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大腸癌の抑制遺伝子を発見=シンガポール国立大チーム [先端医療]

(時事通信社 - 09月09日 02:11)シンガポール国立大学(NUS)医学部腫瘍学研究所(所長・伊藤嘉明教授)は8日、「RUNX3」と呼ばれる遺伝子が、大腸がんの発生を抑える抑制遺伝子として機能していることを発見したと発表した。


【コメント】
 伊藤教授は、東北大医学部ご出身で、のち米デューク大学と英インペリアル癌研(ICRF)でポスドク、ICRFのスタッフとなった後、ポリオーマウイルスのミドルT抗原を発見。米NIHの細胞形質転換セクションの主任を務めた後,米NCIを経て、84年-02年3月まで京大医学部教授。在任中の84年に、RUNX3が胃癌の主要な腫瘍抑制因子であることを発見し、癌研究の新たなフロンティアとしてのRUNX遺伝子ファミリーの確立に寄与。95年-01年京大ウイルス研所長を兼任。02年4月よりシンガポール国立分子細胞生物学研究所(IMCB)主任研究員・教授、05年よりシンガポール国立大(NUS)腫瘍学研究所(ORI)所長を兼任されている(参考:ORIのプロフィール&研究領域紹介)。

 ちなみに昨年からは、シンガポール国立大では、先生ご出身の東北大医学部との間でジョイント・シンポジウムも開かれている。東北大からは菅村和夫教授が参加されたし、逆に伊藤教授が、この9月1日開催の「東北大学グローバルCOE・Network Medicine 創生拠点キックオフシンポジウム」に参加され、「Tumor Suppressor RUNX3 : A novel gatekeeper of colon carcinogenesis」(腫瘍抑制因子RUNX3 : 結腸癌発生の新たな門番)という講演をなさっている。

 元記事で言う<RUNX3が癌抑制遺伝子として機能している>という発表であるが、今年に入って既にRUNX3に関するだけでも8本の論文が発表されている(RUNX1関連が4本。計12本)のだが、伊藤教授の最新論文"RUNX3 Attenuates beta-Catenin/T Cell Factors in Intestinal Tumorigenesis."(腸管内腫瘍形成におけるRUNX3はβカテニン/T細胞因子を減弱する)Cancer Cell(14:226-37)を指しているのであろう。

Summary
 In intestinal epithelial cells, inactivation of APC, a key regulator of the Wnt pathway, activates β-catenin to initiate tumorigenesis. However, other alterations may be involved in intestinal tumorigenesis. Here we found that RUNX3, a gastric tumor suppressor, forms a ternary complex with β-catenin/TCF4 and attenuates Wnt signaling activity. A significant fraction of human sporadic colorectal adenomas and Runx3+/− mouse intestinal adenomas showed inactivation of RUNX3 without apparent β-catenin accumulation, indicating that RUNX3 inactivation independently induces intestinal adenomas. In human colon cancers, RUNX3 is frequently inactivated with concomitant β-catenin accumulation, suggesting that adenomas induced by inactivation of RUNX3 may progress to malignancy. Taken together, these data demonstrate that RUNX3 functions as a tumor suppressor by attenuating Wnt signaling.


【抄文:Catsduke訳】
 腸上皮細胞では、Wnt経路の重要な制御因子である大腸腺腫抑制遺伝子(APC)の失活が腫瘍発生を惹起するようにβカテニンを活性化する。しかし、他の変化が腸管内腫瘍発生に関与しているかもしれない。ここに我々は、胃癌抑制因子であるRUNX3がβ-カテニン/TCF4(T細胞因子4)と三元複合体を形成しており、Wntシグナル活性を減弱することを発見した。かなりの割合の孤発性の結腸直腸腺腫とRunx3ヘテロマウスの腸管腺腫では、明らかなβカテニンの蓄積無しにRUNX3が失活しており、そのことはRUNX3の失活が独立して腸管腺腫を誘導していることを示している。ヒト結腸癌において、RUNX3はβカテニンの蓄積に随伴してしばしば失活しており、そのことはRUNX3失活によって誘導された腺腫が悪性腫瘍に進行する可能性を示唆している。要約すれば、これらのデータはWntシグナル伝達の減弱による腫瘍抑制因子としてのRUNX3の諸機能を証明している。

