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オリーブが発がんを抑制 [フィトケミカル]

<選択性が高く毒性低い>
 マスリン酸(maslinic acid)はオリーブの果肉から抽出されるが、オリーブの葉と樹液にも含まれる化合物で、がん予防に加えて発がん過程におけるアポトーシスを制御する作用がある。

 バルセロナ大・薬学部(生理学)のM. Emília Juanらは、論文"Antiproliferative and apoptosis-inducing effects of maslinic and oleanolic acids, two pentacyclic triterpenes from olives, on HT-29 colon cancer cells"(オリーブ由来の2つの五員環トリテルペン、マスリン酸とオレアノール酸の持つHT-29結腸がん細胞に対する抗増殖性およびアポトーシス誘導効果)をBritish Journal of Nutrition(2008;100:36-43)に発表している。


 この研究は、オリーブ果実エキス(マスリン酸:オレアノール酸=3:1)の効果を調べた、2006年の研究"Olive fruit extracts inhibit proliferation and induce apoptosis in HT-29 human colon cancer cells."[Journal of Nutrition(136:2553-7)]を受けて、これら成分単体が持つ増殖・ネクローシス・アポトーシスの諸効果をHT-29結腸がん細胞を使って蛍光法で調べたものである。 

 オリーブ・サプリメントに含まれるマスリン酸とオレアノール酸は共に五員環トリテルペンであるが、抗癌活性がどちらの成分に由来するかは以前の研究では未確定だった。そこで本研究では詳細が検討された。オレアノール酸はC2位にヒドロキシル基を持たず、カスパーゼ3を活性化できないが、マスリン酸だけが癌細胞の成長を阻害し、カスパーゼ3様活性を増加させた。またミトコンドリア内の活性酸素種の検出は、前アポトーシス段階のシグナルとして役立つが、マスリン酸のみがスーパーオキシド・アニオンを発生させ、アポトーシスを導いたことが、細胞膜の透過性の増加とDNA断片化によって確認された。この研究で、オリーブ果実エキスで観察された抗がん活性はオレアノール酸でなくマスリン酸に由来することが確定されていた。
  
 こうした先行研究を受けて、同じスペインのグラナダ大学(UGR)生化学・分子生物学のFernando Jesús Reyes Zurita氏とJosé Antonio Lupiáñez Cara教授らは、マスリン酸が腫瘍細胞に働きかけ、成長過程をコントロールすることを明らかにした(→同大学・科学ニュース"A natural compound extracted from olive inhibits cancer cells growth and prevents their appearance")。


 同氏らは以前、マスリン酸に関連する研究をFEBS Letters(2006; 580: 6302-6310)に発表している。


Abstract
 Triterpenoids are known to induce apoptosis and to be anti-tumoural. Maslinic acid, a pentacyclic triterpene, is present in high concentrations in olive pomace. This study examines the response of HT29 and Caco-2 colon-cancer cell lines to maslinic-acid treatment. At concentrations inhibiting cell growth by 50–80% (IC50HT29 = 61 ± 1 μM, IC80HT29 = 76 ± 1 μM and IC50Caco-2 = 85 ± 5 μM, IC80Caco-2 = 116 ± 5 μM), maslinic acid induced strong G0/G1 cell-cycle arrest and DNA fragmentation, and increased caspase-3 activity. However, maslinic acid did not alter the cell cycle or induce apoptosis in the non-tumoural intestine cell lines IEC-6 and IEC-18.Moreover, maslinic acid induced cell differentiation in colon adenocarcinoma cells.These findings support a role for maslinic acid as a tumour suppressant and as a possible new therapeutic tool for aberrant cell proliferation in the colon. In this report, we demonstrate for the first time that, in tumoural cancer cells, maslinic acid exerts a significant anti-proliferation effect by inducing an apoptotic process characterized by caspase-3 activation by a p53-independent mechanism, which occurs via mitochondrial disturbances and cytochrome c release.


[アブストラクト:Catsduke訳]
 トリテルペノイドはアポトーシス誘導能と抗癌活性を持つことで知られる化合物である。マスリン酸は五員環トリテルペンであるが、オリーブの搾り粕に高濃度に含まれている。本研究はマスリン酸治療に対するHT29とCaco-2結腸がん細胞株の反応を調べたものである。癌細胞の成長を阻止する濃度は50〜80% (HT29半抑制濃度 = 61 ± 1 μM、80%抑制濃度 = 76 ± 1 μM。Caco-2半抑制濃度 = 85 ± 5 μM、80%抑制濃度 = 116 ± 5 μM)であり、マスリン酸はG0/G1期細胞周期停止とDNA断片化を強力に誘導し、カスパーゼ3活性を増加させた。しかしマスリン酸は、非腫瘍細胞株であるIEC-6とIEC-18の細胞周期を変えたり、アポト−シスを誘導したりはできなかった。さらにマスリン酸は結腸腺癌細胞の分化を誘導した。これらの発見は、マスリン酸が腫瘍抑制効果を持ち、結腸における細胞の異常増殖に対する有望な新薬たりうることを支持している。マスリン酸が、ミトコンドリア障害とチトクロームC放出を通じて生じる、p53非依存性機序によるカスパーゼ3活性に特徴づけられるアポトーシス過程を誘導することで癌細胞に対して著しい抗増殖効果を発現することを本報告において我々は最初に示した。

