこれよりはるかに少なくなるであろう(なお、ベトナムなどでは、抗体陽性者が出ていないが、原因は不明)。

3)日本でも不顕性感染、軽症発病例は少なくない
 日本で初めて鳥インフルエンザが流行したときも、京都府内の養鶏業者の従業員16人中4人(25%)は、鳥インフルエンザの抗体が陽性であった[18]。鳥インフルエンザが流行した養鶏業者の鳥の処理に従事した京都府職員42人中1人が鳥インフルエンザ抗体(H5抗体)陽性で、軽い症状(のどの痛み)が出たことも確認されている。
 
 特に従業員の1人は、抗体が陰性から陽性にセロコンバージョンした[18]。つまりこの人は、鳥インフルエンザに感染し、軽症だが発病した。この人はタミフルを服用していなかった。また京都府職員の多くはタミフルを前もって服用して、作業に従事した。抗体が陰性のままで「発熱や悪寒等を訴える者があった」が、迅速検査では陰性であったという[18]。タミフルはインフルエンザウイルスの抗体産生を妨げないとのデータはあるが、抗体産生を抑制するとの知見もある。京都府職員での症状出現と抗体陰性の結果をみると、抗体産生を抑制するのかも知れない。

 タミフルは、検査陽性のインフルエンザ感染は防止するが、インフルエンザ症状の出現は予防しない[19]同様に、鳥インフルエンザの感染予防にタミフルを使っても、インフルエンザは通常のインフルエンザ同様、迅速検査で「インフルエンザ」と診断できなくなるだけで、インフルエンザ症状の発症を抑えることはできず、軽い発病あるいは、不顕性感染は生じるということである。

 H5N1以外では、H5N2(日本では茨城県で流行)、H7N3、H7N7、H9N2などのヒトへの感染が報告されている。2003年にオランダで発生したH9N2高病原性鳥インフルエンザには89人が感染し、83人に結膜炎症状が出現した。大部分は軽微な症状が現れただけであったが、1人の獣医が肺炎とARDSを伴い死亡した(受診前の治療内容は不明である)。ヒトからヒトへの感染(発病)が3件で認められ、感染(発病)した養鶏業従業員と接触のあった59%が抗体陽性となった[3b]。

 以上、香港や日本での鳥インフルエンザの流行時のヒトへの感染状態をみると、ヒトが鳥インフルエンザウイルスに曝された場合には、鳥インフルエンザに感染し、軽く発病する人も出る。ごくまれに出る重症者に濃厚に接した者の中にはヒトからヒトへの感染もありうるが、その場合でも軽症で済んでいる。なお、ベトナムで、娘を遠いところから訪ね、濃厚に看病した母親が感染発病し、肺炎で死亡した例が報告されているが、極めてまれである。

<高病原性の原因遺伝子>
1)高病原性発揮の種々の因子
 H5N1型鳥インフルエンザの高病原性の発現には、HAおよびNAの遺伝子、ウイルス増殖に関係するPB2遺伝子、ウイルスのシアル酸(SA)と宿主側受容体(galactose)の結合関係(SAα-2,3Gal結合が可能か否か)、サイトカインの攻撃と関係するNS1遺伝子、さらには、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand:TRAIL)のupregulationや、CD8+ リンパ球の細胞傷害性の減少などが高病原性発現に関連しているのではないかと見られている[3-b.8,20] 。

 これらの中でも、サイトカインの異常に関係するNS1遺伝子は精力的に検討され、ウイルスの増殖による組織傷害とともに高病原性発現の主要な機序の一つと考えられている[8]。

2)NS1遺伝子変異でサイトカインの攻撃を逃れる
 香港で流行したH5N1型鳥インフルエンザウイルスは、ヒトに感染する通常のインフルエンザウイルスや、他の型の鳥インフルエンザウイルス、ブタインフルエンザウイルスと異なり、インターフェロン(αとγ)やTNF-αの抗ウイルス作用に対して耐性を有していることが確認された[21]。これは、培養したブタ肺上皮細胞を用いたin vitroの実験で確認されたものである。

 この耐性の状態は、極めて顕著であり、インターフェロン(αとγ)やTNF-αいずれかに曝しておくと、通常のインフルエンザウイルスはまったく検出されなくなるが、H5N1型鳥インフルエンザウイルスは、インターフェロンやTNF-αなどに曝されていないウイルスと同程度のウイルス量を示したのである。つまり、インターフェロンやTNF-αによって増殖が全く抑制されなかったということを示している

 in vitroの実験だけでなくin vivo実験も行われている[21]。H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスのNS1遺伝子をH1N1ヒト型インフルエンザウイルスに組み込んでブタに感染させ、通常(wild type)のH1N1ヒト型インフルエンザウイルスを感染させたブタと比較している。ヒト型ウイルスを感染させた方が、ウイルス血症が著しく長期間続き、発熱も長時間で体重減少も著しかった[21]。

 つまり、高病原性NS1遺伝子は、インターフェロンやTNF-αなどのサイトカインの攻撃を免れる性質を有していたこと、このNS1をヒト型H1N1に組み込んだインフルエンザウイルスは、H5N1と同様にサイトカインの攻撃を免れる性質を有するように変化するのである

3) NS1遺伝子はヒト型ウイルスをも高病原性に
 この事実は、HAが鳥型インフルエンザウイルスH5にならなくとも、またウイルス増殖に関係するPB1遺伝子や、ウイルスのシアル酸(SA)と宿主側受容体(galactose)がSAα-2,3Gal結合をする構造を持っていなくとも、ヒトの通常のインフルエンザウイルスH1N1に組み込まれれば、高病原性を発揮することにつながる。

 そして、それが自然に起きることは、かなりまれなことであったとしても、実験室ではすでに遺伝子組み換えの方法を用いてブタに対して高病原性を発揮するH1N1が作られ、現実にブタが重症化しているのである

 したがって、自然に高病原性のウイルスができるというより、実験室から何らかの事故によって外界に飛び出す可能性のほうが、実際上よほど高いというべきであろう。

 実際、SARSを研究していた研究者が感染して、外界に持ち出されそうになったことがあるが、高病原性インフルエンザウイルスに関しても、そうならないという保証はない。

4)高病原性が多くの人に毒性が低いのはなぜか
 この問題は、高病原性新型ウイルスが流行したとしてもスペインかぜの時のような規模にはなり得ないことに通じる。たとえばインフルエンザウイルスは基本的にはウイルス血症を起こさないといわれるが、動物の好中球をX線照射しておくとウイルス血症を起こすNSAIDsを用いれば、通常は高病原性を持たない病原体でも高い死亡率を示すようになる

 スペインかぜの時代は、人生わずか50年にもなっていなかった。戦争で人々は疲弊していた。現在の日本では寿命が男性約30年、女性では約35年以上延長した。ベトナムの平均寿命もすでに73.7歳(2005年、男女計)に達している。
 あらゆる防御機構が完全であれば、一つの防御機構に欠陥があってもかろうじて重症化を免れているのかもしれない。しかし、こうした場合には、他のいずれかのわずかな異常が防御機能全体の破綻につながり重症化につながるであろう。

<HA遺伝子のサブタイプの変異は数万年に1回>
 ヒトインフルエンザウイルスのHAは、スペインかぜ(H1N1)以降、ヒトで流行した順にH1からH3、NAもN1とN2と名付けられたものである。1957年のアジアかぜ(H2N2)、1968年の香港かぜ(H3N2)、1977年のソ連型(H1N1)とだんだんと軽くなり、パンデミックとも呼べない程度の規模になっている。そして、ソ連型のH1N1はスペインかぜと同じ型であるが、今ではH3N2より症状が軽いのが特徴でさえある。

 日本では現在、香港かぜ(H3N2)のなごりが最も多く約半分を占め、ソ連型(H1N1)のなごりとB型がそれぞれ4分の1ずつ、入り混じって流行している(最近20年間の日本でのデータ)。アジアかぜ(H2N2)は1968年の香港かぜの流行以降、姿を消した。

 鳥インフルエンザは、Hは16種類(H1〜H16)、Nは9種類(N1〜N9)が発見されている。理論的には144種類(16×9通り)の組み合わせがありうることになる。

 鳥は1億年以上の歴史がある。Hが16種類ですべてであるとすると、Hの変異は約600万年に1回、Nの変異は1000万年以上に1回ということになる

 一方、ヒトの起源は、原人を含めると約180万年、ホモ・サピエンスの起源はたかだか数十万年前(20〜30万年)である。この間にHは3種類、Nは2種類を獲得した。ヒトの起源を原人の歴史にとればHは60万年1種類、ホモ・サピエンスの起源を20万年前とすれば、7万年に1回の割合で大変異が生じたということになる

 鳥インフルエンザの遺伝子がヒト型に変化したとして、1回の変異に数万年を要していることになる。HやNの1〜3の型の変異は、これほどの長い期間をかけなければ起きない変異のはずである

 それが、ここ数年の間に急に起きるかもしれないといわれ始めたのは、いかにも不自然ではないか。 1918年のパンデミックを起こしたインフルエンザウイルスが鳥からの遺伝子が組み込まれたために新しくなりパンデミックを起こした、という説がほとんど疑いのない説として信じられている
 この説は、系統発生の分析が根拠になっているが、その解釈はあいまいなものであり、解釈そのものに対する反対意見も少なくない[22,23]したがって、鳥インフルエンザウイルスの遺伝子が組み込まれたということ自体、根拠は明確ではない。