 例えば、RUNXに関しては、些か古いが、『細胞工学』の特集号<脚光を浴びるRUNXファミリー>(2002 Vol.21 No.10)に伊藤教授が序文をお寄せになっている。そこでは「RUNXファミリーは今、急速に発生・分化・癌化の分野で注目を浴びるようになった。注目すべきはその広がりである。造血幹細胞の起源、急性骨髄性白血病の発生機序、血管形成における造血幹細胞と血管内皮細胞の相互依存、骨芽細胞の機能と軟骨、骨形成の機序、c-mycと共同でのマウスTリンパ腫誘導、胃上皮細胞の増殖制御、分化に伴うアポトーシスの制御、胃癌の抑制、後根神経節ニューロンの発生・軸索伸長における制御機構など」と紹介されている。

 伊藤教授は学部時代からウィルス学の研究者であり、ICRF時代にはポリオーマウイルスの研究をなさっており、そのポリオーマウイルスのエンハンサーに結合する因子を解析されていた訳だが、そのうちの1つ新規の転写因子PEBP2(polyomavirus enhancer binding protein 2)がヘテロ二量体で、そのαサブユニットが後にRUNX遺伝子と呼ばれるものの産物であることを解明された。
 RUNXファミリーは二量体から成る転写因子 PEBP2/CBF のαサブユニットをコードする。この転写因子は、AML1の発見以前から多くの研究者により検出され、種々の名前で呼ばれていたが、その精製・cDNA クローニングを行い転写因子としての機能解析の基礎を作ったのは、伊藤教授とNancy Speckの、共にウイルス研究からこの因子に到達した2グループであった。

「白血病の研究分野では各病型に特異的な転座が認められ、それが白血病の原因と考えられるところから転座点に存在する遺伝子の同定が競争で行われていた。急性骨髄性白血病(acute my-eloid leukemia;AML)で最も高頻度で観察される染色体転座は、8番21番転座t(8;21)であり、ここに関与する遺伝子の同定は多くの白血病学者の目指すところであったが、なかなか成功しなかった。大木 操ゲノム研究の立場から21番染色体の解析をしており、その技術を駆使してt(8;21)の転座点に存在する遺伝子を最初に同定することに成功したこのうち21番染色体の短腕21q22に存在する遺伝子をAML1と命名した。これが後に RUNX1 とも呼ばれるようになった遺伝子であり、RUNXファミリーのヒトの病気における関わりを最初に示したケースとなった」(中略)

「3種ある RUNX遺伝子の番号は,cDNA 配列発表の順およびノックアウトマウスの表現型の発表の順が同じであるところからこの順に付けられた。  
 RUNX1/AML1/PEBP2αBは成体型造血(definitive hematopoiesis)に必須であり、造血幹細胞はこの遺伝子機能がないと形成されない。そしてこの遺伝子異常はヒトの急性白血病の30%の原因になっている。
 RUNX2/CBFA1/PEBP2αAは骨形成に必須であり、この機能不全は鎖骨頭蓋異形成症を起こす。
 RUNX3/PEBP2αCは多くの組織で発現している。とりわけ胃・小腸・大腸および後根神経節である。この遺伝子は胃癌の主要な抑制遺伝子であることが2002年に発見された(Li QL, et al, ”Causal Relationship between the Loss of RUNX3 Expression and Gastric Cancer”Cell 2002;109:113-124)。」

 こうした流れの上での、今回の発表である。ちなみに、以上を理解するために、基本的に踏まえることとして、
 (1)癌抑制遺伝子 APC( Adenomatous Polyposis Coli)は、家族性腺腫性ポリポーシス( familial adenomatous polyposis: FAP)の原因遺伝子として単離された遺伝子である。その変異は FAPだけでなく、非遺伝性の大腸腺腫・腺癌においても見られ、一般の大腸癌の発生にも関与することが示されている。

 (2)APCの遺伝子産物は約 300 kDaの巨大なタンパク質だと言われているが、それはβ−カテニンを含む種々のタンパク質と相互作用する。β−カテニンは(細胞接着に役割を果たすと同時に)発生過程や腫瘍形成において重要な役割を担う Wnt/ Winglessシグナル伝達経路の主要な構成要素の1つとして機能している。

 (3)β−カテニンは一種の癌遺伝子産物であり、APC遺伝子産物はβ−カテニンの機能を抑制することで癌抑制機能を発揮している。ところが散発性の大腸癌の70∼80%では、APC遺伝子変異が生じており、この変異APC遺伝子の産物は β−カテニンの機能抑制作用を失活していることが報告されている。

 簡単にまとめると、
  正常APC→正常産物+β−カテニン→β−カテニン機能抑制=癌抑制
  変異APC→異常産物+β−カテニン→β−カテニン抑制不能=発 癌
 ということになる。



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