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動物に漢方、それは西洋医学の発想だ!----[書評 ]『漢方で犬・猫を元気にする』 [東洋医学]

[書評 ]沢田めぐみ『漢方で犬・猫を元気にする』世界文化社

 最近は、獣医科医院でも漢方薬が治療に使われている。本書もそういう背景の下で書かれたものであろう。しかし、東洋医学の原理論や西洋医学の診断論・薬理学、さらに獣医学に知識を持つ者にとっては多くの疑義が存在する。
 例えば、治療の中心が、西洋医学の医院で使用されるエキス剤を初めとする方剤=日本漢方で使用されるものである以上は、以下の問題が存するはずである

 1. まず漢方は投薬に当たって、熱/寒・実/虚、燥/潤などを判断せねばならない。中医学の動物漢方家のような脈診・舌診が、日本の獣医師や一般のペット愛好家に可能になるのか。

 できないが故に、漢方体系と何の関係もないOリングテストで代替する獣医師まで市井には居る程だが問題はないのか。つまり、人間の医者が現在やっている、病名処方的=西洋医学的投薬になってもいいのかこの場合、「証」をほぼ無視しているだけに、漢方薬でも「副作用」が生じることになるがそれでいいのか

 ちなみに私は、このOリングテストで適薬や取穴を決定する「ホリスティック獣医師」(何と脈診もできないレベルの人間が日本獣医東洋医学会の評議員なのだ)に愛猫を殺されている(彼が「とてもよくなっていますよ」と言った翌日に私のみーくんは亡くなった。ただ病名処方的に猪苓湯を投与していただけだ。何も良くなっていなかったことは明らかだ。私は半年間ペットロスになった。彼が手をかざし感じていた「気」とは何で、送っていた「気」とは何で、やっていた気功とは何で、打っていた鍼・すえていた灸とは何だったのか。全く「気のせい」でしかない。この御仁は、現在権威然として振るまい、何と動物漢方のDVDまで出しているが笑止である)。

 2. そもそも人間用の漢方方剤は人間のためのものである
 例えば、漢方薬「竹葉石膏湯」(石膏・竹葉・粳米・白米・生姜・附子)に使われる竹葉は生薬としては-2(微寒)であり、体内の過熱を去るための薬だ。だがパンダには主食=常食するものであり、彼らには「平」で±0なのだ。

 また、逆に、処方中の粳米は人間には主食で「涼」食なのだが、人とのズレを考慮すると、パンダにとっては+1で「温」薬になるので、もし粳米をパンダに食餌として与えれば、彼らを炎症体質にしてしまうのだ。

 燥/潤も同様で、ネギは漢方では葱白で、人間では+1で「燥」食だが、オオバコ(人間では+2)を常食するウサギには、-1で「潤」食になるため、ネギの多食は人間を燥タイプの体質にし、ウサギには湿性病を与えてしまうことになる。

 このような矛盾があるのに、動物専用の漢方処方を作る訳でも無く、人間用を用いるというのは、西洋医学の薬品が、動物実験を経て人間に使われていることの逆でOKという発想だと思われるが、そうした考え方は、実のところ東洋医学的発想とは「対極」にあるものではないのか

 人間用医薬品で、動物にはよく効くのに人間にはイマイチというケースも結構ある訳だが(笑)、無論、それは医薬品開発の最初に動物実験があるから、ある意味で当然である。

 その一方で、漢方薬は数百年〜二千年近くの経験(=臨床試験。異常に長いフェイズIV[笑])を経て確立されている訳だが、それは人体実験=「人間のための」「人間という動物を使った動物実験」であって、「動物のための」動物実験を経ている訳ではないのだから、人間用の漢方処方がそのままで動物に効くと考えるのは、四海同胞的博愛主義でないのなら、種差を無視した非科学的で、さらに非東洋医学的でもある「思い込み」以外の何物でもないのではないのか。犬猫も『この薬は自分たちのために「人間実験」してある』と言われても困るであろう(笑)。