 一方、先述したように、高病原性の最大の因子ともいうべきサイトカインの攻撃を免れるNS1遺伝子の変異型を有するヒト型インフルエンザウイルスが実験室から外界に飛び出す可能性は、よほど現実的である

<高病原性インフルエンザにタミフルは効かない>
 京都府の職員がタミフルを服用して防疫作業に当たったけれども、抗体産生のないまま、発熱などの症状は出現した。タミフルの予防使用のRCTでは、発熱など症状は抑えていない[18]。べトナムやタイでの鳥インフルエンザ感染者にタミフルを2倍量使用しても効果がなかった。

 また、H5N1が高病原性を発揮する最も重要な因子がNS1であるなら、その部位(およびその結果としての機能)にタミフルは全く無関係であるから、タミフルは理論的にも高病原性インフルエンザウイルスには無効である。

 ベトナムなどでの鳥インフルエンザで重症になった症例の報告では、タミフルは全く効いていない。耐性ウイルスも、30%から50%出現する可能性があることが分かった

 たとえば、タイでは、タミフルを服用した10人中7人が死亡(死亡率70%)、服用しなかった7人中5人が死亡した(死亡率71%)。また、ベトナムのひとつの調査ではタミフルを服用した5人中4人死亡(死亡率80%)、服用しなかった人も5人中4人死亡(死亡率80%)した。ベトナムのホーチミン市では重症患者10人全員がタミフルを服用したが、80%が死亡した。さらに、最近の耐性ウイルスの報告では、タミフルを服用した8人中4人が死亡し、そのうち耐性ウイルスの検査がきちんとできた2人から耐性ウイルスが検出された。

 タミフルが重症化や脳症を予防しないことは横田俊平氏も指摘している[9]すなわち、インフルエンザの脳症や重症化は、サイトカインストームによるものであり、理論的にも実際的にもタミフルは無効である。なお、タミフルの害については筆者の著作[24-26]ならびにNPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)のホームページ(http://npojip.org)を参照頂きたい。

<おわりに>
 パンデミックは起きない、と言ったが、ただし書きがある。それは、イブプロフェンやロキソプロフェン、スルピリンなどを含め全てのNSAIDsを解熱剤として用いないことが条件である小児だけでなく成人にも使用してはならないまた、ステロイドもパルス療法を含めて使用しないことであるこれらNSAIDsやステロイド剤を解熱目的で使用すると、一時的には症状は軽快したとしても、その後に高サイトカイン血症を起こしてかえって重症化する危険性が高い。

 抗ヒスタミン剤なども無効であり、ケイレンの頻度を高めるので、用いるべきではない余分な薬剤を用いず、保温と安静を保ち、患者の免疫力が最大限に発揮されるよう配慮することが肝要である。そうすれば重篤化や死亡増大の危険性はない。したがって、一部に見られるように、医療従事者自身が恐怖におびえるという必要はまったくない。

*【pdf版の正誤表:p507 右列下から10行目 (誤)PB1→(正)PB2】

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【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】救急領域と漢方医学1「救急医学における漢方診療」 [東洋医学]

領域別入門漢方医学シリーズ 「ツムラ・メディカルトゥディ」08年10月29日放送
「救急領域と漢方医学」 熊本赤十字病院 総合内科 加島 雅之 先生

(1)救急医学における漢方診療
1. 救急医学における漢方診療の意義
 救急医学は多くの場合で西洋医学の独壇場である。それは現代の西洋医学がしばしば 「A・B・C」と呼ばれる、救急救命において最初に治療・維持しなくてはならないバイタルの基本である気道・呼吸・循環管理において非常にすぐれた方法論を確立しているためであり、かつて治療が不可能であった頻度の高い致死的疾患に対して有用な診断法と治療法を確立出来たからに違いない。
 これは、古代の漢方医書で治療不能とされた疾患に対して現代医学で診断法と治療法があり、外科治療・臓器補助療法・臓器移植など神話の中で語られた治療技術まで開発できていることでも分かる。また、救急の場では瞬時の病態改善・症状緩和が求められることが多いが、西洋医学では循環・神経作動薬などの即効性が期待できる薬剤の開発が出来ている。

 ただ、一方では西洋医学も万能ではなく、実は救急外来で最も多く遭遇する内科系疾患であるウイルス感染症に対しては漢方治療の方が即効性もあり有効と感じることも多い。また、よく救急の現場で遭遇する不安発作や身体化障害に対して即効性をもって対処可能な選択肢として漢方薬が存在するのも事実である。さらに重篤者で入院させることとなった後の管理においても西洋医学で難渋する問題の解決に漢方が寄与する局面も多い。

2. 救急医学での漢方診療の特徴
 救急医学で求められる漢方診療の特徴としては、第1に即効性が期待できること。第2に、痛み・動悸・めまい・嘔吐・下痢・発熱などの救急でよく遭遇する愁訴に対して強く症状をコントロールすることが出来ること。第3に漢方医学的には主に気や気の熱量的性質に特化した存在である陽と津液の病態を扱うことが多いこと。これは、血の病態は慢性疾患に関与することが多いことと、即効性を期待できる病態が比較的に少ないことによる。

 また、五臓の病態を救急の場で漢方で治療することは現在の日本の医療環境では難しく、一般に漢方の五臓の病態と認識される状況は西洋医学で治療されるか、通常外来での漢方診療の対象となる。第4には相対的に補法より瀉法や理気・利水などの滞りをめぐらせる方法論が用いられることが多い。第5に細かい弁証より主要な病態をまず改善させることが優先される。第6に西洋医学的治療との役割分担の明確化が必要となる。第7に簡便性とすぐに投与が可能ということから特に救急外来ではエキス剤の使用がその中心となるといったことがあげられる。これらの特徴を踏まえた実際の診療の内容は次回以降に詳述する。

3. 救急医学で漢方診療が応用できるシチュエーション
 漢方診療に求められている内容やその治療効果をあげるスピード感に違いがあるため、 救急医学のシチュエーションを救急外来と重篤病態のために入院した以降の状況に分けて論ずることとする。

 まず、救急外来で漢方診療が応用できる局面は最も多いのはウイルス感染症である。対処療法に終始する西洋医学よりも高い効果が期待できる。特にややこじれて来た中期~慢性期のウイルス感染症に対する対処法は驚くほどに西洋医学の方法論は適切な治療法がない。

 しかし、漢方には有効な方法論が多く存在し、また細かな弁証を行わなくても数多くの症状・病態に対処できることも多い。
 救急外来に受診する愁訴の中で比較的おおいものの中に頭痛があるが、機能性頭痛でも症状が強く、通常の鎮痛剤やヒスタミン受容体拮抗薬でも取りきれない頭痛を呈することがある。こうした際に漢方薬を使用する価値は十分にあり、特にある種の病型の頭痛に関しては即効性を持ちかつ著効することも多い。
 確かに西洋医学の鎮痛剤や止嘔剤は強力で即効性があるものが多く、効果も安定しており救急外来の現場で頻用される。しかし、妊娠や基礎疾患・常用薬との相互作用などの関係でそれらの薬剤が使用できない局面もしばしば目にする。こうした際に代替薬として漢方薬を大いに力を発揮することも多い。

 重篤病態で入院後の患者では呼吸循環管理において西洋医学のダイナミックな治療において状態安定となる場合は多い。こうした、いわば西洋医学の独壇場といえるところでも、今一歩コントロールが難しい状況、たとえば気管支喘息発作で入院加療し標準療法を行 っているにも関わらず、なかなか喘鳴が消失しない状況や、敗血症性ショックで入院し大量輸液を行って循環は安定したが全身は浮腫を来している状況でなおかつ血管内脱水があり利尿剤投与だけでは治療が困難な場合などには、漢方療法が有効な局面が存在する。

 また、呼吸循環管理は安定したが、栄養管理や創傷治癒・臓器不全の回復に対しては西洋医学では積極的に働きかける方法論は少なく、こうした状況下で漢方診療の果たす役割は大きい。

 こうした救急疾患における漢方処方の運用の場合にも漢方概念を応用することは重要である。比較的簡単な漢方概念を意識するだけでも驚くほど処方の応用範囲が広がり、また治療効果を高めることが出来る。

4. 救急での漢方診療をする場合に頻用する基本の漢方概念
 気 :流れる性質をもつエネルギー。体を温め、体を動かすなどの生体の働きの一切は気によるもの。
    また、体内のガスも気として認識される。
 陽 :気の中で熱に働くように特化した存在。
 血 :物質としては血液のこと。しかし、働きは臓器の潤い円滑さを保ち、栄養を行う。
津 液:血以外の正常な体液の総称。乾燥を防ぎ、過熱を抑制する。

五臓
 心:意識と循環を支える。
 肺:呼吸と気の生産を支える。
 脾:消化吸収支え、気・津液を円滑に運行させる。
 肝:気と血の流れる量・方向をコントロールすることで、感情・月経を支配する。
 腎:根源的な生命力を蓄える場であり、全身の津液の代謝を調節。成長・老化、生殖、尿の産生を支配する。


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【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】救急領域と漢方医学2「かぜ症候群(含インフルエンザ)に対する漢方診療」 [東洋医学]

領域別入門漢方医学シリーズ 「ツムラ・メディカルトゥディ」08年11月5日放送
「救急領域と漢方医学」 熊本赤十字病院 総合内科 加島 雅之 先生

(2)かぜ症候群に対する漢方診療
 内科系の救急外来に受診する患者で最も多いのはウイルス感染症である。ことにかぜ症候群は群をぬいて多いわけであるが、通常、初期においては、西洋医学の総合感冒薬を使用して多くの場合は対処している。

