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漢方薬の作用機序と腸内細菌フローラ/腸管免疫 [東洋医学]

第8回 腸管機能と免疫研究会・学術集会
2月14日 於:北里大学・北里生命科学研究所

 当番世話人の尾崎 博先生(東京大学)のもと、上記の学術集会が開催され「腸内フローラと消化管機能」をテーマに活発な議論が展開された。基調講演2題、および講演4題のうち、漢方薬の作用機序に関わる、基調講演・講演各1題を引用・紹介する。


「漢方薬はなぜ効くのか-配糖体は腸内菌の助けを要するプロドラッグ」
 田代 眞一 先生(昭和薬科大学病態科学研究室 教授)


 主要な生薬の成分の多くは配糖体である。配糖体は糖が付いているため水溶性が高く、リン脂質から成る細胞膜を通過できず吸収されない。
 だが、腸内には100兆を超える菌が棲み、こうした菌の中には糖を切り、エネルギー源として利用する資化菌がいる。一方、糖を外され脂溶性の高まった糖を除いた部分であるアグリコン(aglycone)は、細胞膜から吸収され、薬理作用を示す。

 田代先生は、勤務していた病院で芍薬甘草湯を月経痛に応用することにした。芍薬甘草湯は芍薬と甘草の2成分から成る単純で切れ味の良い方剤であり、筋肉の攣縮に伴う痛みに著効を示す。芍薬の主成分であるペオニフロリン(paeoniflorin)と甘草の主成分であるグリチルリチン(glycyrrhizin)は共に配糖体であり、有効性の差の原因は菌叢の差であると考えた。

 頓用では著効例が約1割、有効例が半数で、約4割は効果を示さなかった。腸内菌はエネルギー源として糖を摂取することから、資化した菌は選択的に増えるはずであり、芍薬甘草湯を投与しているうちに効くようになると推測した。

 そこで、無効例と有効例の一部を対象に、事前に腸内菌を増やし、十分量の酵素誘導能を確保する目的で、月経開始予定日の5~7日前より1日1包だけ処方するスケジュールを追加した結果、顕著な有効性を示した。漢方薬中の配糖体は、腸内細菌によって活性化されるプロドラッグであるといえる。漢方薬の効果に個人差があるのは、食の好みや腸内環境の差を反映した菌叢の個人差が大きく影響していると考えられる。

 大黄やセンナの瀉下成分はセンノシドとされてきた。しかし、センノシドを静脈注射しても下痢は生じない。これはプロドラッグだからである。腸内でビフィズス菌などによって、β結合しているブドウ糖が外され、セニジンとなり、さらに半分に切られてレインアンスロンとなって作用する。

 漢方を服用し始めた時に便が緩みやすいのは、資化菌が選択的に増え、菌叢が変化したためであると考えられる。また、抗菌剤と併用すると、資化菌が死滅し、漢方薬の効果が落ちる可能性がある。
 田代先生は「漢方薬と抗菌剤との安易な併用は止めるべきである。さらに漢方薬を投与し始めた時や変方した時には、その中の成分を利用できる資化菌が選択的に増えることから、菌叢が変化し、下痢や腹痛を起こすことがあり、事前に服薬指導することが望ましい」と結んだ。


粘膜免疫機構制御剤としての補剤の役割
 清原 寛章 先生(北里大学 北里生命科学研究所 和漢薬物学 准教授)

 清原先生らは、漢方薬の代表的な補剤である十全大補湯と補中益気湯が、生体防御が低下した病態での各種感染症の治療に用いられることから、これらの方剤の上気道粘膜免疫系に対する作用を比較した。
 インフルエンザワクチンを若年マウスと加齢マウスに経鼻接種し、十全大補湯と補中益気湯を投与したところ、加齢マウスにおいて補中益気湯のみに上気道でのインフルエンザウイルス特異的IgA産生の増強が認められた
 また、同様の系で若年マウスと加齢マウスにおいて、補中益気湯のみに全身免疫系でのインフルエンザ特異的IgG産生増強が認められた。そこで、補中益気湯を中心に検討したところ、卵白アルブミン(OVA)の経口投与により誘導される、腸管と上気道粘膜局所での抗原特異的IgA産生の増強が認められた。

 次に、マウスに補中益気湯を1週間投与したところ、パイエル板において、24種類の免疫関連分子mRNA発現が顕著に変化した。特にCD62L陽性末梢血リンパ球数とパイエル板リンパ球数の増加が認められた
 以上の結果から清原先生は「補中益気湯はパイエル板でのCD62L陽性Bリンパ球を誘導し、局所粘膜実効組織への移送を促進すると考えられる」と述べた。

 次に、補中益気湯の腸管上皮細胞に対する作用を検討した。補中益気湯をラットに投与したところ、十二指腸由来細胞株の免疫機能に影響を与えた。また、補中益気湯は抗がん剤のメトトレキサートを投与したマウスの腸管上皮細胞機能を回復させた。

 また、清原先生らは、補中益気湯から得られる分画画分を検討したところ、粘膜免疫機構調節活性の発現には、高分子多糖画分が関与していることが認められた。さらにこの高分子多糖画分には、17種類の多糖含有成分が含まれ、これらはパイエル板免疫担当細胞と腸管上皮細胞株のいずれにも作用した。清原先生は「補中益気湯はパイエル板免疫担当細胞および腸管上皮細胞への直接作用を介した粘膜免疫機構に対する調節作用を有していると示唆される」と結んだ。

ツムラ「漢方スクエア」94号(09.4.22)より一部を引用紹介。強調は引用者が加えた。
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