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[拙訳]ランタス[=グラルギン]の糖尿病ネコに対する使い方 [獣医学]

 以下は「Using Glargine In Diabetic Cats」(2006.6)のCatsdukeによる翻訳です(禁無断転載。無論、リンクはご自由になさって結構です)。

 著者は、オーストラリアのクイーンズランド大獣医学部・コンパニオンアニマル健康センターのRhett Marshall とJacquie Randです。前者はブリスベンのクリークロード・キャット・クリニックにも所属しています。Medline検索でも分かる通り、後者は数多くのネコ・イヌと糖尿病に関する論文を発表しています。ネコと糖尿病に関する基本文献といえるものが多いです。


 元になった論文が2006年にアップデートされ、このクイーンズランド大獣医学部HP掲載の論文となっていましたが、数名の獣医師の方による元論文=旧論文の部分訳がネット上で散見される程度だったため、私が全訳しました。

 但し、誤訳等もあり得ますので、何かの参考になさる場合は、一般の飼い主の方は必ずかかりつけの獣医師の先生に、以下の内容を確認していただいた上(さらに同大HP英語原文=University of Queensland "Information On Use of Glargine in Diabetic Cats"[090416追記:現在リンク切れにつき、このリンクは同一文章を引用したdrjohnsons.comのものをリンクしておきます。また同大サイト上の文章としては「抄文」を紹介しておきます]も参照・対照の上)で、お願いします読者が本文を参考にご自身で勝手に行った治療に関わる一切の結果には責任を負いかねます

 
<はじめに> 
 グラルギン使用に関する情報は少数の猫から得られた情報を基にしたものであり、多数の猫にこのインスリンが使用されるようになるまでは十分な注意が必要である。  グラルギンは非常に作用時間が長いため、過剰用量を投与された場合に持続性の低血糖症を引き起こす可能性がある。


<基本情報>
○グラルギン(ランタス)は要処方箋薬として簡単に入手可能だがネコ用に認可を受けていない。

○グラルギンの持続性はpHに依存しているので、どんな場合も絶対に希釈・混合しないこと

○安定した効力を持続させるために、グラルギンは必ず冷蔵保存すること。

○グラルギンは一度開封した場合、室温保存で4週間品質が保持されている。
 開栓したバイアルは冷蔵保存で6カ月以上使用可能である。冷凍してはいけない。

○変色が見られたバイラルは直ちに廃棄。pH変化に伴う細菌汚染や沈殿は濁りを生じさせ得る。

○ペン型のカートリッジ式セットを使用する場合、メーカーは冷蔵せずに室温で保存することを推奨している。分注されたインスリンの温度変化に伴う体積=用量の変化を減じるためである。

○血糖曲線の描出に際し、猫では12時間の血糖曲線を作成する場合、採血は4時間毎で十分である(例:0時間[朝の注射直前]・朝の注射後4時間・8時間・12時間)

○用量変更はインスリン注射前の血糖値・最低血糖値・日々の飲水量・尿糖などを基準とする必要がある(詳細は後述)。

良好な血糖コントロールは1日1回に比して、1日2回注射法の方がより達成できる

○薬局によっては1目盛り0.5Uの0.3cc・30Uシリンジを置いているが、ネコへの投与用として理想的である(訳注:本ブログ過去記事参照)。

(Catsduke補図:BD USAサイトより)

○他のインスリンによる治療を受けてきたネコの中には、通常はグラルギン治療開始後1〜4ヶ月以内で寛解に向かうものもいる。但し2年以上別のインスリン治療をうけてきたネコが寛解に至るケースは極めて稀である。

[Catsduke補図:Pet Diabatesより]

○最低血糖値が正常範囲内で、インスリン投与前血糖が216mg/dL(12mmol/l)以下なら寛解に至り得る。しかしネコを寛解に至らしめるためには、極めて少しずつ投与量を減量し、休薬前には1日1回0.5単位まで減量していく。

○[投与量の減量をゆっくり行わず]あまりに急ぎ過ぎて休薬した場合は、再度血糖値の安定を見るまでに、しばしば数週間の高用量投与が必要な事態に陥ってしまう。




<グラルギン使用が適応する症状>
○新しく糖尿病と診断された全てのネコ(寛解のチャンスを増やすため)

