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ATTAはミニRNAを増やして癌遺伝子の発現を押さえる [ビタミンA]

 新研究の結果、急性前骨髄球性白血病治療薬として頻用されるビタミンA誘導体が、白血病細胞中のマイクロRNA(miRNAs)と呼ばれる小分子の非通常集団に変化を引き起こすことが分かった。

 その研究では、さらにこの薬の作用機序の説明を通して、これらmiRNAsのうちの3つが、癌の増殖に重要な2つの遺伝子の動きを阻害することを示している。この薬はオールトランス型レチノイン酸(ATRA)と呼ばれており、現在この病の第一選択薬になっている。

 本研究は、ATRAは白血病細胞中の3つの特別なmiRNAsのレベルを上げるが、この上昇と、2つの重要な発癌遺伝子の活動の低下とが同時に起こることを示した。そして、その3つのmiRNAとは、miRNA-15b、miRNA-16-1、let-7であると同定された。この内の2つ、miRNA-15bとmiRNA-16-1は、多くの種類の癌において異常昂進しているbcl-2遺伝子の活動を減弱する。この遺伝子によって生産されたタンパク質が、細胞死の正常なプロセスを阻み、癌細胞が寿命を越えて生きることを手助けする。残りのmiRNA分子let-7は、Ras癌遺伝子、すなわち重要な発癌遺伝子の活動を低下させた(癌遺伝子=オンコジーンとは、正常な遺伝子だが、突然変異すると発癌を誘発する遺伝子のこと)。

 オハイオ州立大学総合がんセンターの研究者が、本研究を主導し、その成果は近刊の医学雑誌"Nature Oncogene"誌上で発表される(注:Oncogene29 January 2007号)。



「発癌促進遺伝子のスイッチをいくつかのmiRNAが切ることが判明したので、この研究は重要なのだ」と、オハイオ州ジェームズ癌病院およびSolove研究所の血液学者であり腫瘍学者である、論文の筆頭者Ramiro Garzon博士は述べている。

 急性前骨髄球性白血病は、成熟好中球へと成長する初期段階の細胞である前骨髄球が未成熟な段階で蓄積するようになる場合に起こる。血液と骨髄中の健全な白血球を押し出すまで、未成熟な前骨髄球は蓄積する。

「我々の発見は、これらの3つのmiRNAが有害な細胞をより通常の状態へ再プログラムするのを支援していることを示している」「そして、さらに、このことはは正常な[血球の]分化に関しても重要である」とGarzon博士は述べている。

 この研究では、ATRAがどのようにmiRNAレベルに影響し、またmiRNAレベルの変化がどのように細胞に影響するかを研究するために、研究所で培養されたり患者から提供されたりした白血病細胞が使われた。

 研究者は未成熟細胞を成熟させるためにATRAに96時間まで白血病細胞を晒した。この処置の結果、対照群と比較して、8種のmiRNAのレベルが上昇し、1種のレベルが低下した。これらのうち、研究者はmiRNA-15bとmiRNA-16-1に注目した。これらはBcl-2遺伝子の活動をレギュレートするものとしてと知られている。実際、2つのmiRNAの活動が高レベルになる時には、Bcl-2は活動は低くなることが判明した。

 次に、この両miRNAsがBcl-2活動の低下を現実に引き起こすことを、ATRA未投与の白血病細胞へ、2つのmiRNAを追加することで示した。両miRNAの追加は、Bcl-2レベルの強い低下を引き起こした。その後、研究者は、Ras癌遺伝子の既知のレギュレータである、もう一つのmiRNAのlet-7に注目し、このmiRNAのレベルが高いとRasの活動が低下することを発見した。前者同様、ATRA未投与の白血病細胞へlet-7を追加するという手法で因果関係を確立した。

 Garzonは「結局、我々の発見から判明したことは、ATRAがこれらの3つのmiRNAの発現を引き起こし、それらが細胞が正常に分化するために沈黙させるべき遺伝子をレギュレートすることである」と述べている。

【コメント】
 この研究で、白血病細胞においてATRAは3つのマイクロRNA・miRNA-15b、miRNA-16-1、let-7のレベルを上昇させ、それに伴い2つの発癌遺伝子Bcl-2とRasの活性を低下させると判明した訳です。

 これらの3つのマイクロRNAが、悪性細胞を正常な状態へと再プログラムする=分化誘導を助けていると示唆された訳で、ATRA療法の分子医学的機序がさらにはっきりした形です。

 元記事:オハイオ州立大学メディカルセンターHP「Leukemia Drug Turns Mini-Molecules Up, Cancer Genes Down」 http://medicalcenter.osu.edu/patientcare/hospitalsandservices/press/?ID=3066&i=0&SIDS=72,73,74,20 をCatsdukeが翻訳。


【ご参考】
武藤泰敏『レチノイド・カロテノイド―体内代謝と発癌予防南山堂(1997)

→レチノイド/カロテノイド研究のメッカである岐阜大の研究を率いてこられた武藤先生が書かれた総合的学術入門書としては最初の記念すべき労作。四童子先生がたとの座談会など読みどころ満載。研究者や臨床家がレチノイド・カロテノイドの分子生物学を理解するための格好の解説書です。

高市・三室・富田『カロテノイド―その多様性と生理活性』裳華房(2006)

→総合的学術入門書としては最新のもの。


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