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体内カルシウム:濃度調節の仕組み解明----京大教授ら [基礎医学]

 哺乳類の体内のCa濃度の維持調節を担う根本的な機能を、蛋白質「α-クロトー」が持つことを、京大の鍋島陽一教授(分子生物学)らの研究チームが明らかにした。Ca濃度は、ビタミンDやPTHといったホルモンによって調節されるメカニズムは分かっていたが、今回、ホルモンを使わない調節機構を明らかにし、更に個々の調節メカニズムを統一的に制御するシステムを解明した。鍋島教授は「ビタミンDやPTHの発見以来、60〜70年を経てCa調節の統一的原理が解明された」としている。今月15日、米科学誌 Science(316:1615 - 1618)で、”alpha-Klotho as a Regulator of Calcium Homeostasis”(Ca恒常性制御因子としてのα-クロトー)が発表された。


 Caは極端に不足すると心臓や神経の活動が停止するため、体内の濃度は厳密にコントロールされている。鍋島教授らは97年、Ca代謝異常を示すα-クロトー遺伝子変異マウスを発見して以来、動脈硬化や骨密度低下などさまざまな病的老化症状を起こす遺伝子としてのα-クロトーを発見、この分子の機能を逆遺伝学的な方法で追求していた。

 変異マウスは短命・不妊であり、肺気腫・骨変化・異所性石灰化などの多彩な症状を示した。変異マウスの病因を調べたところ、ビタミンD過剰症によるCa代謝異常が原因であることが分かり、さらにビタミンD過剰の原因は腎臓のビタミンD活性化酵素の異常昂進だと判明した。しかし、α-クロトーは転写調節因子様の構造をもたず、またビタミンDの活性化と直接関係のない細胞に発現していたことから、その分子機能は全く不明のままであった。

 そこで、分子機能解明の手がかりを得るために、α-クロトー蛋白質に結合している分子を探索したところ、α-クロトーは、腎臓と脳・首にあるCa調整に深くかかわる臓器3カ所にほぼ限定して発現することを発見。細胞内の「Naポンプ」と結合、複合体を作っていることを突き止めた。

 この複合体は、腎臓と脳では、細胞内のCaを適時排出し、血液と脳を浮かべる脳脊髄液で濃度を調整していた。また、血液中のCa濃度を上げるホルモンPTHの分泌を促す機能も持ち、αクロトー単体でも腸でのCa吸収量調節などの働きがあるビタミンDの活性化の調節をするなど、あらゆるCa調整機能の“司令塔”の役目を担っていることも分かった。

 (1) α-クロトーは上皮小体・遠位尿細管・脳脈絡膜で発現しており、Naポンプと細胞表面ではなく、細胞内部で結合していること
 (2) α-クロトーは、体液Ca濃度の低下を感知してNaポンプを細胞表面に動員し、α-クロトー自身は切断を受けて細胞外領域が細胞外に分泌される現象があること(図)
 (3) α-クロトーとNaポンプの複合体は、腎臓と脈絡膜でのカルシウム運搬と上皮小体でのPTH分泌を促進すること(次図)を発見した。

 またα-クロトーは腎臓のビタミンD活性化酵素の転写抑制に必要であり、alpha-Klothoが欠損するとビタミンD過剰症を発症するという知見と併せて考えると、つぎのような仕組みが考えられる(次図)。

 脳や筋肉の活動にとって必須である体液Ca維持は、<秒〜分単位><分〜時間単位><時間〜日単位>の3段階の時間的制御を受けていると思われ、すなわち、<秒〜分単位>で低Ca状態に反応してCaを脳室内に運搬したり尿から再吸収する機能、<分〜時間単位>で行われる上皮小体の調節的PTH分泌機能、また<時間〜日単位>でビタミンD濃度を調節しCa代謝を決定する機能——という多段階のシステムが、Ca恒常性維持のために生体内で働いている。つまり、α-クロトーはPTH、ビタミンDなどのホルモン制御と非ホルモン性Ca輸送を含む、全てのCa代謝のステップで、重要な役割を担っていることが明らかになった。

 この成果は、Ca代謝に関する医学的知識を約70年ぶりに大きく塗り替え、Ca調節の統一的な原理の発見をもたらした。
 今回の発見は、Caだけではなく、他のミネラルや栄養素も、α-クロトーのような分子に統合的に制御されているかもしれないという新たな概念を創出した。さらに臨床的には、上皮小体疾患や骨粗鬆症、くる病などの診断や治療の開発が促進されることが期待される。
【京都大学HP】
 http://www.jst.go.jp/pr/announce/20070615/index.html
 同・用語解説
 http://www.jst.go.jp/pr/announce/20070615/yogo.html


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