○血糖コントロールがうまくいかない、あるいは不安定なネコ(グラルギンの長時間作用は最適)

○[飼い主の都合などで]1日1回投与が望ましい、もしくは必要な場合(但し、より良い血糖コントロールと高寛解率は1日2回投与で得られるという知識は重要。1日1回投与ではレント[インスリン]の1日2回投与と同程度のコントロールと寛解率が得られるだけである(訳注:この記述は、J Vet Intern Med 2006;20:234-238に基づくと思われる。その論文および関連論文のアブストラクトの拙訳は→こちら)。

○ケトアシドーシスの場合----レギュラーインスリンの筋注・静注と組み合わせる

○緩解期にコルチコステロイド治療が必要な場合。同様に、コルチコステロイド投与で糖尿病の臨床症状が進行する高いリスクがあるネコ




<ネコのグラルギン治療の始めかた>
○もし血糖値が360mg/dL(20mmol/L)以上なら、グラルギンを0.5U/kg(理想体重として)の1日2回投与で開始する

○もし血糖値が360mg/dl以下であったら、0.25U/kg(上同)の1日2回投与で開始する

○4時間毎に採血して12時間の血糖曲線を作製する。

○最初の1週間はけっして用量を増量しないこと。

○生化学的または臨床的に低血糖症状が認められた場合は用量を減じる。

○猫は最初の3日間は入院させるか、3日間自宅で血糖曲線を測定し、グラルギンの初期投与量への反応を慎重に観察することが望ましい。

○再検診は猫が退院後1・2・3および4週めに行い、その後は必要に応じて決定する。

○多くの猫は最初の3日間は軽微な血糖降下作用しか示さないが、決して用量を増量せぬこと。
 投与開始後10日め頃よりほとんどの猫が良好な血糖コントロールが得られるようになる。

○ケトアシドーシスの猫は、上記の投与率でのグラルギンの皮下注射とレギュラーインスリンの筋注・静注と組み合わせて(レギュラーインスリンを2〜4時間ごとにグルコース濃度に基づき筋注するのが最良という結果を我々は得た)治療されているかもしれない。この投与計画は水和・食欲が回復するまでの通常1〜3日間は継続される。




<インスリン用量の調整法>
1.グラルギンの用量を増量する指標
○もしインスリン投与前の血糖値が216mg/dL (12mmol/L) 以上なら、高血糖の程度により投与量を1回の注射毎に0.25〜1単位ずつ増量。そして/もしくは、もし最低血糖値が180mg/dL (10mmol/L) 以上なら、投与量を1回の注射毎に0.5〜1単位ずつ増量。

○治療開始後数週間が経過して十分にコントロールされている猫は、もし最低血糖値145mg/dL(8mmol/L)以上なら、投与量を増やすこと。

2.グラルギンの用量を変更しない場合の指標
○インスリン注射前の血糖値が180〜216mg/dl(10〜12 mmol/l)の場合
 そして/もしくは
○最低血糖値が90〜180mg/dL(5〜9 mmol/l)の間の場合

○数週間のインスリン治療で良好にコントロールされているネコは、最低血糖値72〜145mg/dL(4〜8 mmol/l)を目標にする。

3.グラルギンの用量を減量する指標
○注射前の血糖値が180mg/dl(<10 mmol/l)以下だった場合は0.5〜1単位減量する。

○最低血糖レベルが54mg/dl(<3 mmol/l)以下であった場合は1単位減量する

○低血糖の臨床症状の進行が認められた場合は、グルコース50%溶液のボーラス投与に続けて2.5%グルコース輸液を持続点滴し正常化した後は、グラルギンの投与量を50%減量し、糖尿病が緩解しているかチェックする。

○低血糖の臨床症状の進行があっても深刻でない場合は、ドライフードなどの高炭水化物を含む食餌によって管理できる。ただネコがその食餌を好んでいなければならない。たいていの減量食や腎臓病用食は高炭水化物食で、スーパーのドライフードコーナーに置かれている。

○予期せぬ生化学的低血糖症状が見られた場合(臨床症状は無し)、低血糖をコントロールするのに最も良い対処法は、血糖値が180mg/dl (10mmol/L)に戻るまでインスリン投与を遅らせ、そこで同量を投与するか(このインスリン投与は以前より減量が必要かも知れない)、また一旦血糖値が180mg/dl (10 mmol/L)になったら、その後高血糖になる恐れもあるものの投与量を減らすかは、飼い主の経験と判断に委ねられる。




