ネコの尿臭の臭さの原因を解明----理化学研究所・岩手大
理化学研究所フロンティア研究システムスフィンゴ脂質発現制御研究チームと岩手大の研究チームが、 ネコの尿がにおう生理的な仕組みを解明し、Chemistry & Biology(13: 1071-1079)に掲載された。
将来、家の中で暮らすペットのネコの尿臭を減らすことができるかもしれない。
人間を含む哺乳動物は、腎臓の病気になるとたんぱく質が大量に尿中に出るが、 ネコは健康でも大量のたんぱく質を含む尿を排泄する。 尿中に含まれるこの大量のタンパク質は分子量が約7万の新規タンパク質であり、2003年に発見された。
それは「カルボキシルエステラーゼ」という酵素に類似した構造を有しており、コーキシン(Cauxin)と命名され、腎臓の尿細管の細胞で合成され直ちに尿に分泌されることが判明し、尿中でなんらかの生理機能を果たしていることが想定された。その結果、共同研究グループによる機能解析で硫黄成分を含むフェリニンを生産する酵素の作用を果たしていることが判明した。
猫の腎臓内で前駆体物質(3-メチルブタノールグルタチオン:3−MBCG)にコーキシンが化合されると、コーキシンは3-MBCGのペプチド結合を分解し、フェリニンとグリシンという2つのアミノ酸を作る。
さらにフェリニンが分解されてできる硫黄を含む揮発性の物質(3-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール[b]とその類似物質[a,c,d])が、 独特のにおいを生じさせ、縄張りを示すにおい物質や異性を引きつけるフェロモンの成分になっているとみられる。
フェリニン生成のメカニズムが解明されたことで、腎臓内で前駆体物質にコーキシンと類似の化合物を結合させれば、においの原因が生産されないことになる。経口薬や餌に混ぜるなどして投与すれば可能だ。
脱臭効果のある成分が含まれる猫用トイレの砂などもあるが、今回の成果を応用すれば、においの原因を元から断つことができる。
また、コーキシンは猫が腎臓病の場合には尿中に含まれない特性もある。腎臓病は高齢猫の死亡原因のトップにもなっている。
共同研究メンバーで岩手大の山下哲郎助教授(生化学・理学博士)は今回の研究とは別に、動物薬会社の日本全薬工業(本社・福島県郡山市)と共同研究を展開。尿中のコーキシンの特性を生かした腎臓病診断について特許を申請。製品化の前段階までこぎつけているという。
一連の研究は、同大獣医学科出身の宮崎研究員が同大在学中の99年度、猫の腎臓病研究に取り組んだのがきっかけ。以来、山下助教授らとともに研究を進め、大学院時代の03年、全く新しいタンパク質として「コーキシン」を発見発表した。
コーキシンはカルボキシルエステラーゼ様尿分泌タンパク質(Carboxylesterase-like urinary excreted protein)の略。宮崎研究員が英語のことわざ「Curiosity killed the cat」(好奇心が猫を殺す)をもじったものと、山下助教授は命名のエピソードを話している。
【写真:岩手大・山下助教授】