 一方で、インフルエンザなどのように初期から強い症状を呈して救急外来でも難渋する場合がある。インフルエンザの迅速検査には感度の問題があり、抗ウィルス薬が必ずしも処方されるわけではない。また抗ウイルス薬も初期48時間以内に内服が開始されれば発熱期間の短縮(Catsduke注:タミフルの場合、エビデンスでは1日あるかないかに過ぎないのに異常行動など中枢抑制系の副作用はある。万能薬でも何でも無い!)には有効だが、その他の症状に関してはあまり軽快しないこと、48時間を過ぎると無効であることを考えると漢方診療の出番は多い。

 また、ほとんどのウイルス性疾患では西洋医学では多くの場合は対症療法のみであり、ことに中期~後期の症状には症状のコントロールも難しい。こうした状況下でも漢方は豊富な方法論を持ち、若
干のポイントを押さえれば著効することも多い。

1. 漢方で感染症を考えるときの基本概念
 漢方の感染症の概念(外感病)では気候因子である六淫外邪が体外から侵襲してくるととらえる。そして主に体表面を意味する「表」で最初に闘病反応がおこり、その後、邪が徐々に体内に侵入するに従って、体内の深部構造を意味する「裏」に病態の主座が変化していくのが基本と考えられている。こうした外邪の身体侵襲するために必須のいわば、邪の主役を演じるのは風邪であり、その名をちなんで全てのウイルス感染症の基本モデルである“カゼ”を漢字で「風邪」と書く。

 六淫外邪の侵襲によるカゼ症候群もすべての物を寒熱のカテゴリーに分類する漢方医学の基本的性質にもれなく、主に寒の性質を帯びた外邪と熱の性質を帯びた外邪に弁別し、その対応法は異なる。

 寒性を帯びた外邪は主に冬季や寒冷な気候・環境に誘発されることが多く、悪寒期も比較的長い。一方、熱性を帯びた外邪の侵襲は春~夏の季節や温暖な気候・環境に誘発されることが多く、悪寒期が比較的短く、初期から口渇や強い咽頭痛などの熱性の症状が強い。
 日本のエキス剤は寒の性質を帯びた外邪の侵襲に対しての対応を中心にまとめられた『傷寒論』を出典とする方剤がほとんどを占めるため、熱の性質をおびた外邪の侵襲の場合には工夫を要することが多い(Catsduke注:中医学にはふさわしい方剤がある)。

2. カゼ症候群初期の漢方診療
 カゼ症候群の初期は、漢方医学では「表証」と総括される。表証は寒気が残存し、筋痛などがあり、脈が浮き、舌苔は薄い白苔で変化を来しておらず、腹痛や下痢などの消化器症状や強い咳嗽・喀痰などの腸管や肺といった五臓六腑のような深部臓器の症状を未だ呈していない状態をいう。こうした表証に対しては体表の気を発散させることで外邪をともに発散させる(現象としては軽度の発汗がみられる)、「解表法」と呼ばれる方法論が用いられる。

 まず、寒性をおびた邪の侵襲の病態を論じると、悪寒が強く、発汗を呈しない(Catsduke注:無汗の証)風寒邪の侵襲による表証の場合は麻黄湯が使用される。寒気程度で自発的な発汗が認められる(Catsduke注:有汗の証)風邪単独の侵襲による表証では桂枝湯が使用される。
 風寒邪の侵襲が体表のごく浅い層のみならず、筋肉の層まで影響を与え、表証と後頚部のこわばりや痛みを伴う場合には葛根湯が用いられる。同じように風寒邪の侵襲が体表のごく浅い層のみならず鼻や気管支といったいわゆる肺気が支配する領域に影響を与えた場合、水様鼻水や透明な痰を伴う咳嗽が出現し、いわゆるカタル性の鼻炎や気管支炎を来した場合には小青竜湯が用いられる。

 もし、冬季で強い悪寒・節々の痛みが強く、汗がでないが咽頭痛が強い場合は、表は寒邪が包むとともに内熱がこもっていると考え、大青竜湯が適合となる。インフルエンザではこのタイプになることがしばしばあるが、エキス剤では麻杏甘石湯に桂枝湯を併用する。熱の程度で桔梗石膏を追加してもよい。
 老人などで悪寒が持続しなかなか発熱せず、全身倦怠感が持続する場合は通常の感冒薬では症状の軽快はなかなかはかれない。これは陽が不足しているために闘病反応が引き起こせないのであり、麻黄附子細辛湯(悪寒が強い場合は附子末1g/日を併用)を使用する。
 麻黄附子細辛湯を使用し、悪寒が去った後でなかなか倦怠感などとれない場合は、補中益気湯を内服して気を補うとともに、残った邪の排除に勤めると早期に症状の改善がみられる。

 寒気と熱感が交互に出現する往来寒熱の熱型を呈する場合には半表半裏と呼ばれ病位に病態の主座が移ったことを意味する。ちょうど、体表・外郭の筋肉といった場所が病態の主座であった表証と、消化器や五臓を病態の主座とする裏証の中間に位置する病態で、寒気、頭痛、咽頭痛といった表証の部分症状、上腹部不快感や軽度の吐き気や軟便といった裏証の部分症状を呈する。

 こうした際には小柴胡湯が有効である。実際に救急外来に来院する患者もインフルエンザの時期を除けば多くは、症状出現時から2~3日たって、倦怠感や食思不振といった症状の増悪を迎えて来院することが多く、半表半裏の状態を最も多く見かける。
 また往来寒熱はあるが、まだ体表の違和感などの表の症状が強い場合には、小柴胡湯に桂枝湯を合方した柴胡加桂枝湯が使用され、実際の使用頻度も高い。冬場の風邪で咽頭痛のみが主となり、局所の発赤が強くない場合は甘草湯がよい。もし軽度の咳嗽も伴っている場合は桔梗湯を使用する。

 熱性を帯びた邪による侵襲の場合は初期の純粋な表証に対応することのできる処方は残念ながら日本のエキス剤にはない。しかし、臨床上は多くの患者がやや時間がたったところで、受診することが多いため半表半裏になり始めている段階となっており、小柴胡湯加桔梗石膏で治療可能な場合が多い。咳嗽が強くなり始めている場合には小柴胡湯に麻杏甘石湯を合方し使用する。ウイルス性髄膜炎の初期や副鼻腔炎を起こしやすい人など初期から頭痛を中心とした症状を呈する場合には川芎茶調散が有効な場合が多い。

 ここで湿邪による侵襲の場合を特に論じたい。湿邪はその名から分かるように湿度の高い季節や環境での発症をその特徴とするが、あたかも風寒邪のように悪寒や強い節々の痛みを呈する。
 しかし、熱と結びつきやすい性質をもっており、このときに麻黄湯などを使用するとかえって高熱になったり、倦怠感を増悪させたり嘔吐をしたりといったことを起こす。
 鑑別点としては、梅雨時期や夏季などの発症季節と、表証を呈している、ごく初期から軟便や腹部の不快感やのどが渇くのに飲みたがらない、舌の苔が厚いなどである。

 こうした病態に対しては日本のエキス剤は十分に適応できる処方が少ないが、茵蔯五苓散半夏厚朴湯を合方し、熱の所見に合わせて黄連解毒湯を追加する方法をとる。やや病期が進んでほとんど表証がみられなくなった場合には柴苓湯に熱の所見に合わせて黄連解毒湯を併用することも多い。

3. カゼ症候群後期の漢方診療
 気管支炎の咳嗽に関しても通常の鎮咳薬はなかなか十分な効果は得られない。コデインなどの麻薬系鎮咳薬は痰の喀出を阻害するためにすすめられない。こうした際にも漢方薬は力を発揮する。悪寒期を過ぎ去り気管支炎となり発熱と咳が強い場合は麻杏甘石湯が良い。痰の量が多い場合には五虎湯の方がよい。

 もし、半表半裏の症候で咳嗽時の胸痛などのウイルス性胸膜炎の症状を呈した場合には小陥胸湯と小柴胡湯を合方した柴陥湯の使用がすすめられる。悪寒期を過ぎさり、高熱・発汗・口渇が持続している場合は陽明経証と考え白虎加人参湯がすすめられる。痰が黄色、口渇が強いなどの症状が強い場合には柴陥湯桔梗石膏を追加する。

 回復期に咳嗽が持続する場合は昼夜を問わず乾性咳嗽や切れの悪い痰を伴う咳嗽が持続する場合は麦門冬湯が著効することが多い。夜間咳嗽や不眠・倦怠感の持続などの症状が持続する場合には竹筎温胆湯で改善することも多い。

 さらに明らかにウイルス感染症でも症状が遷延したり、全身状態がわるくて入院することがある。こうした際、多くの場合は半表半裏の病態を呈していることが多く、小柴胡湯を中心に使用し速やかな症状の軽快をえることも多い。
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【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】救急領域と漢方医学3「感染性下痢症などの感染症に対する漢方診療」 [東洋医学]

領域別入門漢方医学シリーズ 「ツムラ・メディカルトゥディ」08年11月12日放送
「救急領域と漢方医学」 熊本赤十字病院 総合内科 加島 雅之 先生

(3)感染性下痢症などの感染症に対する漢方診療
1. 感染性下痢症
 感染性下痢症の多くはウイルス感染または毒素型の細菌性下痢症であり抗生剤の適応はない。よしんば感染型の細菌性下痢症であっても免疫抑制状態や症状がかなりひどくない限りは抗菌薬療法の適応とはならない。そのため西洋医学ではほとんどの場合まったくの対症療法のみということになる。