MT誌(08年6月5日[VOL.41 NO.23] p.07)では、以上の経緯を次のように記している。
<選択性が高く毒性低い>
 マスリン酸はプロテアーゼ阻害薬で、細胞の成長を制御する能力を有するのが特徴である。がんに典型的な過形成と肥大の過程を制御することから、がん治療に有効である。今回、Reyes Zurita氏らは、初めて腫瘍細胞の成長過程におけるマスリン酸の作用を分子的な観点から検討した。
 同氏らによると、マスリン酸の特徴は、(1)他の抗がん物質がきわめて高い細胞傷害性を示すのに対し、天然化合物であるため毒性が低い、(2)選択性があり、pH値が通常よりも低い(=酸性)腫瘍細胞にだけ作用する、(3)予防効果があるので、がん化する可能性の高い細胞において発がんを阻害できることの3点である。

 同氏らは、マスリン酸はさまざまな種類の腫瘍に適応可能であるが、当面は大腸がん細胞株とトランスジェニックマウスを対象にし、将来、ヒトに適応する可能性も模索するとしている。

 マスリン酸は五員環テルペンで、抗腫瘍効果に加えて抗炎症性・抗酸化作用があり、オリーブの樹皮などに高濃度で存在する。現在、この物質を半工業分野で抽出する施設は世界中でUGR理学部のみである。

【コメント】
 オリーブのサプリメントといえば、通常、欧米で用いられているものは「オリーブ葉エキス」であり、市販品の大半は、フェノール性のイリドイド配糖体である主成分のoleuropein(オレウロペイン)15〜20%で標準化されています。他に抗酸化能が評価されているポリフェノールのHydroxytyrosol (Hidrox)で標準化されているものもありますが、一般的には、やはり前者が多いです。

Vitamin Shoppe Olive Leaf Extract(100 Caps)$13.59
1 Capsule 500mg Oleuropein 30mg 6%


Country Life Olive Leaf Extract(60 Caps)$9.59
1 Capsule 150mg Oleuropein 27mg 18%


Solaray Olive Leaf Extract(120 Caps)$32.49
1 capsule 250mg Oleuropein 52.5mg 17%


Nature's Plus Oliceutic-20(30 Caps)$16.99
1 Capsule 250mg Oleuropein 52.5mg 50%

*この製品はTyrosol+Hydroxytyrosolも6.3mg 2.5%で標準化=保証しています。

 さてハーブ医学では、オリーブの持つ、抗菌性(J Agric Food Chem. 55:9817-23・Molecules. 12:1153-62)・抗酸化(J Agric Food Chem. 56:1560-6・J Food Sci. 73:C235-40)・高血圧・血圧低下・血管拡張・冠状動脈血管収縮・抗不整脈・血糖低下(Life Sci. 78:1371-7)・抗動脈硬化の各作用が治療に用いられています。

 オリーブなどの、ある種の植物の葉細胞のオルガネラ内にはβ-グルコシダーゼやポリフェノール・オキシダーゼ(Tree Physiol. 28:45-54)などのオレウロペインを活性化する酵素がオレウロペインとは隔離されて存在しており、それが植食昆虫の食害により破壊されると、それら酵素の作用でオレウロペインが強力なタンパク変性=架橋物質に変換されます。特にβ-グルコシダーゼがオレウロペインのイリドイド配糖体部分のグルコースを切り落とすと、この部分がグルタルアルデヒド類似構造に変化し、タンパク質中のリジンの側鎖のアミノ基と共有結合し、より強力にタンパク質分子が変性=架橋したこのタンパク質からは必須アミノ酸のリジンが失われるため、これが結果として一般の昆虫による虫害を防ぐことにつながっているわけです。

 マスリン酸は、このオレウロペインとは異なる成分であるものの、抗がん作用を持つことが証明された訳です。一方でオレウロペインにも抗腫瘍活性があることが過去の研究から分かっていますので、特定成分を抽出=標準化するとか、単一成分を合成するとかよりも、この場合は、食養のように「一物全体食」的な方がよいような気もします。

 とはいえ、こうした研究を踏まえて、早速、今後はoleuropeinに加えてmaslinic acidも標準化されたサプリメントが欧米では発売されることになるでしょう。



【参考書】
吉川敏一『フラボノイドの医学』(講談社サイエンティフィク)



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