 浅学非才の故かも知れないが、動物漢方を標榜する日本の類書に上の疑問点を解明したものを眼にしたことは未だに無い。 例えば、インターズーの動物中医学の専門書(翻訳書)は動物専用の処方を載せている。さもありなんである。

 ちなみに評者たる私は日本補完代替医療学会会員で、日本獣医学会会員でもあるが、そもそも農学部獣医学科で動物漢方の正規の講座があるとは寡聞にして知らない。

 ということは、正式に日本で獣医漢方は教育されていないということなのだ。獣医師のまさに実験医療的段階なのである。

 即ち、中国では、随証治療であるが故に、肝臓疾患全般に対して数%しか用いられてはいない小柴胡湯を、日本では80%も多用して「間質性肺炎」という副作用を起こしてしまった人間相手の医師と獣医師は、いわば全く同じレベルにあり、同じ過ちを犯す/犯している蓋然性が非常に高い訳である。

 獣医代替医療に、生化学・分子科学的根拠のあるハーブやビタミン・アミノ酸などを用いる(ホメオパシーやバッチ花療法のようなトンデモ代替医療は、生薬薬草医学であるハーブ医学とは別物で論外!)のと、漢方を用いるのは実は異質なのだということをペット愛好者にはぜひ理解してほしい。

 巷間には、漢方とホメオパシー、漢方とOリングテストなど、漢方理論体系と矛盾するもの・無関係かつ相容れないものとを安易に結合する馬鹿者がいる。
 プラセボ対照DBTや微量成分の分析手段の発達などにより、経験知に過ぎないと揶揄されてきた漢方の湯液/鍼灸治療もきちんと科学的検証が行われてきて、その生物科学的医学的基礎・作用機序がどんどん明確化している現在にあっては、それらは漢方・鍼灸を貶めるだけの所業であり、百害あって一利無しである。相補代替医療は玉石混交な部分があるものの、「悪貨が良貨を駆逐する」ことのないように願いたいものである。


 東洋医学を診療に取り入れた経緯を語る際に「西洋医学では治せないケースを経験し、西洋医学の限界を感じた」などと安易に語る輩がいるが、一般的・教科書的=ルーチン的(しかも日本の)レベル以上に掘り下げることもしない自らの不勉強を棚に上げて、西洋医学の限界を語る傲慢さには、合わせ持つそのナイーヴさと共に些かあきれてしまう。それは、そのヤブ医者個人の限界であって、西洋医学の限界ではない。まず何事も「限界まで究める」こと自体がそう簡単にできる訳がなかろう。

 例えば、そうしたエセ良心派=「限界」などと安易に口にする向きは、天花粉(タルク)を胸腔鏡下で吹入し、転移性肺癌を治療する方法が欧州で使われ、FDAも認可していることを知っているだろうか。エンドスタチン産生を誘導するため腫瘍の成長阻害・縮小効果=延命効果もあるのだ。つまり、一般に治療不能とされる癌が不能では無く、しかも患者にとっては非侵襲的な方法があるのである。一般に、日本のような「情報統制国家」ではオルタナティヴは探そうとしなければ見つからない。しかし探せば存在することは、薬害AIDSの際、安倍のような権威の推奨にも関わらず、汚染血液製剤に対してクリオ製剤を利用されてきた良心的医師が存在した例を筆頭に、実は枚挙に暇が無い。

 西洋中心主義的には「補完医療」という形で取り入れられてしまうが、東洋医学はそもそもパラダイム自体が異なる。動物専門の脈診・舌診・腹診などの東洋医学的診断技術を教育する講座が大学の獣医学部に存在しない以上、獣医師は本来的には動物を無責任に漢方治療すべきではない。それは最も基本的な医療倫理であるはずだ。人間の西洋医学の病院で行われている漢方薬の投与と同じように行うだけならば、人間用漢方薬の愛玩動物用使用は、まさに毎回が「動物実験」であり、(西洋医薬との併用時の相互作用も含めて)安全性など担保されてはいないのだから。

 なお、本書評はCatsdukeが別名でAmazonに投稿したレビュー(長文により割愛・編集する必要があった)の原文である。


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