 標準的な治療法では止嘔剤や腸管蠕動抑制剤を投与し、加えて整腸剤や適応を限って止痢剤を投与することになろうと思うが、一時的に症状が改善しても嘔気や腹痛は持続するとともに全身倦怠感や食思不振といった症状はなかなか改善しない。 また、症状が強い例では輸液をしながら経静脈的に薬剤投与を行っても症状の改善が十分にみられないこともある。

 こうした際には入院ということになるが、感染性下痢症を引き起こすロタウイルスやノロウイルスは感染力が極めて強く、その後の院内感染の対策で難渋させられる。特に症状が強く大流行を見せるロタウイルス・ノロウイルスは救急外来の現場で難渋させられる。しかし、このノロウイルス・ロタウイルス感染症の特徴である水様性下痢と噴水様嘔吐を伴う感染性胃腸炎にこそ漢方薬が著効する。

 冬場で悪寒がなく、水様下痢を呈する場合(噴水様嘔吐の合併は問わない)は風寒邪の胃腸への直接侵襲による水逆と考えられ五苓散が著効する。おおむね五苓散を使用すると嘔吐は15分程度から改善し、下痢は30~1時間で改善する。腹痛が強い場合には芍薬甘草湯の頓用とする。

 また嘔吐があっても五苓散は内服できる場合が多いが、嘔吐が強い場合には湯に溶かして少量づつ内服させる。
 輸液をしながら経静脈的に止嘔剤、腸管蠕動抑制剤を使用しても効果不十分な場合でも五苓散と芍薬甘草湯の投与で軽快する例をしばしば経験する。もし、高熱を呈し、本人も熱感が強かったり「往来寒熱」が見られる場合には柴苓湯または、ほぼ同じことである五苓散+小柴胡湯とした方がよい。

 もし、つよい悪寒があるがなかなか発熱しない時または脈沈を呈したり手足の冷えが強い場合など循環障害がある場合は陽虚水気と考え、真武湯(冷えが強い場合には附子末1g/日を併用)とするほうがよい。この場合は嘔吐を合併することは少ない。

 また、真武湯を使用するような場合には芍薬甘草湯で十分に腹痛が取れないことがあり、その際には附子末0.5gを併用して頓用とする。
 インフルエンザの胃腸型のように悪寒発熱・節々の痛みなどの表証が強くあらわれている時に下痢を呈する場合は体表と胃の経絡の気の流れの阻害がおきた病態と考えられ、葛根湯が有効である(Catsduke注:「太陽と陽明の合病は必ず自ずから下痢す。葛根湯是れを癒す」と古典にある)。

 嘔吐を伴う場合はエキス剤では葛根湯小半夏加茯苓湯を併用する。嘔吐下痢やある程度止んだ後も、吐き気や上腹部不快感、軟便が持続する場合は半夏瀉心湯を服用させると速やかに症状が消失することが多い。

 夏の感染性胃腸炎で水様下痢を呈する場合には侵襲する外邪の性質に湿熱が加わるため清熱の効能を加えた方がよい。そのため日本のエキス剤では柴苓湯(小柴胡湯+五苓散)または茵蔯五苓散がすすめられる。便臭が強い/肛門の灼熱感があるなどの場合は適宜、黄連解毒湯を併用する。
 また、舌の苔が厚い、上腹部不快感が強い、節々の痛みがとれないなどの症候を伴うときは、半夏厚朴湯を適宜併用する。水様下痢の完全な回復は五苓散のときより若干時間がかかり、数時間を要することが多い。

 それでは、典型的な感染性下痢症の症例を1例ご紹介したいと思います。
 症例は28歳の男性です。主訴は突然の嘔吐と下痢で来られました。冬の12月15日に、2時間前からの激しい腹痛と30分ごとに繰り返す嘔吐、水様性下痢のために昼の12時過ぎに救急外来を受診されました。私が診察し、感染性胃腸炎と診断してラクトルリンゲル液で輸液を開始。ブチルスコポラミン20mgとメトクロプラミド10mgの静脈注射を行い、1時間ほど経過をみました。最初、のたうち回るほど苦しがっていらっしゃいましたが、今言ったような処置で、やや吐き気は減少したのですが、下痢と腹痛が持続するとおっしゃっています。そこで、漢方薬を使おうと思いまして、芍薬甘草湯エキスを1袋内服させました。
 15分ほどで腹痛は10分の3まで軽快。五苓散エキスを2包内服していただくと、さらに15分ほどで吐き気もほぼ消失し、腹痛もほぼ消失。以降、下痢をしなくなりました。

[他の感染症 ]
 扁桃炎も溶連菌の迅速抗原検査により細菌感染が確認されない場合は抗生剤の使用適応はない。こうした際にも、まずは小柴胡湯または炎症が強い場合には小柴胡湯桔梗石膏が有効である。

 ウイルス性リンパ節炎も西洋医学ではなかなか有効な方法論はないが、小柴胡湯が有効であることが多い。もし熱感が強い場合には小柴胡湯桔梗石膏がすすめられる。

 副鼻腔炎・中耳炎も近年の研究で抗菌薬の必要な病態は限られてきている。
 こうした際にも漢方薬は速やかに症状の軽快を図れる。副鼻腔炎で漿液性鼻汁である場合は葛根湯加川芎辛夷を用いる。膿性鼻汁の場合には辛夷清肺湯を使用する。それでも鼻閉が強い場合は排膿散及湯を合方し著効することがある。

 出血性膀胱炎もしばしば強い排尿時痛みと血尿で驚いて受診するが、猪苓湯が著効することが多い。
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【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】豚インフルエンザ:今の状況は政府が招いたパニック」ー厚労省検疫官・木村盛世氏に聞く [感染症]

「大本営発表」を繰り返す厚労省。医療者からの正しい情報発信が重要
  2009年5月11日 聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)「m3.com:医療維新より転載」

 「新型インフルエンザで封じ込め対策は無意味。今の検疫は人権侵害と問題視される可能性はないのか」。今の政府の対策を強く批判するのは、現役の厚生労働省検疫官(東京空港検疫所支所・検疫医療専門職)で、医師の木村盛世氏。
 WHO(世界保健機関)が推奨していない機内検疫を中止し、国内対策に重点を置くべきだと主張する。

「厚労省は大本営発表を繰り返すだけ」と問題視する木村氏は、「医療者自らがWHOやCDC(米国疾病対策センター)などの情報を入手し、情報発信していくことが必要」と説く(2009年5月10日にインタビュー)。
 木村氏は、筑波大学医学群卒業。米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了(MPH[;公衆衛生学修士号)。内科医として勤務後、米国CDC多施設研究プロジェクトコーディネーター、財団法人結核予防会、厚労省大臣官房統計情報部を経て、厚労省検疫官。専門は感染症疫学。

 ――今の機内検疫などの封じ込め対策は無意味だと指摘されています

 例えば、国際的には機内検疫などは行われていません。5月7日にWHOは改めて見解を示しており、(1)検疫に、疾患の広がりを減らす機能があるとは考えていない、(2)国際交通に大きな影響を及ぼす方策を取っている国は、WHOに公衆衛生的理由と、その行為のエビデンスを提出しなければならない、としています(WHOのホームページ)。

 歴史上、新型インフルエンザで封じ込め対策が有効だった例はありません。WHOは検疫、国境封鎖には意味がないと以前から指摘しており、現在、検疫を実施しているのは日本などごく一部の国です。

 WHOのほか、米保健福祉省(HHS;United States Department of Health and Human Services)の最高責任者も務め、WHO天然痘根絶チーム初代部長のD.A..ヘンダーソン率いるバイオディフェンスチームでも、検疫は有効ではないとしています(Center for Biosecurityのホームページ)。また2003年のSARSの流行時でも、検疫が有効でなかったという報告があります(CDCのホームページ)。

 さらに、CDCでは、5月5日に、学校閉鎖などは推奨しないとの声明も出しています(米保健福祉省のホームページ)。


 ――なぜ封じ込め対策は有効ではないのでしょうか。

 インフルエンザの臨床症状は咳や発熱などですが、これらを呈する疾患は多々あり、新型インフルエンザに特有の症状はない上、季節性のインフルエンザと新型インフルエンザは症状からでは区別が付きません。
 また、迅速診断キットの精度も100%ではなく、潜伏期間の問題もあります。WHOでは潜伏期間は最長1週間と言っていますので、3泊4日など短期間で帰国する人は検疫で把握することは難しい。

 また最近では、1週間で世界各国を周るビジネスマンもいますが、今の機内検疫はまん延国(メキシコ・米国・カナダ)からの便が対象なので、彼らが途中でまん延国に立ち寄ったとしても機内検疫を受けないことになります。

 インフルエンザは、日本語で言えば「流行性感冒」。幸い、今回の新型インフルエンザは弱毒性です。
 にもかかわらず、政府は「日本で一人でも、流行性感冒の患者を発生させない」という姿勢なのですから、不可能なことを求めているのであり、狂気の沙汰としか思えません
 インフルエンザ対策では、「いかに集団として免疫を獲得するか」を目指すことが必要です。その間、健康被害の発生を最小限に抑える、つまり感染者の数を抑え、かつ重症者を出さないかという姿勢が重要。「一人も感染者を出さない」のは無理なことなのです。

