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クルミとブルーベリーが脳に好影響----認知機能の低下や神経細胞の変性防ぐ [フィトケミカル]

 ジャンクフードばかり食べている人は注意が必要だ。このような食べものは消化管ばかりか脳にまで影響を及ぼすからである。野菜の摂取を奨励するエビデンスは増えている。その際にブルーベリーとクルミも食べたほうがよい。ある種の脳疾患に対して食事が与える影響を示す研究が、07年11月に開かれた米国神経科学会(SFN)の年次集会Neuroscience 2007で発表された。

<クルミが神経変性疾患を抑制>
 タフツ大学・米農務省Jean Mayer抗加齢ヒト栄養研究センターのJames Joseph博士らは、老齢ラットにクルミ抽出物を2%、6%、9%含む食餌を与えると、いくつかの脳老化のパラメータと加齢による運動・認知機能の低下を回復させることを明らかにした。
 同博士らは先行研究で、老齢ラットに抗酸化性の強いイチゴまたはブルーベリーの2%抽出物を加えた食餌を2か月間続けて与えたところ、加齢による神経細胞の機能低下と運動・認知機能の低下が逆戻りすることを発見した。抗酸化分子は、脳内で脳細胞や脳機能に障害を与えるフリーラジカルと戦う。今回の研究は先行研究の結果をさらに支持し、クルミにも同様の効果があることを明らかにした。

 クルミはα-リノレン酸(ALA)や必須ω-3脂肪酸、さらにフリーラジカルのシグナルをブロックする抗酸化薬として働くポリフェノールを含んでいる。フリーラジカルは炎症反応を増強する化合物を生成する。同博士とBarbara Shukitt-Hale博士による研究で、クルミなどの植物由来の短鎖脂肪酸は、認知機能に対して動物由来の長鎖脂肪酸と同様の有益な効果を持つことが初めて示された。
  6%クルミ抽出物を含む食餌をヒトの摂取量に換算すると、1日1オンス(28g)のクルミに相当する。この量は、有害なLDLコレステロール値を低下させるのに推奨される量である。9%クルミ抽出物を含む食餌は、ヒトでは1日約42gのクルミに相当する。
 同博士は「われわれの先行研究と今回の情報を合わせて考えると、重要なのは食事にクルミやブルーベリー、グレープジュースを加えると老年期の健康寿命を延ばすと同時に、長寿という見返りや経済的便益をもたらすことである。それは、神経変性疾患を抑制して発症を遅らせることによる」と述べた。

<"ストレスシグナル"を遮断>
 Joseph博士らは現在、クルミ補充食に見られるこれらの効果の機序には、神経細胞の新生促進またはストレスシグナルの遮断、あるいはその両者が関与しているのか否かを研究中である。同研究では、クルミはフリーラジカル消去だけに関与するのではなく、酸化ストレッサーにより生成される有害なストレスシグナルの遮断に直接作用を及ぼすことが示唆されている。
 同博士は「クルミの健康効果は、神経細胞の情報伝達や新たな神経細胞を産生するといった重要機能の伝達シグナルを増強させることの直接的な結果かもしれない」と推察している。
 老化に伴う疾患、例えばアルツハイマー病(AD)や心血管疾患は、老齢生物が炎症や酸化ストレスに対して自らを防御する能力が徐々に低下し、疾患を発症させる下地をつくり出した結果として起こる。そのように示唆するデータはきわめて多い。同博士は「一般に野菜や果物に含まれる抗酸化成分は、加齢に伴う運動・認知機能の低下を防ぐために重要な防御因子として働くと推測できるが、今回の研究ではそうした効果をクルミで証明したことは朗報だ」と述べた。

<AD治療薬につながる可能性>
 他の研究も、クルミはADの新しい治療法の開発につながる可能性を示している。アミロイドβ蛋白質の蓄積の結果として生じるアミロイド斑は、ADの病理学的主徴の 1 つである。アミロイド斑のなかにアセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼの存在が確認されており、この酵素がアミロイド斑の形成を誘導することも示されている。

 ボールドウィン・ウォレス大学のGina Wilson氏は、現在のAD治療薬は一般にアセチルコリンエステラーゼ活性またはアミロイド斑の形成を標的としているが、両者を同時に阻害することはないとして「AD治療薬はADの進行を遅くするだけである」と指摘した。
 同氏らは生きた細胞を使わずに、厳密に化学的な手法を用いてクルミ抽出物とその主要成分である没食子酸と、没食子酸から生成されるエラグ酸がアセチルコリン・エステラーゼの"二重阻害薬"として作用することを見出した。化学的手法としては、酵素動力学やアミロイドβ蛋白質に結合するコンゴレッドによる比色分析が行われた。没食子酸とエラグ酸は、アミロイドβ蛋白質の凝集に関連するアセチルコリンエステラーゼの作用とともに、アセチルコリンの分解作用も阻害することが明らかになった

 同氏は「われわれは、初めにクルミ抽出物がアセチルコリンエステラーゼ存在下におけるアミロイドβ蛋白質の凝集を阻害し、既に凝集したアミロイドβ蛋白質を分解させることを示した先行研究の結果を確認した。しかし、われわれの知る限りでは、新たな知見はどこにも発表されておらず、他の研究者による追試も行われていない」と述べた。

<没食子酸とエラグ酸を単離>
 Wilson氏らの新たな研究では、クルミ抽出物がアセチルコリンの分解を阻害することを示すとともに、観察された二重阻害を担う特定の化学物質、没食子酸とエラグ酸をクルミ抽出物からそれぞれ単離した。この研究はエラグ酸、そしておそらくは没食子酸が、既に凝集したアミロイドβ蛋白質を分解する可能性を初めて示唆したものと言える。
 正確な追試が必要であるが、同氏らは今回の研究をさらに進めて、生きた動物での研究を予定している。計画では、脳内で凝集するアミロイドβ蛋白質断片をラットに注射し、次にエラグ酸または没食子酸をラットに投与して、脳内アセチルコリンエステラーゼ活性、アミロイド斑の形成、酸化障害の程度を検討する。さらに、投与群と非投与群の間で認知機能の比較を行う予定である。