4. インスリンの用量を、飲水量・尿糖・臨床症状・インスリンの投与期間などの要素を加味して、不変か増量か減量か検討しなくてはならない場合の指標

○インスリン注射前の血糖値が198〜252 mg/dL(11〜14 mmol/L)の場合か、最低血糖値が54 〜 72 mg/dL(3〜4mmol/L)の場合、その他臨床上のパラメターが投与量の調整が必要だと示唆する場合。




<寛解期にあるネコの定義>
○インスリンの投与量は、最低血糖が通常値の範囲内(72〜126 mg/dL; 4〜7 mmol/L) か注射直前の血糖が180mg/dL(10mmol/L)以下の場合、1頭あたり1回量で0.25〜1Uの間で徐々に減らされるべきである。インスリンのゆっくりした休薬は、0.5〜1 U/1日1回の注射まで提唱される。

○最低2週間のインスリン療法を実施後、注射前の血糖値が180mg/dl(10mmol/L)以下で、注射量が0.5〜1U/1日1回になったら、インスリン療法は中止して12時間の血糖値曲線を作製。

○次の注射の予定時間になって血糖値が200mg/dl(12mmol/ℓ)以上なら、1単位1日2回法でインスリン注射し徐々に量を減らす。血糖値が200mg/dl以下になれば、インスリン注射を中止して退院させ、再検査のため一週間以内の来院指示。飲水量と尿糖はしっかりとモニターされねばならず、糖尿がまた見られたり飲水が増加したりすればインスリン療法は再開されねばならない。
 
○ネコの中には2週間以内にインスリン注射前の血糖値が180mg/dl(10mmol/L)以下になるものがいるが、インスリン療法はβ細胞がグルコース中毒から回復させるために2週間は必ず続ける必要がある。この場合は0.5〜1単位/1日2回または1回法でインスリン休薬まで投与すること。




<尿糖>
 グラルギンは作用時間が長いため、2〜3週間以上インスリン療法を続けている猫の血糖値は240mg/dl(14mmol/L)以下である時間が長いはずなので、良好にコントロールされている猫なら尿糖は常に0または+でなければならない。従って、++以上であるならインスリンの用量を増量する必要がある

[Catsduke補図:左・尿ケトン体試験紙/右・尿糖試験紙]

<グラルギン使用時のその他の知見>
 ある種のネコには、5〜6U/頭・1日2回の投与が必要だが、それによりインスリン感受性が戻ると同時に通常は減量できる。但し、こうした高用量投与下のネコには低血糖を注意深くモニターする必要がある。

 ネコの中には、ごく少量のインスリン投与(1U未満/頭・1日2回)だけを要するものがいて、もしこの投与量が、僅かに残存しているβ細胞に再生の機会を与えつつ、徐々に減らされるならば、そういうネコだけが寛解に向かう
 大抵のネコにとって、最低血糖値になるタイミングは、日々、またネコによっても、しばしば一貫していない。時に最低血糖値は2回の投与の間に訪れ、また時には次回投与時に巡ってくる。

 最もよく最高血糖値になるのは朝であり、最低血糖になるのは夕方である。

 ある種のネコは一貫して最低血糖値は夕方、それも次回のインスリン注射の直前であるが、朝の注射時にそうなることは稀である。

 寛解のチャンスを増やすために、我々が勧めたいのは、完全なコントロールを目指して、獣医師と飼い主がネコを注意深くモニターし得るという条件下で、最初の2ヶ月間は、インスリンを有り得べき量で僅かに多めに投与することである。そこには低血糖症の潜在的リスクはあるものの、ネコとその飼い主にそれを凌ぐ糖尿病の寛解という利益をもたらすと我々は信じる。

 寛解に向かいつつあるネコであれ、糖尿病の進行リスクのあるネコであれ、断続的または持続的なコルチコステロイド投与が必要なネコは、通常1日1回か2回の投与なら大丈夫である。

 長期に安定している糖尿病ネコがグラルギン使用に切り替えると、血糖値が数値的には臨床的改善を示していない場合でも、通常そのネコは臨床的により良い状態にあると飼い主には普通に理解される。


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