 封じ込め対策が有効なのは、天然痘など、見ただけで診断が付き、かつワクチンが有効であるなど感染拡大防止策が確立している疾患に限られます


 ――政府は、検疫のためにサーモグラフィーを今回新たに151台購入したそうです(5月8日の参議院厚生労働委員会での民主党・足立信也氏の質問に対する厚労省の回答)。

 従来、サーモグラフィーは1台約180万円だったのですが、今回購入したのは、新型インフルエンザ対応機種ということで、約300万円だったと聞いています。しかし、臨床試験などで有効性が確かめられたのでしょうか。

 また、機内検疫には国立病院の医師なども動員されていますが、それよりも国内対策、あるいは日常診療に携わっていただくべきではないでしょうか。

 機内検疫、停留措置や隔離は、検疫法に基づいて実施されていますが、検疫法は飛行機での渡航が一般的でない時代の法律。それを現代に当てはめているわけです。

 先日のBBC(英国国営放送)では、日本と同じく島国である英国のヒースロー空港と成田空港を比較していました。ヒースロー空港では機内検疫などは実施していません。
 あの報道を観た人には、日本の検疫は異様に映ったのではないでしょうか。停留対象となった方の人権問題などに発展する懸念もあります。


 ――では今、どんな対策に力を入れるべきなのでしょうか。

 先ほども言いましたように、今回の新型インフルエンザのウイルスは弱毒性ですから、まずパニックにならないようにすること。今、一番、パニックに陥っているのは政府ですが。
 疑い患者が出れば、「シロかクロか」と言う目で見る。それを記者会見し、マスコミも報道する。まるで罪人のように扱っています

 そして、機内検疫などをやめ、国内の体制整備を行うことです。国民に対しては、具合が悪かったら、自宅静養するよう呼びかける。
 流行性感冒の基本はホームケアです。また「咳エチケット」、つまり自身が咳などをしている人にはマスクの着用を徹底させることです。
 でも、なぜか日本は全く症状がない方がマスクをしています。マスクが感染予防になるというエビデンスはないのですが

 今はパニック状態に近いですから、それを沈めるため、また新型インフルエンザの第二波でウイルスが強毒化する可能性は否定できませんし、高病原性の鳥インフルエンザの流行に備えて、発熱外来の整備を進めることも重要です。どうしても薬がほしい患者、重症化しそうな患者にはそこに来てもらう。

 「発熱外来」という発想がどこから来たのかは不明ですが、日本の医療機関の多くは個室の診察室を持っていないので、通常の外来とは別に、新型インフルエンザの疑い患者を診る場所は必要でしょう。
 例えば、国立国際医療センターなど公立病院の敷地に、陰圧室を持つプレハブを建てる。同センターには国際医療協力局があり、発展途上国に医師を派遣しています。
 国内が「非常事態」であれば、こうした医師を呼び戻し、各地の発熱外来での診察に当たってもらえばいいわけです。彼らは感染症の患者を見るのは専門ですから。

 こうした体制を整備しないまま、今の対策を続けることは、新型インフルエンザ以外の一般の患者、免疫力が低下した患者は「犠牲になってもいい」と言っていることと同じです

 発熱外来などの整備が遅れるのは、法的な問題もあります。検疫法は厚労省の直轄ですが、国内で患者が発生した後は感染症法の管轄。厚労省は単に「やれ」と言えばいいわけで、それを実施するのは都道府県です。予算などがなければ、容易には進みません。


 ――厚労省が5月9日に事務連絡を出しました。迅速診断キットでA型陰性の場合は、まん延国への渡航者との接触歴など、疫学的関連の有無など慎重に調べることを求める内容です。

 これは、「今、日本の新型インフルエンザの感染者は一人もいない」という前提での対策でしょう。


 ――なぜ日本での対策は、水際対策と国内対策がアンバランスであり、国際的に見ても特異な形になっているのでしょうか。

 米国は、医療の面では問題がありますが、少なくても公衆衛生については世界のトップです。公衆衛生は「国防」です。
 つまり海外から、未知のウイルス、細菌が入ってきて、国内社会が混乱するのを避けるために、CDCを中心に公衆衛生に取り組んでいるわけです。WHOも結局は各国政府の寄り合い所帯であり、CDCなどの動きを見ている状況です。

 しかし、日本には「国防」という発想がなく、公衆衛生の専門家が厚労省で指揮しているわけではありません。私は、ハンセン病とHIV感染、日本は過去二度も誤った感染症対策をしてきたと思っています。今回が三度目になる懸念を持っています。


 ――最後に、医療者に向けて今、注意すべき点などがあれば、お願いします。

 今の厚労省の発表は、太平洋戦争時の「大本営発表」と同じ。「厚労省の言うことは信じるな」と言いたいくらいです。
 医療者には知的レベルが高い人が多いですから、WHOやCDCなど海外のしかるべき機関から、正しい情報を直接入手していただきたいと思います。

 そして、マスコミ、国民に正しい知識を持ってもらうよう、多くの医療者から情報発信をしていけば、今の状況が改善するのではないでしょうか。私自身も、様々な形で情報発信していきたいと考えています。

 【コメント】
 厚労省は省益、自民党政府は選挙を控えて「危機管理・できる感」の演出ということで、利益が一致しているが故に、英語圏のニューズさえ参照できず、諸外国の様子を知ることのできない大衆を操作しようというミエミエの状況です。
 自民党の「国民政治協会」や、現役閣僚である二階国交相の献金の方が、よほど問題があるにもかかわらず、官僚組織に手を入れようとする小沢代表への国策捜査とマスコミ操作で、世論誘導して、なんとしても民主党政権を作らせまいとしている動きと完全に同根です。
 こうしたファシズム的風潮に、市民は騙されコントロールされること無く、冷静かつ科学的に対応していただきたいものです。タミフルの備蓄や使用拡大を目論み、問題点(→参考)など無かったことにしたい勢力も暗躍していることは明らかです。

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亜鉛と抑肝散の投与が海馬でのグルタミン酸異常放出を改善する [東洋医学]

 静岡県立大学薬学部の武田厚司先生が、"Attenuation of abnormal glutamate release in zinc deficiency by zinc and Yokukansan"(「亜鉛および抑肝散の投与による、亜鉛欠乏状態におけるグルタミン酸の異常放出の改善」Neurochemistry international 2008:230-235)を発表された(ちなみにインパクト・ファクターは2.975である)。



武田厚司先生は、81年に静岡薬科大学大学院ご卒業後、ただちに放射薬品学教室助手となられ、91年に同教室講師、92年にネブラスカ大学医学部客員研究員、95年にペンシルバニア州立大学医学部客員研究員、00年に静岡県立大学薬学部医薬生命化学教室助教授となられ、現在、同大薬学部薬学科(医薬生命化学分野)および薬学研究科(医薬生命化学教室)准教授を兼務されている。


 ご研究のテーマは「生体微量金属に着目した脳機能解析」「記憶・学習ならびに情動行動における亜鉛の役割」「加齢に伴う脳機能変化の解析」などであり、所属学会は、米国神経科学会・日本神経科学学会・日本薬学会などで、日本微量元素学会では評議員の他複数の委員をなさっており、ご活躍である。

 今回の論文は、亜鉛と抑肝散による、亜鉛欠乏状態でのグルタミン酸異常放出の改善に関するものである。亜鉛不足はグルタミン神経毒性の増大を招く。そこで、抑肝散の構成生薬である川芎・当帰には亜鉛が含まれることが知られている訳だが、亜鉛単独投与および生薬のコンビネーション(朮・茯苓・川芎・釣藤鈎・当帰・柴胡・甘草)たる漢方薬の投与により、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸放出が抑制され、細胞外のグルタミン酸濃度増加が抑制されることを先生方は本研究で示された。
 これは、まさに分子栄養学/分子矯正医学と漢方の融合であり、武田先生は当研究所が理想とする研究形態を実践されている偉大な研究者のお一人である。
[Abstract]
 The mechanism of the abnormal increase in extracellular glutamate concentration in the hippocampus induced with 100mM KCl in zinc deficiency is unknown. In the present study, the changes in glutamate release (exocytosis) and GLT-1, a glial glutamate transporter, expression were studied in young rats fed a zinc-deficient diet for 4 weeks. Exocytosis at mossy fiber boutons was enhanced as reported previously and GLT-1 protein was increased in the hippocampus.The enhanced exocytosis is thought to increase extracellular glutamate concentration. However, the basal concentration of extracellular glutamate in the hippocampus was not increased by zinc deficiency, suggesting that GLT-1 protein increased serves to maintain the basal concentration of extracellular glutamate. The enhanced exocytosis was attenuated in the presence of 100microM ZnCl(2), which attenuated the abnormal increase in extracellular glutamate induced with high K(+) in zinc deficiency. The present study indicates that zinc attenuates abnormal glutamate release in zinc deficiency.The enhanced exocytosis was also attenuated in slices from zinc-deficient rats administered Yokukansan, a herbal medicine, in which the abnormal increase in extracellular glutamate induced with high K(+) was attenuated. It is likely that Yokukansan is useful for prevention or cure of abnormal glutamate release. The enhanced exocytosis in zinc deficiency is a possible mechanism on abnormal increase in extracellular glutamate in the hippocampus induced with high K(+).

