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飲酒する喫煙者にβカロチンは逆効果 [β-カロチン]

 抗酸化作用を持ち癌予防効果があるとされるβ-カロチンだが、飲酒習慣のある喫煙者にとっては結腸直腸腺腫を発症するリスクを高める可能性があることが、レバノンのダートマス大学のJohn A. Baron教授らによる「抗酸化薬ポリープ予防研究」で明らかになった。詳細はJournal of the National Cancer Institute(95: 717-722)に掲載された。




<先行研究でも同様の結果>
 今回の研究は、腺腫切除歴があるが現在はポリープの見られない被験者を対象にした多施設ランダム化プラセボ対照試験。筆頭研究者のBaron教授によると、1日に1杯以上のアルコールを摂取する喫煙者は、β-カロチンのサプリメントを服用することにより結腸直腸腺腫を発症するリスクが2倍になった一方、飲酒も喫煙もしない者は、β-カロチン服用で癌予防効果が得られたという。

 おもに肺癌罹患リスクの高い喫煙者に対するβカロチンの肺癌予防効果に関する2つの大規模な先行研究〔フィンランドのα-トコフェロール/β-カロチン研究(ATBC)、米国のβ-カロチン/レチノール効果試験(CARET)〕でも、β-カロチンが癌のリスクを高める可能性があるという結果が出ていた。
 一方、大部分の被験者が非喫煙者だった別の研究では、β-カロチン服用と肺癌の関連性は示されなかったことから、飲酒・喫煙とβカロチンが及ぼす悪影響の間になんらかの因果関係があることは示唆されていた

 今回の研究では、β-カロチン服用群の腺腫再発リスクはプラセボ群と比べ44%減少した


<各研究の慎重な総合を>
 今回の研究のキーポイントは、被験者の喫煙・飲酒習慣によりβ-カロチンの効果が異なることであった。Baron教授は「この結果により、癌全般に関する安全かつ有効な予防・治療戦略をデザインする難しさが浮き彫りになった。動物実験、疫学研究、臨床試験を慎重に総合する必要がある」と述べている。

 今回の研究では、腺腫切除後に再発が見られない被験者(864例)を、β-カロチンまたはプラセボを25mg服用する群、それに加えビタミンC(1000mg)とビタミンE(400mg)を服用する群、両ビタミンのみを服用する群、プラセボのみの群に分けた。被験者のうち707例が喫煙・飲酒習慣を申告し、2年後にフォローアップで結腸鏡検査を行った。喫煙・飲酒習慣は被験者の自己申告であったため、研究結果の正確性に疑問を呈する余地があるほか、腺腫再発と他のライフスタイル因子が関連している可能性も否定できない。

 しかし、過去に結腸直腸腺腫を切除した飲酒習慣のある喫煙者は、β-カロチンのサプリメント摂取を控えるべきだ、と同教授らは強調する。なお、食物に含まれる少量のβ-カロチンも有害であるかは不明としている。

 同教授は「作用機序やライフスタイルとの相互作用がわかっていない医療的介入方法を健康な人々に幅広く適用する場合は、十分に注意を払うべきであることが今回の研究であらためて示された」と述べている。


【コメント】
 飲酒・喫煙をする者には、βカロテンの恩恵が得られず、逆効果に成り得ることは各種試験で言われていることです(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 1998;7(8):725-728./Ann Intern Med. 2003;139(1):51-55)。その結果を孫引きして「βカロテンは体に悪い」「野菜から摂取せず、サプリメントからβカロテンを摂るのが危険」などと、好き勝手に思いつきのデマを、時に著作にまでしてふれ回っている連中がいます。

 まず、各種試験に使用されているβ-カロテンのサプリメントが、ニンジンのような野菜やドナリエラ藻から抽出された半天然品(=cis型・trans型混合)ではなく、「合成物」(=100%all-trans型)である点が問題です。各種疫学調査の解析で、βカロチン摂取量として推計されているのはいうまでもなく野菜に含まれる天然のスペクトルのものであるのに比して、介入試験で使用されるサプリメントの大半は合成物です。 cis型はtrans型の持つ問題点を解消すると言われているので、そこが正されていない試験は撹乱のために行われた可能性を持ちます。

 レチノイドの話ですが、急性骨髄性白血病のファーストチョイスになっているのは、all-trans型レチノイン酸であり、cis型ではありません。異性体は明らかに性質が違うのは当然なので、それをごっちゃにした試験など信頼できませんし、早急な結論は下せません。疫学的には明らかに体に良い栄養成分が、サプリメントにしたら逆の結果になった場合、そのサプリメント化に問題がある蓋然性が高いに決まっている訳です。

 β-カロテンに関する一般書・専門書としては、以下を参照ください。

ウィーター『ベータ・カロチン―がんを防ぎ健康を守る』 東京化学同人(1993)

→レチノイド/カロテノイド研究のメッカである元・岐阜大にいらっしゃって、現・長崎シーボルト大の四童子先生の'93年刊の訳書であり、基本文献です。

武藤泰敏『レチノイド・カロテノイド―体内代謝と発癌予防』南山堂(1997)

→レチノイド/カロテノイド研究のメッカである岐阜大の研究を率いてこられた武藤先生が書かれた総合的学術入門書としては最初の記念すべき労作。四童子先生がたとの座談会など読みどころ満載。研究者や臨床家がレチノイド・カロテノイドの分子生物学を理解するための格好の解説書です。

高市・三室・富田『カロテノイド―その多様性と生理活性』裳華房(2006)

→総合的学術入門書としては最新のもの。

渡辺・ベンアモツ 『ガンを癒す!天然ベータカロチンの秘密』現代書林(1997)

→ドナリエラ由来の6-cis-β-カロテンと、ニンジンなどに多く含まれるall-trans型β-カロテンの差異を一般に分かりやすく解説。各種臨床試験に使われた合成β-カロテンは、天然物由来ではあり得ない全てall-trans型100%であり、それが良くない試験結果に結びついたケースも多いと言われているだけに、両者の違いについて知ることは重要。

西野・カチック『なぜマルチカロチンがガンを抑制するのか』メタモル出版(1998)

→いささか古いが、ワイドスペクトルのカロテン類の摂取の必要性、とりわけ、α‐カロチン・リコピン・ルテインの効果を説いた国内最初の書籍。斯界の権威・京府医大の西野先生の名の冠された初の一般書。

【参考書】
吉川敏一『フラボノイドの医学』(講談社サイエンティフィク)


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