 アセチルコリンは特に学習と記憶に重要な脳内化学物質で、AD患者では脳内アセチルコリン濃度が著明に低下している。しかし、これだけがADを進行させる要因ではない。AD患者の脳では脳内異常蛋白質であるアミロイドβ蛋白質が凝集し、いわゆるアミロイド斑を形成する。アミロイド斑はまた、ADに伴う記憶障害や認知機能低下と関連付けられている。アセチルコリンエステラーゼはアミロイド斑の形成に関与し、形成を促進する。
 同氏は「より効率のよいAD治療薬の開発を目指してアセチルコリンエステラーゼの二重阻害薬を検索することが重要だ」と述べた。

<ブルーベリーに炎症抑制効果>
 食事と脳の関連について発表されたそのほかの研究は、中枢神経系において炎症を抑制する化合物がブルーベリーに含まれるというものである。中枢神経系の炎症が神経変性疾患進行の鍵となることは知られており、ブルーベリーの摂取がADと加齢による認知機能低下を軽減することも示されている。

 アラスカ大学フェアバンクス校のThomas Kuhn博士らは、アラスカに自生するボグ・ブルーベリーには中枢神経系における炎症反応の抑制に効果がある化合物が含まれることを見出した。
 同博士の研究では、アラスカボグ・ブルーベリーの成分と神経細胞中の特定の蛋白質分子の間の相互作用により、炎症の有害作用が抑制されることが明らかになった。この相互作用の解明は、脳・脊髄の炎症を軽減する新たな薬物療法の開発につながる可能性がある。

 同博士によると、野菜や果物の保健効果は、おもに強力な抗酸化作用を持つポリフェノールによるが、驚くべきことに、アラスカボグ・ブルーベリーの成分は抗酸化物でもポリフェノールでもなく、特異的抑制因子として作用しているという。
 同博士の研究室で、神経炎症の細胞モデルを使用して腫瘍壊死因子TNF-αに神経細胞を曝露させたところ、最終的に神経細胞死に至るアミロイド・カスケードの急速な発現が認められた。TNF-αは脳・脊髄における炎症の中心的なメディエーターであるが、アラスカボグ・ブルーベリー抽出物を神経細胞に添加すると、TNF-α曝露神経細胞の変性を効果的に防ぐことができた

 同博士は「野菜や果物の健康効果とその神経系における分子標的に関するわれわれの知見をさらに推し進めていけば、神経変性疾患の予防法を改善し、脳・脊髄における炎症を抑制する新たな治療戦略が見えてくるはずである」と述べた。AD、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症などの慢性神経変性疾患の大部分、あるいは脳卒中や頭部外傷などの急性脳損傷は、脳・脊髄の炎症を伴う。また、炎症はうつ病や自閉症などの精神疾患や発達障害、さらには正常な老化過程においても高率に認められる。

<脳の神経回路を若返らせる>
 最近の他の研究として、南フロリダ大学加齢・脳治療センターのRon Mervis博士が、Joseph、Shukitt-Hale両博士との共同研究で、老齢ラットの食餌にブルーベリーのサプリメントを比較的短期間(8週間)添加したところ、脳の神経回路の維持と若返りが認められた。

 この研究は、少量(2%)のブルーベリーのサプリメントをラットの標準食に加えることにより、ブルーベリーによる食餌介入が老齢動物における樹状突起と樹状棘(シナプス)の消失に対する防御効果だけでなく、脳の神経回路網の神経生成の増強効果をもたらすことを示した初めてのものである。

 ブルーベリーは強力な抗酸化作用と抗炎症作用のあるフラボノイドも含む。Mervis博士は、加齢に伴う脳の酸化、炎症は神経細胞に損傷を与える可能性があると説明。「ブルーベリーの有益な作用は、他の間接的機序に加えて加齢による神経細胞間の情報伝達機能の低下を最小限に抑えるか、逆転させるのに役立つことだ」と述べた。2 %のブルーベリー抽出物の食餌は、ヒトでは食事に毎日半カップのブルーベリーを加えることに相当する。

<樹状突起と棘の消失を予防>
 老齢哺乳動物の脳内で見られる神経細胞数の減少、樹状突起数の減少すなわち樹状突起の萎縮およびシナプスの消失は、認知機能低下と相関する。シナプスを介して他の神経細胞からの情報を受け、これを統合処理する樹状突起は表面積が大きく、細胞全体の表面積の約95%を占める。シナプスの大部分が樹状突起棘上に形成される。したがって、樹状突起と樹状突起棘の解析により、完全な神経回路と神経細胞の情報伝達を正確に反映できる。

 老齢ラットにブルーベリー補充食を与えると、加齢による認知機能の低下を逆転させることは既に先行研究で示されている。今回のデータは、ブルーベリー抽出物を補充した食餌は、樹状突起と樹状突起棘の消失を予防できる、つまり、ブルーベリー補充食は神経回路を若い脳の状態に戻しやすくする

 これらのパラメータをヒトにおいて検証することはできないが、野菜や果物を多く食べている人は、加齢に伴う神経変性疾患のいくつかを発症しにくく、あまり食べない人のような運動・認知機能の低下が見られないようである。[MT08年2月14日(VOL.41 NO.7) p.88]


【参考書】
吉川敏一『フラボノイドの医学』(講談社サイエンティフィク)



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