アブストラクト(Catsduke訳)
 亜鉛欠乏における100mM KClによって誘導された海馬の細胞外グルタミン酸濃度の異常な上昇のメカニズムはよく分かっていない。本研究では、グルタミン酸放出(開口分泌)における変化と、グリアのグルタミン酸トランスポーターGLT-1の発現が、4週間の亜鉛欠乏食を給餌した若いラットで調べられた。  海馬苔状繊維の終末ボタンにおける開口分泌は以前報告されていたように亢進しており、GLT-1蛋白が海馬で増加していた。亢進した開口分泌は細胞外グルタミン酸濃度を増加させると考えられる。しかし、海馬における細胞外グルタミン酸の基礎濃度は亜鉛欠乏によっても増加せず、そのことは増加したGLT-1蛋白が細胞外グルタミン酸の基礎濃度維持に役立っていることを示唆している。  100μMの塩化亜鉛の存在が、この亢進した開口分泌を減弱し、亜鉛欠乏による高濃度のカリウムイオンに誘導された細胞外グルタミン酸の異常な増加を改善した。本研究は、亜鉛の補給が、亜鉛欠乏下における異常なグルタミン酸放出を改善することを示している。漢方薬である抑肝散を投与された亜鉛欠乏ラットの切片においても亢進した開口分泌は減弱しており、高濃度のカリウムイオンに誘導された細胞外グルタミン酸の異常な増加が抑制されている、このことから抑肝散は異常なグルタミン酸放出の予防や治癒に有益だと思われる。以上から、亜鉛欠乏において亢進した開口分泌が、高濃度のカリウムイオンに誘導されて、海馬において細胞外グルタミン酸が異常上昇するメカニズムであると想定され得る。

 因みに、この論文の先行研究として、「亜鉛欠乏ラットの海馬におけるグルタミン酸とアスパラギン酸の過剰放出に対する抑肝散の抑制効果」("Suppressive effect of Yokukansan on excessive release of glutamate and aspartate in the hippocampus of zinc-deficient rats." Nutritional neuroscience 2008:41-46)がある。

[Abstract]
 Yokukansan (TJ-54), a herbal medicine, has been used as a cure for insomnia and irritability in children. Yokukansan also improves behavioral and psychological symptoms such as agitation, aggression and irritability in patients with dementia including Alzheimer's disease, in which the glutamatergic neurotransmitter system is perturbed. However, the action of Yokukansan in synaptic neurotransmission is unknown.In the present study, the action of Yokukansan in the glutamatergic neurotransmitter system was examined in zinc-deficient rats, a neurological disease model, in which the glutamatergic neurotransmitter system is perturbed. Administration of Yokukansan significantly suppressed the increase in extracellular concentrations of glutamate and aspartate in the hippocampus after stimulation with 100 mM KCl, but not the increase in extracellular concentrations of glycine and taurine, suggesting that Yokukansan is involved in modulation of excitatory neurotransmitter systems. The present study demonstrates that Yokukansan is a possible medicine for prevention or cure of neurological diseases associated with excitotoxicity.

アブストラクト(Catsduke訳)
 漢方薬の抑肝散(TJ-54)は、子供の不眠症や神経症の治療に使用されてきた。また抑肝散は、アルツハイマー病を含む認知症の患者の情緒不安や攻撃性や神経症のような行動的心理的兆候も、グルタミン酸作動性の神経伝達物質システムを攪乱することで改善する。しかし抑肝散のシナプス神経伝達に関わる作用は未知である。本研究で、グルタミン酸作動性の神経伝達物質システムにおける抑肝散の作用が、グルタミン酸作動性の神経伝達物質システムを攪乱した神経学的疾患モデルである亜鉛欠乏ラットで確かめられた。抑肝散の投与は、100 mM KClによる刺激の後の、海馬におけるグルタミン酸とアスパラギン酸の細胞外濃度の増加を有意に抑制したが、グリシンとタウリンの細胞外濃度の増加は抑制できず、このことは抑肝散が興奮性の神経伝達物質システムの調節に関与することを示唆している。本研究は、抑肝散が興奮毒性に付随する神経学的疾患の要望や治療に対する有望な治療薬であることを示している。

 先生の、過去の共著論文を含む主要な学術論文は11本あるが、漢方薬に関わるものが4本あり、そのうち2本が先の抑肝散と亜鉛に関わるもので、その他のご研究には、呉茱萸湯とアドレナリン/セロトニン作動性レセプターや血小板凝集抑制に関する研究(Biol. Pharm. Bull.,2009:237-241/J. Pharmacol. Sci., 2008:89-94)がある(また、まだ論文にはなっていないが、2004年静岡で開催された「第14回金属の関与する生体関連反応シンポジウム」で「亜鉛不足によるグルタミン神経毒性の増大とそれに対する柴胡加竜骨牡蛎湯の抑制効果」を発表しておられるので、これもぜひ論文で読んでみたい内容のご研究である)。
 また亜鉛のみに関わるものは、「低μM濃度の亜鉛による海馬CA1シナプスにおける長期増強の正の調節」("Positive Modulation of Long-term Potentiation at Hippocampal CA1 Synapses by Low Micromolar Concentrations of Zinc" Neuroscience 2009:585-591)をはじめとして5編がある。

 道教の長生術・修行法の基本に「還精補脳」という考え方がある。ここでの「精」とは単純に精液だけを意味するものではないが、貝原益軒の「養生訓」にも例の「接して漏らさず」という句があるように、年齢を減れば精を漏らすと老化が進むという考え方があり、その当時の老化の概念にも当然脳機能の低下が含まれていただろう。
 そして精液には妊孕能との関連も指摘されているように亜鉛が高濃度で含まれていることは周知のことである。また、若くても、中国の皇帝などのように、房事過多が諸病を招いていることは古代から常識であった訳で、先人はこのことを経験的に知っていたのではないかと思われる。

 亜鉛は、周知の通り、SODに不可欠であり、その欠乏は、活性酸素への対抗不能を意味する。また亜鉛不足は免疫力の低下にも関わるし、褥瘡などの創傷治癒も遅れるなど、総じて「老化」を促進しかねないと言ってよいだろう。大変重要な微量元素であることは論をまたない。

 しかし食品中からの補給は、亜鉛を多く含む食品が、コンビニ食やインスタント食やファストフードを多食するような現在の乱れた食生活では、サプリメントででも補給しない限りは摂取しにくく、味覚異常という形で現れないまでも、オプティマルなレベルからすれば潜在的な欠乏症と言える者も相当に多いと考え得る。

 人間は、好き嫌い等、いったん決まった食生活のパターンを変えない者が多い。師の三石 巌の用語で言う「パーフェクト・コーディング理論」に基づけば、亜鉛不足の食生活を選択し、それが継続されれば、亜鉛を必要とする諸酵素が働けず、体内の諸々の生化学反応の完遂に支障を来す。すなわち程度の軽重の差こそあれ「病気」になるわけだ(このことは他の微量元素やビタミンについても同様である)。
 それが漢方で言う「未病」=不健康なレベルで留まるか、はっきり「病気」になってしまうかは、他の種々のファクターによる。
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漢方薬の作用機序と腸内細菌フローラ/腸管免疫 [東洋医学]

第8回 腸管機能と免疫研究会・学術集会
2月14日 於:北里大学・北里生命科学研究所

 当番世話人の尾崎 博先生(東京大学)のもと、上記の学術集会が開催され「腸内フローラと消化管機能」をテーマに活発な議論が展開された。基調講演2題、および講演4題のうち、漢方薬の作用機序に関わる、基調講演・講演各1題を引用・紹介する。


「漢方薬はなぜ効くのか-配糖体は腸内菌の助けを要するプロドラッグ」
 田代 眞一 先生(昭和薬科大学病態科学研究室 教授)


 主要な生薬の成分の多くは配糖体である。配糖体は糖が付いているため水溶性が高く、リン脂質から成る細胞膜を通過できず吸収されない。
 だが、腸内には100兆を超える菌が棲み、こうした菌の中には糖を切り、エネルギー源として利用する資化菌がいる。一方、糖を外され脂溶性の高まった糖を除いた部分であるアグリコン(aglycone)は、細胞膜から吸収され、薬理作用を示す。

 田代先生は、勤務していた病院で芍薬甘草湯を月経痛に応用することにした。芍薬甘草湯は芍薬と甘草の2成分から成る単純で切れ味の良い方剤であり、筋肉の攣縮に伴う痛みに著効を示す。芍薬の主成分であるペオニフロリン(paeoniflorin)と甘草の主成分であるグリチルリチン(glycyrrhizin)は共に配糖体であり、有効性の差の原因は菌叢の差であると考えた。

 頓用では著効例が約1割、有効例が半数で、約4割は効果を示さなかった。腸内菌はエネルギー源として糖を摂取することから、資化した菌は選択的に増えるはずであり、芍薬甘草湯を投与しているうちに効くようになると推測した。

 そこで、無効例と有効例の一部を対象に、事前に腸内菌を増やし、十分量の酵素誘導能を確保する目的で、月経開始予定日の5~7日前より1日1包だけ処方するスケジュールを追加した結果、顕著な有効性を示した。漢方薬中の配糖体は、腸内細菌によって活性化されるプロドラッグであるといえる。漢方薬の効果に個人差があるのは、食の好みや腸内環境の差を反映した菌叢の個人差が大きく影響していると考えられる。

 大黄やセンナの瀉下成分はセンノシドとされてきた。しかし、センノシドを静脈注射しても下痢は生じない。これはプロドラッグだからである。腸内でビフィズス菌などによって、β結合しているブドウ糖が外され、セニジンとなり、さらに半分に切られてレインアンスロンとなって作用する。

 漢方を服用し始めた時に便が緩みやすいのは、資化菌が選択的に増え、菌叢が変化したためであると考えられる。また、抗菌剤と併用すると、資化菌が死滅し、漢方薬の効果が落ちる可能性がある。
 田代先生は「漢方薬と抗菌剤との安易な併用は止めるべきである。さらに漢方薬を投与し始めた時や変方した時には、その中の成分を利用できる資化菌が選択的に増えることから、菌叢が変化し、下痢や腹痛を起こすことがあり、事前に服薬指導することが望ましい」と結んだ。


粘膜免疫機構制御剤としての補剤の役割
 清原 寛章 先生(北里大学 北里生命科学研究所 和漢薬物学 准教授)

 清原先生らは、漢方薬の代表的な補剤である十全大補湯と補中益気湯が、生体防御が低下した病態での各種感染症の治療に用いられることから、これらの方剤の上気道粘膜免疫系に対する作用を比較した。
 インフルエンザワクチンを若年マウスと加齢マウスに経鼻接種し、十全大補湯と補中益気湯を投与したところ、加齢マウスにおいて補中益気湯のみに上気道でのインフルエンザウイルス特異的IgA産生の増強が認められた
 また、同様の系で若年マウスと加齢マウスにおいて、補中益気湯のみに全身免疫系でのインフルエンザ特異的IgG産生増強が認められた。そこで、補中益気湯を中心に検討したところ、卵白アルブミン(OVA)の経口投与により誘導される、腸管と上気道粘膜局所での抗原特異的IgA産生の増強が認められた。

 次に、マウスに補中益気湯を1週間投与したところ、パイエル板において、24種類の免疫関連分子mRNA発現が顕著に変化した。特にCD62L陽性末梢血リンパ球数とパイエル板リンパ球数の増加が認められた
 以上の結果から清原先生は「補中益気湯はパイエル板でのCD62L陽性Bリンパ球を誘導し、局所粘膜実効組織への移送を促進すると考えられる」と述べた。

 次に、補中益気湯の腸管上皮細胞に対する作用を検討した。補中益気湯をラットに投与したところ、十二指腸由来細胞株の免疫機能に影響を与えた。また、補中益気湯は抗がん剤のメトトレキサートを投与したマウスの腸管上皮細胞機能を回復させた。

 また、清原先生らは、補中益気湯から得られる分画画分を検討したところ、粘膜免疫機構調節活性の発現には、高分子多糖画分が関与していることが認められた。さらにこの高分子多糖画分には、17種類の多糖含有成分が含まれ、これらはパイエル板免疫担当細胞と腸管上皮細胞株のいずれにも作用した。清原先生は「補中益気湯はパイエル板免疫担当細胞および腸管上皮細胞への直接作用を介した粘膜免疫機構に対する調節作用を有していると示唆される」と結んだ。

ツムラ「漢方スクエア」94号(09.4.22)より一部を引用紹介。強調は引用者が加えた。
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ホメオパシーの無効性を嗤うーー【書評】予防接種は果たして有効か? [代替療法]

トレバー・ガン(由井 寅子 訳)『予防接種は果たして有効か?』ホメオパシー出版(2003)

 元・国立衛生研感染症室長・母里先生や小児科医・毛利先生方が『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』誌で仰るように、現行のインフルエンザワクチンなどの、免疫学的にも疫学的にも有効性の怪しい幾つかの予防接種は、明らかに無効で一利無し(医療経済的にはゼロではなくマイナス)なのは当然で、心ある医療関係者はそう思っている。

 問題は、そのことをホメオパスが主張したとして、ホメオパシーの有効性の証明を補完するものにはなりえぬというシンプルかつ根本的な事実だ。本書も、そこを抜きにして内容を云々することは不毛であろう。
 ちなみに評者は、20数年前に初めてその療法の存在を知ったとき、興味を抱き、英米からホメオパシーに関する洋書や一流メーカーのリメディを輸入して自ら試し(バッチ・フラワーリメディも含む。当時は税関も無知だったため、アルコール入りリメディにも気づかず輸入できた)、動物実験も行ってきたが、結局、プラセボほどの効果もなかった。残念ながら、ホメオパシーは「信仰」以外の何物でもないだろう。

 というのも、ホメオパシーにはプラセボ二重盲検法で効果有りとする結果は皆無に近いからだ。即ち、効果があったにせよ、論理的には最高でもプラセボと同等である----つまりホメオパシーは所詮「プラセボ」に過ぎないということなのだ。 
 つまり、ヨーロッパの医大で自然療法の一つとして教育課程で扱っているにせよ、ハーブ療法のように生化学的基礎の有るものとしてより、プラセボの一つとしての要素が強い訳だ。

 というのは、レメディも「無限小」の原則で希釈・作製されれば、モル数なら分子数0=法律的には「乳糖錠」に過ぎず、化学物質として、標的器官・部位に化学変化に基づく正作用を与え得ぬ以上、副作用も起こり得ず、従って「安全」だから認めているだけで、患者が治り、医療費抑制につながり得るなら「方便」として何でも使う欧州のしたたかさを感じるからである。

 例えば、英国ではヒーラーの手かざしにさえ保険が効くが、ヒーラーは国家登録制で、怪しげな新興宗教の人間ではない者による心理的癒しで治ってもらえば、長期の薬物治療より安く上がるから許可しているという、したたかさを感じる。ホメオパシーの扱いもその程度のものに評者には思える。

「ダイナマイゼシション(振盪)」で「水に薬剤の記憶を与える」ことによって希釈しても元の物質の「情報」は保存されるが、薬品としての濃度は下がるので副作用は無くなるという主張はトンデモな戯言である。
 「信者」が<科学的>説明として頻繁に持ち出す「水素結合による水のクラスター化から、水が情報を保存できるのだ」という考えは、「πウォーター」というイカサマ高価格水の論理にも通ずるが、物理学においては水のクラスター理論は70年代に終わった理論だとされているのだ。
 というのも、高校物理/化学レベルでも自明(絶対零度やブラウン運動を想起するだけで十分)だが、熱運動によって位置も速度も乱雑に変わるという水の分子の転位の早さからは、10のマイナス12乗秒以上にわたって安定に保たれるような水分子の配置はなく、いかなる情報も保存できるはずもないからだ。

 いずれにせよ、結局「濃度が低い方が効く」というホメオパシーの原則は、彼らの言うアロパシーたる現代医学で、医薬品一般が、中毒域以下の濃度で薬物として作用するため、濃度によって正に「毒にも薬にもなる」という事実の、原始人的なまでの拡大解釈であり、所詮、ホメオパシーはアロパシーの陰画[ネガ]に過ぎないのだ。

 例えば、ヒ素は中毒を起こすが「薄めて」医薬品とすれば白血病薬となり得るし、中毒症状と白血病の症状に類似点が有るからといって、ヒ素のレメディが両方を治し得るというような考えは単なる思いつきで、実際は大半の化合物において、こうした類似性が見られることは皆無に近い。

 そもそも、たかだか200年かそこらのホメオパシーは、漢方やアユルヴェーダに勝てる訳がない。その原理が正しければ、ハーネマンという一個人が発見する前に、彼一人が観察し得た程度の薬理現象と人間の反応との相関関係があったとするなら、それは数千年前から中国やインドで既に発見され検証され体系化されていた筈だからだ。
【下】Samuel Hahnemann


 なお、評者たる私は、日本相補代替医療学会/日本統合医療学会の正会員でもある。しかし、トンデモ代替医療は「悪貨が良貨を駆逐する」が故に徹底的に排斥すべきだという考え方である。

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十全大補湯のIL-12とIL-18の誘発作用と、その後のNKT細胞活性作用 [東洋医学]


 都立墨東病院・消化器内科部長の藤木和彦先生と昭和大歯学部(口腔解剖学教室)の中村雅典教授などが、論文「十全大補湯のIL-12とIL-18の誘発作用と、その後のNKT細胞活性作用」"IL-12 and IL-18 Induction and Subsequent NKT Activation Effects of the Japanese Botanical Medicine Juzentaihoto"(Int J Mol Sci. 2008, 9,p.1142.オープンアクセス論文=無料pdf])をInternational Journal of Molecular Sciences誌に発表した。

Abstract
In this study, we first measured some cytokine concentrations in the serum of patients treated with Juzentaihoto (JTT). Of the cytokines measured interleukin (IL) -18 was the most prominently up-regulated cytokine in the serum of patients under long term JTT administration. We next evaluated the effects of JTT in mice, focusing especially on natural killer T (NKT) cell induction. Mice fed JTT were compared to control group ones. After sacrifice, the liver was fixed, embedded and stained. Transmission electron microscope (TEM) observations were performed. Although the mice receiving the herbal medicine had same appearance, their livers were infiltrated with massive mononuclear cells, some of which were aggregated to form clusters. Immunohistochemical staining revealed that there was abundant cytokine expression of IL-12 and IL-18 in the liver of JTT treated mice. To clarify what the key molecules that induce immunological restoration with JTT might be, we next examined in vitro lymphocyte cultures. Mononuclear cells isolated and prepared from healthy volunteers were cultured with and without JTT. Within 24 hours, JTT induced the IL-12 and IL-18 production and later (72 hours) induction of interferon (IFN)-gamma. Oral administration of JTT may induce the expression of IL-12 in the early stage, and IL-18 in the chronic stage, followed by NKT induction. Their activation, following immunological restoration could contribute to anti-tumor effects.

[アブストラクト:Catsduke訳]
 本研究で我々は先ず十全大補湯(以下、JTT)による治療を受けた患者の血清中の各種サイトカイン濃度を測定した。長期投与患者の血清中では、IL-18の発現上昇が最も顕著であった。次に、JTTのマウスへの影響、とりわけナチュラルキラーT細胞(NKT)の誘導能に注目して評価するため、JTT投与マウスを対照群と比較した。屠殺後、肝臓を固定・包埋・染色し、透過型電子顕微鏡 (TEM) による観察を行った。免疫組織染色法では、JTT投与マウスの肝臓中で、IL-12とIL-18のサイトカイン発現が多いことが示された。我々は次にJTTによる免疫学的回復を誘導する中心分子が何かを明らかにするため、in vitroでリンパ球を培養して調べた。健康なボランティアから単核細胞が採取・準備され、JTT処理群/未処理群が培養された。24時間で、JTTはIL-12とIL-18の産生を誘発し、次いで(72時間で)インターフェロン-γを誘発した。JTTの抗腫瘍作用は、最初にIL-12とIL-18の発現を誘発、続いてNKT細胞を活性化することによるものと思われる。

[コメント]
 癌の補助化学療法といった、免疫学的には非科学的で、かつ患者のQOLを下げて、再発を早めるだけの治療は、海外の諸論文や阪大の胃癌に関する研究や、慶応大の近藤 誠先生の告発・啓蒙などによって、以前ほど無意味に行われることは少なくはなりました。例えば、5FUが経口(聞く筈が無い)で認可されていたのは日本だけだったからです。しかし、吐き気止めと合剤になり、化学構造を僅かに変えただけの詐欺のような経口剤がその後開発されるなど、日本の製薬会社の抗癌剤に対するパラダイムには疑義を抱かざるを得ません。

 以前から、例えば、大阪市大では、旧・第一生化学と第三内科が、十全大補湯の抗腫瘍活性をIFN-γとIL-2産生増強に見いだす報告を早くから行っていました(Japanese Journal of Allergology 1988;37:57-60)し、愛媛大などの研究では、十全大補湯のような漢方薬の「補剤」には、西洋医学で言う副作用も無く、癌手術後の患者の回復を助け、免疫力を高め、再発を防ぐ効果のあることが示されていました。補助療法としては、よほど漢方治療の方が意味のある投薬であることは今や論を俟たないでしょう。しかし、漢方というだけで、効果を疑うような向きも医家にはいないわけではありません。

 こうした免疫学的機序が示された研究が数多く出ることで、積極的に漢方薬が利用され、患者の体質改善がなされて、再発が防がれ、トータルで癌医療に関する医療費が抑制されることが望まれます。

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慢性膵炎の痛みに抗酸化物質が有効な可能性 [抗酸化剤]

 慢性膵炎の痛みの緩和に抗酸化物質が有効な可能性があると、インドのグループがGastroenterology(136:149-159)に論文"A Randomized Controlled Trial of Antioxidant Supplementation for Pain Relief in Patients With Chronic Pancreatitis"(慢性膵炎患者の疼痛緩和に対する抗酸化剤投与効果に関する無作為化対照試験)を発表した。


ABSTRACT
Background & Aims
 Oxidative stress has been implicated in the pathophysiology of chronic pancreatitis (CP). We evaluated the effects of antioxidant supplementation on pain relief, oxidative stress, and antioxidant status in patients with CP.

Methods
 In a placebo-controlled double blind trial, consecutive patients with CP were randomized to groups that were given placebo or antioxidants for 6 months. The primary outcome measure was pain relief, and secondary outcome measures were analgesic requirements, hospitalization, and markers of oxidative stress (thiobarbituric acid-reactive substances [TBARS]) and antioxidant status (ferric-reducing ability of plasma [FRAP]).

Results
 Patients (age 30.5 ± 10.5 years, 86 male, 35 alcoholic, and 92 with idiopathic CP) were assigned to the placebo (n = 56) or antioxidant groups (n = 71). After 6 months, the reduction in the number of painful days per month was significantly higher in the antioxidant group compared with the placebo group (7.4 ± 6.8 vs 3.2 ± 4, respectively; P < .001; 95% CI, 2.07, 6.23). The reduction in the number of analgesic tablets per month was also higher in the antioxidant group (10.5 ± 11.8 vs 4.4 ± 5.8 respectively; P = .001; 95% CI, 2.65, 9.65). Furthermore, 32% and 13% of patients became pain free in the antioxidant and placebo groups, respectively (P = .009). The reduction in the level of TBARS and increase in FRAP were significantly higher in the antioxidant group compared with the placebo group (TBARS: placebo 1.2 ± 2.7 vs antioxidant 3.5 ± 3.4 nmol/mL; P = .001; 95% CI 0.96, 3.55; FRAP: placebo −5.6 ± 154.9 vs antioxidant 97.8 ± 134.9 μMFe+2 liberated, P = .001, 95% CI 44.98, 161.7).

Conclusions
 Antioxidant supplementation was effective in relieving pain and reducing levels of oxidative stress in patients with CP.

 慢性膵炎の病態生理に酸化ストレスが関係している可能性があることから、同グループは慢性膵炎の痛みに対する抗酸化物質の有効性を検討した。対象は127例で、6か月間にわたり抗酸化物質のサプリメントを服用する71例とプラセボを服用する56例にランダムに割り付けた。

 その結果、プラセボ群と比べ抗酸化群では6か月後の1か月間の疼痛日数の減少と、鎮痛薬錠剤数の減少がともに有意に大きかった(それぞれP<0.001、P=0.001)。痛みが消失した割合は抗酸化群32%、プラセボ群13%であった(P=0.009)。
 また、プラセボ群と比べ抗酸化群では酸化ストレスマーカーと抗酸化能の有意な改善が認められた。


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QOLを高める癌治療における漢方併用療法1 [東洋医学]

第46回 日本癌治療学会 総会ワークショップより

人参養栄湯は抗癌剤による血小板減少を抑えて抗癌剤の抗腫瘍効果を落とさない

田中哲二 先生(和歌山県立医科大学医学部産科・婦人科学教室 准教授)

 抗癌剤の副作用の1つである血小板減少症には血小板輸血が行われるが、血小板輸血は抗血小板抗体産生を誘発、癌患者の余命を縮める場合も少なくない。また現在、血小板減少を抑えるための特効薬は開発されていない。
 
 田中先生は、人参養栄湯(TJ-108)を使って血小板減少症を予防し、抗癌剤治療を行い効果を上げておられる。

「卵巣癌の患者さんに、まず1コース目にCPT-11とカルボプラチンを投与したところ、血小板数が1.7万(/μL)に下がり、やむなく血小板を輸血して乗り切りました。癌が縮小していたので2コース目も同じ抗癌剤を投与した際に人参養栄湯も投与、血小板最低値は6.4万で経過して血小板輸血を行わずに済んだのです(白 涛ほか『産婦人科漢方研究のあゆみ19』診断と治療社,2002,p.149)」と症例を挙げた田中先生は、以下の3点を検証された。
 1.なぜ人参養栄湯は抗癌剤の副作用である血小板減少を抑えるのか。
 2.漢方薬は抗癌剤感受性を抑制しないのか。
 3.漢方薬の中でも人参養栄湯が最適なのか。

「別の卵巣癌の患者さんで、抗癌剤の1コース目は血小板が6~7万に下がったもののあまり減少はしませんでした。2コース目を行ったところ、1コース目より下がってきたため、3コース目に人参養栄湯を併用したところ、血小板は10万以上を維持しました。この患者さんの人参養栄湯投与コースでの血清中のさまざまな骨髄系幹細胞増殖促進サイトカインを測定しました。変動はなく、人参養栄湯は骨髄系幹細胞増殖促進サイトカインに直接影響を及ぼしているわけではないと考えられます(深山雅人ほか『産婦人科漢方研究のあゆみ18』診断と治療社,2001,p.97)」と述べられた(図1)

 図1人参養栄湯はCTP(CAP)療法誘発血小板減少を予防する

 次に、人参養栄湯の作用機序を明らかにするため、成熟雌ラットから大腿骨髄細胞を取り出し検証された。抗癌剤を添加すると骨髄細胞死を招くが、成人男性の人参養栄湯服用血清を添加すると、骨髄細胞死を抑制した。

 また、人参養栄湯は抗癌剤感受性を減退させるかどうか検討された。これまで、抗癌剤とともに人参養栄湯を併用して効果をあげた具体的な症例をいくつか示し、田中先生は「私自身が、担当した卵巣癌、子宮体癌、子宮頸癌等でCPT-11を使った患者さんで癌消失、縮小等の評価可能病変を有する20人の患者さんのうち有効だった人17人、奏効率85%。パクリタキセル+CBDCA療法を行った患者さんでは奏効率94.4%。すべて人参養栄湯を併用しています。これらの奏効率は抗癌剤だけを投与した時の一般に報告されている奏効率よりはるかに高く、少なくとも人参養栄湯は臨床的に癌細胞の抗癌剤感受性を下げてはいないことがわかります」とおっしゃる(図2,3)。

 図2人参養栄湯併用CPT-11化学療法を行った(評価可能病変有)患者の治療成績


 図3人参養栄湯併用パクリタキセル+CBDCA化学療法を行った(評価可能病変有)患者の治療成績

 また、田中先生はラットの幹細胞を用いて他の漢方も検討、骨髄幹細胞増殖を刺激する可能性の高い漢方薬をスクリーニングなさっている。最後に「人参養栄湯よりも、血小板減少を抑える可能性のある漢方薬もあります。人参養栄湯では少なくとも1週間か10日ぐらいで血小板の数値は上昇しますが、もっと効く可能性のある漢方薬も複数あります。実際に数日で血小板数を上昇させる漢方薬もあります」と語られた。

[ツムラツムラメールマガジン85号より転載紹介]
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